初めて使うオシロスコープ・・・第5回「時間軸とトリガの基本的な設定」
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- 第1回:オシロスコープが届いたら最初にすること
- 「はじめに」「届いたオシロスコープを見てみる」「オシロスコープに電源を投入する」「日付時刻を設定する」「【ミニ解説】オシロスコープを安全に使うために配電の仕組みを知る」
- 第2回:パネルにあるキーや端子などの基本的な役割
- 「オシロスコープの前面パネルにあるキーや端子」「オシロスコープの背面パネルにある端子」「オシロスコープ内部が冷却できるようにして使う」「【ミニ解説】プローブ・インターフェース」
- 第3回:CAL信号を使ってプローブを調整
- 「Autoset機能を使ってCAL信号を観測する」「受動電圧プローブの調整」「受動電圧プローブの選択」「グランド・リードの長さによる影響」「装置組込みでオシロスコープを利用する場合」「【ミニ解説】デジタル・オシロスコープの選定のキーワード」
- 第4回:電圧軸の基本的な設定
- 「Autoset機能を使わないで電圧軸を設定する」「入力感度の設定」「オシロスコープで測れる最大電圧」「【ミニ解説】オシロスコープで受動電圧プローブを使う効果」
- 第5回:時間軸とトリガの基本的な設定
- 「A/D変換器による波形の捕捉」「波形取り込みの設定」「時間軸の設定」「トリガの機能」「トリガの設定」
- 第6回:オシロスコープを安全に使う
- 「オシロスコープ入力端子の外側はケースに繋がっている」「測定対象がコモンモード電位を持っているときは要注意」「オシロスコープの受動電圧プローブでコンセントの波形を測るのは危険」「高電圧シングル・エンド・プローブを使って測定する場合は接地が必須」「オシロスコープに入力できる最大電圧」「受動電圧プローブの取り扱いは丁寧に」「電源品質にも注意」「【ミニ解説】デジタル・マルチメータは入力が絶縁されている」
- 第7回:単発現象の測定
- 「単発現象をオシロスコープで測定」「単発現象を観測するための設定」「レコード長とサンプルレートの設定(正弦波の場合)」「レコード長とサンプルレートの設定(パルス波の場合)」「レコード長を長くして取り込んだ波形を拡大する」「【ミニ解説】レコード長が長いオシロスコープのメリット」
- 第8回:波形パラメータの読み取り
- 「取り込んだ波形の情報をカーソルによって読み取る」「波形パラメータを自動測定する」「自動測定機能を使ってのパルス波形を測定するときの注意点」「自動測定を使って2つの入力の位相差や時間差を測定するときの注意点」「【ミニ解説】デューティ比を制御して調光するLED照明」
- 第9回:取り込んだ波形データへの演算
- 「取り込んだ波形を演算処理する」「取り込んだ波形にFFT演算を行う」「【ミニ解説】オシロスコープのFFT機能を使ってノイズ源の探査」
- 第10回:波形画像や波形データのUSBメモリへの保存
- 「オシロスコープに取り込んだ波形画像や波形データを取り出す」「オシロスコープに表示されている波形画像をUSBメモリに保存する」「オシロスコープに保存されている波形データをUSBメモリの保存する」「オシロスコープの設定状態の保存と呼出し」「波形データの呼び出し」「内部メモリやUSBメモリに保存されたデータを消去する」「【ミニ解説】USBメモリの注意点」
- 第11回:オシロスコープと組合せて使うさまざまなプローブ
- 「オシロスコープに接続できるさまざまなプローブ」「TBS2000Bが使えるプローブ類」「高電圧シングルエンド・プローブの用途と使用上の注意点」「高電圧差動プローブの用途と使用上の注意点」「電流プローブの用途と使用上の注意点」「低電圧シングルエンド・プローブの用途と使用上の注意点」
- 第12回:テクトロニクスが提供するPCソフトウェア
- 「【インタビュー】テクトロニクスが取り組むPCソフトウェアを使った効率的な開発環境の構築」
A/D変換器による波形の捕捉
デジタル・オシロスコープはサンプリングクロックごとにA/D変換器によって波形の電圧値を読み取り、波形メモリにデータを保存していく仕組みになっている。A/D変換器にはビット分解能があり、8ビットで256段階、12ビットで4096段階、16ビットで65536段階に縦軸が分割される。ビット分解能が高いほど実際の波形を忠実にデータ化することができる。横軸はサンプリングクロックの周波数によって細かさが決まる。サンプリングクロック周波数が100MHz(=100Mサンプル/秒)の場合は10ns(=光が約3m進む時間)ごとにデータをサンプルすることになる。
オシロスコープTBS2000Bの画面の電圧軸は10分割され、時間軸は15分割されグリッド線が表示されるようになっている。グリッド線の間隔をdivと表現される。
TBS2000Bでは1ns/div~100s/div(1-2-4 シーケンス)で設定できるようになっている。TBS2000Bでは最大5M(500万)ポイントの波形データメモリを設定できるため、最大1つのdivあたり約36万点のデータを持つことができる。
波形取り込みの設定
TBS2000Bの波形取り込みの設定をするには下図のキーを押して画面に設定項目を表示させる。
波形取り込みの設定画面は下図のようになり設定項目はいくつかある。ここではモード(Mode)、レコード長(Record Length)、波形表示(Waveform Display)の設定について述べる。
通常、モードはサンプル(Sample)にしておく。ノイズなどサンプリング間隔の間に生じる細いパルスを補足したいときはピーク検出(Peak Detect)を使う。サンプリング間隔の間で複数回サンプリングを行い演算によって分解能を上げる高分解能(Hi res)がある。ノイズを取り除くため設定した回数の波形データを平均化して表示する平均(Average)がある。
レコード長(Record Length)はA/D変換器によってデータ化された波形情報を保存するメモリの容量を設定する画面である。オシロスコープの画面を見るだけの作業であれば2000の設定で十分である。取り込んだ波形を時間軸方向に拡大して波形観測をしたいときは波形メモリを大きくしなければならない。
アナログ・オシロスコープでは電子ビームを蛍光体に照射して残像効果で波形にする仕組みであった。このため突発的に発生する波形は残像効果によって人が観測することができた。同じような機能をデジタル・オシロスコープで実現できるよう残像時間を設定できる機能として表示時間(Persist Time)の設定がある。通常は波形表示(Waveform Display)にあるパーシスタンス(Persistence)をオフにして使うが、発生頻度の少ない突発現象を観測したいときは長い残像時間を設定して波形観測を行う。
時間軸の設定
TBS2000Bでは1ns/div~100s/div(1-2-4 シーケンス)で時間軸を設定できる。時間軸を設定するにはパネルにある下図に示すダイヤルを回す。設定された時間軸の情報は画面の下に表示される。
観測したい波形の最高周波数成分の2.5倍のサンプルレートが必要となるため、低い周波数の信号に高い周波数成分のノイズが重畳したような信号を測定したい場合などはサンプルレートの値を確認する必要がある。もしサンプルレートが低い場合はレコード長を長く設定してサンプルレートを上げるようにする。
トリガの機能
初期のアナログ・オシロスコープにはトリガ機能なく、時間軸を決める発振器の周波数を調整して画面に固定した波形の表示をしていた。テクトロニクスが1947年に発表した10MHz帯域のアナログ・オシロスコープ511型にトリガ機能が搭載された。これにより波形観測の開始点をトリガによって設定することができるようになった。現在ではすべてのオシロスコープにトリガ機能が搭載されている。
現在販売されているデジタル・オシロスコープには利用目的に応じた多彩なトリガ機能が用意されているが、ここでは最も使われるエッジ・トリガの設定方法についてのみ説明する。
トリガの設定
TBS2000Bのトリガの設定を行うにはパネルにある下記のキーを押してトリガ設定画面を呼び出す。
TBS2000Bのトリガ設定画面は下図のようになり、トリガタイプ(Trigger Type)、ソース(Source)、結合(Coupling)、スロープ(Slope)、レベル(Level)の設定を行うようになっている。
エントリーモデルのTBS2000Bでも高度なトリガ機能の一部を持つことができるが、一般的な利用ではエッジ(Edge)を選択する。
TBS2000Bではトリガを引き金と日本語に訳して画面に表示させている。
トリガ信号源を選択するのが、トリガのソース設定である。TBS2000Bではトリガ源として入力信号もしくはオシロスコープを駆動している交流電源(ACライン)が選べる。通常は波形観測したい波形をトリガのソースとする。
オシロスコープに入力された信号にはノイズが重畳している場合があるため、トリガ制御回路の前にフィルターによって不要なノイズ信号を除去する回路があり、必要に応じてフィルターを選択する。
TBS2000Bでは結合(Coupling)という設定画面によって、トリガ回路の周波数特性を選択できるようになっている。またTBS2000Bではトリガ回路の感度を下げてノイズの除去をする雑音除去(Noise Reject)という機能も用意されている。通常はDCカップリングを選択する。
TBS2000Bでは設定したトリガレベルを信号が通過したときを基準に波形を観測する。信号が立ち上り方向で通過するか、立ち下り方向で通過するかの選択を行うのがスロープ(Slope)の設定である。
標準添付の受動電圧プローブを使った場合は入力信号の電圧値をトリガ・レベルとして設定する。TBS2000Bでは標準的なロジックICで使われるレベルはプリセット値して用意されている。また波形の振幅の50%点にトリガ・レベルを自動的に合わせる機能がある。
最後にトリガモードの設定を行う。トリガモードには3つ用意されているが、通常はノーマル・モードかオート・モードのいずれかを使う。ノーマル・モードの場合はトリガが検出されない限り波形が表示されないので、波形の形が判らないときはオート・モードを使うのがよい。
パルス列がバースト状に連続するような波形を観測する場合はホールドオフ機能を使ってトリガが掛からない期間を設定することができる。
執筆:横河レンタ・リース株式会社 事業統括本部 魚住 智彦