計測関連用語集

TechEyesOnlineの用語集です。
計測・測定に関連する用語全般が収録されており、初めて計測器を扱う方でも分かりやすく解説しています。
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ARM(あーむ)

RISCプロセッサで有名な英国のARM社のこと、またはARM社が提供するプロセッサ設計データ(ARMアーキテクチャ)を元に製造されたマイコンの総称。ICEに慣れた人はARMと表記するが、一般には「アーム」と表現されることの方が多い。 ARM社は電子回路の開発・設計をする英国企業で、自社工場を持たず製品販売もしないが、米国インテル、モトローラなどがARM社とライセンス契約をしてARMマイコンを製造・販売した。設計データはARM6、ARM10など複数のアーキテクチャがあり、アーキテクチャをカスタマイズできるライセンス契約をしたインテルのようなメーカはStrongARMと呼ぶ製品を自社開発した。消費電力あたりのパワー効率が高い為、2000年代には携帯電話の組込み用マイコンとして世界でもっとも多く採用された。ARM社自身はICチップの製造・販売などは行わず、設計情報をチップメーカーに提供し、製品の販売額などに応じたライセンス料を得る事業モデルである(ファブレスのさらに一歩進んだモデル)。 ARMは「Advanced RISC Machines」の略で、CISCの特長も取り入れたRISCといえる。「ARMアーキテクチャ」は「ARM系プロセッサ」とも呼称される。ARM系プロセッサはメーカが異なっていても命令セットを共有しているためソフトウェアの互換が容易で、組込みシステム(産業機器や家電製品の一部として組込まれるコンピュータシステム)への採用が進んだ。マイクロプロセッサ市場のうち、パソコン向けはインテルの86系プロセッサと各社の互換製品(サードパーティ)が主流だが、スマートフォンやタブレット端末などの携帯機器ではARM系製品のシェアが高い。インテル系製品の強かったサーバ市場でも、サーバ向けに特化したARMプロセッサが開発され、電力効率を重視するデータセンターなどに導入が始まっている。 まとめると、ARMとはマイクロプロセッサの設計を行なう英国企業。また同社によるマイクロプロセッサの設計(アーキテクチャ)や、それに基づくプロセッサ製品などの総称である。 日本のキャリア(携帯電話事業者)であるソフトバンクは2016年にARM社を傘下に収めた(ソフトバンクはITベンダーから始まり通信事業者になったが、さらに半導体メーカまで吸収した)。GPU大手の半導体メーカであるNVIDIA(エヌビディア)はインテル、AMDというCPUメーカに対抗して半導体市場のNo.1デバイスメーカになろうと、2020年にソフトバンクからARMを買い取ると発表したが、欧州での規制をクリアできず2022年に断念している。 ARMのビジネスは図面のライセンス。これは半導体の工程の上流を抑えていることを意味する。微細加工の進歩による集積度の向上で高密度チップにはトランジスタが数百億個あり、今後も増えつつける。 「建築にたとえれば、1つのチップを設計する作業は、大都市を丸ごと設計するようなもの。能力のある設計事務所でも、ビルや住宅などの細かい部分は出来合いの図面を買ってきて貼り合わせたり修正したりしながら、都市全体の図面を描いていくしかない。アームはビルや住宅の図面を設計事務所に売る会社である。2021年8月に英国政府の競争・市場庁は買収に異議を唱える報告書を公表した。欧州最後のテクノロジー企業が米国人(エヌビデイア)に売却されようとしている。」(「2030 半導体の地政学」 2021年11月 日経BP発行、より抜粋) インテルさえもARMから図面を買わないと設計ができない。ARMだけでなく、最先端の露光装置でオンリーワンのASLM(オランダ)などは、半導体で欧州が存在価値を示す切り札といえる。半導体が純粋な技術の話ではなく、軍事などの経済安全保障の問題である所以である。 計測器情報:ARM関連のICE製品例

ICE(あいす)

(In Circuit Emulator)マイクロプロセッサ(マイコン、MPU、CPU)を使った組込みシステムの開発・デバッグを行なう測定器。開発支援装置、デバッガー、インサーキットエミュレータとも呼ばれる。今や安価な家電製品から高度な通信装置まであらゆる電気機器にマイコンが搭載されている。それはハードウェアとソフトウェアの両方が一体となって動作する。半導体素子で構成された電子回路が作りだす信号波形と、動作を制御するプログラムの両方が正確に連携しないと、製品は仕様通りに機能しない。そのための作り込みに欠かせない測定器。機器のマイコンが実装される基板上からケーブルをICEに伸ばすのでIn Circuitになる。1971年にインテルが世界初のマイコン4004(4ビット)を発売し、以降ザイログやモトローラも8ビット製品を次々と世に出した。そのため80年代には各計測器メーカはICEに参入した。当時のICEは(後年の分類で)フルエミュレータ(またはスタンドアロン型)で、HP(現キーサイト・テクノロジー)はユニークなモデルを長く発売していた。80年代後半には横河電機や安藤電気、アンリツなどの大手計測器メーカがICEを作っていたが、ソフィアシステムズなどのICE専業メーカがシェアを伸ばし、横河電機は分社化してadvice(アドバイス)というブランドを作り、90年代にソフィアシステムズと市場を2分した(現在もDTSインサイト社が後継機種を継続している)。日本に携帯電話メーカが複数ある時代は、高額なICEを大量に使い開発にしのぎを削ったので、レンタル商材としても2000年代までは花形だった。現在は岩崎通信機やアンリツなどの計測器メーカや、ソフィアシステムズなどの専業メーカもほとんど撤退した。理由は、基板検査のための規格として登場したJTAG(ジェイタグ)が拡張して「総合デバッグインタフェース」となり、高額なICE(フルエミュレータ)を使う必要がなくなったためである。現在のICEはJTAGやROMエミュレータなどのオンチップエミュレータが主流となった。従来のフルエミュレータに比べて安価なため、ICEの市場規模は激減して、乱立していた計測器メーカや専業メーカは一掃された。マイコンの黎明期から普及に伴い活躍したICEは、マイコンの成熟とともに計測器の主流ではなくなった。

アセンブラ(あせんぶら)

(assembler)マイクロコンピュータ(マイコン、CPU)を動かすソフトウェアに関連する用語。C言語などで書かれたプログラム(ソースファイル)から生成されたアセンブリ言語を、アセンブラは機械語に変換する。機械語はマイクロコンピュータが読めて実行できるもの。ソースファイルから最終的なデータファイル(機械語)を作る作業をコンパイルと呼ぶ。アセンブラはコンパイルの重要な機能である。 assemble(アセンブル)は「組み立てる」の意味。 参考用語:コンパイラ、インタープリタ 参考記事:車載マイクロコンピュータの基礎~車載システムを支える頭脳・・マイクロコンピュータの構造と動作原理を説明。

アセンブリ言語(あせんぶりげんご)

(assembly language)マイクロコンピュータ(マイコン)を動かすソフトウェアに関連する用語。マイクロコンピュータが理解し、実行できる機械語(マシン語)と正確に対応する命令語(ニーモニック)で記述された言語(プログラム)。プロセッサ(MPU)にはそれぞれ特徴があり、MPUに依存した命令語がある。人間が機械語を理解しやすいように翻訳したものがアセンブリ言語。マイコンのソフトウェアを開発するプログラマは高級言語(C言語など)で、機器の設計仕様書からプログラムを作成する。このソースファイルをアセンブリ言語に変換して(コンパイル)、さらにアセンブラが機械語にして、マイコンが実行可能なデータファイルが完成する。 参考用語:コンパイラ、インタープリタ 参考記事:車載マイクロコンピュータの基礎~車載システムを支える頭脳・・マイクロコンピュータの構造と動作原理を説明。

advice(あどばいす)

横河デジタルコンピュータ(現DTSインサイト)のICE(開発支援装置、エミュレータ)の名称。1980年代に多くの計測器メーカはICEをつくっていた。ただし非計測器メーカ(株式会社ソフィアシステムズなど)がシェアを伸ばし計測器メーカは苦戦していた。横河電機は1990年に発足した横河デジタルコンピュータ株式会社にICE製品を移管し、advice(advance ICE、前進するICE、高度なICE、という意味を込めたと推定)と称して、横河電機時代とは違う製品群を発表した。以降、ソフィアシステムズと横河デジタルコンピュータ(略称YDC、わいでぃしー)はトップ2社としてシェアを競った。フルICEからJTAGまで多種を販売し、現在もadviceという製品群は現役。2000年代以降のICE市場の縮小(フルエミュレータからオンチップエミュレータへの移行)によりadviceは会社の主力製品ではなくなった。ICEメーカの雄、ソフィアシステムズは1980年にICEに参入したベンチャー企業だが、2013年には株式会社Sohwa&Sophia Technologiesに社名変更し、現在はICEは生産終了している(Universal Probe Blueを 2021年9月30日で販売終了)。現在のICE製品は非計測器メーカ(コンピューテックス、京都マイクロコンピュータなど)と半導体デバイスメーカ(ルネサスエレクトロニクス、TEXAS INSTRUMENTSなど)と海外メーカ(LAUTERBACHなど)が担っている。adviceは唯一残った国産計測器メーカ系ICEである。1990年の横河デジタルコンピュータ設立はデジタルコンピュータ(株)、横河ユーシステム(株)の合弁によるが、現在、デジタルコンピュータは株式会社ワイ・ディー・シーという社名で継続し、現存している。なので、adviceのYDCはこの現存する会社YDCとは別である。横河電機の代理店で、分析機器など多くの機種群を取り扱う東京電機産業株式会社は、横河デジタルコンピュータ(YDC)設立後にadvice専門の販売会社、ワイデー システム(略称:YDS)を作り、大手電機メーカなどに売上を伸ばした。いまは会社は現存しないが、YDSとは、YDCの関連会社を思わせる絶妙なネーミングである。北陸の富山に本社がある「ワイディシステム株式会社(YD System Corporation、旧横河電陽社)」は横河電機の北陸地区の代理店である。このように横河電機の関連会社ではYD(ワイディー)は大変好まれて使われている(理由は不明)。

アドレス(あどれす)

(address) コンピュータやネットワーク、半導体関連の用語。組込みシステムの開発・デバッグに使われるICEやROMライタなどの計測器では基本用語である。コンピュータやネットワークでもIPアドレスのような用語がある。 株式会社Sohwa&Sophia Technologiesの用語集では、ICEの用語として以下の説明がある。アドレス:メモリやIOポートの格納場所を示した住所のようなもの。CPUはメモリやIOポートのアドレス(住所)を指定することで、指定したデータにアクセスできる。

Arduino(あるでゅいーの)

ワンボードマイコン(シングルボードコンピュータ)の一種。「Arduinoボード」(ハードウェア)と「Arduino IDE」(ソフトウェア)で構成される。2005年にイタリアで、コンピュータに詳しくない初心者向けの「電子工作用マイコンボードのルーツ」としてつくられ、数年で全世界に普及した。「Arduino IDE」の管理を行う非営利団体Arduino FoundationとArduino関連品の販売の一元管理を行う営利団体Arduino Holdingがある。読み方は「アルドゥイーノ」や「アルディーノ」もある。ArduinoはOSがないので、コンピュータの一部のマイコン。ブレッドボードなどを併用して他の機器(PCなど)につなぐなど機能拡張している例もある。ラズパイ(Raspberry Pi、ラズベリーパイ)はOSが搭載されているのでコンピュータとして使えるが、プログラムはArduinoの方が簡単。用途によってどちらが適しているか選択が必要。

安藤電気(あんどうでんき)

(Ando Electric Co., Ltd.) 1933年~2004年に存在した老舗計測器メーカ。正式名称:安藤電気株式会社。東京証券取引所第二部に上場。通信計測器や半導体テスタをつくっていた。大株主はNECで、アンリツ同様にNEC系の計測器メーカだが、安藤電気はNECの持ち株比率が高く、NEC出身者が複数人、社長になっている。有線通信の計測器ではYHP(現キーサイト・テクノロジー)やアンリツと競っていた。 1933年に安藤氏が創業。電電公社(現NTT)から通信計測器の開発を任された電電ファミリーの1社。光通信測定器はアンリツと安藤電気の2社がNTTに納めた。1980~2000年頃につくっていたのは基幹通信網の伝送装置向けの測定器である、SDH/SONETアナライザ、 MTDMアナライザ、モデムテスタなど。有線通信には強かったが無線ではアンリツに遠く及ばなかった(ラインアップには無線機テスタはあるが、SGやスペクトラムアナライザはない)。NTTなどに最先端の計測器を納入した。単発の波形しか捉えられないが、パルススコープとでもいうオシロスコープの原子版のような測定器をつくったという話がある。インピーダンス測定も早くから行い、「ブリッジなどの回路素子測定器をつくっていた横河電機の製品より高精度な測定結果」と評価した大学教授もいた。 1980年代の通信測定器以外のラインアップは、ICE、ROMライタ、LCRメータ、tanδ測定器など。ICEはインテル80386などの最先端のCPUに果敢に挑戦したが、特定顧客にしか販路が広がらなかった。ROMライタはNECから情報を得るなど、幅広いチップに対応したが、協力関係にあった浜松東亜電機(現東亜エレクトロニクス のフラッシュサポートグループ)に技術移管し、製品は現在も続いている。LCRメータはシリーズ化でシェアを伸ばしたが、業界標準のHP(現キーサイト・テクノロジー)のような高周波モデルが開発できず撤退した。 2000年の光海底ケーブルバブルで屋台骨の光計測器が落ち込むと経営が傾いた。大株主のNECが半導体ビジネスから撤退するのに伴い、子会社にATE製品(半導体検査装置)は不要となり、NECに変わる株主が必要となった。横河電機が資本参加し、安藤電気の全事業を受け入れた(2001年にNEC保有株式が横河電機に売却された)。2002年に安藤電気は横河電機の100%出資子会社になり、2004年には事業再編で解体している。 プロトコルアナライザや光通信測定器では当時世界No.1のHPと競い、モデルによってはHPより売れた製品もあった。光通信測定器は現在の横河計測株式会社に引き継がれ、光スペクトラムアナライザは世界No.1である(2022年現在)。 前述のようにNECが半導体デバイスビジネスをするために、グループ内の計測器メーカに半導体テスタをつくらせた。そのため安藤電気の半導体テスタは同業のアドバンテスト(旧タケダ理研工業)などに比べるとNEC以外にはあまり売れなかった。1970年代から2000年頃の半導体テスタは最先端の検査機器(花形製品)として、複数の計測器メーカがつくっていた。安藤電気は半導体テスタ事業が赤字でも、通信計測器(プロトコルアナライザや光計測器など)が補填した。ところが光計測器が赤字になったときに半導体テスタはそれを補填することはなく、会社は立ち行かなくなった。 軽率なことはいえないが、安藤電気がもし半導体テスタをやっていなかったら、光通信などの有線通信計測器の世界トップメーカとして存続していたかもしれない。2002年の社長である本橋氏は同社の計測器事業部出身の技術者で、何代も続いたNECからの天下りではなく生え抜きだった。キーサイト・テクノロジー(当時はアジレント・テクノロジー)が光測定器を縮小したので、安藤電気は光測定器で世界No.1になる目前だった。計測出身のプロパー社長のもとで躍進することなく、横河電機に身売りすることになったのは残念である。 参考用語:YEW、Acterna、ミナトレクトロニクス 計測器情報:安藤電気の光測定器

イベント/ブレークポイント(いべんとぶれーくぽいんと)

(event/break point)ICE(マイコン開発支援装置)の機能の1つ。トップベンダーだったソフィアシステムズ(現Sohwa&Sophia Technologies)の用語集には次の解説がある。イベント/ブレークポイント:CPUにこの機能が内蔵されている必要がある。イベントとは、「ある番地を通過した」、「あるアドレスをアクセス(リード/ライト)した」などの現象を言う。この現象(イベント)が発生した時にブレークする事が出来る。これをイベント/ブレークと呼んでいる。当社ICEではトレーストリガ機能があり、CPUに依存することなくアドレスに対する多様なトリガ設定を提供している。当サイトとして補足説明すると、「ブレーク」とはプログラムの実行(進行)を止めること。イベントが発生したプログラムの箇所(ポイント)でブレークして、このポイントでこのイベントが起きることがプログラムの正常な動作か、を確認できる機能がイベント/ブレークポイントである、ということ。そしてこの機能はデバッグのためには重要な、便利なICEの機能である。

岩崎技研(いわさきぎけん)

1990年代にあったICEメーカ(計測器メーカではなく、ICE専業メーカ)。梱包箱などにIWASAKI ELECTRONICSと印刷されていたが、会社名は岩崎技研で、「岩技」と呼称されていた。製品にIWASAKIと印刷されているためか、中古業者のオークションサイトでは「メーカ名:岩崎」という表記が見うけられる。計測器の老舗、岩崎通信機とは無関ない(岩崎通信機からのスピンアウトでは、擬似交換機やISDNシミュレータで有名な「アドシステムズ」などがある)。製品の通称はPROICE(プロアイス)で、形名と品名は次のようだったと思われる。形名:PROICE Z80/PC、品名:Z80 IN-CIRCUIT EMULATOR(現在はほとんど資料が無いので製品コンセプトやラインアップは不明)。当時流行り始めた、PC制御タイプである(ICEの初期に計測器メーカが始めたスタンドアロン型ではなく、外観がただの箱でPCにつないで使うPC接続型)。同業のZAXより後発だが、大手通信機器メーカなど、マイクロプロセッサ(MPU/CPU)を広範に使う企業に採用されていた。ICE専業メーカとして名を馳せたソフィアシステムズや、(adviceが通称の)横河デジタルコンピュータは、社名は変わったが存続しているが、岩崎技研やZAXはいつの間にか無くなっていた。アンリツも1980年代にICEをつくっていたくらい、1980年~2000年にかけてはICEやロジックアナライザは計測器の花形だった。1974年にインテルやモトローラが8ビットCPUを発売して以来、1980年代は多くの電気製品にCPUが普及し、組込みシステムの開発にICEは活用された。JTAGなどのオンチップエミュレータにとって代わられるまで、CPUの黎明期~普及期にかけてICEはモンキービジネスだったといえる。岩崎技研はITベンチャーがデジタルの計測器に参入して名を馳せ、消えていった例である。

インサーキットエミュレータ(いんさーきっとえみゅれーた)

(In Circuit Emulator) マイクロプロセッサ(マイコン、MPU、CPU)を使った組込みシステムの開発・デバッグを行なう測定器。略して「ICE(アイス)」と記載される。別名「(マイコン)開発支援装置 」、「デバッガ」。 マイコンはプリント基板上に実装され、同様に基板上にあるメモリICに格納されたプログラムに従って、ハードウェアを制御して機器を動作させる。試作品の段階では、ハード(回路)、ソフト(プログラム)の両方とも不完全で、必ずバグ(間違い)がある。そこで、マイコンの代りになって疑似マイコンとして動作するのがインサーキットエミュレータ(ICE)である。試作品のプリント基板上のマイコンが実装される箇所からフレキシブルケーブルでICEに信号を取り出す。実際の動作時にはマイコンが高速で処理するプログラムを、特定の箇所だけ実行させて、設計通りに機器が動作するかを確認していく。動作しないときは、どこが悪いのか、プログラムに間違いがあるのか、ハードウェアに設計ミスがあるのか、具体的に確認して不具合原因を究明していく。 プログラムの間違いはパッチで修正し、ハードウェアの変更はプリント基板上にリード線(ジャンパ線)をはんだ付けして回路の変更を行う。こうして、仕様を満足する状態が完成したら、パッチとジャンパ線で仮の修正をしたプログラムとプリント基板をあらたに作り直して試作2号機をつくり、同じようにICEでデバッグを続ける。このようなデバッグ作業を通じてマイコンを搭載した電気機器は完成品となる。そのためデバッガー、(マイコン搭載機器の)開発支援装置、という名称がある。 プリント基板のマイコン実装箇所からハードウェア(回路)に入って、疑似マイコンとして試験するので、In Circuit Emulatorである。ただしIn Circuitには弱点もある。シールドされたフレキシブルケーブルで信号を取り出しているとはいえ、あまりケーブルが長いと、外部からの電磁的な影響を受けたり、回路そのものの設計能力を超えてしまい、動作が不安定になることがある。そのため、「ICEが上手く動かない」という問合せはユーザのデバッグ現場からメーカのCS(カスタマー・サポート)に頻繁にあった。原因究明、解決のために各ICEメーカはサービスマンをユーザに派遣することも多かった。 参考用語:フルICE、オンチップエミュレータ、JTAG

IN-CIRCUIT DEBUGGER(いんさーきっとでばっが)

1980年代~1990年代にあったICEメーカ、ZAX(ザックス)のフルICE製品の本体の名称。ターゲットのCPU(インテル80286やモトローラ68030など)に対応したオプション(ポッド、プローブ)はIN CIRCUIT EMULATOR PROBE ERX318Pなどの名称だった。ZAXは現存していないため製品のラインアップや、形名と品名が今では正確にはわからない。

インタープリタ(いんたーぷりた)

(interpreter)プログラミング言語で書かれたソフトウェア(ソースファイル)を実行するソフトウェアの1つ。高級言語のソースコードを1命令ずつ解釈(逐次解釈)しながら実行する。機械語(オブジェクトファイル)に解釈・変換しながら処理・実行する。インタープリタ型のプログラミング言語には、BASIC、Lisp、JavaScriptなどがある。インタープリタのほかに、全部翻訳してから実行する「コンパイラ」がある。ソースコードを事前に一括変換してから実行する。コンパイラ型のプログラミング言語には、C言語、C++、COBOL、FORTRANなどがある。「Java」はインタープリタとコンパイラの両方の特徴を持つ言語である。interpreterは「通訳者」の意味。「インタプリタ」、「インタープリター」という表記もある。

インテル(いんてる)

(Intel) 半導体の世界的なNo.1ベンダーで、PCのCPUに多く採用されている。世界初のマイクロプロセッサ(マイコン)を開発したインテルは、1980年頃は8ビットマイコン8080などでモトローラの68系やザイログのZ80などと競っていた。計測器の用語としては、ICE(エミュレータ、マイコン開発支援装置)は上記の3社のチップに対応したモデル(エミュレータ・ポッド)がたくさんあった。 日本のビジコン社(電卓メーカ)の依頼により、インテルは世界初のマイコン4004(4ビット)を開発・生産し、1971年11月に出荷した。1974年には8ビットの8080を発売(モトローラの8ビット、6800も同年に発売)。その後、頭が80で始まるCPU(16ビット:80268、32ビット:80386など)が続いた。対するモトローラも頭が68で始まるCPUで対抗し、インテルの80系とモトローラの68系は比較の対象だった。1980年代には日本の半導体デバイス各社(NEC、日立製作所、三菱電機、富士通など)も80系、68系とコンパチなサードパーティーデバイスや独自CPUを開発・発売していた。 たとえばNECはVシリーズ(V30/V40/V50/V60など)のマイコンを開発し、NECグループの計測器メーカである安藤電気とアンリツはVシリーズに対応したICEを製品化していた(通信計測器の雄アンリツも、当時はICEをつくっていた)。新しいマイコンを発売時には、それに対応したICEが必須なので、岩崎通信機、横河電機などの大手計測器メーカはICEをラインアップしていた。ロジックアナライザのトップベンダーhp(ヒューレット・パッカード、現キーサイト・テクノロジー)も64700シリーズというユニークなエミュレータを1980年代~1990年代に発売していた。1980年頃は計測器にもマイコンが導入され始めた時期で(たとえば安藤電気は、1980年頃にマイコンを搭載した初めての機種、AG-4301 LCRメータを発売)、マイコン搭載による計測器のデジタル化と並行してICE製品が開発された。 インテルの80486の後はPentiumで、PCへの採用で普及していく。ICEが対応したのもこれらのチップ位までだが、80386や80486のICEの開発は簡単ではなく、各社は苦労した。CPUの高速化などで、ターゲット(ICEのデバッグ対象機器)とつないで安定動作が難しくなった。JTAGなどの普及もあり、2000年以降はICE需要が減ったことは周知である。 当時のCPUメーカだったフェアチャイルドは現存せず、モトローラも半導体からは撤退し、現在もデバイスメーカとして名前を聞くのはインテルだけである(ザイログは2021年現在、Z80をまだ生産しているらしい)。 計測器情報:ICEの製品例

SDRAM(えすでぃーらむ)

(Synchronous DRAM)内部的には、従来のDRAMと同じだが、外部バスインタフェースとのアクセスが一定周期のクロック信号に同期してデータを出力するように改良されたDRAM。クロック同期することにより、高速アクセスが可能となった。66MHz、100MHz、133MHzなどがある。ICEのリアルタイムトレースでは、この同期アクセス方法を解析して、ニーモニック表示を実現している。(株式会社Sohwa&Sophia Technologiesの用語集より)

エミュレータ(えみゅれーた)

(emulator) 2つの意味がある。 1.何かの代わりになって動作する機器(日本語では擬似と呼ばれる)を広義にエミュレータという(シミュレータという場合もある)。たとえば高砂製作所のバッテリーエミュレータは電池の充電・放電と同じ状態の動作を実現する機器で、色々なパターンの充放電をつくることができる、擬似電池である(電池を充放電する機器を開発・試験するのに使われる)。1980年代にNTTがISDNサービスを開始すると、多く使われた通信計測器である擬似交換機は交換機の代わりをするエミュレータである。 2.インサーキットエミュレータ(In Circuit Emulator)の代表的メーカであったソフィアシステムズ(現Sohwa&Sophia Technologies)の用語解説では「エミュレータ:マイクロプロセッサ(MPU/CPU)の動作を代用してデバッグすること。 エミュレーションを行なうソフトウェア/ハードウェアを指す。」とある。エミュレータは「ICE(アイス)」と略記(呼ばれる)ことが多い。当サイトではカテゴリー(計測器などの機種群)として、計測器とICEに分類していて、ICEをさらにエミュレータとROMライタに分類し、エミュレータをさらにフルエミュレータとオンチップエミュレータ(ROMエミュレータやJTAGエミュレータなど)に分類している。 ロジックアナライザ(ロジアナ)やROMライタはその登場の初期からICEと併用されたが、ICEの主力がフルエミュレータからオンチップエミュレータに移行して市場規模が激減する過程で、ロジアナもその機能をミックスドシグナルオシロスコープに譲り、ほぼ生産中止状態になった。当サイトではロジアナは計測器に、ROMライタはICEに区分している。ICEの主流は(ROMライタではなく)フルエミュレータやオンチップエミュレータなどの「エミュレータ」である。つまり、ICEとエミュレータはほとんど同義である。 広義には擬似する機器全般を指すが、計測器でエミュレータというと1970年代から2010年頃までICEのことで、計測器のカテゴリーとして大きな市場規模だったので、本稿では計測器ではなくICEの分類にしている。

MSB(えむえすびー)

(Most Significant Bit)数値をバイナリで表現した場合の最上位ビット。または最上位バイト。(株式会社Sohwa&Sophia Technologiesの用語集より)

LSB(えるえすびー)

(Least Significant Bit)数値をバイナリで表現した場合の最下位ビット。または最下位バイト。(株式会社Sohwa&Sophia Technologiesの用語集より)

エンディアン(えんでぃあん)

(endian)複数のバイトデータを並べる順序を表すための用語で、並べる順番の違いによって、ビッグエンディアン、ミドルエンディアン、リトルエンディアンなどと呼ばれる。この配置は接続するCPUのデータとりこみ方式により異なる。元データ(4バイト):01234567の場合、ビッグエンディアン:01 23 45 67、ミドルエンディアン:23 01 67 45 あるいは 45 67 01 23、リトルエンディアン:67 45 23 。プログラマ(ROMライタ)は対象デバイスのバス幅に合わせた単位で書込みを行う。各社のROMライタのエンディアンの設定(標準)がどうなっているかは確認が必要。(東亜エレクトロニクス株式会社 フラッシュサポートグループカンパニーの「書込みやプログラマに関する用語集」より。上記の用語集には16ビットバスのデバイスに書き込む場合の例が図解されている。)「バイトの順番」なので、エンディアンは別名:バイトオーダー(byte order)とも呼ばれる。

embedded(えんべでっど)

翻訳すると「組込み」。計測の世界で「エンベデッド」とは、組込みシステム(Embedded System)のこと。2010年代は組込み機器の総合技術展示会を指す言葉でもあった。2013年に一般社団法人組込みシステム技術協会がパシフィコ横浜で開催した組込み総合技術展(Embedded Technology)は、出展分野・展示会出展企業の多さから、当時としては世界最大級の組込み技術展であった。世界中の主要なICE(アイス、開発支援装置、エミュレータ、デバッガー)メーカが出展し、国産ではYDC(横河デジタルコンピュータ)、ソフィアシステムズなどが大きなブースを構えた。Embedded以前にあった組込みシステム開発技術展(ESEC、イーセック)では、ミドルレンジのオシロの帯域が500MHzからGHzになり、I2Cなどの高速シリアル通信に対応するため、ICEと共に使われてきたロジックアナライザから、ミックスドシグナルオシロスコープ (MSO )に信号解析の主役が移行するなど、展示会場には新しい計測器が出展された。このようにESECやEmbeddedはICEを中心にした最先端の計測器を体感できる展示会を意味する言葉だった。2021年11月に組込みシステム技術協会がパシフィコ横浜で開催した「ET&IoT~産業DXを実現する要素技術と応用分野」という展示会では、第58回組込みシステム研究発表会を併設している。ソフィアシステムズは2013年にソーワコーポレーションに吸収され、現在は株式会社Sohwa&Sophia Technologiesであるが、定期発行しているMail Newsの冒頭には、「Embeddedシステム関連を中心とした当社の最新情報をお届けしているメルマガ」と書かれている(2022年4月現在)。