計測関連用語集

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詳細説明

高分解能オシロスコープ

読み方:

こうぶんかいのうおしろすこーぷ

カテゴリー:

#オシロスコープ

(high definition oscilloscope)
オシロスコープ(オシロ)の歴史は周波数帯域を高くすることだった(2018年には110GHzの広帯域オシロスコープが発売されている。参考記事のキーサイト・ワールドが詳しい)。オシロは横軸(時間)の精度が良い波形観測器(スコープ)であり、電圧測定器ではない。1980年代にデジタルオシロスコープが登場して以降、ADコンバータは(数万円のローエンドから1億円のハイエンドまですべて)8ビットだった。8ビットだと、256分割でサンプリングしてアナログ信号をデジタル化する。1/256=0.4%のため、電圧の有効桁数は2桁までで、3桁めはほとんど信頼できない数値となる。驚くべきことだが、表示桁数の少ない可搬型(ハンドヘルド)のデジタルマルチメータ(DMM)の分解能に比べても明らかに精度が悪い(従来のオシロの電圧値が何桁もデジタル表示されているのはいかがなものか、と筆者はかなり以前から思っている)。

デジタルオシロの歴史の中で、ADコンバータは8ビットであることは変わらない常識だった。ところが自動車などのパワーエレクトロニクス分野で、時間波形だけでなく電圧も精度良く測定したいという需要に、10ビットの高分解能モデルをレクロイ(現テレダイン・レクロイ)が2012年に発売した。2018年以降はテクトロニクスキーサイト・テクノロジーという大手オシロメーカも高分解能モデルを発売したことで、高分解能対応はミドルクラス(1GHzモデル)の主要な仕様になった。

アナログオシロスコープで国内No.1だった岩崎通信機は、2020年に高分解能でかつ多チャンネル(8ch)に対応したDS-8000シリーズを発売した(参考記事:多チャンネルのオシロスコープ特集)。周波数帯域350MHz~1GHzで、分解能は12ビットである。2023年現在、1GHzモデルの売れ行きは好調らしい。つまり、当初はパワエレ向けで登場した高分解能モデルも、現在ではGHz帯域の信号の測定に使われるようになった。
テクトロニクスは1GHz帯域の高性能モデル(4シリーズMSO、5シリーズMSO、200MHz~2GHzをカバー)と、広帯域モデルの5シリーズMSO(高速デジタル回路の評価用、1GHz~10GHzをカバー)は標準で分解能が12ビットである(※)。つまり、同社は4シリーズMSOや5シリーズMSOというボリュームゾーン(売れ筋)モデルは、実はすでに高分解能オシロなのである(同社は品名にあえて「高分解能」とは付けていない)。ミドルクラスの高級器から、10GHzまでの広帯域オシロスコープ(高速デジタル回路の評価用途)は高分解能オシロスコープが主流になった、という説明もできる。
2012年に高分解能モデルを開発したテレダイン・レクロイはその後次々と従来のデルの更新(高分解能化)を進め、2023年9月に12ビットのWaveMaster 8000HD(6GHz ~ 65GHz)を発売している。同社はエントリークラスの200MHzからハイエンドの65GHzまで高分解能オシロをラインアップしたことになる(高分解能モデルの先駆者といえる)。

(※)オシロを用途別に分類し、一般的な回路基板評価用途(~2GHzまで)を1G帯域のモデル、広帯域モデルの中で1GHz~10GHzに対応したモデルを高速デジタル回路の評価用と称している。参考記事の「オシロスコープの動向と、最新1GHz帯域モデルの各社比較」の表1が詳しい。

2023年1月に当サイトが実施したアンケート調査で、「オシロで使っている他の計測器の機能は?」という質問に、マルチメータという回答が28%あった。この数字は「オシロ使用者の約3人に1人はDMMのように電圧値を見ている」と解釈でき、高分解能モデルの利用率を伺わせる結果となった。

みんなの投票 第2弾 オシロスコープの使用状況&主要メーカ比較記事[投票結果]
(Question 7 で「オシロ以外の機能」を質問)

横河計測は分解能が12~16ビットのスコープコーダ(DL950などのレコーダオシロ)が主力製品の1つなので、ここで解説している高分解能オシロスコープに該当するモデルはラインアップになかった(スコープコーダは日置電機のメモリハイコーダなどと競合するメモリレコーダなので、オシロではないのだが)。ただし2023年5月に初めての8ビット以上のモデルDL5000HD(12ビット分解能)を発売した。8chモデルの5代目モデルとして2020年5月に発売したDL5000の高分解能改良版(エンハンスド・モデル)である。

2010年にミドルクラスのモデルでオシロ市場に参入し、いまやハンドヘルド から広帯域モデルまでラインアップしたローデ・シュワルツは、2023年11月に多チャンネルオシロスコープMXO5を発売した。周波数帯域は100MHz~2GHzで、4chと8chモデルがあるが、ADCは標準で12ビット、高分解能モードで18ビット、と高分解能オシロである。前述の岩通のDS-8000のラインアップをカバーし、かつ上位の仕様になっている。同社は以前からオシロにスペアナ機能を付けているので、当然MXO5のRF測定機能も進化している。テクトロニクスやキーサイト・テクノロジーに続く、最新の高分解能モデル(エントリーから高級器のミドルクラス)が発売されたといえる(2023年12月現在)。

high definition oscilloscopeは高精細度オシロスコープだが、日本語では高分解能オシロスコープと呼ばれている。レクロイが2012年に発売したモデルはHDO4000/6000である。2025年現在、形名にHDが付くオシロはメーカを問わずADコンバータが8ビット以上の高分解能モデルである。
テクトロニクスやキーサイト・テクノロジーのモデルは、品名には「高分解能」の記載がないので、仕様を確認しないと該当機種はわからない。ただし2024年9月にキーサイト・テクノロジーはInfiniiVision 3000G Xシリーズ(200MHz~1GHz)の後継器として14ビットモデル、InfiniiVision HD3シリーズを発売した。なんと形名がそのものずばりHDである(同社のオシロスコープの形名は今後どうなっていくのか? 筆者は心配と期待の両方を持つファンの1人である)。

参考用語
参考記事
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