市場動向詳細

車のボディ ~ 車の性格を表す ~

自動車の特徴である外観のデザインや基本機能「走る」、「曲がる」、「止まる」を実現するための土台が「車のボディ」です。基本機能を発揮するエンジン※1、ステアリング※1、ブレーキ※1などの部品を実装するプラットホームとしてだけでなく、車に求められる安心安全を確保する空間となるのが「車のボディ」です。安全性の観点としては、衝突を防ぐ「予防安全」と衝突後の「衝突安全」に分けられます。

本稿では衝突安全に大きくかかわる「車のボディ」について解説します。先ず、自動車の販売状況と自動車の事故状況を紹介します。その後にボディ構造の歴史、ボディの基本構造を概説します。現在多くの自動車に採用されているモノコック構造の主要な部位の概要、ボディタイプ(K-CarやSUV、Sedan、Van等)を示します。さらに、ボディの設計手法、ボディに使用される材料、ボディを製造する工法および衝突安全性評価について解説します。衝突試験に関連する技術として、ダミー人形、ハイスピードカメラ、衝突設備を紹介します。併せて、ボディの空力性能についても概説します。最後にボディ構造に関連した計測器の例を示します。

《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》

車の販売状況

図1、図2は、乗用車(軽四輪も含む)、トラック・バス(特殊車・トレーラ等は除く)の累計販売台数です。集計期間は2023年4月から9月です。いずれの区分でも前年同期間に比べて増加しています。

図1 国内全乗用車販売台数(2023年4月から9月)
図1 国内全乗用車販売台数(2023年4月から9月)

出典:日本自動車販売協会連合会の公表データを元に作成

図2 国内全トラック・バス販売台数(2023年4月から9月)
図2 国内全トラック・バス販売台数(2023年4月から9月)

出典:日本自動車販売協会連合会の公表データを元に作成

道路交通事故の状況

図3は交通事故統計です。集計期間は2001年から2022年までです。発生件数、負傷者数、死者数とも減少傾向ですが、ここ数年間は減少の割合が鈍化しているので、一層の対策が望まれます。

図3 交通事故統計
図3 交通事故統計

出典:警察庁の公表データを元に作成

ボディの歴史

世界で最初の4輪自動車は1986年にカール・ベンツ(ドイツ)によって発明された「パテント・モートルヴァーゲン」です。図4から見て取れるように、近代のボディのように、風雨をしのげる構造となっていません。フォードモータ社(米国)が1908年に発売したT型フォードでは現在につながるボディとなっていることが判ります。T型の生産はベルトコンベア方式によって大量生産が行われ、自動車を大衆化されました。その後、自動車の技術革新により現在のボディ構造へ変遷しました。

図4 パテント・モートルヴァーゲン
図4 パテント・モートルヴァーゲン
図5 フォードT型
図5 フォードT型

ボディ構造

自動車のボディ構造を大きく分けると、「ラダーフレーム構造」と「モノコック構造」に分けられます。ラダーフレーム構造は、強固な鋼製の部材で、はしご状(ラダー)のフレーム(枠)を形成し、その上にボディを載せます。トラックでは一般的に採用されていますが、自動車でもオフロード車などに適用されています。構造がシンプルで製造が容易ですが重量増加につながります。前節で紹介した「パテント・モートル」の基本骨格はラダーフレーム構造に区分できます。図6はラダーフレーム構造の一例です。はしご状(ラダー)になっていることが判ります。

図6 ラダーフレーム構造の一例
図6 ラダーフレーム構造の一例

もう一つの構造である「モノコック構造」は元々、航空機で採用された技術です。骨組みに外板を張って、応力を骨組みだけでなく外板でも受けさせる手法です。応力外皮構造(おうりょくがいひこうぞう)または張殻構造(はりがらこうぞう)とも言われます。鋼板で箱が作られていることをイメージすると理解しやすいです。強度や剛性を持たせつつ軽量化を実現できます。世界で初めて採用されたのは、ランチア ラムダ(1922年 イタリア)とされています。日本では、スバル360(1958年 富士重工業:現スバル)です。

図7 1929 ランチア ラムダ
図7 1929 ランチア ラムダ

“1929 Lancia Lambda 1.jpg” by kitmasterbloke is licensed under CC BY 2.0

図8 スバル360
図8 スバル360

“Geneva MotorShow 2013 - Subaru 360.jpg” by Clément Bucco-Lechat is licensed under CC BY 3.0

ボディの機能を大きく分けると、人が乗る「高剛性キャビン」と衝突時に変形する「衝撃吸収機構」となります。自動車の前部や後部は強度や剛性を高めるだけでなく、衝撃を受けるとつぶれる構造(衝撃吸収構造)となっています。乗員の空間は剛性を高める構造です。図9はモノコック構造の一例です。

図9 モノコック構造の一例
図9 モノコック構造の一例

モノコック構造における主要な部品および部位の一例は図10です。

フレーム(サイドメンバ)
ボディの左右にある長く伸びた部材です。衝突時に衝撃を吸収する構造となっています。

クロスメンバ
ボディの横方向に配置されている部材です。ボディの最前部やフロアに取り付けられています。

インサイドパネル
エンジンルームの左右にある部位です。サイドメンバに溶接されています。サスペンションが取り付けられる部位となります。

ピラー
ルーフ(屋根)とボディ側とを接続する部位です。車両の前方側からAピラー、Bピラー、Cピラーと呼称されます。側面からの衝撃を受けてキャビネットを守る機能があります。Aピラーはルーフとフロントガラスを支持する部位です。

ダッシュパネル
エンジンルームとキャビンとの間に位置します。バルクヘッド(隔壁)とも呼ばれます。

ルーフパネル
ボディの屋根部分です。

フロア
キャビネットの底をなす部分です。前後方向や横方向からの衝撃を受けてもキャビンの損傷を抑制します。

トランクフロア
トランクの底になる部分です。後方からの衝撃を吸収します。

図10 モノコック構造の主要部位
図10 モノコック構造の主要部位

中古車の販売情報に表示される「修復歴車」の対象部位として、一般社団法人 日本自動車査定協会や一般社団法人 自動車構成取引協議会などで統一基準として定義されているのは、①フレーム(サイドメンバ)、②クロスメンバ、③インサイドパネル、④ピラー、⑤ダッシュパネル、⑥ルーフパネル、⑦フロア、⑧トランクフロアなどです。概要は表1です。詳細については、一般社団法人 日本自動車査定協会一般社団法人 自動車構成取引協議会のサイトをご覧ください。なお、修復歴の有無は事故歴を示しているものではありません。

表1 自動車の修復歴車の判断基準
No. 骨格部位 修復歴とするもの
1 クロスメンバ
(フロント・リヤ)
1)交換されているもの
2)曲がり、凹み又はその修理跡があるもの
3)亀裂があるもの
2 サイドメンバ
(フロント・リヤ)
1)交換されているもの
2)曲がり、凹み又はその修理跡があるもの
3 インサイドパネル
(フロント)
ダッシュパネル
1)交換されているもの
2)外部又は外板を介して波及した凹み又はその修理跡があるもの
4 ピラー
(フロント・センタ・リヤ)
1)交換されているもの
2)スポット打ち直しがあるもの
3)外部又は外板を介して波及した凹み又はその修理跡があるもの
5 ルーフ 1)交換されているもの
2)ルーフ周囲のインナ部に凹み、曲がり又はその修理跡のあるもの
3)ピラーから波及した凹み又はその修理跡があるもの
6 センターフロアパネル
フロアサイドメンバ
1)交換されているもの
2)パネル接合部に、はがれ又は修理跡があるもの
3)破れ(亀裂)があるもの
4)外部又は外板を介してパネルに凹み、メンバに曲がり又はその修理跡があるもの
7 リヤフロア
(トランクフロア)
1)交換されているもの
2)パネル接合部に、はがれ又は修理跡があるもの
3)破れ(亀裂)があるもの
4)外部又は外板を介して波及した凹み又はその修理跡があるもの
出典:一般社団法人 自動車構成取引協議会の資料を元に作成

ボディタイプ

車のボディタイプは外観形状や車室形状、用途によって分類されます。厳密な区分の定義はないですが、図11はボディタイプの分類例です。

  • K-car
    日本で広く購入されている軽自動車。
  • K-Wagon
    軽自動車の中でも、スペースを最大限の寸法としたタイプ。
  • K-4×4
    軽自動車の中で、悪路などのアウトドアの用途を想定したタイプ。
  • Compact Car Hatchback
    小型車一般のタイプ。
  • Sedan
    一般的には、エンジンルーム、車室、荷室のボックスで構成されるタイプ。主として4ドアのタイプ。
  • Station Wagon
    乗員の空間と荷物エリアを伸ばした構造。
  • Sport Car
    スポーツカと称されるタイプ。
  • SUV(Sport Utility Vehicle)
    米国発祥とされ、ラダーフレーム構造のボディを持つタイプが多い。アウトドアの用途を想定した大型車に多く見られる。近年はモノコック構造でもSUVの範疇に含めることもある。
  • CUV(Crossover Utility Vehicle)
    SUVの派生的なタイプ。一般的には、SUVのような専用ボディではなく、乗用車のボディを流用したタイプが多く見られる。
  • Mini Van
    箱形の乗用車。
  • Van
    箱形の商用を目的とするタイプ。
  • Track
    荷物の運搬を用途とするタイプ。ボディ構造はラダーフレーム構造。
    大型トラックでは運転席と荷台部分が一体化したトラックと、運転席と荷台とが分離するトラクタに分けらる。
図11 ボディタイプ
図11 ボディタイプ

購入者がボディタイプを選ぶ際、デザインの志向だけでなく用途に応じて変わります。選択する観点としては、日常使用・ビジネス・レジャー・人数・年齢等、目的やライフスタイルに適しているかでしょう。

ボディの設計手法

自動車をデザインする際、デザイナが描いたコンセプト図をもとに、スケールモデル(縮小版)もしくは実物大のモデルを工業用粘土(クレイ)を使ってクレイモデルを作成します。3D化が進んでも微妙な曲線や感覚的な形状を表現し確認する手段としてクレイモデルの作成はなくならないようです。造形されたモデルをもとに最終的なデザインを検討します。仕上がったクレイモデルを3Dデジタルデータに変換します。そのデータを元に、図面化され金型などが製作されます。

図12 自動車のデザインイメージ
図12 自動車のデザインイメージ

材料

ボディを構成する部材には多くの材料が使われています。代表的な材料について解説します。

1 鋼板

自動車用材料として、長年軟らかい鋼板が使用されていますが、近年は衝突安全性や燃費の向上要求に応えるため、軽量で成形性と高強度を両立させた材料が求められています。高強度の鋼板は高張力鋼(High Tensile Strength Steel:HTSS)、ハイテン材と呼称されています。成分は炭素(C)、マンガン(Mn)、シリコン(Si)などが含まれています。製造各社の成分は異なっています。コストは鋼板よりも高くなります。最近は超高張力鋼板と呼ばれる鋼板も使われています。鋼板は使用部位によって使い分けられています。主としてボディの外板用とボディ構造用です。

  • ボディ外板用:ルーフなどで比較的薄い鋼板の冷延鋼板が使われます。成形性の良い、柔らかく低強度の鋼板です。
  • ボディ構造用:強度の高い鋼板が使われ、超高張力鋼板やホットスタンプ工法※2を活用した材料が適用されています。
※2

高張力鋼板はプレス加工時に弾性変形するスプリングバック現象が発生するので、加工性の確保が難しい。対策手法として、ホットスタンプ手法が取り入れられている。鋼板を予め加熱した状態でプレス加工することでスプリングバック現象を抑制する。

鋼板の特性を論じる際、「強度」と「剛性」が使われますが、誤解されることが多いので、改めて解説します。「強度」は材料が外部の力に対して破壊されるまでどこまで耐えるかを意味し、「剛性」は材料が変形することの強さを示すことです。なお、高張力鋼でも一般鋼板でも、ヤング率は大差ありません。高張力鋼の特徴は軽量化と高強度化につながると紹介しましたが、鋼板の厚さを薄くして軽量化しても強度の強化にならず、かえって低下します。詳細は専門書に譲るとして、高張力鋼を使用する考え方を概説します。図13は鋼板の片持ち梁を例にしたモデルです。断面2次モーメント(I)とは断面がもつ特性で、梁のたわみ量を計算する際に使われます。たわみ量(δ)、つまり、ボディ部材の変形量を計算できます。関係式は、
δ(デルタ:たわみ)=WL3 / 3EI…(1)
W:荷重、L:梁の長さ、E:ヤング率、I:断面2次モーメント

図13 片持ち梁
図13 片持ち梁

モノコック構造の基本は「箱を形成すること」ですので、箱形状の断面2次モーメントを適用すると、モデルは図14となり、断面2次モーメント(I)の関係式は、以下となります。
I=(b1・h13-b2・h23) / 12…(2)
b:幅、h:高さ

図14 箱形断面2次モーメント
図14 箱形断面2次モーメント

たわみ量を少なくするためには、式(1)からボディ構造部材の剛性を高める断面2次モーメントを大きくすれば良いことになります。式(2)より、h(高さ)の3乗に比例することから、使用される鋼板の厚さを軽量化のために半分とすると、断面2次モーメントは8分の1に低下します。よって、剛性を高めるためには断面積の高さ方向を長くすることが有効であると理解できます。

2 アルミニウム

アルミニウムの比重は鉄に比べて約3分の1です。引っ張り強さも約3分の1です。同じ強度なら同じ重量になりますが、体積は3倍になります。しかしながら、アルミニウムの特徴である柔らかさを有効に使うと、複雑な構造を採用することができ、結果的には同じ強度の鉄に比べて軽量化が可能です。一般的には3分の2程度になります。但し、コストが鉄に比べて高くなるので、軽量化や意匠性を目的に採用されている車種もあります。ボディの外板部に適用される例が多いですが、ホンダ NSXがモノコック構造部材に適用しています。欧州の車両ではフルアルミボディ構造を採用した例もあります。

3 カーボンファイバ

自動車に適用される部材は一般的にCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic 炭素繊維強化プラスチック)と呼ばれ、カーボンの繊維をプラスチックで固めたものです。軽量で強度を確保できます。加工方法は最終製品に求める形状や特性によって様々な工法が適用されますが、物性や外観、製造時間など技術進化の過程にあります。航空機やモータスポーツで主として採用されていますが、乗用車でも採用されている例があります。ボンネットやルーフ等に適用されています。

製造工法

ボディの作り方を概説します。先ず、ロール鋼材をプレス機※3を使って構成部品を作ります。次に、各部品を電気溶接機やレーザ溶接機、また接着剤を使って組み立てます。ボディが出来上がったら次の工程である、「塗装工程」※4へ移行します。

※3

次の記事を参照願います。2022年8月29日公開「自動車部品をつくる技術~もの作りの基本

※4

次の記事を参照願います。2022年11日28日公開「塗装の技術 ~ 素材の保護と美観を高める

図15 ボディの製造工程
図15 ボディの製造工程

衝突試験方法

OEM(Original Equipment Manufacturing 自動車メーカを示す)では数々の試験を実施しています。特に衝突試験によって乗員の安全性が確保されているかどうかを評価しています。日本で実施されている衝突試験はフルフラップ全面衝突試験、オフセット前面衝突試験、側面衝突試験、後面衝突頚部保護性能試験です。自動車の衝突安全性に関する技術基準は、「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示」により詳細が定められています。例えば、「全面衝突時の乗員保護の技術基準」は次の資料を参照してください。試験装置の詳細仕様や、測定項目、計算方法、判定基準などが詳細に記述されています。
https://www.mlit.go.jp/jidosha/kijyun/saimokubetten/saibet_023_00.pdf

一方、販売されている自動車の安全性評価として、自動車アセスメント(NCAP:New Car Assessment Program)※5が導入されています。日本ではJNCAP(Japan NCAP)が国土交通省所管の自動車事故対策機構(NASVA、ナスバと呼称)で実施されています。なお、JNCAPの評価項目には衝突安全性能アセスメントの他、予防安全性能アセスメントと事故自動緊急通報装置評価も含まれています。予防安全性能アセスメントの評価項目は、衝突被害軽減ブレーキ、車線逸脱抑制、高機能前照灯、ペダル踏み間違い時加速抑制装置性能です。また、チャイルドシートアセスメントも行っています。評価結果は年に数回公表されています。最新の自動車性能評価試験結果は次のサイトをご覧ください。
https://www.nasva.go.jp/mamoru/index.html

※5

次の記事を参照願います。2021年1月8日公開「自動車の安心・安全を評価する仕組み〜日本の自動車アセスメントJNCAP

1 衝突試験

JNCAPで実施されている衝突試験の一例を紹介します。

1)対リジッド・バリア フルフラップ前面衝突試験

コンクリート製のバリア(障壁)に車両全部の前面を車速55km/hで衝突させる試験方法です。ダミー人形を運転席と助手席に乗せます。ダミーに与える衝撃は最も強くなります。

図16 フルフラップ前面衝突試験
図16 フルフラップ前面衝突試験

出典:国土交通省の資料を抜粋して作成

2)オフセット前面衝突試験

衝突時に変形するアルミハニカムを装着したバリアに車両前部の運転席側一部(オーバラップ率40%)を車速64km/hで衝突させる試験方法です。衝撃をボディの一部で受けるので、ダミーに与える衝撃の強さは弱くなるものの、ボディの変形が大きくなるので、乗員への影響を評価できます。

図17 オフセット前面衝突試験
図17 オフセット前面衝突試験

出典:国土交通省の資料を抜粋して作成

3)側面衝突試験

衝突時に変形するアルミハニカムを装着した重量1,300kgの台車を車両の運転席側へ車速55km/hで衝突させる試験方法です。

図18 側面衝突試験
図18 側面衝突試験

出典:国土交通省の資料を抜粋して作成

4)後面衝突頚部保護性能試験

後面からの衝突を行い、頚部の保護性能を評価します。自動車の衝突事故における乗員傷害の内、後面衝突が最も多く、ほとんどが頚部の傷害です。いわゆる、「むちうち」に対する乗員保護性能の評価となります。他の衝突試験と異なり、実車を衝突させるのではなく台上試験機で行われます。この試験は、同じ車両が停車中の車両に時速約36.4kmで衝突した衝撃を模擬しています。

2 衝突試験に適用される技術

1)ダミー人形

衝突試験の際にダミー人形(人体模型)を使用します。人間と同等の動きとなるように設計されています。乗員の傷害値を計測できるように加速度・荷重・変位などを計測するセンサを取り付けます。衝突試験の条件や性別、体重等によって使い分けます。

  • フルフラップ前面衝突試験用:「ハイブリッドⅢ」と呼ばれます。米国で開発されました。大人の男性(身長175cm、体重約78kg)を模擬したものです。
  • オフセット前面衝突試験用:運転席にはフルラップ前面衝突試験と同じダミー人形を搭載します。後部座席には、運転席と同様の種類の「ハイブリッドⅢ」の大人の女性(身長150cm、体重約49kg)のダミーを搭載します。
  • 側面衝突試験用:「ユーロSID-2」と呼ばれるダミーを搭載します。ヨーロッパで開発されました。大人の男性(身長170cm、体重約72kg)を模擬したものです。
  • 後面衝突頚部保護性能試験用:「BioRIDⅡ」と呼ばれます。後面衝突試験用に開発されました。「ハイブリッドⅢ」に近い(身長175cm、体重約78kg)仕様になっています。

ダミー人形を衝撃試験に供試すると数回の試験ごとにダミー人形を検定するようです。図19は衝突試験で使用するダミーの一例です。

図19 衝突試験用ダミー人形
図19 衝突試験用ダミー人形

2)ハイスピードカメラ

衝突試験では加速度等を検出するセンサだけでなくハイスピードカメラ(高速度カメラ)撮影による画像解析も行われます。車両の測定箇所やダミー人形にターゲットマークを貼付します。ハイスピードカメラの一般的な仕様は、1,000コマ/秒、100万画素以上となっています。また、一台だけでなく複数台使用されます。

図20 ターゲットマーク
図20 ターゲットマーク

3)衝突設備

各種の衝突試験を実施するためには大規模な試験機材や走行路が必要となります。図21は前面衝突試験設備の一例です。直線部は100mを超える長さとなっています。設備の基本構成は、助走路、牽引装置、バリア(障壁)、ハイスピードカメラ&照明、実車搭載機器となります。試験項目によっては実車の衝突を模擬する台上試験機も必要です。

図21 衝突試験設備
図21 衝突試験設備

空力性能

本稿では、ボディの衝突安全性について解説しましたが、ボディのもう一つの性能として空力性能(aerodynamics エアロダイナミクス)も設計要件となります。ボディの空気抵抗を減らせば、燃費(電動車であれば電費)の向上につながります。コンピュータ解析を駆使することは言うまでもなく、実車での風洞試験も実施されています。

図22 風洞試験設備
図22 風洞試験設備

ボディの空力特性を改善するために、小さな部品でも空気の流れを改善する方策が施されています。図23はリヤコンビネーションランプに設けられたフィン状突起です。風の乱れを抑制する効果があります。

図23 リヤコンビネーションランプのフィン状突起の例
図23 リヤコンビネーションランプのフィン状突起の例

関連計測器の紹介

車のボディ構造に関連した計測器の一例を紹介します。

図24 車のボディ構造に関連した計測器の例
図24 車のボディ構造に関連した計測器の例

その他の製品や仕様については 計測器情報ページ から検索してください。

おわりに

車のボディは制約のある限られた寸法に収めなければならないですが、シミュレーション技術や材料・製造方法の進化とともに設計の自由度は高まってきました。今後も自動車の個性を主張するとともに、安心安全を向上させる構造が追及されるでしょう。


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