計測関連用語集

TechEyesOnlineの用語集です。
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Rx(あーるえっくす)

有線・無線通信で受信データのこと。Received dataの略記(小文字のxはデータの意味)。受信機(レシーバ)のことをRxと記述している例もある。Rxと対になる送信データはTx(Transmission dataの略記)と記載される。Rx同様に送信機をTxと表記することもある。

RJ11(あーるじぇーじゅういち)

アナログの電話回線(一般の家庭にある固定電話機)に使われているモジュラー式のコネクタ。FCC(米連邦通信委員会)が定めたRegistered Jack 11の略記。コネクタ形状は端子が6ピン(6極)で、通信線が2本(2芯)のため「6P2C」(6極2芯)と表記される。アナログの電話回線が基幹通信の主流だった時代に活躍したモデムのケーブルもRJ11である。RJ11は電話機、ADSL、モデムなどの接続ケーブルのコネクタといえる。現在でも現役の電話線(銅線)は通信線が2線式で、コネクタに6つ並んだピンのうち中央の2つに芯線が接続されていて、他の4ピンは使用されていない。 LANのコネクタはRJ11によく似ているが、一回りサイズが大きいRJ45である。

IEC 61850(あいいーしーろくいちはちごーまる)

IEC(国際電気標準会議)が規定した、変電所の高機能電子デバイスの通信プロトコルの規格。変電所の自動化システム、保護継電器システム、監視制御システム、給電・制御システムなどに適用される。保護制御や自動化システムでの通信を標準化しているため、電力システムのスマートグリッド化を促進し、変電所だけでなく発電所や配電系の自動化などにも導入される。 IEC 61850の規定によって、従来はアナログだった伝送方式がデジタル化される。日本では電力中央研究所が研究を行い、従来のアナログ機器を設計・製造してきた東北電力グループの通研電気工業(株)がデジタルの伝送装置(IEC 61850アダプタ)を製品化した。 IEC 61850は一般社団法人 電気学会(IEEJ)の第133回テーマとして論じられている(2022年4月)。2025年3月の電気学会 全国大会では3/20のシンポジウム講演で富士電機がIEC 61850について発表している。同社と(株)第一エレクトロニクス、不二電機工業(株)などは共同で通信インタフェースユニットやトランスデューサを製品化し、2025年の「電気学会 全国大会 附設展示会」に出展している。前述の通研電気工業も製品を展示している。これから全国の各電力会社に通研電気工業製品の導入が開始されることを見込んでいる。

ISDN(あいえすでぃーえぬ)

(Integrated Services Digital Network) 電話、FAX、データ通信を統合して扱うデジタル通信網で、NTTが1988年からサービスを開始した。日本語では「統合デジタル通信網」と呼ばれる。直訳すると「Integrated Services(統合サービス) Digital Network(デジタル通信網)」。音声(アナログ)とデータ(デジタル)をデジタル方式で伝送する通信技術。それまでのアナログ回線では、1本の電話線で1つの通話しかできなかったが、ISDNでは1本の電話線で複数の通話や高速なデータ通信を同時に行える。2つの形式(BRI:Basic Rate Interface、PRI:Primary Rate Interface)がある。ISDNはアナログ方式の固定電話網からデジタル方式への移行を促進するために開発されたといえる。 人の声を送る電話網から始まった通信回線は、データや画像なども扱うようになっていた。1980年代までは、音声は電話網、データ通信はデータ通信網で行われ、通信方式もアナログだった(コンピュータなどのデジタルデータはモデムによって変復調され、アナログで送られた)。デジタル技術の進歩で、デジタル化した音声・データ・画像を同一伝送路(アナログの電話回線である加入者線)で通信するISDNが実用化した。 1972年にISDNの基本概念がCCITT(国際電信電話諮問委員会。現ITU-T、電気通信標準化部門総会)で発表され、1977年からITU(国際電気通信連合)で検討され、1988年に本勧告が承認される。日本では日本電信電話公社(現NTT)が1970年代から独自の研究を行い、高度情報通信システム(INS:Information Network System)と呼んだ。1984年に東京都の三鷹市と武蔵野市で実用化試験を行い(Yインタフェース)、1988年4月に「INSネット64」(通信速度64kbpsで、当時の56kbpsモデムより高速)、「INSネット1500」(最大通信速度1.5Mbps)と呼ばれるISDNサービスが商用開始する(Iインタフェース)。商用開始に合わせIインタフェースを装備する擬似交換機やプロトコルアナライザなどの、ISDN端末を評価する計測器が登場する。 従来のアナログの電話機などをISDNで利用するための変換器(ターミナルアダプタ)が1996年には低価格になり、個人や中小企業のISDN加入が進み、2000年の年末に契約数は1,000万回線を超えた。ただし2021年度末には160万回線まで減少し、1999年のNTT再編で「INSネット」サービスを継承したNTT東日本・西日本は、2024年にはISDNを終了する予定(光回線やIP網への変更が提案されている)。

ISDN擬似交換機(あいえすでぃーえぬぎじこうかんき)

(ISDN network emulator、ISDN exchange simulator) 1988年に日本電信電話公社(現NTT)がサービスを開始したISDN(Integrated Services Digital Network、統合デジタル通信網)に対応した、有線通信計測器の1種である擬似交換機。 敷設済みのアナログの電話線を使用した、デジタル回線のインターネット通信技術であるISDNは、TA(ターミナルアダプタ)やDSU(Digital Service Unit)という機器を経由して従来のアナログ電話機がつながった。そのためISDNの運用が開始される際にはTA、DSUなどの機器の開発・試験用途でISDN擬似交換機が開発された。 ISDNはデータ用の「Bチャネル」(通信速度64kbps)と制御用の「Dチャネル」、アナログ電話用の銅線を利用するBRI(Basic Rate Interface、基本インタフェース、NTTのサービス名「ネット64」)と、光ファイバ回線を利用するPRI(Primary Rate Interface、1次群インタフェース、NTTのサービス名「ネット1500」、約1.5Mbps)がある。ISDN擬似交換機はBch、Dch、BRI、PRIなどに何チャンネル対応するかが一番の仕様。 ISDN擬似交換機の主なメーカはNTTアドンバンステクノロジ(NTT系のネットワーク構築、セキュリティなどを事業とする会社)、アドシステムズ(岩崎通信機の技術者がスピンアウトしたベンチャー計測器メーカ)、安藤電気(YHPよりもプロトコルアナライザの国内シェアが高いトップベンダ、有線通信測定器の雄)だった。現在ではISDNは過去のものとなりつつあり(固定電話網のIP網移行によりNTTはISDNサービスを2024年に終了する)、上記3社はすべて製造中止している。現在、擬似交換機をつくっているメーカは株式会社ニシヤマや甲賀電子株式会社、株式会社ハウなど(いわゆる大手計測器メーカではない)。 甲賀電子は有線通信機器メーカ。アナログ電話回線やISDN回線(BRI/PRI)、局内交換回線(ATM、SS No.7、STM-0、STM-1)などの装置を開発している。特にISDN関連製品が多く、ISDN擬似交換機ではBRI Network Simulatorがある。回線数などの仕様によって製品名(型番)はBNS-02P(KG-3006)からBNSⅡ-40P(KG-3022)の5モデルがある。ニシヤマには擬似交換機EXCEL-N000シリーズ(TEST EXCHANGER)があるが、これは電話回線(アナログ)用でISDN(デジタル)ではない。(2024年5月現在) 各社の計測器を時代順に概説する。 一番最初(1988年以前)のISDN擬似交換機はNTTアドバンステクノロジのINS-64モデル、2番目はアドシステムズ、と筆者は記憶している。NTTアドバンステクノロジのHPにはすでに未掲載なので計測器の詳細は不明。アドシステムズの品名はISDN回線シミュレーター、型番はi6492などのi64xx。i6442は疑似ISDN回線を2回線使ってパケット交換のシミュレーションが可能で、回線1側と回線2側にはそれぞれ4つのチャネルがあり、送信側のISDN端末は2つのチャネルを使用できる。同社はISDNではないアナログ回線のモデル、X4000シリーズ(X-4108、X-4008など)もラインアップしていた(同社はすでに会社が存在しない)。 続いて3番目に、ボタン電話機などの業務用電話機メーカの株式会社大興電機製作所(1938年創業、本社:東京都品川区、たいこうでんき)がiNet(アイネット)の愛称で1989年頃に発売。「Taiko iNet i64-4LINES」と表示されたモデルが、中古販売サイトに掲載されている(2024年5月)。1993年にフレームリレー対応ISDN通信シミュレータ(iNET-1000)をリリースしたが、擬似交換機はすべて生産終了(※)。 1990年代になると、大手計測器メーカの安藤電気と岩崎通信機も発売した。安藤電気はAE7300シリーズなど、形名が明確だが、岩通は形名不明(ホームページの中止品モデル一覧に未掲載)。キーサイト・テクノロジー(当時はhp、YHP)はE4210Bシリーズという、メインフレーム型のATMアナライザがあり、モジュールやソフトウェアの構成によって「B-ISDNテスタ」などになったが、擬似交換機の機能はなかった。往年のプロトコルアナライザ(プロアナ)4954Aで、ISDNに対応した4954Iを「ISDNシミュレータ」と称したが、安藤電気のAE-5105がIインタフェースオプションを使いモニタができた(AE-5105iなど)のと同じで、擬似交換機ではない。 擬似交換機の次はISDNプロトコルアナライザが登場する。アドバンテストとアンリツのリリースが早く、1988年~1989年に発売している(2社が競い、多くのユーザに採用された)。プロアナの老舗 安藤電気は2000年代にAE5131B(256kbps)、AE5135(2Mbps)を発表してISDNに対応したが、リリースが遅すぎた(同社の形名は1990年代後半にAX-YYYYからAXYYYYに、英字と数字の間のハイフン「-」がなくなった)。インターネットの登場・普及によってISDNは廃れ、ADSLや光、LANの時代になり、RS-232C以来のシリアル通信のプロアナの出番は減る(ハンディ型のラインモニタが普及)。1990年代にLANプロトコルアナライザで名を馳せるのは海外のsniffer(スニファー)で、hp(現キーサイト・テクノロジー)や安藤電気はプロアナのメインプレーヤではなくなっていく(プロアナは計測器メーカの主力製品ではなく、国内ベンチャーや海外IT関連メーカがつくるようになる)。 (※) 大興電機製作所は、同じく中堅の電話機メーカ 株式会社田村電機製作所(1946年設立、本社:東京都目黒区)と2004年に統合し、現在はサクサグループ(サクサホールディングス株式会社)として、ボタン電話装置や防犯設備機器をつくっている。2000年以前に企業内に数多くあった内線電話(有線の電話機)は、IP電話を経て現在ではほとんどが無線端末(携帯電話やPC)になった。2000年頃までは企業の設備として多くの台数があった電話機がインターネット普及によって減り、電話機メーカが淘汰されたことをサクサは象徴している。 1980年代にNTTの固定電話機がNTTからの黒電話の借用ではなく、電気メーカの電話機が使用できるようになり(レンタルだけでなく買い取り制がスタート)、多くの電機・通信機器メーカが電話機に参入した。従来のダイヤル式(番号の穴に指を入れてダイヤルを回転させる)ではなくボタン式で、留守電機能などが付いたデザインも多様な商品が、大手家電メーカ(シャープ、ソニーなど)や電話機メーカ(田村電機製作所など)から販売され、秋葉原の電気街に陳列した。1980時代後半に安藤電気はテレホンユニットテスタ AE-9302/9303やレベルテストセット AE-9310などの、電話機用測定器を発売している。つまり電話機は1980年代~1990年代には大きなビジネスだった(特定の通信ではなく、広く家電ビジネスになっていた)。安藤電気は2000年頃に横河電機の傘下になり、現在の会社名は横河計測である。

ISDN測定器(あいえすでぃーえぬそくていき)

(ISDN measuring instrument) 1988年にNTTがサービスを開始したISDN(Integrated Services Digital Network、統合デジタル通信網)に対応した、有線通信計測器には以下の種類がある。 1. 擬似交換機、2. ハンディテスタ(回線の開通工事など、屋外で使用する可搬型モデル)、3. レイヤ1テスタ(Iインタフェース試験器)、4. プロトコルアナライザ、5. コールシミュレータ(擬似呼)。 番号順に主なメーカとモデル名称(品名)、モデル番号(形名)を述べる。 1. ISDN擬似交換機 アドシステムズ:ISDN疑似交換機(PRI / BRI) J-9144A、J-9124Aなど。 安藤電気:AE-7300シリーズ(ISDNネットワークシミュレータ AE7311、ISDNシミュレーションBOX AE7303、各種モジュール AE79xx) 大井電気:ISDN多回線アナライザ TMP-9701 NTTエレクトロニクス株式会社(1997年頃の会社名、現NTTイノベーティブデバイス株式会社):ネットワークエミュレータ NE3000AE 2. ハンドヘルドのテスタ(ISDN端末の接続試験など、ISDN回線の開通時に使用する現場測定器) 安藤電気:ISDNテスタ AE5301 アドバンテスト:ISDNバス配線チェッカー D5612 大井電気:ISDN回線試験器 DNT-302B アンリツ:ISDN擬似端末 EQ612A(端末ではなく交換機、の発着信試験を行う。障害発生時には障害解析に使用。) 3. レイヤ1テスタ(Iインタフェース試験器) 安藤電気:Iインタフェーステスタ AP-9503 アンリツ:ISDNベーシックインタフェース試験器 MP5201B アドバンテスト:ISDNテスタ D5312B 4. ISDNプロトコルアナライザ アンリツ:ISDNプロトコルアナライザ EF201/211 アドバンテスト:ISDNプロトコル・アナライザ D5110シリーズ 安藤電気:データコニュニケーションアナライザ AE-5105i(モニタのみ ※1) キーサイト・テクノロジー(当時はhpやYHP):Advisor(※2)用T1プライマリレートISDNモジュール J4649A、ISDN BRI S/TおよびUインターフェイスモジュール J2905B、プロトコルアナライザ 4954i(モニタのみ) 5. コールシミュレータ(疑似呼) アンリツ:ISDNコールシミュレータ EF202/203/204 ISDNに限らずコールシミュレータは国産ではアンリツ1社しかつくっていない(※3)。 (※1) 安藤電気には「ISDNプロアナ」と銘打ったモデルがない。2000年代にAE5131(256kbps)、AE5135(2Mbps)という、前身のAE-5105(72kbps)より高速のモデルを発売しISDNも対応したが、他社より発売がかなり遅く、ISDNの旬の時期を逃している。反対に独立系で通信系の資本(NTTや日本電気など)が入っていないアドバンテストが時代の要請にマッチするタイミングでISDNプロアナを開発したことは、同社のマーケテイングと要素技術の力を示している。2010年頃に同社はそれまでの計測器からすべて撤退したが、その後、持っている要素技術を使いテラヘルツ波などの新規計測器に参入している。アンリツのISDNプロアナは形名の頭がMでないことでわかる通り、電話機や擬似呼を開発した情報機器の事業部門の製品で、計測器事業部門はつくっていない。同社が、無線機や電話機をつくれる要素技術を持つ計測器メーカであることがわかる。アンリツは、高速通信の品質評価をするBERT(ビット誤り率測定器、バート)や移動体通信の呼制御を行う疑似基地局(基地局シミュレータ、シグナリングテスタ)では、キーサイト・テクノロジーと競っている世界トップベンダである。 (※2) Advisor(アドバイザー)とは、1990年代後半にJ2300などの形名でラップトップ型計測器が登場し、ATMやLAN、ISDNなどの各種インタフェースに対応した、2000年頃のキーサイト・テクノロジーのデータ通信計測器の通称(愛称)。本体とモジュールの構成によって名称が変わり、形名などの実態が良くわからない(現在はすべて生産終了し、断片的な資料しか残っていない)。形名が似ていてLAN AdvisorやInternet Advisorと称するモデルもあった。往年のプロアナ495xシリーズまでは従来の数字形名だが、4953A以降の1990年代の同社のデータ通信計測器はM&Aでラインアップが増え、シリーズや形名に継続性(一貫性やシリーズの明確さ)がなくなる。Jシリーズは4953A以降のプロアナの形名として登場し、2000年頃の同社のプロアナはネットワークアドバイザと称していた。2003年頃には Network Analyzer J6800シリーズというプロアナもあった(プロアナなのにネットワークアナライザ(NA)とは、NAの世界的なトップベンダの同社がこのような品名の製品を発売するとは、「にわかには信じられない、目と耳を疑う、驚きの命名」である。2000年頃の同社の「プロアナのラインアップの複雑さ」を象徴している)。 (※3) アンリツと並ぶ電電ファミリーで、多くの電話機用測定器をつくった安藤電気は擬似呼の製品化ができなかった、という話を筆者は1980年代に同社の古参営業マンから聞いた。安藤電気に擬似呼がないために電話関連の評価試験器の案件(引合い)が自社だけでクローズできず、どうしてもアンリツに知られてしまう。優秀な営業マンの彼は、海外のコールシミュレータで品質の良いモデルが取り扱えないかを気にかけて調べていたが、なかなかアンリツ同等の良い物がなかった。国産でオンリーワン製品を開発したアンリツの技術力を物語るエピソードである。

IOWN(あいおん)

「Innovative Optical and Wireless Network」の略で、NTTが2019年に発表した次世代ネットワーク構想。光信号のままで(半導体レベルでも電気に変換しないで)伝送・交換処理を行うオールフォトニクス・ネットワークを実現しする。そのためのキーとなる新しい光半導体の試作にNTTは成功したといわれる。従来の電子技術(エレクトロニクス)が光技術(フォトニクス)に変わり、電子技術では解決できなかった低遅延、低消費電力、大容量・高品質のネットワークを構築できる(現在のインターネットの課題が改善できる)と期待される。 GAFA(ガーファ、米国の巨大IT企業Google、Apple、Facebook、Amazon)のような異業種が通信事業者(キャリア)になろうとしている。NTTは老舗の通信事業者として安泰ではない。IOWNの実現でゲームチェンジをはかり、NTTが世界をリードする通信事業者になるというビジョンを発表したのである。2019年にNTT、インテル、ソニーが発起人となって立ち上げた「IOWNグローバルフォーラム」には世界中の名だたる企業が参画した。2030年のIOWN実現に向け、2022年には第一弾としてオープン仕様に基づくAPN(All Photonics Network)(Open APNと呼ばれる)に対応した光伝送装置がNECや富士通から発売される。 参考用語:WDM、電電ファミリー

アイパターン(あいぱたーん)

(eye pattern) デジタル信号のハイ/ロー(1/0)の時間推移を重ね書きで表示した図形。デジタル通信(デジタル伝送)の伝送品質評価に使われる。図形が目(eye)のように見えることに由来する。別名:アイダイアグラム(eye diagram)。アイの開口度合いから視覚的に伝送品質を確認できる。重ね書きされた複数の波形が同じ位置なら信号の時間推移は同じで、(立ち上がりや立ち下がりの時間やタイミングが変動していない)波形はシャープな形になる。この波形は品質の良い信号で、「アイが開いている」、「アイの開口が広い」と表現される。反対に、波形が細くなくて塗りつぶしたようになっていたら、波形の位置(タイミングや電圧)がずれている、品質の悪い信号で、「ジッタが悪い」という評価になる。 アイが開いている(波形の軌跡が塗りつぶす範囲が狭い)ほど、ジッタ(信号の揺らぎ)が少ない、品質が良い状態である。アイパターンを目視すれば、波形の縦の高さや横の幅からタイミングや電圧のマージンを簡便に知ることができる。信号にはオーバーシュートやアンダーシュートが起こるが、アイパターンはアイの形状からジッタなどを知り、必要なら設計を見直すなどのデバッグに使われる。多くの電気・電子回路の設計技術者にとって、アイパターンは基礎用語である。 アイパターン測定器としてはサンプリングオシロスコープ(キーサイト・テクノロジーの86100シリーズなど)が代表モデルだったが、広帯域オシロスコープ(高速オシロスコープ)が2000年代から普及し、マスクパターンがオプションで用意されるようになり、規格ごとのアイパターン評価(適合性試験、コンフォーマンステスト)はオシロスコープで自動測定できるようになった。マスクパターンとは「アイの開口」が通信規格の範囲内にあることを、オシロの測定画面で図形で規定するもの。測定者が波形から伝送品質(ジッタなど)を確認するのではなく、測定器のオプションソフトウェアが規格に合格しているかを評価(判定)する。

アクセス網(あくせすもう)

従来はNTTの電話局の交換機と加入者(各家庭や事業所の電話機)を結ぶネットワークを指した。現在は電話機がPCやスマホになり、交換機はルータに変わりインターネットの世界となったが、NTT以外の通信事業者(キャリア)が増えても、いまだにアクセス網はNTTが強く、他の通信事業者はNTTのアクセス網を借りて通信をしている場合が多い。NTTもアクセス網をFTTH(Fiber To The Home、家まで光ファイバを届かせる)の掛け声で光ファイバ化し、フレッツ光などのサービスを展開している。アクセス網を光ファイバにして高速にしたのがPON(Passive Optical Network、ポンと呼称)である。アクセス網の先にあるネットワークの中枢(基幹通信網)をアクセス網と区別してコアネットワークと呼んでいる。

アクテルナ(あくてるな)

(Acterna)通信計測器の老舗ワンデル・ゴルターマンや、米国の老舗計測器メーカのウエーブテックを継承し、2000年に設立した、主に通信計測器をつくったメーカ。2005年に光ファイバ用計測器のJDSユニフェーズ(JDSU、旧JDSファイテル)に買収されて会社は無くなった。数年しか存在しなかったため、今では実態が良くわからない、幻の通信計測器メーカ。「アクテルナ」または「アクターナ」と呼ばれた。参考用語:Acterna

Acterna(あくてるな)

2000~2005年に存在した通信計測器メーカ。短期間で無くなったので、今となっては実態が良くわからず「謎の通信計測器メーカ」である。ただしネット上にはActerna製の製品カタログも検索でき、(日本だけでなく世界の)通信計測器業界に爪痕を残した。WWG(Wavetek Wandel Goltermann)は米国の計測器メーカWAVETEK(ウエーブテック)とドイツの通信計測器メーカWandel&Goltermann (ワンデル・ゴルターマン)が1998年に合弁した会社だが、さらにハンドヘルドの計測器メーカTTCが2000年にWWCに合併してActerna(アクテルナ、またはアクターナと呼称)が設立された。当時の日本はCATVの普及期で、Acternaはケーブルテレビ用の計測器をInterBEE(インタービー、映像関連の大きな展示会)などに出展していたが、当時の日本での正式な企業名は今となっては不明。 2001年に有線通信測定器の老舗、安藤電気が大株主をNECから横河電機に変更(つまり横河電機に身売り)することに造反して、安藤電気の計測器事業部門の技術マネージャ以下複数の技術者がActernaに転職している。Acternaは光ファイバ用計測器をラインアップするJDSU(旧JDSファイテル)に2005年に買収され、さらに2015年に計測器部門が分割されて現在はViavi Solutions(ヴィアヴィソリューションズ)になっている。 2000年当時は、ドイツのワンデル・ゴルターマンと米国ウエーブテックという老舗計測器メーカが合体したWWGは、キーサイト・テクノロジーに対抗する通信計測器の1極であったが、それを継承したActernaはJDSUに吸収され、数年間で消滅した。JDSUがWWGを飲み込んだのは、従来のデータ通信や伝送・交換装置用測定器という機種群は、光通信を主体にしたモデルに移行していったという背景がうかがえる。光通信測定器と無線測定器を継承したViavi Solutions以外の海外の通信測定器メーカとしては、EXFO(エクスフォ)が光通信の基本測定器(光パワーメータや光スペクトラムアナライザなど)とネットワーク用測定器(伝送装置などの評価)をラインアップしている。国内の光通信の測定器は横河計測(旧安藤電気の光通信の製品群)が健在。LANやOTDR(光パルス測定器)などの可搬型のケーブルテスタではFlukeNetworks(フルークネットワークス)が専業メーカとして有名。 参考用語:伝送交換

ACK(あっく)

(psositive ACKnowledgement) データ通信の制御手法で、「肯定応答」のこと。受信側が正しく受信したことを送信側に知らせるために送る受信確認情報。データ通信では、データが届いたかどうかを送信側・受信側で確認をし合う。ACKはデータパケットがうまく受信されたことを示し、他方、NACK(Negative ACKnowledgement、否定応答)はデータパケットがうまく受信できなかったことを示す。acknowledgementは「受領確認」の意味。「ACKが送られてこなければ失敗」、「NACKが送られてこなければ成功」のようにACKかNACKのどちらか1つで運用されることも多い。

誤り率測定器(あやまりりつそくていき)

BER(Bit Error Rate、バー)の測定器。ビット誤り率測定器を略した呼称。別名:「ビットエラーレート測定器」、「ビットエラー測定器」、「BER測」など。

安藤電気(あんどうでんき)

(Ando Electric Co., Ltd.) 1933年~2004年に存在した老舗計測器メーカ。正式名称:安藤電気株式会社。東京証券取引所第二部に上場。通信計測器や半導体テスタをつくっていた。大株主はNECで、アンリツ同様にNEC系の計測器メーカだが、安藤電気はNECの持ち株比率が高く、NEC出身者が複数人、社長になっている。有線通信の計測器ではYHP(現キーサイト・テクノロジー)やアンリツと競っていた。独立系ではなくNECが大株主だが、「通信と半導体」という時代の先端を担ったハイテク企業である(1977年にNECはコンピュータ&コミュニケーションを標榜する「C&C」をCIにしていた。通信とコンピュータである)。 1933年に安藤氏が創業。電電公社(現NTT)から通信計測器の開発を任された電電ファミリーの1社。光通信測定器はアンリツと安藤電気の2社がNTTに納めた。1980~2000年頃につくっていたのは基幹通信網の伝送装置向けの測定器である、SDH/SONETアナライザ、 MTDMアナライザ、モデムテスタなど。有線通信には強かったが無線ではアンリツに遠く及ばなかった(ラインアップには無線機テスタはあるが、SGやスペクトラムアナライザはない)。NTTなどに最先端の計測器を納入した。単発の波形しか捉えられないが、パルススコープとでもいうオシロスコープの原子版のような測定器をつくったという話がある。インピーダンス測定も早くから行い、「ブリッジなどの回路素子測定器をつくっていた横河電機の製品より高精度な測定結果」と評価した大学教授もいた。 1980年代の通信測定器以外のラインアップは、ICE、ROMライタ、LCRメータ、tanδ測定器など。ICEはインテル80386などの最先端のCPUに果敢に挑戦したが、特定顧客にしか販路が広がらなかった。ROMライタはNECから情報を得るなど、幅広いチップに対応したが、協力関係にあった浜松東亜電機(現東亜エレクトロニクス のフラッシュサポートグループ)に技術移管し、製品は現在も続いている。LCRメータはシリーズ化でシェアを伸ばしたが、業界標準のHP(現キーサイト・テクノロジー)のような高周波モデルが開発できず撤退した。 2000年の光海底ケーブルバブルで屋台骨の光計測器が落ち込むと経営が傾いた。大株主のNECが半導体ビジネスから撤退するのに伴い、子会社にATE製品(半導体検査装置)は不要となり、NECに変わる株主が必要となった。横河電機が資本参加し、安藤電気の全事業を受け入れた(2001年にNEC保有株式が横河電機に売却された)。2002年に安藤電気は横河電機の100%出資子会社になり、2004年には事業再編で解体している。 プロトコルアナライザや光通信測定器では当時世界No.1のHPと競い、モデルによってはHPより売れた製品もあった。光通信測定器は現在の横河計測株式会社に引き継がれ、光スペクトラムアナライザは世界No.1である(2022年現在)。 前述のようにNECが半導体デバイスビジネスをするために、グループ内の計測器メーカに半導体テスタをつくらせた。そのため安藤電気の半導体テスタは同業のアドバンテスト(旧タケダ理研工業)などに比べるとNEC以外にはあまり売れなかった。1970年代から2000年頃の半導体テスタは最先端の検査機器(花形製品)として、複数の計測器メーカがつくっていた。安藤電気は半導体テスタ事業が赤字でも、通信計測器(プロトコルアナライザや光計測器など)が補填した。ところが光計測器が赤字になったときに半導体テスタはそれを補填することはなく、会社は立ち行かなくなった。 軽率なことはいえないが、安藤電気がもし半導体テスタをやっていなかったら、光通信などの有線通信計測器の世界トップメーカとして存続していたかもしれない。2002年の社長である本橋氏は同社の計測器事業部出身の技術者で、何代も続いたNECからの天下りではなく生え抜きだった。キーサイト・テクノロジー(当時はアジレント・テクノロジー)が光測定器を縮小したので、安藤電気は光測定器で世界No.1になる目前だった。計測出身のプロパー社長のもとで躍進することなく、横河電機に身売りすることになったのは残念である。 参考用語:YEW、Acterna、ミナトレクトロニクス、光計測 3A 計測器情報:安藤電気の光測定器、安藤電気のプロトコルアナライザの例

岩通計測(いわつうけいそく)

正式名称:岩通計測株式会社。2002年に岩崎通信機(岩通)の計測事業部門を分社化(同年は超高輝度ストレージスコープTS-81000が発売された年である)。2010年代後半に親会社(岩通)に吸収された。横河電機は2010年に計測器部門(オシロスコープや電力計測器など)を子会社の横河メータ&インスツルメンツ株式会社(現横河計測株式会社)に統合している。つまり岩通とは反対に計測器部門を別会社として切り離している。横河電機はプロセス・オートメーション、計装分野に事業を集中する過程で、半導体テスタ、科学分析機器、フォトニクスデバイスなどを本体から分社化や、撤退させてきた。計測器の事業も横河電機の主力ではないので分社化された。岩通が事業再編の中で計測器を本体に戻したのは、計測器事業が単独で収益を出すことが難しい時代に、計測器が岩通にとって必要な技術・商材と認識しているためと理解される。 2018年発行の計測器総合カタログ「IWATSU 電子計測器ダイジェスト2018 Vol.2」には計測器の連絡先として「岩通計測・第二営業部・計測系業担当/アカウント営業担当/国際営業担当と営業推進部 西日本支店」が明記されている。同社の第二営業部が計測器を販売していたことがわかる。時期は1990年頃と記憶しているので岩通計測のできる前だが、岩通の計測器の営業部門から計測器のレンタル会社である昭和ハイテクレントに複数人が転職している。 岩通の開発部門からはアドシステムズ(ISDNの擬似交換機の草分け)などの計測器メーカがスピンアウトで生まれている。岩通は古くからNTTに電話機を納品してきた中堅の通信機メーカ(電電ファミリー)だし、岩通計測はアナログオシロスコープの国内トップブランドという計測器の老舗(名門)である。 現在の岩崎通信機は、2009年に半導体評価用のカーブトレーサを発売し、パワーエレクトロニクス関連の計測器に傾注している。海外製の特殊なプローブも積極的に取り扱い、デジタルパワーメータの輸入販売など、同社ホームページには転売品が多く掲載されている。 岩崎通信機(京王線久我山、杉並区)、横河電機(JR中央線三鷹、武蔵野市)、日本無線(JR中央線三鷹、三鷹市)と、東京都の23区西端には計測器メーカが3社もある(日本無線は2000年頃までは計測器部門があり、アナログの無線機テスタをラインアップしていた)。付近の地元住民には、電話機の岩通(がんつう)、無線のJRC(Japan Radio Co., Ltd.日本無線)、計測器のYEW(Yokogawa Electric Works、横河電機製作所)と呼ばれていた。

Interop(いんたーろっぷ)

インターネットテクノロジーの国内最大のイベント。ネットワークにつながるモノのInteroperability(相互接続性)を検証する場として、日本では1994年から毎年開催されている。 幕張メッセで2024年6月5日~7日に開催されたInterop 2024には光伝送の関連メーカ(通信キャリア、光部品、伝送装置、計測器メーカなど)が出展した(会場の約35%の空間はデジタルサイネージ)。 計測器メーカとしてはViaviソリューションズ(OTN関連の光伝送の通信計測器、光パワーメータなど)、メインテクノロジー(VeEXの現場測定器の光測定器、OPMや数値表示の簡易OTDRなど)、原田産業(EXFOの販売店、ただしEXFO製品は展示していない)、東陽テクニカ(Spirentの負荷試験機など)、キーサイト・テクノロジー(IXIAの負荷試験機など)、データコントロールズ(製造ライン向けの負荷試験機など)。独立行政法人 情報処理通信機構(IPA)のブースでは、通信機器を使ったデモをしていたが、負荷試験機はTestCenter(スパイレント)ではなくIXIAが使われていた。データコントロールズはメディアコンバータなどの通信機器のメーカだが、生産向けの負荷試験機(30万円~100万円代)もラインアップし、SpilentやIXIAのようなR&D向けの高額・高性能モデルとは違う市場で実績を出している。 このようにInteropは計測器としては光測定器と光伝送測定器、負荷試験機が出展される展示会である。海外の通信計測器がメインでアンリツやラインアイなどの国産計測器メーカは出展していない(2024年の実績)。EXFOの出展ブースはないが、Shownetで原田産業の関連会社として計測器を提供している。つまり、ViaviとEXFO、VeEXのOTN測定器、光測定器と、Spirent(東陽テクニカ)、IXIA(キーサイト・テクノロジー)の負荷試験機が競う展示会といえる。アンリツのOTN測定器、光測定器やラインアイのRS-232C系プロトコルアナライザ(オンラインモニタ)は、少なくとも2024年には出展していない。 Interopではメディア(プレス)に対してプレゼンテーションや会場ツアーを行っている。プレスルームのテーブル席は(2024年には)20席程度で、部屋は広くはないが、冷蔵庫には各種飲料が並び、ホットコーヒーやお菓子の無料提供がされ、プレスに対するサービスが充実している。最近は大規模な展示会でもプレスルームに無料の飲食物の提供がない場合が多いが、Interopは報道機関を巻き込んだ華やかな大型イベントである。 旧電設工業展のJECA FAIRは毎年5月頃に東京ビッグサイトで開催される大きなイベントで、来場者も多く賑わっているが、プレスルームはなく、会場は撮影禁止である。つまり報道機関に取材してもらうことを拒絶している。そのためほとんどメディアでは取り上げられないが、それでも来場者は多い。2024年は5/29~31に東ホールで開催されたが、同時期に西ホール(4F)で開催のワイヤレス展よりも出展社が多い。 InteropとJECA FAIRはプレス(報道機関)に対するスタンスが180度違っている。

ADSL(えーでぃーえすえる)

(Asymmetric Digital Subscriber Line)既存の銅線電話加入者線を使って高速データ伝送をする技術。直訳すると「非対称デジタル加入者線」。上り(端末から局への通信)と下り(局から端末への通信)の通信速度が異なる事から非対称といわれる。ADSLは固定電話のサービスとして1999年に商用開始され2000年代前半に普及が進んだ。ソフトバンクのブロードバンド・インフラ事業のひとつであるYahoo! BB(ヤフービービー)は2002年にADSLを使った格安通信サービスを開始した。それまでの日本の通信料金は北米・韓国などに比べて高く、世界一高額といわれてきた。「日本に安価で高速なネットワークができなければIT(情報技術)ビジネスは広がらない」という信念のもと、ソフトバンクは自らがキャリア(通信事業者)となってその様なネットワークの普及に邁進した(いまでこそソフトバンクはNTT、auに次ぐ携帯電話の通信事業者だが、当時はそうではなかった)。街頭でのADSLモデムの無料配布、NTT回線初期費用無料、などの過激なキャンペーンで、ヤフーBBの加入者は激増し、基幹通信の通信料金の価格破壊の元となった。普及から20年を経た2024年にはADSLはサービスを終了し、後継は(同様に普及が進んだ)光通信(正式には光ファイバ通信)となる。ソフトバンクは2018年5月に、ADSL各種サービスを2024年3月末で終了すると発表した。NTT東日本とNTT西日本も2018年11月に「フレッツ光」の提供エリアで「フレッツ・ADSL」を2023年1月に終了予定と発表している。 ADSLに限らずIPネットワークの普及を推進した通信サービス(FTTHやCATVなど)は、2000年代前半までの(SDHに代表される)高安定高額方式(ギャランティ型)とは異なりベストエフォート型と呼ばれた。そもそもインターネットは、送信したデータが確実に相手に届く事を保証していない典型的なベストエフォート型の通信システムとして導入された。これはキャリア側がすべての加入者に一定の仕様を保証する(その見返りが応分に高額な回線使用料金となる)のではなく、「最大8Mbps」などベストでの仕様を提示し、全ユーザにこれを保証しない。そのためキャリアはギャランティ型のように高額測定器を常時設備せず、全営業地域で最大通信速度を保証する訳ではないので加入者料金が安価になる、という構造である。これは昨今の金融商品の自由化で謳われている利用者の自己責任でサービスを選択する事に類似している。2000年代前半に導入が始まったベストエフォート型のサービスは現在では当たり前で、家庭のパソコンをWi-Fiにつないでも、日々の状況など環境によって通信速度は変化して遅くなる場合がある。 有線の通信計測器も、インターネットの普及によって(以前のように)高額な専用器を通信インフラの保守会社が設備しなくなった(というかできなくなった)。無線通信でも、2021年に商用開始した楽天モバイルは、無線通信や電話の装置は高額なため導入せず、パソコンとソフトウェアでその機能を行うことで、格安な契約料金を実現しているといわれる。計測器だけでなく、高額な通信機器も導入が見送られる時代となった。2022年現在、楽天モバイルの品質は決して良くない(筆者は2021年4月から使用している)が、今後知見を積んで、品質改善や新サービス開始につながることが期待される。 参考用語:SDH/SONETアナライザ 計測器情報:ADSLが品名につく製品の例

ATMアナライザ(えーてぃーえむあならいざ)

ISDNサービスなどが導入された1990年代には、基幹通信網にはまだ交換機があり、ATM(Asynchronous Transfer Mode)交換技術は大変に重要だった。新しい技術に関する勧告が次々と出され、測定器も新しい勧告に基づいた仕様や機能が求められた。ATM機器にはUNI(User Network Interface)とNNI(Network Node Interface)があり、ATMアナライザはUNIとNNIでATM機器に接続し、機器の挙動などを評価した。HP(現キーサイト・テクノロジー)のE4200シリーズは走りの製品で、1995年頃に発売され、NECや富士通など多くの通信機器会社で使用された。ATMアナライザというとHPの製品名を指す時期もあった。E4200シリーズは当時のHPでは流行りだった、メインフレームとモジュールで構成するタイプで、今からすれば大型の測定器だった。当然、PCにつないで使用する。後年になると、可搬型のSDH/SONETアナライザにATMも対応した機種が主流になり、同社の37718A コミュニケーション・パフォーマンス・アナライザや、アンリツのMP1570A SONET/SDH/PDH/ATM アナライザなどのモデルが発売された。エイブルコミュニケーション(現アルチザネットワークス)はATMプロトコルアナライザ(DB-500/1000)という品名(形名)の製品を発売していた。岩崎通信機も当時はISDN関連の通信測定器群があり、ポータブルATMテスタSD-1000があった。これらのモデルはすべて製造中止である。

SS No.7(えすえすなんばーせぶん)

(Signaling System No.7) 固定電話網で電話機同士を接続する仕組み。1975年に運用が開始され、世界中で利用されているプロトコルの名称。電話機同士が会話を始めるための、発信や着信などの呼制御をシグナリングというので、SS No.7は公衆交換電話網のシグナリング・プロトコルとも呼ばれる。表記はSSN7やSS#7、SS7などもある。 正式には「共通線信号No.7(Common Channel Signaling System No.7)」。ネットワーク間の電話やSMSの転送、料金請求処理、国際ローミングなどに利用されている。1990年代まではSS No.7対応のプロトコルアナライザ(プロアナ)や伝送交換装置用測定器が活躍したが、日本では2000年代にIP網(インターネットのネットワーク)が普及して交換機はルータやサーバに代わり、SS No.7用の通信計測器は需要が減って、使われなくなった(※)。 HP(ヒューレット・パッカード、現キーサイト・テクノロジー)の「シグナリング テスト セット 37900A」は、ソフトウェア、インタフェース、ワークステーションで構成され、SS No.7のプロトコルをモニタし、擬似端末としてエミュレーションができるモデルだった。37900DはNo.7だけでなくISDNにも対応した。国産ではエイブルコミュニケーションが1990年代前半に「SS7テストシステム DXV-100」を開発・販売している。国産のプロアナの老舗、安藤電気にはSS No.7に対応したモデルが見当たらない(筆者は記憶にない)。ISDNは日本ではNTTが1988年に商用開始し、安藤電気は1990年代後半にISDN疑似交換機をつくったが、ISDNプロアナのリリースはその後だった。同社はSS No.7よりもISDNモデルの開発を優先したと思われる。2000年代には横河電機(現横河計測)の傘下になり、結局SS No.7プロアナをつくらずに終わった(つくれなかったのか、つくらなかったのかは不明)。 (※) ISDNの擬似交換機やモニタ(プロアナの1種)をつくる甲賀電子株式会社のHPにはSS No.7用のシミュレータやモニタが掲載されている(2024年11月現在)。大手計測器メーカのキーサイト・テクノロジーがだいぶ前にSS No.7モデル(37900)を中止して、プロアナベンダはラインアイなどの非計測器メーカ(エレクトロニクスのベンチャー企業)になったが、甲賀電子もその1社である。少ないながらもSS No.7関連の測定器の需要があり、同社がそれに応えていると推測される。

SDH/SONETアナライザ(えすでぃーえっちそねっとあならいざ)

SDH(Synchronous Digital Hierarchy)は1988年にITU-Tが制定した国際標準のデジタル伝送規格。日本では1990年代に「新同期網」と称して基幹通信網に導入された。SDH装置を開発するメーカ(NEC、富士通、沖電気、日立製作所など)はアンリツか安藤電気のSDHアナライザで試験を行った(NTTは電電ファミリーの通信機器4社に装置を発注し、同じく電電ファミリーのアンリツと安藤電気に計測器をつくらせた)。 SONET(Synchronous Optical NETwork)規格はほぼSDHと同等。SDHアナライザはSONETにも対応できるモデルが多く、SDH/SONETアナライザと称した。2000年頃まではキーサイト・テクノロジー、Wandel&Goltermann(ワンデル・ゴルターマン)、テクトロニクスなどの海外計測器メーカもつくっていたが、現在はほぼ生産中止。HP(現キーサイト・テクノロジー)の37718A OmniBER コミュニケーション・パフォーマンス・アナライザは可搬型の1筐体で2.5Gbps (OC-48/STM-16) まで対応していた。 SDH/SONETはデジタル信号を多重するための国際標準で、各国が共通規格になることで、海外との通信を効率化した。SONET で使用するフレーム形式STS(Synchronous Transport Signal、同期転送信号)は、STS-1(51.84 Mbps、OC-1)をベース信号としている。SDHのフレーム形式STM(Synchronous Transport Module、同期転送モジュール)はSTM-1(155.52Mbps、OC-3)がベース。OC-n(Optical Carrier)はANSI(米国規格協会)が標準化したデジタルハイアラーキ(SONET)の伝送レートで、51.84MbpsをOC-1と呼び、そのn倍をOC-nと表記。 1990年にNECや富士通などがNTTにSDH装置を納品する際、限られた試験期間に複数台のSDHアナライザを使用するには(計測器は高額だったので)レンタルしかなかった。計測器レンタル各社にNECなどからほぼ同時期に複数台のレンタル依頼があり、各社は大口引合に右往左往した。億円単位の投資をしたレンタル会社は、その後SDHアナライザの不良資産(一度だけ貸し出したが、その後倉庫に鎮座し不稼働品となり、投資額を回収せず売却や廃棄など、未回収で終わる)を抱えることとなった。レンタル会社の購買部門が目利きを誤り、赤字商材を買ってしまった例である。 キーサイト・テクノロジーはE1676B(マルチレートSONET/SDHアナライザ)、E1669B(SONET/SDH 1550 nm光インタフェースTX/RX)などのSDH/SONET製品があったが、今はほとんど生産終了していて、SDH/SONETアナライザはない(2023年現在)。アンリツのホームページにはトランスポート関連測定器のOTN/SDH/SONET関連測定器のページに掲載されている「ネットワークマスタ プロ(MT1000AやMT1040A)」が唯一、SDH/SONETが測定可能なモデルとして残っている(2023年現在)。つまり、SDH/SONETアナライザは1990年頃に登場し、大いに活躍した通信の花形製品(メーカ価格は約1千万円/台の高額製品)だったが、現在ではほとんどその名を聞くことはない。SDH/SONETは現在も通信網で運用されている規格(装置)だが、アナライザは過去のものとなった(NTTの通信回線の保守をする部署・会社ではアナライザを設備保有している)。