波形測定器
波形測定器というとオシロスコープやレコーダ(記録計)を指していることが多い(正確な定義はない)。具体的にはデジタルオシロスコープやメモリレコーダなど。メモリを内蔵していて、測定値(通常は電圧信号が多い)をサンプリングしてデジタルデータにして、測定器の画面にグラフ(時間と共に変化する信号の波形)を表示する。定義が「波形を測定できる、(場合によっては表示する)測定器」とすれば、ハンドヘルドのデジタルマルチメータで画面に波形表示できるモデルや、データロガーなどのデータ集録機器も含まれる。
オシロスコープや記録計、DAQを広く波形測定器と呼称しているともいえる。デジタイザはオシロスコープと双子のような製品のため、「オシロスコープ/波形記録装置」というタイトルで、波形記録装置の項目にデジタイザを掲載している文献もある。波形測定器に記録装置(記録計)が含まれるケースである。
ただし、オシロスコープの国産代表である横河計測の製品ページでは、タイトル「オシロスコープ/波形測定器」にはオシロスコープを、タイトル「データロガー/データ集録(DAQ)」にはレコーダやスコープコーダを掲載している。同社の「波形測定器=オシロスコープで、レコーダ(メモリレコーダ)やデータロガーは波形測定器ではない」という認識が伺える。日本初の電磁オシログラフを製品化し、レコーダの歴史をつくった(我が社がレコーダの王道である)と自負する横河電機では、後発で参入してトップシェアを取ったデジタルオシロスコープが波形測定器であり、記録計/レコーダとは違う、という主張を(ホームページの何気ない表記から)感じるのは筆者だけであろうか。
通販サイトには「波形測定器」の項目にファンクションジェネレータや任意波形発生器を掲載している場合がある。テクトロニクスが2000年代にAFGシリーズで画面に(発生している信号の)波形表示を始めて以降、エヌエフ回路設計ブロックやキーサイト・テクノロジーなどの信号発生器各社がこれに倣い、現在のFGやAWGはほとんどが(出力している)波形を計測器前面のパネルに表示するようになった。ただしこれは波形を表示してはいるが測定はしていないので、「波形測定器」というには無理がある。「波形が表示されているから波形測定器、という安易な分類」で、横河計測のような(計測器についての)深い洞察がない。ECサイトは計測の素人でも検索しやすい作り方をしているが、計測器のプロが作ってはいないので、利用する側に知識が必要とされる。
スペクトラムアナライザ(スペアナ)やVSAなども、測定した信号波形を表示する測定器だが、波形測定器とは呼ばれない。スペアナが表示している波形はスペクトルという(周波数、波長、元素などを横軸にしてその大きさや分量を縦軸で示したグラフをスペクトルと呼称している)。信号の時間推移による大きさの変化を波形と呼び、時間軸の測定器(波形を表示できる測定器)を波形測定器と呼んでいるとも説明できる。
波形測定器は機種群(カテゴリー)の1名称といえるが、その範疇は不確か。また、各モデルの名称(品名)に使われることはない。なぜなら、「波形測定器」では「具体的に何(どんな物理量、波形)を測定するのか不明瞭である。「任意波形発生器」は、「任意の信号波形をつくって発生することができる」と、計測器ユーザはその名称から理解することができるので、品名になっている。