高速オシロスコープ
従来のオシロスコープ(オシロ)と、2005年以降に発売された広帯域オシロスコープを区別するために、(従来の)一般的なオシロを汎用オシロ、広帯域オシロを高速オシロと便宜的に呼ぶ。周波数帯域2GHzまでを汎用オシロ(OSはメーカ独自が多い)、それ以上を高速オシロ(OSはwindowsが多い)とするメーカが多い。正式には広帯域オシロだが、高速デジタル回路の評価用途のため、高速オシロスコープとも呼ばれる(以下の参考記事「オシロスコープの動向と、最新1GHz帯域モデルの各社比較」に周波数帯域別の主要モデルを掲載)。
2000年代初頭のオシロの主流はミッドクラスの周波数帯域100MHz~500MHzモデル(いわゆるミドルクラスと呼称されている)で、1GHzモデルは高級器、最高機種は4GHzモデルだった。技術の進歩によってシリアル通信の規格は高速化され、勃興する新情報家電の製品群に搭載されていった。これらの高速伝送インタフェースの評価向けに、キーサイト・テクノロジーが新しいコンセプトの6GHz帯域のモデル54855Aを2005年に発売した。これが広帯域オシロ(高速伝送評価用アナライザ)で、以降テクトロニクス、レクロイ(現テレダイン・レクロイ )のオシロ3社による最高周波数モデルの開発競争が激化し、周波数帯域は10GHz、30GHzと高くなっていった。2018年にはキーサイト・テクノロジーから110GHzのモデル(価格約1億円)が発売されている(以下の参考記事「キーサイト・ワールド2018」で、世界初公開を取材)。
2018年にローデ・シュワルツが高速オシロに参入し、現在は海外の4社がラインアップしている。国産では唯一、岩崎通信機が1GHzのDS-8000シリーズを販売している。DLシリーズでデジタルオシロに参入して日本市場ではテクトロニクスに次ぐシェアの横河計測は500MHzまでしかラインアップがなく、高速オシロはつくっていない。つまり、高速オシロは海外メーカの独壇場である。RFなどの高周波の測定器の要素技術があるメーカにしかつくれない高周波の計測器といえる。たとえば国産のアンリツには高周波技術があるが、同社は自動車市場を新しいターゲットにして高砂製作所を2022年に傘下にするなど、更なる通信分野(高速オシロ)に参入する意向は感じられない。
高速オシロは構造はオシロ(機種群はオシロ)だが、汎用オシロ(いわゆる一般的なオシロ)とは使い方が全く異なる。汎用オシロの上位機種ということではなく、スペクトラムアナライザ(スペアナ)のような高周波のアナライザといえる。オシロという名前なので誤解されるが、特定用途向けの通信アナライザである(サンプリングオシロスコープが周波数帯域が広いために、アイパターン測定で通信の伝送品質の評価に使われたのに似ている)。
オプションとして各種の規格の解析ソフトウェアやメモリ増設が用意されている。次々と規定される新しい規格の評価をすることが主眼である点は移動体通信用の測定器やプロトコルアナライザと同様で、製品寿命が長くない専用器である。ユーザはオプションを適切に選択しないと目的にあう仕様にはならない。そのため、良く使う解析ソフトウェアやメモリ増設などをバンドルしたアナライザタイプが用意されている(DSAオシロスコープ)。
オシロの形名は頭のアルファベット3文字と次の数字がシリーズを表し、下3桁の数字が周波数と入力チャンネル数を示していることが多いが(以下の参考記事「計測器の形名が詳しい)、以前のアナライザタイプは頭のアルファベットがシリーズのアルファベットと全く違い、同じシリーズだと判別しにくかったが、現在はわかりやすいように改善された。たとえば2008年発売のキーサイト・テクノロジーDSO90000AシリーズのアナライザタイプはDSA90000Aだった。DSOはDigital Storage Oscilloscopeが由来の形名、DSAは「DSOのアナライザタイプ」とでもいう意味。
計測器メーカは高速オシロや汎用オシロという分類(表現)をしていない。下位モデルから、ハンドヘルド、ベンチトップのローエンドとミドルクラス(通常はこの2つが汎用オシロに相当)、ハイエンド(これが高速オシロに相当)などの分類である。広帯域オシロという呼称も各オシロスコープメーカの品名にはほとんど使われていないが、「広帯域オシロスコープ入門」(2015年出版、CQ出版社、トランジスタ技術の増刊、RFワールドNo.29)では高速オシロで最高周波数帯域の競争をした前述3社が記事を満載している。そのため広帯域オシロという呼称は各社に認知されている公式な用語といえる。
[オシロの分類(種類の表記)の例]
ローデ・シュワルツはベンチ、高性能などである。
高速オシロに本格参入 (R&S RTP ハイパフォーマンス・オシロスコープ発表会)
キーサイト・テクノロジーの6000Xシリーズは十分に高速オシロの周波数帯域だが、下のモデル(InfiniiVisionシリーズ)に分類されている。
キーサイト・テクノロジーの“見える”オシロ InfiniiVision 3000T Xシリーズ
参考用語
参考記事
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計測器の形名・・・第2回 オシロスコープPart1 ~ 形名から仕様がわかる命名
キーサイトの高速オシロのモデルを紹介。
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計測器の形名・・・第3回 オシロスコープPart2 ~ DSO、DPO、DSA、MSO
高速オシロのバンドル形名を解説。
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オシロスコープの動向と、最新1GHz帯域モデルの各社比較
表1は2020年9月現在の各社のオシロスコープの形名一覧。No.3、4の最高周波数帯域2GHz以上が、高速オシロ。
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会員専用市場動向レポート 「高速デジタルインタフェースの動向と計測ソリューションの概要」2016年10月号 TechEyes Vol.19 2ページ目
図10はテクトロニクスの高速オシロのモデル変遷。
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会員専用【イベントレポート】キーサイト・ワールド 2018 /会場:JP TOWER Part1
世界最速110GHzのUXRシリーズを取材。