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初めて使うオシロスコープ・・・第3回「CAL信号を使ってプローブを調整」

連載記事一覧
第1回:オシロスコープが届いたら最初にすること
「はじめに」「届いたオシロスコープを見てみる」「オシロスコープに電源を投入する」「日付時刻を設定する」「【ミニ解説】オシロスコープを安全に使うために配電の仕組みを知る」
第2回:パネルにあるキーや端子などの基本的な役割
「オシロスコープの前面パネルにあるキーや端子」「オシロスコープの背面パネルにある端子」「オシロスコープ内部が冷却できるようにして使う」「【ミニ解説】プローブ・インターフェース」
第3回:CAL信号を使ってプローブを調整
「Autoset機能を使ってCAL信号を観測する」「受動電圧プローブの調整」「受動電圧プローブの選択」「グランド・リードの長さによる影響」「装置組込みでオシロスコープを利用する場合」「【ミニ解説】デジタル・オシロスコープの選定のキーワード」
第4回:電圧軸の基本的な設定
「Autoset機能を使わないで電圧軸を設定する」「入力感度の設定」「オシロスコープで測れる最大電圧」「【ミニ解説】オシロスコープで受動電圧プローブを使う効果」
第5回:時間軸とトリガの基本的な設定
「A/D変換器による波形の捕捉」「波形取り込みの設定」「時間軸の設定」「トリガの機能」「トリガの設定」
第6回:オシロスコープを安全に使う
「オシロスコープ入力端子の外側はケースに繋がっている」「測定対象がコモンモード電位を持っているときは要注意」「オシロスコープの受動電圧プローブでコンセントの波形を測るのは危険」「高電圧シングル・エンド・プローブを使って測定する場合は接地が必須」「オシロスコープに入力できる最大電圧」「受動電圧プローブの取り扱いは丁寧に」「電源品質にも注意」「【ミニ解説】デジタル・マルチメータは入力が絶縁されている」
第7回:単発現象の測定
「単発現象をオシロスコープで測定」「単発現象を観測するための設定」「レコード長とサンプルレートの設定(正弦波の場合)」「レコード長とサンプルレートの設定(パルス波の場合)」「レコード長を長くして取り込んだ波形を拡大する」「【ミニ解説】レコード長が長いオシロスコープのメリット」
第8回:波形パラメータの読み取り
「取り込んだ波形の情報をカーソルによって読み取る」「波形パラメータを自動測定する」「自動測定機能を使ってのパルス波形を測定するときの注意点」「自動測定を使って2つの入力の位相差や時間差を測定するときの注意点」「【ミニ解説】デューティ比を制御して調光するLED照明」
第9回:取り込んだ波形データへの演算
「取り込んだ波形を演算処理する」「取り込んだ波形にFFT演算を行う」「【ミニ解説】オシロスコープのFFT機能を使ってノイズ源の探査」
第10回:波形画像や波形データのUSBメモリへの保存
「オシロスコープに取り込んだ波形画像や波形データを取り出す」「オシロスコープに表示されている波形画像をUSBメモリに保存する」「オシロスコープに保存されている波形データをUSBメモリの保存する」「オシロスコープの設定状態の保存と呼出し」「波形データの呼び出し」「内部メモリやUSBメモリに保存されたデータを消去する」「【ミニ解説】USBメモリの注意点」
第11回:オシロスコープと組合せて使うさまざまなプローブ
「オシロスコープに接続できるさまざまなプローブ」「TBS2000Bが使えるプローブ類」「高電圧シングルエンド・プローブの用途と使用上の注意点」「高電圧差動プローブの用途と使用上の注意点」「電流プローブの用途と使用上の注意点」「低電圧シングルエンド・プローブの用途と使用上の注意点」
第12回:テクトロニクスが提供するPCソフトウェア
「【インタビュー】テクトロニクスが取り組むPCソフトウェアを使った効率的な開発環境の構築」

Autoset機能を使ってCAL信号を観測する

オシロスコープには受動電圧プローブを調整するためのCAL端子が用意されている。CAL端子からはデューティー比50%のパルス波が出力されている。TBS2000BではCAL端子に「Probe Comp」という表示がされており、約5Vの1kHzの方形波信号が出力されている。

今回はプローブを使ってCAL信号を一番簡単な「Autoset機能」を使って波形を観測する。操作は簡単で、まずプローブをCAL端子に接続する。それから工場出荷時設定にするDefault Setupキーを押してから Autosetキーを押すだけである。

図16. 受動電圧プローブのCAL端子への接続とAutosetの実行

図16. 受動電圧プローブのCAL端子への接続とAutosetの実行

Autoset機能が実行されると、画面にCAL端子のパルス信号が表示される。

図17. Autoset実行後のCAL端子波形

図17. Autoset実行後のCAL端子波形

Autoset機能はオシロスコープの使い方をよく知らない人でも単純な波形を観測するには便利な機能である。しかし複雑な波形ではAutosetでは観測したい波形を画面に表示することが困難であることを知っておく必要がある。

受動電圧プローブの調整

受動電圧プローブとオシロスコープの本体は下記のような回路構成をしている。プローブには調整用のトリマ・キャパシタがあり、プローブに添付されているドライバを使って調整を行うようになっている。

図18. 受動電圧プローブとオシロスコープの入力回路

図18. 受動電圧プローブとオシロスコープの入力回路

プローブを調整するにはCAL信号を観測してプローブの穴にドライバを差し込んで行う。

図19. 受動電圧プローブの調整

図19. 受動電圧プローブの調整

プローブにあるトリマ・キャパシタの容量をドライバによって変化させると、画面に表示されるパルス波の形が変化する。正確な波形観測を行うために適切な補正を行い、下図のような矩形波になるようにする。

図20. 補正による波形の見え方の違い

図20. 補正による波形の見え方の違い

受動電圧プローブの選択

オシロスコープを利用する場合はオシロスコープ本体にあったプローブを選ぶ必要がある。例えばテクトロニクスのホームページを見ると多くの種類が掲載されている。この中でTBS2000Bが使える受動電圧プローブは下記の5つの製品となっている。

  • TPP0200(200MHz、10:1)
  • TPP0100(100MHz、10:1)
  • P2220(200MHz、1:1/10:1)
  • P6101B(15MHz、1:1)
  • P6139B(500MHz、10:1)

それ以外のプローブでも接続が可能なものはあるが、測定器メーカが利用を推奨していないプローブを使うことは避けたほうがよい。

グランド・リードの長さによる影響

受動電圧プローブにはグランド・リードが引き出されて先端にクリップが取付けられている。パルス波形を観測する場合はグランド・リードの長さによって観測される波形が異なる。

図21. グランド・リードの長さの違いによる波形観測への影響

図21. グランド・リードの長さの違いによる波形観測への影響

正確な波形観測を行うにはグランド・リードの長さの影響を受けないようにグランド・リードを延長してはならない。またグランド・リードの影響を最小にするにはグランド・スプリングを使うことが望ましい。

図22. 標準のグランド・リードとグランド・スプリングを使用した場合

図22. 標準のグランド・リードとグランド・スプリングを使用した場合

装置組込みでオシロスコープを利用する場合

オシロスコープ単体として実験室で使うことは多いが、装置に組み込んで波形のモニタなどに使われることがある。装置の内部や組み込んだ信号源から波形を取り出して画面に表示したときは標準添付のプローブを使うのではなく、信号伝送系を50Ωインピーダンスとしてオシロスコープの入力に貫通型50Ω終端器を取り付けるのが一般的である。貫通型50Ω終端器を使う場合は終端器で消費される最大電力を超えないようにしなければならない。映像系の信号では75Ωインピーダンス系とする場合がある。

【ミニ解説】デジタル・オシロスコープの選定のキーワード

デジタル・オシロスコープには多くの仕様項目があり、波形観測の目的にあっている仕様であるかを確認する必要がある。基本となる仕様は下記の4つである。

  • アナログ信号の周波数帯域
  • アナログ信号の入力数
  • A/D変換器の分解能
  • 波形メモリ長

その中でも最も重要なのが周波数帯域になる。技術者が利用するオシロスコープはおおよそ下記の分類がされる。一般に周波数帯域は広くなるにしたがってオシロスコープは高額となる。

  • 500MHz以下
    電子機器からメカトロニクス機器まで幅広い用途がある。エントリーモデルはこの分類となる。
  • 500MHz~2GHz
    一般のデジタル回路基板のアナログ波形を観測するのに使われる
  • 2GHz~8GHz
    高速デジタル回路基板や汎用シリアル通信のアナログ波形を観測するのに使われる
  • 8GHz以上
    超高速のデジタル回路基板や高速シリアル通信のアナログ波形の観測に使われる
    先端的な研究開発では20GHz帯域以上のオシロスコープが使われている
図23. 周波数帯域別の代表的なオシロスコープ(テクトロニクス)

注)テクトロニクスの製品名称の下に製品ラインアップが持つ周波数帯域の範囲を示す。

図23. 周波数帯域別の代表的なオシロスコープ(テクトロニクス)

広帯域のオシロスコープは静電気などにより破損するリスクがあるので、取り扱いには高周波機器を取り扱う知識と経験が必要となる。

一般の波形観測ではA/D変換器の分解能は8bitでよいが、波形画像を縦軸方向に拡大しての観測や、FFT演算によって高ダイナミック・レンジの周波数分析をしたい場合は12bitの分解能のオシロスコープを選択することになる。

一般的な用途では2chもしくは4chのアナログ入力のオシロスコープが使われている。組込み基板などを評価する際には同時に多くのポイントの波形を観測しなければならない場合があるため、最近では8chのオシロスコープが各社から登場している。複数台数のオシロスコープを連結して同期を取ることによって8ch以上の波形を同時に観測することもできる製品もある。

またデジタル基板の評価ではデジタル信号を論理信号として複数同時に読み込む要求がある。従来はロジック・アナライザとオシロスコープを組み合わせて使っていたが、現在はアナログ信号とデジタル信号を同時に観測できるミックスド・シグナル・オシロスコープが使われている。


執筆:横河レンタ・リース株式会社 事業統括本部 魚住 智彦

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