技術情報・レポート

2021/11/04

初めて使うオシロスコープ・・・第9回「取り込んだ波形データへの演算」

連載記事一覧
第1回:オシロスコープが届いたら最初にすること
「はじめに」「届いたオシロスコープを見てみる」「オシロスコープに電源を投入する」「日付時刻を設定する」「【ミニ解説】オシロスコープを安全に使うために配電の仕組みを知る」
第2回:パネルにあるキーや端子などの基本的な役割
「オシロスコープの前面パネルにあるキーや端子」「オシロスコープの背面パネルにある端子」「オシロスコープ内部が冷却できるようにして使う」「【ミニ解説】プローブ・インターフェース」
第3回:CAL信号を使ってプローブを調整
「Autoset機能を使ってCAL信号を観測する」「受動電圧プローブの調整」「受動電圧プローブの選択」「グランド・リードの長さによる影響」「装置組込みでオシロスコープを利用する場合」「【ミニ解説】デジタル・オシロスコープの選定のキーワード」
第4回:電圧軸の基本的な設定
「Autoset機能を使わないで電圧軸を設定する」「入力感度の設定」「オシロスコープで測れる最大電圧」「【ミニ解説】オシロスコープで受動電圧プローブを使う効果」
第5回:時間軸とトリガの基本的な設定
「A/D変換器による波形の捕捉」「波形取り込みの設定」「時間軸の設定」「トリガの機能」「トリガの設定」
第6回:オシロスコープを安全に使う
「オシロスコープ入力端子の外側はケースに繋がっている」「測定対象がコモンモード電位を持っているときは要注意」「オシロスコープの受動電圧プローブでコンセントの波形を測るのは危険」「高電圧シングル・エンド・プローブを使って測定する場合は接地が必須」「オシロスコープに入力できる最大電圧」「受動電圧プローブの取り扱いは丁寧に」「電源品質にも注意」「【ミニ解説】デジタル・マルチメータは入力が絶縁されている」
第7回:単発現象の測定
「単発現象をオシロスコープで測定」「単発現象を観測するための設定」「レコード長とサンプルレートの設定(正弦波の場合)」「レコード長とサンプルレートの設定(パルス波の場合)」「レコード長を長くして取り込んだ波形を拡大する」「【ミニ解説】レコード長が長いオシロスコープのメリット」
第8回:波形パラメータの読み取り
「取り込んだ波形の情報をカーソルによって読み取る」「波形パラメータを自動測定する」「自動測定機能を使ってのパルス波形を測定するときの注意点」「自動測定を使って2つの入力の位相差や時間差を測定するときの注意点」「【ミニ解説】デューティ比を制御して調光するLED照明」
第9回:取り込んだ波形データへの演算
「取り込んだ波形を演算処理する」「取り込んだ波形にFFT演算を行う」「【ミニ解説】オシロスコープのFFT機能を使ってノイズ源の探査」
第10回:波形画像や波形データのUSBメモリへの保存
「オシロスコープに取り込んだ波形画像や波形データを取り出す」「オシロスコープに表示されている波形画像をUSBメモリに保存する」「オシロスコープに保存されている波形データをUSBメモリの保存する」「オシロスコープの設定状態の保存と呼出し」「波形データの呼び出し」「内部メモリやUSBメモリに保存されたデータを消去する」「【ミニ解説】USBメモリの注意点」
第11回:オシロスコープと組合せて使うさまざまなプローブ
「オシロスコープに接続できるさまざまなプローブ」「TBS2000Bが使えるプローブ類」「高電圧シングルエンド・プローブの用途と使用上の注意点」「高電圧差動プローブの用途と使用上の注意点」「電流プローブの用途と使用上の注意点」「低電圧シングルエンド・プローブの用途と使用上の注意点」
第12回:テクトロニクスが提供するPCソフトウェア
「【インタビュー】テクトロニクスが取り組むPCソフトウェアを使った効率的な開発環境の構築」

取り込んだ波形を演算処理する

測定器がデジタル化したことによって得られるメリットとして測定結果が数値データとなり、容易に演算が行えることである。演算をすることにより測定結果から必要な情報を見やすい形に変換することができる。

TBS2000Bの場合は各入力で測定した結果を加算、減算、乗算できるだけではなく、FFT演算を行って周波数分析ができる。

TBS2000Bで波形データの加算、減算、乗算を行う機能はパネルにある演算(Math)キーを押して呼出す。画面上にあるソース1(Source 1)、演算子(Operator)、ソース2(Source 2)の順で設定して演算を決めていく。

図69. 波形の加算、減算、乗算機能の設定

図69. 波形の加算、減算、乗算機能の設定

入力間の乗算演算はパワーデバイスのスイッチング測定を行う場合に使われる。チャネル1の入力でデバイスのドレインとソース間の電圧、チャネル2の入力でデバイスに流れる電流を測定して乗算をすることによって損失電力を求める。

図70. パワーデバイスのスイッチング損失電力測定

図70. パワーデバイスのスイッチング損失電力測定

取り込んだ波形にFFT演算を行う

オシロスコープに取り込んだ波形データにFFT(Fast Fourier Transform)演算を行って波形が持つ周波数成分を観測することができる。FFT演算を用いた周波数分析は機械振動や音響の分野ではFFTアナライザとセンサを組み合わせて行われる。電気信号の波形を観測することが主な用途であるデジタル・オシロスコープやメモリレコーダでもFFT演算機能を持っているので周波数分析はできるが、FFTアナライザとは機能や性能で異なるところがあるので利用する際には注意が必要である。詳しくはTechEyesOnlineの「FFTアナライザの基礎と概要(第1回)」にある表2に示されている。

TBS2000BでFFT演算を行う場合はパネル上にあるFFTキーを押して設定画面を呼出す。

図71. FFT演算機能の設定

図71. FFT演算機能の設定

FFT演算の設定画面では下記の設定ができる。

  • 時間軸で観測した波形の同時表示のON/OFF
  • 周波数分析する入力チャネルの設定
  • 縦軸をリニヤ(線形)表示、ログ(対数)表示にするかの設定
  • 窓関数の設定(通常はハニングを設定)
  • 中心周波数と解析帯域幅の設定

FFT演算した周波数分析の結果からデータを読み出す場合は下図のようにカーソル機能を使う。

図72. カーソル機能を使ってFFT演算で得られた結果を読み取る

図72. カーソル機能を使ってFFT演算で得られた結果を読み取る

オシロスコープを使ってFFT演算する場合は折返し(エリアシング)による影響を受けることを知っておく必要がある。日本機械学会のホームページにある「機械工学辞典」の解説を引用すると下記のようになる。

サンプリング周波数をfsとすると、サンプリング定理から、分析可能な最高周波数fmaxは、例えばfsを1000Hzとするとその2分の1の500Hzとなる。このとき、解析原信号のうちにfmaxを超える700Hzの成分が含まれていると、ちょうどfmaxの500Hzを対称軸として折返した300Hzの位置に架空のピークが現れる。このような現象を折返し現象と呼ぶ。

図73. 折返し(エリアジング)現象

図73. 折返し(エリアジング)現象

折返しを生じさせないためには入力信号に分析可能周波数以上の信号が入力されないようにするためにローパスフィルタを用いるのがよい。TBS2000Bには入力回路に20MHz帯域制限フィルタがあるのでこれを使って折返しの影響を除去できる場合がある。

そのほかの方法としてはサンプリング周波数を上げて折返しの影響をなくす方法はあるが、幅広い周波数帯域を分析する場合はレコード長に制限があるので注意が必要である。

【ミニ解説】オシロスコープのFFT機能を使ってノイズ源の探査

ロジックICは低消費電力化、高速化のために電源電圧を下げているため、下図に示すようにノイズマージンは小さくなる。このため機器の設計では信号にノイズが重畳しないように工夫を行い、評価ではロジックICに影響を与えているノイズの性質を見極める。

図74. 電源の低電圧化でノイズマージンが減少

図74. 電源の低電圧化でノイズマージンが減少
出典:基板設計がうまくいかない、高速信号を手なずけるには(EDN japan、2015年10月09日)

ノイズの評価は主にオシロスコープを使って行い、波形の形状とノイズの周波数成分を見てノイズ発生の要因を突き止めて対策を行う。ノイズの周波数成分はスペクトラムアナライザによっても観測できるが、スペクトラムアナライザは高周波信号の観測用の測定器であるため、低い周波数成分の観測はできない。インバーなどの低周波ノイズを発生する機器からのノイズはFTT機能を使わないと判らないことがある。低周波から高周波までの周波数分析ができるオシロスコープのFFT機能はロジック回路のノイズ評価に有効である。


執筆:横河レンタ・リース株式会社 事業統括本部 魚住 智彦