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オシロスコープのトリガ一覧 ~ いまどきのミドルクラスのトリガ機能

オシロスコープはトリガを使って電子回路の挙動を測定するものです。従来は「波形の観測器」でしたが、今日では「信号の良否判定による検証」、「不具合原因を探るデバッグ」、「通信規格の実波形に合わせてデコード値を表示するバス解析」と、その用途は拡大しました。用途に合わせてトリガ機能も増えました。オシロスコープの進化はトリガの改良や強化といえます。トリガの使い方次第で検証やデバッグの時間は大きく違ってきます。本稿ではミドルクラスの代表的なモデルのトリガ機能を調べ、基本的な順番に整理して図表で概説し、用途や用語解説を添えました。各メーカによって名称が異なるトリガの種類を一覧表にしたので、具体的なトリガ機能の入門書となっています。

トリガとは

triggerは「引き金」のことで、銃を動作させるスイッチなどがあります。転じて「物事が起きる引き金」の意味に使われます。計測器のトリガは「測定などを開始するタイミング」で、レコーダが記録を開始したり、FFTアナライザがサンプリングを始めたりします。オシロスコープのトリガは波形を捉える「きっかけ」を意味します。時間的に変化している信号波形を(見かけ上)止めて、画面に表示するためのタイミングをとる機能がトリガです。トリガには条件(設定)とアクションがあります。デジタルオシロスコープのトリガ設定は「どのような条件で波形を捕捉するか」、アクションは「メモリへの書き込みを停止し、静止した波形を表示する」です。

トリガの意味を正確に伝えるために、オシロスコープの歴史から話します。オシロスコープは発振(oscillation)電圧※1を観測するもの(scope)で、信号波形の測定器として進歩・改良されました。1930年代に強制同期式オシロスコープが開発され、連続する安定した信号の観測ができるようになります※2。1947年にはトリガ掃引式のオシロスコープがテクトロニクスから発売されます※3。トリガ機能は意図したタイミングで水平掃引を同期させ、画面上に安定した波形を表示して、信号の正確な測定を可能にしました。電圧値を設定して単発信号を捕捉することもできます。トリガを設定しないとオシロスコープ画面には何も表示されず、トリガは「掃引の開始点」を意味し、トリガ回路によって輝点は横方向に移動を開始し、管面に波形が描画されます※4。トリガはアナログオシロスコープの標準機能になり、特にトリガ式とはいわれなくなります。

※1

オシロスコープという名称は「オシレート(発振)」が語源で、発振電圧を測定するところからつけられた。(テクトロニクス「オシロスコープのすべて」より)

※2

オシロスコープの歴史は次の記事が詳しい。2018年9月公開 デジタルオシロスコープの基礎と概要 (第1回)

※3

同社の511型が世界初といわれる。国産初のトリガ機能付きオシロスコープは岩崎通信機が1954年にSS-751を開発し、「測定信号に同期(sync)が取れて波形が見やすい」ため、シンクロスコープと称した。

※4

前述の「オシロスコープのすべて」には「トリガ:オシロスコープの水平軸掃引の開始点を決める回路」とある。

1990年頃にA/D変換器で信号をデジタルデータにしてメモリに蓄えるデジタルオシロスコープが登場します※5。このオシロスコープにはアナログオシロスコープと同じ意味の掃引はなく、メモリ内のデータを画面に表示しています。トリガに関係なく信号をA/D変換してメモリに取り込み、メモリが満杯になれば始めから上書きして古いデータを書き換えます。デジタルオシロスコープのトリガは、メモリへの書き込み動作を停止させる引き金で、トリガがかかると指定された条件に従ってメモリのデータが波形として表示されます。アナログオシロスコープではエッジトリガ(後述)のようにアナログ的な特徴でしかトリガできなかったのが、デジタルになって信号データを論理的に識別したり、複数のトリガを組み合わせたりなど、多彩なトリガが装備され、高機能モデルでは標準トリガの選択肢は1400通り以上※6になりました。本稿ではミドルクラス(周波数帯域500MHz~1GHz)に搭載されているトリガ機能を概説します。

※5

次の記事の表3が詳しい。2023年7月公開 計測器の形名・・・第2回 オシロスコープPart1 ~ 形名から仕様がわかる命名

※6

テクトロニクスの入門書「トリガ入門」の「広がるトリガの選択肢」より。

トリガ機能

ミドルクラスのモデル※7に搭載しているトリガ機能を、基本的なものから順番に表1に整理しました。

※7

2023年2月に行った「みんなの投票 第2弾」の「使用したことがある/好きな オシロスコープメーカ」の結果からメーカを、2022年11月公開 「オシロスコープの動向と、最新1GHz帯域モデルの各社比較」の「1GHz帯域 / 4chの普及版オシロスコープ」などを参考にモデルを選んだ。
みんなの投票 第2弾 オシロスコープの使用状況&主要メーカ比較記事[投票結果]
オシロスコープの動向と、最新1GHz帯域モデルの各社比較

表1 ミドルクラスのトリガ機能
No. 種類 各モデルのトリガ名称 説明
1 エッジ エッジ、Edge 任意のチャンネルの信号(トリガソース)の値が、設定した値(トリガレベル)になったタイミングでトリガ。立ち上がり、立ち下がりのエッジをAND、ORなどで設定可能。
2 パルス幅 パルス幅、Pulse Width 信号のパルス幅(時間)を指定し、パルス幅と設定時間の>、<、=、≠、または指定した時間範囲の内外でトリガ。グリッチ検出に使われるため、グリッチトリガとも呼称する。
3 パターン パターン、Pattern、ロジック 複数の信号の状態の組み合わせ(ロジック・パターンなど)が一致したらトリガ。不一致またはパターンの持続時間でトリガも可能。論理回路(AND、ORなど)の動作検証に有効。
4 立ち上がり/ 立ち下がり時間 立ち上がり/立ち下がり時間、立上り/立下り時間、Rise/Fall Time しきい値(上限値/下限値)と、立ち上がり時間(または 立ち下がり時間)を設定し、それより長い(>、More than)、短い(<、Less than)などでトリガ。立ち上がり/立ち下がり時間の検証ができる。
5 ラント ラント、Runt ラントパルスの検出に使う。2つのしきい値(threshold lebel)を設定し、1つ目の値を超えたが2つ目の値に到達せずに、再び1つ目の値になる(横切る)タイミングでトリガ。
6 ビデオ ビデオ、TV ビデオやTVなどの映像の規格信号の捕捉に使用。NTSC、PAL、SECAM、HDTVなど、対応する規格はモデルによって異なる。標準でなくオプションの場合もある。
7 Bトリガ Bトリガ、シーケンス(Bトリガ)、エッジ後のエッジ (Bトリガ)、時間遅延トリガ、イベント遅延トリガ 2 つのトリガを設定するトリガ。通常のトリガ設定(Aトリガ)の後の2番目のトリガ(Bトリガ)がかかり、波形表示する。「シーケンス」や「エッジ後のエッジ」などメーカによって名称が不統一。広帯域オシロスコープでは遅延トリガという呼称も多い。
8 ウィンドウ Window、Window OR、ゾーン、ゾーン修飾 時間範囲と電圧範囲を指定するトリガ。範囲に入る/出る、または範囲内/範囲外の時間幅でトリガ。範囲をWindowやゾーンと呼び、メーカによってトリガ名称は不統一。最近、標準装備が進み、機能も進化している。
9 シリアル シリアル、Serial 各種のシリアル通信(USB、I2C、SPI、CAN、CXPIなど)を捕捉するトリガ。現在のミドルクラスで普及が進んでいるが、モデルによって対応する規格が異なり、オプションの場合もある。
10 タイムアウト タイムアウト、Timeout タイムアウト・イベントの検出に使う。パルスの終端エッジがくる前に、設定時間でトリガがかけられる。
11 セットアップ / ホールド セットアップ/ホールド、セットアップ/ホールド時間 クロックとデータのセットアップ/ホールド時間違反を検出するトリガ。
12 その他 Interval 信号の周期が時間条件を満たしているときにトリガ。
13 第Nエッジ・バースト アイドル時間を指定し、パルスバーストのN番目のエッジでトリガ。

トリガ名称は参考文献 1) 2) 3)から転記。種類の名称と説明はTechEyesOnline編集部作成。

上表のトリガ名称は各モデルのマニュアル※8に記載された表記を転記しています。トリガ名称が違っても同じトリガ機能であるものは1つの種類にまとめています。各マニュアルに記載されている順番を考慮して並べていますから、ミドルクラスのトリガ機能を基本的な順番に示しています。No.1~No.7は対象モデルすべてにあるのでミドルクラスの標準トリガといえます。No.8 ウィンドウとNo.9 シリアルは2000年以降に内容が充実してきた機能です。No.12とNo.13は1モデルにしかないためその他としました。ミドルクラスの代表的なトリガ一覧として俯瞰いただけたら幸いです。個別のモデルの詳細な機能や、具体的な操作方法などは各マニュアルを参照ください。以下に、表1のNo順に各トリガを説明します。

※8

オシロスコープメーカは同一モデル(シリーズ)で多種類の説明資料を作成している(データシート、ユーザーズマニュアル、機能説明書など)。本稿ではそれらを総称してマニュアルと表記する。今回は操作説明ではなく、「トリガの名称と概要説明」が掲載されている資料を探し、それを元に表1を作成した。

1. エッジ

信号の電圧が何Vになったらトリガをかけるかを設定する、最もシンプルなトリガです。設定する電圧値をトリガレベル、トリガレベルの対象にする信号をトリガソースと呼称します。信号の値が増加していく状態を「立ち上がり」、反対に減少していくことを「立ち下がり」と呼びます。値が増加する立ち上がりスロープ※9がトリガレベルを横切るとき(図1の①)と、減少して立ち下がりスロープで横切るとき(➁)がトリガのかかるタイミングです(①や➁をトリガポイントやトリガ点と呼ぶ)。オシロスコープのマニュアルには「任意のソース※10の立ち上がり、立ち下がり、交互、またはいずれかのエッジ※11でトリガ」3)と説明されています。エッジトリガは最も代表的なトリガで、高い頻度で使われます。

※9

(slope) 立ち上がりや立ち下がりの波形は傾斜(勾配)なので、スロープと表現される。

※10

(source) トリガソースのこと。「任意の入力信号をトリガソースにして、スロープを選択してエッジトリガをかけられる」ということ。

※11

(edge) 2進数(1、0)は、デジタル回路ではH(High)とL(Low)の 2 つの電圧値(レベル)のパルス列で表される。信号が一定値のH(やL)から遷移するときはパルス幅に比べて短時間で、「波形の端(はじ)や、ふち」のため、立ち上がり(立ち下がり)をエッジ(edge)と呼ぶ。

図1 エッジトリガ

図1 エッジトリガ

トリガにはエッジトリガのようなトリガの種類(具体的にトリガをかける機能)以外に、トリガモードトリガホールドオフ などの機能があります。トリガカップリング はDC、AC、HF除去※12、LF除去が選択でき、HF除去をONにすると高周波を除去するので、波形表示が安定する場合があります。

※12

HF除去はHigh Frequency-Rejectを略してHF-REJなどの表記がされる。

2. パルス幅

パルス幅(時間)を指定し、測定信号のパルス幅と設定時間(T)の関係(>、<、=、≠、または指定した時間範囲の内外)でトリガをかけます。図2の①は「<」(設定時間より短い)で、「正のパルスに対してT<10ns」と設定した例です。➁は「>」(設定時間より長い)、「正のパルス、T>10ns」、➂は「<>」(設定時間の範囲内)、「正のパルス、10ns<T<15ns」の例になります。

図2 パルス幅トリガの例

図2 パルス幅トリガの例

横河計測のDLM3000では時間設定(Time Qualification)をMore than、Less thanなどの表現をしています(表2)。キーサイト・テクノロジーのInfiniiVision 3000G Xはオシロスコープの仕様(周波数帯域)による時間設定範囲を表3のように規定しています。

表2 条件の名称例(横河計測 DLM3000)
条件の名称 トリガソースのパルス幅(t)と設定する判定時間(Time/Time1/Time2)の関係
More than パルス幅(t) が判定時間(Time) より長いときトリガ
Less than パルス幅(t) が判定時間(Time) より短いときトリガ
Inside パルス幅(t) が2 つの判定時間のうちTime1 より長くTime2 より短いときトリガ
Outside パルス幅(t) が2 つの判定時間のうちTime1 より短いかまたはTime2 より長いときトリガ
Timeout パルス幅(t) が判定時間(Time) より長くなったときトリガ
表3 時間設定範囲の例(キーサイト・テクノロジー InfiniiVision 3000G X)
最小持続時間設定 2ns(500MHz、1GHz)、4ns(350 MHz)、6ns(200MHz)、10ns(100MHz)
最大持続時間設定 10s
レンジ(最小) 10ns

デジタル回路では、髭のような鋭いパルス波形(グリッチ)が時々発生することがあり、この検出にパルス幅トリガは使われるので、各種の技術資料では「グリッチトリガ」とも呼称されています。現在の電子機器は多くのLSIを使い複雑な動作をしていて、パルス幅の変動は誤動作の原因になるため、グリッチを含んだパルス幅の検証は重要です。エッジトリガの次に基本的なトリガといえます。

3. パターン

H(High、ハイ)/L(Low、ロー)の組み合わせを条件にしたトリガです。トリガソースは 2 つ以上の信号を使え、レベルもH/Lだけでなく任意に設定できます。MSO※13ではアナログ信号のH/Lだけでなくロジック入力とパターン比較(AND、OR、NAND、NORなど)も可能です。「パターンが有効なトリガと認識されるには2ns以上安定していることが必要」3)と条件を注記しているモデルもあります。

※13

(Mixed Signal Oscilloscope) 現在のポータブル、ベンチトップのモデルで主流となっているロジック入力ができるオシロスコープ。アナログとロジックの混合信号(ミックスド・シグナル)をカバーする。

図 3 は CH1 と CH2 のパターンを比較して、設定条件に一致したしきい値(threshold level、スレッショルド)のタイミングでトリガがかかる例です。さらに CH3 をクロックソースとして使い、CH3の立ち上がりエッジでトリガするなど、パターントリガはモデルによって多くの組み合わせができます(組み合わせ条件の詳細は各モデルのマニュアルを参照ください)。

図3 パターントリガの例

図3 パターントリガの例

パターントリガはロジックの動作検証や、多くの信号のタイミングを使う複雑なシステムの確認に使われます。ソフトウェアの動作チェックや、複数のデータラインがあるパラレルバスの検証にも有効です。今回調べたモデルではありませんが、条件設定をより複雑にした「ロジック・パターン・トリガ」や「ロジック・ステート・トリガ」があります。信号をデータとしてロジック演算してトリガをかけるなど、豊富な条件設定ができます。

マイクロプロセッサ※14の普及による組み込み機器の開発・検証用に登場したロジックアナライザ※15は、ソフトウェアの動作を追尾するステート測定と、ハードウェア解析のためのタイミング測定(オシロスコープのような時間軸表示)ができました。ともに1980年代から2000年代までデジタル機器開発に必須だったマイクロプロセッサ開発支援装置(フルICE※16)は、いまではJTAG(ジェイタグ)になりましたが、ロジックアナライザはオシロスコープに機能を引き継ぎ、MSOになりました。組み込みエンジニアが重宝するのがパターントリガや後述のシリアルトリガといえます。

※14

(microprocessor) コンピュータのCPU(Central Processing Unit、中央処理装置)などの半導体デバイス。

※15

(logic analyzer) CPUは1980年代に16ビット、32ビットとデータバスが増え、128~256チャンネルのH/L状態を1台で解析できる計測器としてロジックアナライザが登場する。製品概要は次のコラムが詳しい。2019年11月公開 アナライザあれこれ 第2回「ロジックアナライザ」

※16

(Full In Circuit Emulator)簡易エミュレータをJTAG(Joint Test Action Group)と呼称する。

4. 立ち上がり/立ち下がり時間

立ち上がり時間(rise time、rising edge time)または立ち下がり時間を条件にしたトリガです。しきい値(High level/Low level※17)と、立ち上がり時間(または立ち下がり時間)を設定し、それより長い(>、More than)、短い(<、Less than)などでトリガをかけます。

※17

メーカやモデルによってはUpper Level/Lower Levelと表現している。

図4 しきい値と立ち上がり/立ち下がり時間

図4 しきい値と立ち上がり/立ち下がり時間

図5は「トリガソース(CH1)の立ち上がり時間(t)が設定時間(Time)より短い」場合の例です。

図5 立ち上がり/立ち下がり時間トリガの例

図5 立ち上がり/立ち下がり時間トリガの例

マニュアルの記述を2例、紹介します。
「指定したパルス・エッジ・レート※18よりも速いまたは遅い場合にトリガ。スロープは立上り※19、立下り、またはそのいずれか、時間は4.0ns~8sの範囲で設定可能」1) 「ユーザ選択可能なしきい値に基づく立ち上がり時間または立ち下がり時間エッジ速度違反(<または>)でトリガ」3)

※18

(pluse edge rate)「立ち上がり(または立ち下がり)時間」のこと。メーカによってはさらに略して、単に「エッジ」と表現している場合もある。

※19

メーカによって「立上り」や「立ち上り」などの表記があるが、本稿では「立ち上がり」とした。

時間設定の範囲を周波数帯域別に規定しているモデルもあります(表4)。

表4 時間設定範囲の例(InfiniiVision 3000G X)
最小値 1ns(500MHz、1GHz)、2ns(350 MHz)、3ns(200MHz)、5ns(100MHz)
最大値 11s

5. ラント

パルス列の中でHの値まで立ち上らずにLレベルに落ちてしまうものをラントパルスと呼び、ラントトリガはラントパルスを捕捉します(runt:小人、ちび)。ラントパルスは、デジタル回路で1ビット情報を保持しているラッチ回路(フリップフロップ)の動作状態などによって発生します。前述のグリッチはパルス幅(時間)が規定に足りない短いパルスですが、ラントはレベル(電圧の高さ)が足りないために正常なパルスと認識されない(状態が遷移したことにならない)ことを意味します。ラントもグリッチ同様に誤動作の原因になりますが、一般に発生頻度は低く、しかも発生は不定期です。ごく稀にしか発生しないグリッチやラントを捉えて、原因を究明し対策することで商品(電子機器)の品質は向上します。

マニュアルの説明は、「ハイレベルしきい値を超えない正のラントパルスでトリガ。ローレベルしきい値を超えない負のラントパルスでトリガ。2つのしきい値設定に基づいて両方の極性のラントパルスでトリガ。ラントトリガは時間指定が可能(<または>)、最小時間設定は2~10ns、最大時間設定は10s」 3)。図6は正と負のラントパルスが、ラントパルスであることが認識されたタイミングでトリガがかかっています。図7は時間設定をしている例です。

図6 ラントトリガ

図6 ラントトリガ

図7 時間設定したラントトリガの例

図7 時間設定したラントトリガの例

6. ビデオ

映像の伝送信号(ビデオ信号)や放送規格(TV信号)を捉えるためのトリガです。アナログ放送のNTSC、PALから最近のHDTVまで各種の規格があります(モデルによって対応する規格が異なる)。地上波デジタル放送※20以前のアナログ時代には、TVのカラー信号などは波形モニタ(映像信号専用の波形観測器)で測定しましたが、オシロスコープでも簡便に波形測定できるように、多くのモデルで主要な放送規格に対応したトリガが用意されていました。現在もビデオトリガは標準のことが多いようです。

※20

略称:地デジ。放送局の設備は2001~2003年にデジタル化され、各ユーザの受信機器(TVなど)の普及も2011年7月までに完了した。

7. Bトリガ

2つのトリガを設定するトリガです。検出したい現象をイベントと呼びます。2つのトリガを設定する場合、1番目のトリガをAトリガ、2番目をBトリガといい、AトリガはイベントA(またはAイベントと呼称)を検出するトリガです。図8はCH1をトリガソースとした立ち上がりエッジ(イベントA)でAトリガが設定されています。イベントAではトリガは発動せず、この後にCH2の立ち上がりエッジ(イベントB)でBトリガがかかり、波形を表示します。2番目のトリガがかかるため「Bトリガ」と呼ばれますが、各社によってトリガ名称が異なります。

図8 Bトリガの例

図8 Bトリガの例

トリガ機能としてのBトリガは、トリガを複数の条件でかける、またはあらかじめ決められた一連の順番(シーケンス)でトリガがかかる、といえます。テクトロニクスの3シリーズMDOでは「連続イベントのトリガ:AとBのトリガ・イベントを使用して、最初のイベントの後に2つめのイベントをトリガする(「印刷可能ヘルプ」より)」や「シーケンス(Bトリガ):Aトリガ後のBイベントの回数、またはイベント数でトリガ。時間遅延トリガ(9.2ns~8s)※21またはイベント遅延トリガ(1~4,000,000イベント)。」1)と説明されています。キーサイト・テクノロジーのInfiniiVision 3000G Xには「エッジ後のエッジ(Bトリガ)」と題して、「選択されたエッジでアーミングし、指定された時間後、別の選択されたエッジの指定されたカウントでトリガ」3)とあります。「シーケンス」も「エッジ後のエッジ」もかっこ書きでBトリガとなっています※22。Bトリガは2番目のトリガのことですが、Bトリガを活用するトリガ機能は各社で名称が違い、機能の内容も同じとは限らず、平明な説明が容易ではありません。

※21

「遅延トリガ」は「Aトリガがかかった後で、設定された時間遅れ(遅延)後にBトリガがかかり、Bトリガで波形が表示される。初めのトリガ点から時間的に離れた波形を詳細に見たいときに有効。」つまり、遅延目的でBトリガを使うときは「遅延トリガ」と呼ばれる。

※22

横河計測のDLM3000には「B TRIG」ボタンがあり、Bトリガとして「A Delay B:A成立から指定時間経過後、B成立でトリガ」や「A to B(N):A成立後、BがN回成立でトリガ」2)などを設定できる。

テクトロニクスの入門書「トリガ入門」は、主に同社の広帯域オシロスコープ※23を対象にトリガ機能を解説していますが、AイベントとBイベントを使うトリガについて「遅延トリガ」や「A→Bシーケンス・トリガ」と題して説明しています。単純な「Bトリガ」というトリガ名称はなく、より高度なトリガ機能を説明しています。ミドルクラスではBトリガというトリガ名称がいまは妥当と考えますが、今後は機能を進化させて違う名称になるかもしれません。

※23

ミドルクラスより上位のハイエンドモデルを広帯域(または高速)オシロスコープと称する。具体例は記事「オシロスコープの動向と、最新1GHz帯域モデルの各社比較」(前述※7)に記載。

8. ウィンドウ

時間軸と電圧(振幅)軸の平面上に範囲を指定し、信号とその範囲の関係からトリガをかけます。範囲のことをWindowやゾーンと呼び、トリガ名称になっています。「Window:設定した範囲に入る、範囲から出るまたは範囲内、範囲外の時間幅でトリガ」2)、「ゾーン:ディスプレイに描かれたユーザ定義ゾーンでトリガ」3)。テクトロニクスの3シリーズMDOの上位、4シリーズB MSO(1GHz帯域の高機能モデル)のデータシートには「ウィンドウ:ユーザが調整可能な2つのスレッショルドと時間軸によって定義されたウィンドウに、信号が出入りするか、または範囲内/範囲外にとどまるイベントにトリガ。イベントは、時間または他チャンネルの論理状態で設定可能」とあります。

図9 ウィンドウトリガ

図9 ウィンドウトリガ

ウィンドウトリガはデジタルオシロスコープが登場した1980年代からある機能ではなく、タッチパネルの普及によって各社がミドルクラスに搭載するようになったと筆者は感じています。4シリーズB MSOには「ウィンドウ」とは別に「ビジュアル」トリガが、DLM3000には「Window OR」、InfiniiVision 3000G Xには「ゾーン修飾」※24と呼称するトリガがあります。前述のBトリガが進歩して、Bイベントで豊富なトリガ機能が生まれているように、「ウィンドウ」や「ゾーン」も機能を進化させています。ウィンドウトリガ(発展機能を含む)の詳細は各モデルのマニュアルを参照してください。

※24

InfiniiVision 3000T Xのゾーンタッチトリガの設定例が次の記事にある。2018年1月公開 キーサイト・テクノロジーの“見える”オシロ InfiniiVision 3000T Xシリーズ

9. シリアル

各種のシリアル通信(USB、I2C、SPIなど)を捕捉するトリガです。規格の種類によって特徴的なトリガ設定ができ、標準ではなくオプションの場合もあります。RS-232/422/485などの従来からある通信規格から、CAN/CXPI/FlexRay/PSI5 Airbagなどの自動車向け規格まで、各社によってバラエティがあります。シリアルバス解析※25は現在のミドルクラスの大きな特長のため、今後も充実していく傾向です。パラレル通信でトリガをかけられる「パラレル」という名称のトリガを用意しているモデルもあります。

※25

前述の※7 「オシロスコープの動向と、最新1GHz帯域モデルの各社比較」にシリアルバス解析機能の比較表がある。

10. タイムアウト

パルスの終端エッジがくる前に、設定時間に達した時点でトリガをかけます。HやLの状態が、(パルスが終了する以前の)特定時間続くイベントをタイムアウトと呼称しています。図10は立ち上がりと立ち下がりの両方のエッジからで設定した例です。

図10 タイムアウトトリガの例

図10 タイムアウトトリガの例

タイムアウトトリガはエッジ(ソース信号のパルスの終了)を待たずにトリガできることが特長です。2つのシステムがタイミングを連動させている場合、一定時間内にHとLが変更しないことが何回起きるか(タイムアウト・イベントの検出)など、複数システムの信号タイミングの調査に有効です。

11. セットアップ/ホールド

クロックとデータのセットアップ時間とホールド時間の検証に使います。データを読みだすとき、データが有効な値にセットされていることを(データ用の)クロックの状態で判断します。図11ではクロックがHだとdata enable(データが有効)です。データがセットされてから読み出し可能(data enable)になるまでをセットアップ時間、データが保持されている時間をホールド時間と呼びます。データエラーが起こらないように、セットアップ/ホールド時間は設計仕様で規定されます。それが正常か検出するトリガ機能です。

図11 セットアップ/ホールド時間

図11 セットアップ/ホールド時間

マニュアルには「クロックとデータのセットアップ/ホールド時間違反でトリガ。セットアップ時間は-7~10s、ホールド時間は0s~10nsの範囲で設定可能」3)、「1つまたは複数のアナログ/デジタルチャンネルで、クロックとデータの間にセットアップ時間とホールド時間の違反がある場合にトリガ(各時間は表5)」1)などの説明があります。

表5 セットアップ/ホールド時間の範囲の例(3シリーズMDO)
セットアップ時間レンジ -0.5ns~1.024ms
ホールド時間レンジ 1.0ns~1.024ms
セットアップ + ホールド時間レンジ 0.5ns~2.048ms

12. Interval

No.12とNo.13は1モデルにしかありませんが、各メーカが特色を出してつくった機能といえます。Intervalトリガは、信号の周期が時間条件を満たしているときにトリガがかかります。

図12 Intervalトリガの例

図12 Intervalトリガの例

13. 第Nエッジ・バースト

バースト信号でトリガをかけます。アイドル時間を指定し、パルスバーストのN番目のエッジでトリガします。アイドル時間:10ns~10s、N:1~65535 3)

図13 第Nエッジ・バーストトリガの例

図13 第Nエッジ・バーストトリガの例

14. トリガを設定できる入力信号

従来のオシロスコープは、測定する入力信号(CH1から、たとえばCH4)、外部トリガ信号、商用電源のライン信号、の中から1つを選択してトリガソースに設定しました。MSOが普及し、現在ではロジック入力もトリガソースの対象になりましたが、アナログ的な特徴を捉える種類のトリガではロジック入力でトリガをかけることはできません。表6はトリガと入力信号の例です。

表6 トリガの種類と入力信号の使用可否の例(DLM3000)
トリガの種類(名称) CH1~CH4 LOGIC 混在
Edge -
Pulse Width -
Pattern
Rise/Fall Time × -
Runt × -
TV × -
Edge OR × ×
Window × -
Window OR × ×
Serial CAN × -
CAN FD × -
CXPI × -
FlexRay × -
I2C
LIN × -
PSI5 Airbag × -
SENT -
SPI
UART -
User Define × ×
Timeout -
Interval -

○:使用可、×:使用不可、−:対象外
参考文献の2)から作成。

おわりに

今回はミドルクラスのトリガ機能を概説しましたが、MSOの普及に象徴されるようにロジックの検証に適したトリガや、シリアルバス規格への対応など、トリガを使ったオシロスコープの活用範囲は広がっていると感じます。今後はハイエンドクラスのトリガ機能がミドルクラスへ導入が進むかもしれません。

参考文献(2024年1月現在)

  1. テクトロニクス 3シリーズMDO 「データシート」
  2. 横河計測 DLM3000シリーズ 「ユーザーズマニュアル[機能編]」
  3. キーサイト・テクノロジー InfiniiVision 3000G Xシリーズ 「データシート」

トリガ関連の用語解説

トリガスロープトリガソーストリガディレイトリガポジショントリガレベルプリトリガライントリガ
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