計測関連用語集

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XYモード(えっくすわいもーど)

ほとんどのアナログオシロスコープに備わっていた機能の1つ。デジタルオシロスコープでもマニュアルに「時間軸 Y-T モードをX-Y モードに変えると,リサジュー図形が表示される」などの記述がうかがえる。オシロスコープは通常は時間変化を観測するが、2つの信号の位相差を測定したい(波形表示させたい)ときに使われる。通常、水平軸にはオシロスコープ内部の信号を時間軸信号として使っているが、XYモードでは位相差を観測したい2つ目の信号を水平軸に入力できる。時間観測以外のオシロスコープの測定手法の1つである。 テクトロニクスの冊子「オシロスコープのすべて」(2017年4月発行)には「XYモード:1つの入力信号を垂直軸システムに、もう1つの入力信号を水平軸システムに入力し、2つの電圧をX軸、Y軸の両方に表示させる測定方法」とある。 参考用語:リサジュー、オービット 参考記事:デジタルオシロスコープの基礎と概要 (第1回)・・冒頭の歴史の箇所で、アナログオシロスコープがCRT(ブラウン管)に垂直偏向電圧と水平偏向電圧をかけることで描画する構造であることが示されている。

エッジ(えっじ)

(edge) エッジには多くの意味がある。端(はじ)。きわ。ふち。へり。図形の辺(線分)。先端的。表記は「エッヂ」もあるが、筆者は「エッジ」が多いと感じる。 1. 計測器では、デジタル信号が立ち上がる(または立ち下がる)、波形のスロープのこと。オシロスコープの基本機能であるトリガで、一番使用頻度が高いのはエッジトリガである。フルーク(フルーク・キャリブレーション)はマルチプロダクト校正器の「オシロスコープ校正用の出力信号」のことをエッジと呼称している。デジタル信号の電圧がlow(0、ゼロ)からhigh(1)レベルへ遷移することを立ち上がりエッジというが、オシロスコープの周波数帯域の確認(校正)のためには、校正用の信号の立ち上がり時間が短い(立ち上がりが速い)ことが重要であるため、同社は校正用の信号をエッジと呼んでいると思われる(以下の参考記事が詳しい)。 論理回路の設計用言語(プログラム)では、立ち上がりエッジをposedge(ポスエッジ)、立ち下がりエッジをnegedge(ネグエッジ)と呼んでいる。pos negは「正負」を意味する接頭辞として使われている。Rhの血液型が「陽性」、「+」だとpositiveを略記してPOS、「陰性」、「-」はnegativeでNEGとなる。 デジタル無線通信の計測器で使われる規格(方式)名称にEDGE(読み方:エッジ)がある。カタカナのエッジではなくEDGEだと、2G(携帯電話の第2世代移動通信システム)で使われるデータ通信規を指す(Enhanced Data Rates for GSM Evolution)。GSMは世界で最も利用されているデジタル携帯電話の通信方式。欧米や、日本/韓国以外のアジアで100以上の国と地域で利用されているため、事実上の世界標準といえる。EDGEは「GSMの後継方式で、GSM384、UWC-136とも呼称される」ので、3Gである。日本ではNTTが2001年に世界初の3G(W-CDMA)を運用開始したが、EDGEはそれと同じ位置づけの欧米(や中国など)の規格である。欧米と日本では3Gまでの携帯電話の規格が異なり、3Gへの移行も同じではないので、素人が正確に理解することは難しい。 2. ITや通信業界では、クラウドとの対比でエッジが使われる。クラウドはネットワークの基幹部分(コアネットワーク)に相当し、ネットワークにつながる多くの端末に近い箇所をエッジ(ネットワークの端、ふち、という意味)と呼ぶ。IoT(モノのインターネット)は多くの端末(エッジデバイス)がネットワークにつながることである。計測器メーカもエッジデバイスをつくっている(以下の渡辺電機工業の記事が詳しい)。最近ではエッジAIやエッジコンピューティングということばもある。Microsoft Edge(マイクロソフト エッジ)といえば、インターネットで検索するときに使うウェブブラウザ(PCや携帯電話をWebサーバに接続するためのソフトウェア)で、Google Chrome(クローム)やInternet Explorer(IE)と共に有名である(「エッジ」をブラウザで検索すると上位にMicrosoft Edgeが表示される)。 DCSなどの工業計器のトップベンダである横河電機には多くの製品群があり、レコーダ(メモリレコーダなどの計測器のレコーダではなく、計装用の温度などのセンサの役目をするデータ集録機器)やプログラマブルコントローラ(PLC)、小規模計装機器(温調計、信号変換器、電力モニタなど)などの製品群をエッジソリューション統括部にまとめて、「エッジプロダクトニュース」と題したDMを2021年5月から配信している。初回配信では、“エッジ製品に特化したお役立ち情報を届けるため、従来の「ITプロダクトニュース」を「エッジプロダクトニュース」にリニューアルした”、と冒頭に述べている。前述の渡辺電機工業は横河電機と同じ計装の機器をつくっているが、信号変換器は(エッジデバイスではなく)センサーデバイスと表現している(以下の記事参照)。エッジが示す製品の範疇(エッジデバイス、エッジプロダクトなど)はメーカによって異なるので、あくまでエッジとは概念であり、具体的な製品は各メーカの解釈に任されている。とにかく、ネットワークの進歩に伴って、ITだけでなく計装の世界でもエッジが流行りである。 一般には、エッジは「先端的、尖っている」という意味で使われている。「エッジが効いている」とは「切り口が鋭い」、「際立っている」、「気が利いている」という、秀でていることの褒めことばである。ファッション業界で使われ、一般に広がったといわれる。TechEyesOnlineも、ここでしか知ることができないオンリーワンのコンテンツを満載した、「エッジの効いた、尖がった(とんがった)専門サイト」を目指している。

エッジトリガ(えっじとりが)

(edge trigger) オシロスコープ(オシロ)のトリガの種類(トリガタイプ)で最も基本的な(1番目の)トリガ。対象とする測定信号(トリガソース)の波形の傾き(信号が増減するスロープ)に着目して、電圧が何V(ボルト)になったら(トリガレベル)、トリガをかけるのか(画面に波形を表示するのか)、を条件にする。信号の値(電圧値)が増加しているときと、減少しているときの2通りの状態(波形が傾いているスロープ)で設定ができる。このスロープは信号がH(ハイ)やL(ロー)の一定な電圧値で安定している状態ではなく、HとLが遷移する信号波形(パルス)の端(はじ)の短時間の箇所なので、エッジ(edge)と呼ばれる。「エッジの電圧値(トリガレベル)を指定してトリガ点(トリガのタイミング)とする」ため、エッジトリガと呼ばれる。 1950年頃にオシロにトリガ機能が開発され、連続した信号以外の単発現象などを安定して表示して、波形観測ができるようになった。そのときからエッジトリガは使われている。つまりトリガといえばエッジトリガである(当時はエッジトリガ以外のトリガタイプがなかったのでこのことばは後に生まれたと推測される)。当時はアナログオシロスコープしかなかったので、電圧の値というアナログ的な特長を捉えて、水平掃引を同期して波形表示を開始した。現在のデジタルオシロスコープはトリガに無関係にメモリにデジタルデータを蓄積しているので、トリガはメモリのデータを画面に表示するきっかけで、トリガ以前の波形(プリトリガ)の表示も容易である。またロジックデータを比較してトリガをかけるなど多彩な種類のトリガを装備している。 電子機器の試作品が完成したときに、設計した仕様通りに電子回路が動作しているか確認する(デバッグ)さい、エッジトリガを使って検証することは、オシロの基本的な使い方の初歩である。

FETプローブ(えふいーてぃーぷろーぶ)

(FET probe) 主にオシロスコープ (オシロ)と併用されるアクセサリ。入力容量が小さいため高い周波数を測定できる電圧プローブ。別名:アクティブプローブ、能動プローブ。通常はオシロスコープにはチャンネル数分のパッシブプローブ(受動プローブ)が標準添付されていることが多い。FETプローブのようなアクティブプローブはオシロの性能を確認して使わないと性能が発揮できないので注意が必要(オシロとプローブの性能があっていないといけない)。オシロ本体によっては電源が必要となったり、使用できるオシロスコープ本体が限られたりする。FETは電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor)で、FETを使用したプローブである。

MSO(えむえすおー)

( Mixed Signal Oscilloscope) 現在の汎用オシロスコープ(オシロ)の代表的な機種群。従来オシロはアナログ信号を観測するものだが、I2Cなどの低速デジタル信号も観測できるデジタル入力付きが、ミドルレンジクラス以上では主流になった。MSOとはアナログとデジタルの両方の信号を観測できるという意味。古くはキーサイト・テクノロジーが自社オシロの特徴の1つとしてデジタル入力がオプションなどでできることを「ミックスド・シグナル」という表現をしていたが、このコンセプトをMSOというオシロの1つのカテゴリーとして確立したのはテクトロニクス。現在はオシロのモデル番号(形名・型式)やモデル名(品名・名称)に普通に使われている。たとえばテクトロニクスの「MSO3034 ミックスド・シグナル・オシロスコープ」など。横河計測の最新オシロDLM3000シリーズの品名は「ミックスドシグナルオシロスコープ」である(2020年7月現在。従来の形名「DL」を「DLM」にして、MSOであることをアピールする形名にした。)。

MDO(えむでぃーおー)

(Mixed Domain Oscilloscope) スペクトラムアナライザのオプションを持つオシロスコープ(オシロ)のこと。MSO(ミックスド・シグナル・オシロ)に倣って周波数軸(ドメイン)もあるというネーミング。テクトロニクスがオシロの形名にはじめて使用し、MDO4000Cシリーズ、3シリーズMDOなど、ミドルクラスのモデル名にはMSOかMDOを形名に使っている(2023年7月現在)。中華系オシロスコープメーカのGood Will Instrument(グッドウィル)もオシロの形名に使っているが(MDO-2000Eシリーズ)、それ以外のメーカでは見かけない(2023/7月現在)。Mixed Domainというフレーズには筆者は多少、違和感を覚えるが、テクトロニクス、Good Will以外のメーカもそうなのかもしれない。 最近のオシロは高機能化している。信号発生器などオシロ以外の測定器のオプションを揃えるモデルもある。MDOは多機能化を象徴する形名といえる。2023年1月に当サイトが実施したアンケート調査で、「オシロで使っている他の計測器の機能は?」という質問に、スペアナという回答は14%だった。つまりMDO機能の使用率は低いといえる。 みんなの投票 第2弾 オシロスコープの使用状況&主要メーカ比較記事[投票結果] (Question 7 で「オシロ以外の機能」を質問) ADコンバータを従来の8ビットから12ビットにした高分解能オシロスコープが2010年代には増えたが、これは高機能化というより、従来から測定できていた電圧の値が、実は安価なDMMよりも精度が悪かったのを改善した、ということである。なので、DMMの機能を取り込んだ高機能化という解釈もあるようだが、筆者はそうは思わない。 1945年に創業し、翌年にはトリガ式オシロスコープを商品化したテクトロニクスは、長らく世界No.1のオシロメーカで、現在もトップである。同社はTDS、DPO、MSO、MDOなど、新しい機能のオシロのモデル名・品名を作ってきた。MSOという形名を使ったのはテクトロニクスが最初だが、ミッスド・シグナルというワードはキーサイト・テクノロジーが1990年頃から使っていたワードである。

エリアシング(えりあしんぐ)

(aliasing) アナログ値(連続した信号)である物理現象を測定した後で、コンピュータ処理に適したデジタル値(離散データ)にする手法にサンプリング(標本化)があり、計測器を含む多くのデジタル電子機器で使われている。サンプリング周波数(fs)(※)は測定する信号の周波数(fm)の2倍以上である必要がある(サンプリング定理)。つまりfs>fm x 2(fsはfmの2倍以上)。fs/2(サンプリング周波数の1/2の周波数)よりも高い周波数成分は周波数fs/2を中心にして、低周波側に折り返したように見える。この現象をエリアシングという。エリアシングは「折り返し雑音(folding noise)」や「エリアシングノイズ」とも呼ばれる(表記は「エイリアシング」もある)。つまりサンプリング周波数が低いと、ノイズによって正確な結果が得られない(サンプリングで得られたデータは正しくない)。 サンプリングとは連続して変化している値を一定間隔(時間)で間引いて、デジタルデータをつくること。間引く間隔が長い(ゆっくりした間隔でサンプリングする=サンプリング周波数が低い)と、急な変化には対応できないので、できたデジタルデータは不正確で、元のアナログデータ(測定信号)を正確に反映できない。元の信号が急な変化をしているのは高い周波数成分を含んでいるからで、その周波数の2倍の周波数でサンプリングする、という目安がサンプリング定理である。 エリアシングはFFTアナライザなどのFFT解析で使われる用語だが、オシロスコープ(もちろんデジタルオシロスコープ)の使い方として、測定したい信号の周波数成分からエリアシングを考慮してサンプリングレートを設定することがあげられる。エリアシングを防止するには、fs/2の周波数以上をカットするLPF(Low Pass Filter、低域通過フィルタ)を使用する。 そのため、このLPFをアンチエリアシング・フィルタという(LPFについては用語「フィルタ」に図解がある)。fs/2は「ナイキスト周波数」と呼ばれる。 実際の測定信号にはどれだけ高い周波数成分が含まれているかわからない。そこでLPFによって高い周波数をカットすれば、最大周波数からサンプリング周波数を決められるのでエリアシングを防止できる、ということである。 (※)周波数は英語のfrequencyから「f」で略記される。何の周波数かを区別するためfの後に略記を続ける。サンプリング周波数は、英語samplingのsをとって「fs」と表記している(あくまで一例であり、必ずfsでないといけないというわけではない)。数学(物理)では、このような表記を良く使う。fsでなくてf(s)でも良さそうだが、f(s)と書かれたら「sという物理量によって変化するfという物理量」という意味で、関数を表記する書き方、と数学上の決まり事になっている。f(s)のsは関数fの引数(いんすう)と呼ばれる。

LVDS(えるぶいでぃーえす)

(Low Voltage Differential Signaling) 翻訳すると「低電圧差動伝送」。漢字の日本語よりLVDSという表現のほうがよく使われる。短距離のデジタル伝送技術。省エネ型のシリアル通信。低消費電力で比較的高速なインタフェースである。 1994年にANSI/TIA/EIA-644として標準規格となり、コンピュータ関連から採用が始まった。 LVDSは現在流行りのシリアル通信の基礎的な技術で、他の高速規格にも参考にされている。そのためシリアル通信の歴史を切り開いたといわれる。

エンベロープ(えんべろーぷ)

(Envelope) 電気の用語としては「包絡線」のこと。信号の最大値と最小値(つまりピーク、頂点同士)を結んだ曲線。エンベロープ は信号処理などに活用される。テクトロニクスの冊子「オシロスコープのすべて」(2017年4月発行)では「多数の表示波形から得られた、信号の最大値と最小値が描く波形」と解説されている。 参考用語:包絡線検波器・・「包絡線」の図解がある。

O/E変換器(おーいーへんかんき)

(Optical signal / Electrical signal converter) 光信号を電気信号に変換する機器。別名:O/Eコンバータ。逆の変換をするのがE/O変換器である。光ファイバ通信システムは電気信号を光信号に変換して光ファイバ内を伝送する。信号の送信部にはE/O変換器があり、受信部にはO/E変換器がある。 計測器としてのO/E変換器やE/O変換器は、アンリツや安藤電気がつくった。光信号をオシロスコープで観測するための光プローブもO/E変換器といえる。 1970~1980年代に電電公社(現NTT)が日本の基幹通信網に光通信を導入する際、電電ファミリーのアンリツと安藤電気は多くの光測定器(光通信用の計測器)を開発した。O/EとE/Oもラインアップしたが、通信網が完備された2000年代以降は2社とも従来のO/EやE/Oは生産終了している。 アンリツは光電融合デバイスをネットワークアナライザで評価するソリューション(Opto-Electric Netwerk Analyzer ME7848A)を提案している。MN4775A(110G E/O)とMN4765B(110G O/E)を使い、光信号を電気に変換してME7838AX(VNA)で測定を行う。そのために高速のO/EとE/Oをラインアップしている(2023年11月のマイクロウェーブ展に出展)。 同じ光電融合の評価でもキーサイト・テクノロジーは偏波シンセサイザなどの光測定器で偏波依存性損失(PDL)を測定して評価するので、O/EやE/Oは使わない。このように、電気の測定器で光信号を評価する際に、併用計測器としてO/EやE/Oが使用される。

オーバーシュート(おーばーしゅーと)

オシロスコープで矩形波(方形波)を観測すると、立ち上がりの部分において、波形が定常値となる基線を超過する現象のこと。または、それによって突出した波形の部分のこと。下図の○で示した部分。立ち下りで起こる同じ現象をアンダーシュートと呼ぶ。参考用語:立ち上がり時間

オービット(おーびっと)

(Orbit) 2つの信号を直交するx軸・y軸上で合成した図形をオービットまたはリサジューといい、2信号の振幅、周波数比、位相差の組合せによって視覚的な特長を示す。周波数比が整数のときには描かれる図形の軌跡は一定の周期で元に戻る。(小野測器の「FFT解析に関する基礎用語集」より) 参考記事: FFTアナライザの基礎と概要 (第1回) デジタルオシロスコープの基礎と概要 (第1回)

オシロ(おしろ)

電気信号(電圧や電流)の時間的な推移(変化のグラフ、波形と呼ばれる)を観測して表示するオシロスコープ(oscilloscope)の略称。電気計測器のカテゴリー(機種群)の中で最も販売額が大きい(他のカテゴリーに比べて突出してNo.1)。周波数帯域100MHz程度(エントリークラス)から、1GHz程度(ミドルクラス)のオシロは、電気技術者が1台/人保有しているといわれるくらい普及している(電気エンジニアの普段使いのオシロ、という表現をされる)。 1960年代頃まではオッシロという呼称もされていたが、現在は「オシロ」のみが略称として使われている。 計測器は関係者の間では略称で呼ばれることが多い。他にはスペクトラムアナライザをスペアナ、ネットワークアナライザをネットアナ、プロトコルナライザをプロアナと呼称する。また、スペアナはSA、ネットアナはNA、信号発生器(Signal Generator)はSG、ファンクションジェネレータ(Function Generator)はFGなどの略記が頻繁に使われるが、オシロはOSなどの略記をされることはない。そのかわり、デジタルストレージオシロスコープ(Digital Storage Oscilloscope)の略記「DSO」 やミックスドシグナルオシロスコープ(Mixed Signal Oscilloscope)の略記「MSO」などは大変よく使われる表記である。 絶縁抵抗計をメガーと呼ぶのは、別名である。

オシログラフィックレコーダ(おしろぐらふぃっくれこーだ)

横河電機(現横河計測)のOR1400やORM1300などの品名。 オシロスコープが半導体メモリを備えサンプリングによるデジタル式(デジタルオシロスコープ)になったように、アナログのメータで表示していたレコーダもデジタル式のメモリレコーダとなった。記録計の主流がメモリレコーダになっていく1980年代~1990年代に、計測用レコーダの老舗である同社がデジタル式のレコーダとして世に問うた製品群だった。現在の横河計測にはこの品名の製品は無いが、DL708からDL950、DL350へと続くスコープコーダ(同社のオシロの通称である「DL」を冠したレコーダ。同社オシロの形名はDL1600やDLM3000のように数字4桁だが、レコーダであるスコープコーダは数字3桁)にそのDNAは継承している。 日置電機のメモリハイコーダや、三栄測器(旧NECアビオニクス、現エー・アンド・デイの工業計測機器部門)のオムニエースのように、横河計測のメモリレコーダの1種である。OR1400は2001年4月1日に販売終了し、後継機種はDL950やDL350(2021年3月現在)。 ORM1200/1300の製品カタログの表紙には「高速ユニバーサルレコーダ」と記載されている。カタログには「ORMシリーズは高速ユニバーサルレコーダの最新の進歩である。複数の絶縁アナログチャネルを装備し、ロジックチャネルもオプションで追加できる」旨が記載されていた。 オシログラフィックレコーダと同時期に発売されていたAR(アナライジングレコーダ)の正式な後継がスコープコーダである(参考記事を参照)。オシログラフィックレコーダもARも「レコーダのようなオシロ」という位置づけで登場したが、両者の正確な違いは、今ではわからない。オシログラフックレコーダの設計コンセプトを知ることができるような文献はほとんどない(国立国会図書館によれば、所蔵の1992発行の横河技報36(2) 85~88ページにはOR2300の解説がある)。

オシロスコープ(おしろすこーぷ)

(oscilloscope) 電気信号の波形を映し出し、電圧の時間変化を観測する測定器。電気計測器の代表機種群で、日本だけでなく全世界で最も市場規模(生産額・販売額)が大きい機種群の1つ。デジタルオシロスコープとアナログオシロスコープがあるが、現在はほぼデジタル。略称:オシロ。 デジタルオシロスコープは1980年代に登場し、2000年代以降に主流になった。測定できる周波数の上限(周波数帯域)はMHzからGHzに伸びた。2000年代初頭は周波数帯域4GHzが最高機種だったが、2005年に、情報家電分野の高速デジタル市場向けに6GHzの広帯域モデル(キーサイト・テクノロジーの54855A)が発売されて以降、オシロ3メーカ(テクトロニクス、キーサイト、レクロイ)による上位モデル競争が続き、2018年には110GHzモデル(約1億円/台)が発売されている。これら広帯域オシロスコープは便宜的に高速オシロと呼ばれ、従来のオシロとは区別されている。約2~4GHzで区分され(メーカによって異なる)、従来オシロは便宜的に汎用オシロと呼ぶ(メーカはこの呼び方はしていない、広帯域オシロと区別するための便宜的な呼び方である)。 デジタルオシロのA/Dコンバータ(ADC)は長らく8ビットだったが、2012年に高分解能の10ビットモデルが発売され、2018年以降は汎用オシロの高分解能機種が1つのトレンドになりつつある。たとえばテクトロニクスは1GHz帯域の高性能モデル(4シリーズMSO、5シリーズMSO、200MHz~2GHzをカバー)と、広帯域モデルの5シリーズMSO(高速デジタル回路の評価用、1GHz~10GHzをカバー)(※)は分解能が標準で12ビットである。 当初は自動車などのパワーエレクトロニク分野向けに「時間波形だけでなく電圧も精度良く測定する」需要に応えて登場した高分解能モデルだが、周波数がGHz帯域の信号は、ダイナミックレンジが広い高分解能モデルで電圧値を測定しておくことが多くなってきている。高分解能モデルの登場によって、オシロは波形の観測器(scope)から(時間と電圧が正確に測定できる)測定器(meter/tester)にやっと進化したが、電圧値をDMM並みの精度で測定することがオシロの常識になったのかもしれない。 オシロスコープのことばの由来は、「オシロスコープのすべて(2017年テクトロニクス発行の冊子)」に「オシレート(発振)が語源で、発振電圧を測定するところから」とある。 発振(Oscillation)の観測器(Scope)という造語といえる。 (※)オシロを用途別に分類し、一般的な回路基板評価用途(~2GHzまで)を1G帯域のモデル、広帯域モデルの中で1GHz~10GHzに対応したモデルを高速デジタル回路の評価用と称している。以下の表1が詳しい。 参考記事:オシロスコープの動向と、最新1GHz帯域モデルの各社比較

オッシロ(おっしろ)

オシロスコープや電磁オシログラフ(アナログオシロスコープ以前の1920年頃から使われていた波形測定器で、レコーダの1種)に「オシロ」という表記があるが、オシロではなく「オッシロ」という表現(表記)が1960年頃は一般的だった。1964年9月に創刊されたエレクトロニクスの月刊誌「トランジスタ技術」10月号にはラジコン(※)の記事がある。トランジスタの採用によってラジコン装置がオーディオトーン式になった。オーディオトーン信号をアナログオシロスコープで測定した画像が掲載されている。その画像のキャプションは「オーディオトーンの波形をオッシロで見る」と書いてある。当時はオシロスコープのことをオッシロスコープと呼称していたことがわかる。 同じ号に、岩崎通信機から発売された新製品のアナログオシロスコープSS-3101の紹介記事を岩崎通信機の技術者が書いている。同社の当時のオシロスコープは「シンクロスコープ」と呼ばれ、記事には一言も「オシロスコープ」ということばが使われていないので、同社が他社の製品をオッシロスコープと呼んでいたかはかわらない。 同号のニュースページのEquipmentsコーナに、タイトル「オシロ用直流増幅器」で、三栄測器のDA-842/DA-422が紹介されている。説明文には「インク書きオシログラフ、電磁オシログラフまたはビジグラフと組み合わせて使う」とある。表現はオッシログラフではなく現在と同じオシログラフである。 1960年代にはオッシロとオシロが混在して使用されていたと推測される。1924年にYEW(株式会社横河電機製作所、現在の横河電機)は、逓信省電気試験所(当時)から国産化の要請を受け、「3要素型N-3」を開発したが、その名称は「携帯用電磁型オッシログラフ」といい、オシログラフではなくオッシログラフである。1920年当時はオシロではなくオッシロと呼称していたのかもしれない。オッシロスコープがいつ頃からオシロスコープに統一されたかは不明である。 そのほかの使用例としては、1967年に「自作できる測定器―バルボルからオッシロまで」が誠文堂新光社から刊行されている。 (※)ラジコンとはラジオコントロール(Radio Control)の略称で、R/Cなどと略記される。無線機を使って模型飛行機を操作し、離着陸や飛行を楽しむ趣味。ラジコン飛行機やラジコン操縦器ということばがある。日本では1950年頃から模型愛好家の間で普及した。トランジスタなどの半導体の進歩、普及によって操縦器は小型化、高性能化した。アマチュア無線ほどの専門知識がなくても楽しめるので、子供から大人まで(特に男性)、愛好家が多かった。1960年代のTVアニメの草分けである鉄人28号は少年が操縦器を操作して、電波を使って巨大なロボット(鉄人28号)を操り、悪人を懲らしめるというストーリーで、男子の子供たちに人気だった。アニメに登場する操縦器はラジコン操縦器を連想させる。つまり当時のラジコンは最先端のハイテクを楽しむ趣味である。

オフセット(おふせっと)

(offset) オシロスコープで、入力信号の直流成分をキャンセルする機能。DC成分が重畳した波形を測定する場合に、DC成分をキャンセルして波形を拡大する(V/divを上げる)ことができる。ただし、調整できる電圧範囲は限られていて、信号に比べてDC成分が非常に大きい場合はキャンセルしきれない。その場合は入力カップリングをACに設定すれば解決する。反対にACカップリングの弱点は低周波である。ACカップリングは微分回路 として働くため、低い周波数では波形が歪む(波形への影響が大きい)。また、位相もずれる(※)。DC成分のキャンセルにはオフセットとACカップリングの使い分けが必要だが、2つとも長短があり万能ではない。 (※) 電子部品のコンデンサやコイル(リアクタンスのキャパシタやインダクタ)に交流信号を印加すると、電圧と電流には約90°の位相差がある。 offsetは日本語では「偏り」。DC電圧を加えて電圧値に下駄を履かせて高くするのが重畳で、下駄のことをバイアス(bisa、これも意味は「偏り」)という。バイアスをなくすことを(同じ「偏り」である)offsetと呼んでいる。日本語にすると同じ「偏り」だが、オフセットとバイアスは対になっている逆のことばといえる。 オシロスコープ以外でも、周波数オフセットや低オフセット、などのことばが計測器の品名に使われている(以下の計測器情報を参照)。 おなじく「偏り」を示す英語に、deviation(偏差、逸脱、偏斜)とpolarization(分極、偏光)がある。「FM変調のデビエーション」というと、音声を入力した時の周波数の変動範囲のことで、deviationは無線通信の用語。frequency deviationは「周波数偏移」と訳され、周波数変調における周波数変化の幅を示す。FM変調は、変調信号に対応して搬送周波数が変化している。 polarization(分極)は、電界や磁界内に置かれた物質に正・負の電荷が現れたり(電気分極)、磁極を生じたりする(磁化)現象。光は電磁波の1種なので偏波である。これを偏光と呼ぶが、英語はpolarizationである。光通信に使われる光信号を特定の偏光状態にするフィルタであるpolarizer(ポラライザ)は偏光子と呼ばれる。光デバイスの評価指標であるPDL(polarization dependent loss、偏波依存性損失)を測定する偏波コントローラ、偏波スクランブラなどの光測定器がある。 このように、英語の「偏り」を意味することばは、複数の英単語が計測器に関係している。

カーソル(かーそる)

オシロスコープやスペクトラムアナライザなどの波形表示で、波形の数値を表示する機能。縦線や横線が画面に表示され、測定波形と交差する場所の測定値をデジタル表示する。カーソルの位置を手動で動かして、測定値を読み取ることができる。テクトロニクスの冊子「オシロスコープのすべて」(2017年4月発行)では「画面上で波形のピークに合せて正確な測定を行うマーカ」と解説している。カーソルのことをマーカと表現することも多い。一般にオシロスコープは時間測定の精度は高い(時間分解能はサンプリング周期の整数倍で、設定によって高くできる)が、電圧は2~3桁程度である(用語の「分解能」の項目を参照)。オシロスコープはカーソルによって電圧値は5桁程度が表示されるが、有効桁数はそんなに多くないことに注意が必要である。有効桁数が3桁以下の誤差の大きい数値を表示するのは誤解を招かないか?、という疑問があるが、オシロスコープ各社は競うように桁数の多い数値を表示している。

回路負荷(かいろふか)

プローブとオシロスコープがテスト対象の回路と相互作用を起こし、信号に歪みを生じさせること。(テクトロニクス「オシロスコープのすべて」(2017年4月発行)より)

拡大表示(かくだいひょうじ)

オシロスコープで、表示を拡大する機能。ZOOM機能と呼んでいる機種もある。記録した波形データの一部の範囲を指定して拡大表示できる。たとえばテクトロニクスのMDO4000シリーズなど、ZOOMつまみがある機種は、表示される範囲(表示ウインド)をスクロールさせることで、表示位置を変更できる。ベンチトップの汎用オシロとして同社のTDS3000シリーズは10年以上市場に流通したロングセラーだが、この後のモデルとして、薄型大画面の形状で発売されたDPO4000シリーズには横軸の機能として、新しくZOOMつまみが備わった。簡便な操作で、表示が拡大できることは革新的な機能の登場であった。