計測関連用語集

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FastAcq(ふぁすとあくいじしょん)

テクトロニクス独自のアクイジション手法の名称。オシロスコープには「サンプル・ポイントからどのように波形ポイントを構成するかを決める」アクイジションモードがある。Acquisitionの意味は「取得」。マーケティング用語では顧客獲得などの意味で使われている。

フォーティブ(ふぉーてぃぶ)

(Fortive) 大手計測器メーカのTektronix(テクトロニクス)とFluke(フルーク、グループ会社含む)の持ち株会社。経緯を書くと、両社は別々に米国の投資会社ダナハー・コーポレーションに売却され、その傘下となった。その後、ダナハー・コーポレーションは2つに分かれ(2016年に、ダナハーの25%を占めていた工業機械関連会社がフォーテイブとして独立し、ダナハーには化学・健康機器関連の企業が残った、という説明もできる)、その一方のフォーティブ・コーポレーションの傘下に株式会社フルークと株式会社テクトロニクスは入った。発足当初の日本の社名は「株式会社TFF」で、その下に両社があった。後にフルーク社とテクトロニクス社を内包した社内カンパニー制度をとる「株式会社テクトロニクス&フルーク」となった(2021年)。それ以前は「テクトロニクス社/ケースレー社」と名乗っていた時期もある(Tektronixは2012年に、同じくダナハー傘下のKEITHLEYを吸収している)。 TFFはあくまで日本での会社名で、日本以外ではTFFなる組織は存在しない。日本以外ではテクトロニクス、フルーク、フルーク・キャリブレーション、フルーク・ネットワークスはすべて別会社だが、日本だけTFFがあり、フルーク・キャリブレーションは「TFF社の校正器営業部」、フルーク・ネットワークスは「TFF社のフルーク・ネットワークス営業部」という組織となっている。現在はTFFとは言わないが、フルークグループの各社が、日本では営業部という組織であることは変わらない。全世界にフルークの現地法人があり、フルークジャパンのトップは「株式会社テクトロニクス&フルークの特約店営業部(あのオレンジ色のハンドヘルドの機種群を日本で販売する組織の名前は“特約店営業部”である。日本では直販をほぼしないで商社経由で売っている。)」の営業部長になる。フルークジャパンの社長ではなく、特約店営業部の部長である。 海外ではM&Aが盛んで、大手計測器メーカといえども、キーサイト・テクノロジーやローデ・シュワルツ以外はほとんどが買収・合併されている。テクトロニクとフルーク以外の主要な海外通信計測器メーカはEXFO(エクスフォ)とViavi Solutions(ヴィアヴィ)に集約されている。計測器に限らず、市場原理によって企業は整理統合される。それが当たりまえだが、日本では海外ほど淘汰が進まず、中規模以下の計測器メーカが健在である。これを日本的な風土と評価するか、産業の新陳代謝が進まず水が澱んでいるとするかは意見が分かれる。メーカは技術者が一攫千金を夢見て操業する(ソニーやホンダなど)が、計測器は市場規模が大きくないため、各計測器メーカは独自路線の中小企業になりがちで、同業他社との合弁がなかなか進まない(自社で独立する気概が高い、逆に言えば創業者の名前を大事にしていて、似た技術分野の競合と合弁する気はなくて、頑固に独立を維持する傾向が伺える)。そのため、海外のキーサイト・テクノロジーのような国産の総合計測器メーカが育っていない。 1960年頃までの横河電機はその有望株だったが、その後HP(現キーサイト・テクノロジー)とYHP(横河ヒューレットパッカード)をつくり、高周波の測定器は(YHPと競合するので)つくらない方針となった。ただし、3G(携帯電話のデジタル化)など無線測定器の市場拡大の中で、RF の測定器群に参入し、2000年頃には方針転換して計測の事業を拡大し、安藤電気を吸収した。ところが時すでに遅かったのか、10年やらずにほぼすべての計測関連事業から撤退してしまった。計測器の現在の後継会社である横河計測株式会社は、国内シェアは10%に届かず、光測定器以外は通信計測器がないので、総合計測器メーカではない。 過去に存在した国内外の計測器メーカの例: Wandel&Goltermann(ワンデル・ゴルターマン)、JDSファイテル、Acterna(アクテルナ)、安藤電気、三栄測器

不平衡(ふへいこう)

(unbalence) 電気信号の伝送方式には不平衡と平衡(balence)の2種類がある。信号線が1本で、グランドとの電位差によって信号を伝送しているのが不平衡。2本の信号線を使い、1本には伝送したい信号を、もう1本にはその信号のマイナスの大きさ(逆位相)の信号を送ると、信号が平衡関係にあるため、平衡と呼ばれる。不平衡は電線が1本で簡易だがノイズの影響を受けやすく、長距離、高速通信には向かない。たとえばシリアル通信の代表であるRS-232C規格は不平衡。 プロトコルアナライザなどの有線通信の分野では不平衡というが、別名、シングルエンドとも呼ばれる。オシロスコープ(オシロ)のプローブなどでは1本伝送を「シングルエンド」、2本の場合を「差動」伝送と呼んでいる。不平衡(unbalance)=シングルエンド(single end)で、両方は全く同じことを違う表現をしている。 シングルエンドはsingle-ended signalling(最後まで1本で伝送する方式)が語源と推測される。シングルエンドは、「ある電圧を基準として、それより電圧が高いか低いかで1と0を表現する」伝送方式とも説明されている。対して差動(differential signalling)は「2本の信号線を使い、2信号の差分によってデータを表現する」伝送方式である。「(2本の)差動」と「シングル(1本で)エンド(最後まで伝送)」という表現がシングルエンドと差動の語源である。見方を変えると「(2本の線が)平衡(している)」、「(1本なので平衡していない、つまり)不平衡」という表現になる。 計測器が機種群(カテゴリー)ごとに、測定原理による解釈で用語を命名している例である。有線通信の伝送方式の「不平衡」と、オシロのプローブの「シングルエンド」が同じ「1本伝送」のことを、違う用語にしているのは初心者には難しい話である。

プリトリガ(ぷりとりが)

(pri trigger) トリガ点(トリガポイント)以前の信号(波形データ)のこと。 デジタルオシロスコープが測定中(開始ボタンが点滅している間)は、常に測定データをメモリに書き込んでいる。トリガがかかると書込みを中止し、トリガ点を中心に波形を表示する。トリガ以前のデータがメモリにあるので、プリトリガを容易に表示できる。 別のいい方をすると、プリトリガとはトリガ点からデータを指定された点数までさかのぼってサンプリングする機能。トリガ点より後のデータを指定された点数まで遅らせてサンプリングする機能をポストトリガという。 デジタルオシロスコープでトリガ・イベント以前の信号の状態を読み込むこと。トリガ以前の観測時間を設定することができる。(2017年発行 テクトロニクスの冊子「オシロスコープのすべて」より) プリトリガは不具合解析に大変役立つ。間欠的に問題が発生するときは、問題(イベント)にトリガして波形を表示させ、レコード内をスクロールし(記録しているデータを端から確認していく)、イベントの原因を解析する。このとき、問題の原因がトリガより前で見つかることも良くある。 操作部の水平ポジション・ノブは、トリガ・イベントの表示位置を決めるために使われる。水平ポジションを変化させると、トリガ・イベント以前の状態(プリトリガ)を表示するので、プリトリガを観測できる。水平ポジションを変えると、トリガポイント前後の観測時間を調整することができる。

プロービング(ぷろーびんぐ)

(probing) オシロスコープの測定手法で、最も重要な1つがプローブの使い方である。probingを直訳すると「プローブする(こと)」だが、「プローブの使い方、DUTへのプローブのあて方・接続方法」を指す。 オシロスコープメーカはプロービングについての解説をしている。特に2000年代以降に広帯域オシロスコープが普及してからは、併用されるアクティブプローブ(FETプローブ、差動プローブなどの能動プローブ)の使い方は従来のパッシブプローブ(受動プローブ)と大きく異なるため、プローブのラインアップに自信がある(ラインアップが豊富な)テクトロニクスとテレダイン・レクロイは多くの解説文献を出している。アナログオシロスコープ時代からの老舗の岩崎通信機は、パワエレ分野への傾注と共に、海外のユニークなプローブを取り扱っている(PMK製品など)。まず、測定対象の信号周波数によってオシロスコープは選択されるが、次はそれに合う適切なプローブの選択が必要で、さらにプローブには使い方がある。適切なモデルを適切な使い方で使用しないと、正しい測定結果は得られない。 プロービングマシンというと、半導体デバイスの検査装置の1種である「プローバ」のことである(半導体検査装置メーカの東京精密などが有名)。probe(プローブ)は、探査、精査を意味するので、セキュリティ分野(ネットワーク、IT分野)では「対象システム(Webサイト、データベース、アプリケーションなど)の精査を行い、脆弱性などを調査する行為を「プロービング」といっている。 このようにプロービングの意味は広範だが、電気計測器のプロービングは、主にオシロの使い方を意味している。

プローブ(ぷろーぶ)

(probe) 広義には「測定対象物(DUT)に接触させて、測定器本体につなぐ信号のセンサ部分(治具)」のこと。電圧や電流を測定するものの総称なので、レコーダの入力部につなぐケーブル類を指す場合もある(※)が、一般にはオシロスコープ(オシロ)と測定対象を接続するためのアクセサリ。 オシロのプローブは種類が多い。大別すると電圧プローブと電流プローブがあり、電圧プローブには受動プローブ(パッシブプローブ)と能動プローブ(アクティブプローブ)がある(詳細は以下の解説記事に詳しい)。受動プローブは通常のオシロ(通称:汎用オシロスコープ)に標準添付されている。能動プローブは広帯域オシロスコープ(通称:高速オシロスコープ)に使われることが多い。 テクトロニクスの冊子「オシロスコープのすべて」(2017年4月発行)では次の説明がある。「プローブ:オシロスコープの入力デバイスで、通常、回路素子を持った、電気的接続を行うための先の尖った金属製のツール、回路グランドに接続するためのリード、信号とグランド基準をオシロスコープに送るためのケーブルで構成される。」 プローブはR(抵抗)とC(コンデンサ、静電容量)で構成され、入力インピーダンスが規定されている。2000年代に広帯域オシロスコープが登場して以降、周波数帯域が広くなった(高周波に対応した)高額な能動プローブが増えた。 プローブとよく似たことばに「プローバ(prober)」がある。直訳したら「プローブするもの」だが、プローバとは半導体デバイスの検査装置の1種の呼称である(メーカによっては品名はプロービングマシン)。 (※)クランプ電力計などのクランプ部分(クランプセンサ)をクランププローブと呼称することがある。オシロの電流プローブと電力計でつかうクランプセンサはほぼ同じものである。オシロメーカのテクトロニクスは当然、電流プローブをラインアップしているが、クランプ電流計など多くのクランプ製品をラインアップする日置電機のクランププローブをオシロにつないで電流測定することは珍しくない。 高周波の回路網(デバイスなど)の特性評価をするネットワークアナライザの測定治具で、微細なDUTに接触する箇所をプローブと呼称している場合がある。光導波路の特性評価のために、導波路の入出力と光ファイバのコアの光軸を合わせる(調芯)装置をプローブと呼んでいる例があった。このように計測器ではプローブは広範な製品に使われる名称である。

ブラウン管オシログラフ(ぶらうんかんおしろぐらふ)

(cathode ray tube oscillograph) 1920年頃にウエスチングハウス社は電気信号(電圧)の時間変化を記録できる電磁オシログラフを開発し、1924年には横河電機が国産化している。「オシログラフ」は当時の最先端(ハイテク)計測器で、記録計の代名詞となった。1930年代に陰極線管(CRT)のブラウン管を使って信号波形を表示する観察機器(現在のオシロスコープの原型、初期の波形測定器)が登場するが、当時はオシロスコープという名称はなく、オシログラフと呼ばれている。日本でも戦前(第二次世界大戦前)の1940年頃にブラウン管を使ったオシロスコープが製作されたが、その名称はブラウン管オシログラフだった(ブラウン管オシロスコープという名称は戦後の1950年代になってからの呼称と思われる)。 1940年頃に東京芝浦電気(現東芝)がつくった強制同期式のブラウン管オシロスコープは、「ブラウン管オシログラフ」と表記されている。戦後の1955年頃にも大手電機メーカが「ブラウン管オシログラフ」を作成した資料が残っていて、オシロスコープは当初は「オシログラフ」と呼称されていたことが明白である(いつ頃、オシログラフではなくオシロスコープといわれるようになったのかは不明)。テクトロニクスが、2000年代まで続くアナログオシロスコープの原型となる「トリガ掃引式オシロスコープ」を1947年に製品化したことは各所で語られているが、1964年創刊の月刊「トランジスタ技術」にはオシロスコープを「オッシロ」と表記した記事がある。 1950年代の「ブラウン管オシログラフ」は1960年代には「オッシロスコープ」になったと思われる。信号波形を観測する記録計の主力が電磁オシログラフだった時代に、ブラウン管に表示するosillographが、どのような経緯でosilloscope(scope:観測器)となり、日本語では「オッシロスコープ」と表現されたかはわからない。さらに、いつから現在の表記「オシロスコープ」に統一されたかも記録はない。電磁オシログラフのオシログラフからとった「ブラウン管オシログラフ」→ブラウン管オシロスコープ(またはブラウン管オッシロスコープ)→オッシロスコープとオシロスコープが混在→オシロスコープ、という変化が1940年代から1970年頃にかけて起こったと思われる。前述の横河電機は、電磁オシログラフを電磁型オッシログラフと呼んでいる。osilloは日本語では「オッシロ」または「オシロ」と呼ばれたと思われる。そのためosilloscopeもオッシロスコープまたはオシロスコープと呼ばれた。 東京芝浦電気株式会社 マツダ支社の泉川 清氏と岡 修一郎氏は、東京芝浦電気 マツダ支社研究所の副所長 今村 倍次郎氏などの協力で、「ブラウン管とブラウン管オシログラフ装置」と題する約50ページの論文を1940年頃に発表している。論文の終章(第6章 陰極線オシロフラフの実例)には「陰極線オシログラフとはブラウン管を主体として,その動作に必要な電源装置,時間軸装置,増幅装置等の一切を一纏めにして操作の簡便な一個の容器に収めたものである」(表記は現代の漢字に変更)とある。次の4モデルの製品写真と概要が述べられている。 1. BT-50-V型マツダ陰極線オシログラフ装置。「ブラウン管には蛍光板直径50mm,第二陽極電圧800VのBI-50-Vを使用。Panel面の幅18.5cm,高さ26.5cm,奥行29cm,重量は約10kg。携帯用を主眼として居る関係上,取扱を簡便ならしめるために諸種の省略を行つて居るが・・」(論文より)。 2. BT-75-V型。「BT-50-V型に次ぐ携帯用陰極線オシログラフ装置」。 3. BT-140-V型。「ブラウン管は,BG-140-V型で,蛍光板直径140mm,作動電圧は3000V」←ブラウン管のための高圧電源が必要だったと思われる。周波数は切替器で11のレンジがあり、一番下のレンジは9~25Hz、一番上は12,000~18,000Hzである。約18kHz程度の周波数帯域だったと推測される。 4. BT-140-V型。「二要素ブラウン管の一種BT2-140-V(蛍光板直径140mm)を用ひて組立てられたもの」とある。 論文の巻末(第7章 結言)には「然しこの装置を活用して各種の測定を行ふためには,尚幾多の補助装置を必要とする」とあり、ブラウン管で電気信号の波形を観測できるように1箱に納めた製品ながら、それ以外の周辺機器を用意して、測定環境を整えないといけないことが述べられている。当時はまだ、知識のある電気技術者でないと製作できない、使いこなせない計測器である。戦前の1940年頃に国産のオシロスコープ(ブラウン管オシログラフ)があったことは驚きだが、一般の技術者が使える商品になるのは1947年のテクトロニクスのトリガ掃引式オシロスコープ511型(周波数帯域10MHz)や、1954年の岩崎通信機の国産初トリガ式オシロスコープSS-751(周波数帯域5MHz、シンクロスコープ)以降である。 1954年に株式会社電気書院から「オシログラフの理論と取扱」が発刊されている(初版第一刷発行)。電磁型オシログラフ(いわゆるレコーダの電磁オシログラフ)から書き起こし、多くのページを「ブラウン管オシログラフ」(いわゆるブラウン管オシロスコープ、つまりアナログオシロスコープ)について解説している。特に「ブラウン管オシログラフの実例」として75mmブラウン管を使った製品を紹介している。このモデルは松下無線株式会(現パナソニック)のCT-75と推測される。同社は1940年頃にモデルCT-75を発売し(名称は「ブラウン管オッシロスコープ」)、戦後の1950年頃まで販売していたらしい。証拠はないが、後の松下通信工業のオシロスコープの源流と思われる。 「ブラウン管オシログラフ」からわかることは、1940年頃には東芝や松下電器という大手電機メーカが、当時の最先端のハイテク機器としてアナログオシロスコープをつくっていたことである。戦後の高度経済成長の時代(1955年頃~1973年頃)には、オシロスコープを筆頭に、電気計測器は産業のマザーツールと呼ばれ、電気製品が発売される前に開発・検査のために必要な、最先端の電気機器よりもさらに先端のハイテク製品だった。ブラウン管オシログラフはその先駆的なモデルといえる。 現在のオシロスコープやレコーダ・記録計の長い歴史の中で、その名称(呼称、品名)がどのように変遷していったか記した資料を筆者は知らない(不勉強ではあるが、当時は当たり前のことばなので、誰も通史としての記録を残していないと思われる)。オシログラフ、オッシロスコープなどの名称はいまでは死語となったが、年配エンジニア(計測器の開発者や使用者などのレジェンド)はまだ記憶していることと思う。断片的な趣味のブログなどではなく、正式な「計測器の歴史」(名称からわかる計測器の発展の歴史 ~ 品名の変遷)が編纂されることを期待する。

ブラウン管オシロスコープ(ぶらうんかんおしろすこーぷ)

(cathode ray tube oscilloscope) オシロスコープは電気信号の波形(電圧の時間的変化)を観測する装置として、陰極線管(CRT)のブラウン管を表示装置に使い、1940年頃に原型が誕生した(国産電機メーカがブラウン管オシログラフを製作)。1950年代にはブラウン管オシロスコープという名称の計測器がつくられている。当時のオシロスコープのブラウン管は、表示画面が丸形だった。まだ、テレビのような長方形(角に丸みが残る)のブラウン管はなかった。ブラウン管は改良が重ねられながら長らくアナログオシロスコープに使われた。2010年代に生産終了(※)するまで、アナログオシロスコープにはブラウン管が使われ、ブラウン管オシロスコープとは多くのアナログオシロスコープを指すことばだった。 (※) 国産オシロスコープの老舗でアナログオシロスコープの代名詞、シンクロスコープで名を馳せた岩崎通信機が最後のモデル(アナログストレージオシロスコープ)を販売終了したのは2013年。 テクトロニクスが1947年にトリガ掃引式のオシロスコープ511型(周波数帯域10MHz)を、岩崎通信機が1954年に国産初のトリガ式オシロスコープSS-751(周波数帯域5MHz)を発売したことが知られている(これらの品名は「ブラウン管オシロスコープ」だったかは不明だが、残っている製品写真では丸形ブラウン管を使用している)。1965年にはオーディオ機器の老舗、トリオ(後のケンウッド、現テクシオ・テクノロジー)もオシロスコープを販売開始した。松下通信工業や日立電子などの国産計測器メーカ各社がアナログオシロスコープをつくった(ソニー・テクトロニクスを筆頭に、松下電器、日立製作所という大手電機のグループ企業がオシロスコープをつくった、つまり当時の電気計測器は電機メーカが注力する主力製品の1つであった)。エッジトリガなどのトリガ機能を標準搭載したオシロスコープは電気技術者が1台/人使う測定器となり、トリオなどは理工系の学校の実験機材として安価なモデルをラインアップした。 1980年代にデジタルオシロスコープ(ブラウン管を使用)が登場し、1990年代にはアナログオシロスコープの機能をほぼカバーする性能になり、普及が拡大する。その後、液晶ディスプレイ(LCD)が開発・普及し、現在のオシロスコープはLCDを採用している。2000年以降はオシロスコープの主流がデジタルオシロスコープに移ったが、アナログオシロスコープは原理的にブラウン管に表示させる構造なので、LCDのアナログオシロスコープはない。つまり、アナログオシロスコープといえばブラウン管で、ブラウン管オシロスコープはアナログオシロスコープとほぼ同義といえる。 計測用の安定化電源で有名な菊水電子工業(菊水)は1990年代までオシロスコープをつくっていた(アナログとデジタルの両方)。同社はすでに1950年代にオシロスコープをラインアップしている(トリオよりも時期が早い)。1959年の製品カタログには、「133m/mブラウン管広帯域オシロスコープOP-51G型」が掲載されている。外観は丸い表示部(ブラウン管)と多くのダイヤル(回転するつまみのスイッチ)で、当時のテクトロニクスや岩崎通信機のモデルとほぼ同じ外観である。掃引発振器の周波数範囲は500kHzまでだが、「4Mc(※)までの広範な周波数を扱える、広帯域高感度オシロスコープ」と製品カタログにある。133m/mはブラウン管表示画面のサイズを表している。また、OP-31C型は「76m/mブラウン管広帯域オシロスコープ」で、「偏光感度よく スポットの小さい3KP1を使用」とある。菊水の製品は、品名にブラウン管とあるアナログオシロスコープの例である。 (※) cはサイクル(周波数がヘルツになる以前の単位)。cps(サイクル/秒)の表記もあった。4Mcは4MHzのこと。1959年当時、どのような条件で4MHzを実現したのか、詳細は不明である。 計測器情報:菊水電子工業のオシロスコープの例(会員専用)

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