市場動向詳細

自動車の安心・安全を評価する仕組み〜日本の自動車アセスメントJNCAP

本記事は、2021年1月18日に公開した「自動車の安心・安全を評価する仕組み〜日本の自動車アセスメントJNCAP ~」を基に改版したものです。主な改版事項は、自動車アセスメント(NCAP)に関連したデータやルールの更新です。

公益財団法人 交通事故総合分析センタが公表している統計データによると、交通事故の発生件数や負傷者数は平成16年以降減少傾向にあるものの、死者数については下げ止まり感があります(図1)。また、状態別死者数の推移は、安全システムの搭載が進んでいるので、自動車乗車中は改善されつつありますが(図2)、いわゆる交通弱者に分類される歩行者や自転車、二輪車の割合が7割近くを占めています(図3)。自動車は各種の法規に準拠して設計され認証を受けた後に販売されていますが、より安心・安全な自動車開発の促進を目的にした自動車アセスメントが実施され、法規以上の安心・安全な自動車の普及が進んできました。本稿では、まず自動車の安心・安全を評価する自動車アセスメントが導入された背景や評価方法を概説します。次に、日本の自動車アセスメントの評価項目や方法などを図表で示し、自動車の安心・安全を向上させる機能について説明します。最後に関連する計測器を紹介します。

《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、本稿で取り扱う安心・安全を向上させる機能は万能ではありません。詳細は車両メーカ各社の情報を確認ください。》

図1 交通事故発生状況の推移(平成10年~令和4年)
図1 交通事故発生状況の推移(平成10年~令和4年)

出典:交通事故総合分析センタ(ITARDA)の公表データを元に作成

図2 状態別死者数の推移(平成10~令和4年)
図2 状態別死者数の推移(平成10~令和4年)

出典:交通事故総合分析センタ(ITARDA)の公表データを元に作成

図3 状態別死者数の割合(令和4年)
図3 状態別死者数の割合(令和4年)

出典:交通事故総合分析センタ(ITARDA)の公表データを元に作成

自動車アセスメントの歴史

自動車の安全に関するアセスメントは1978年に米国運輸省の道路交通安全局(National Highway Traffic Safety Administration、NHTSA、ニッツァと呼称)で評価が開始されました。名称はNCAP(New Car Assessment Program、新自動車アセスメントプログラム、エヌキャップと呼称)です。

1979年の春にNHTSAは米国運輸省ビルの中庭で、衝突試験後の車両を展示した大規模な記者会見を開催し、1978年の車両の衝突試験の結果を公表しました。同じような車格の米国製と日本製の車両の比較は世界中の自動車メーカへ衝撃を与えたと言われています。NCAP法制化の目的は2つあると言われています。一番目は、自動車の購入を検討している消費者に衝突時の安全性について尺度を提供することです。二番目は自動車メーカに対して、乗員の安全性を向上させる設計を推奨することを市場の力で確立することでした。

テストの概要は、車両を強固な壁に高速で正面衝突させて、乗員保護能力を評価することです。テストの実施手順や評価項目は、安全性を向上させるため継続的に見直されています。法制化後の経過を表1にまとめました。1978年の評価適用から始まり、1993年に評価結果をわかり易くするために5つ星で示すようになりました。1996年、2000年には正面衝突に加えて側面衝突や横転の評価が追加され、2013年以降には衝突の要件だけでなく後方カメラの装備、緊急ブレーキの装備など、安全性を向上させる機能の追加が法制化されました。

表1 NCAPの評価項目の沿革
要件
1978年 正面衝突試験による乗員保護能力の評価を開始
1993年 評価結果を数値形式から5つ星形式へ変更。安全性の評価がわかり易く実施可能
1996年 側面衝突の評価を追加
2000年 転倒の評価を追加
2006年 新車の窓に5つ星の安全性評価を貼付することを義務付け
2013年 後方カメラの装備を推奨
2016年 緊急ブレーキシステムの装備を推奨

NCAPは、米国連邦法で義務付けられている以上の衝突保護および横転安全性に関する情報を消費者へ提供するため、5つ星の安全性評価プログラムを構築しました。1つ星は最低評価、5つ星は最高評価です。星の数が多いほど、車両がより安全であることを示します。5つ星を評価する試験項目は、正面衝突試験、サイドバリア衝突試験、サイドポール衝突試験、ロールオーバ(横転)試験です。衝突試験の結果と先進運転支援システムの搭載状況も踏まえて、車両としての評価である、総合車両スコアを算出します。総合評価の判定基準は以下の通りです。

★★★★★ この車両の全体的な負傷リスクは平均よりもはるかに低い
★★★★ この車両の全体的な負傷リスクは平均以下から平均以下
★★★ この車両の全体的な負傷リスクは平均以上
★★ この車両の全体的な負傷リスクは平均より大きい
この車両の全体的な負傷リスクは平均よりもはるかに高い

評価の詳細は、米国運輸省道路交通安全局のサイトをご覧ください。https://www.nhtsa.gov/ratings

図4は米国運輸省道路交通安全局のサイトで車両を選択して評価結果を作成した例です。2011年の総合評価は★★★★ですが、2022年では最高評価の★★★★★になっているので、安全性が向上していることが判ります。評価項目は上から、Overall Rating:総合評価、Frontal Crash:前面衝突評価、Side Crash:側面衝突評価、Rollover:転倒評価です。

図4 NHTSA 評価結果例(TOYOTA CAMRY)
画像のキャプション

出典:NHTSAサイトhttps://www.nhtsa.gov/ratings で車両を選択し作成

米国のNCAP制定を受けて他の国や地域でもNCAPが実施されてきました。名称はNCAPを引用し、Euro NCAP(欧州)、JNCAP(日本)などです。実施されている評価項目や試験方法は、各国や地域の交通事情や交通事故発生状況を考慮して決められています。米国では、米国運輸省道路交通安全局のNCAPとは別により厳しい条件での評価を道路安全保険協会(IIHS:Insurance Institute for Highway Safety)が実施し、評価結果を公表しています。
https://www.iihs.org/ratings

各国や地域での適用が増えてきたことから、世界のNCAPを取りまとめるプロジェクト(Global NCAP)が発足し活動しています。世界中のNCAPのサポートや世界会議を開催してNCAPに関する情報の共有を行っています。日本も会議に参加しています。Global NCAPのサイトから各国、地域のNCAPへリンクされています。
http://www.globalncap.org/

日本の自動車アセスメント

日本で行われている自動車アセスメント(JNCAP)は国土交通省の規程で定められています※1。運用は国土交通省と独立行政法人 自動車事故対策機構(NASVA:ナスバと呼称)が一体となって実施しています。1995年に衝突安全性能評価が開始されました。その後、2024年度までに各種の評価が追加されました。表2はJNCAPの沿革です。2014年に、従来の衝突安全性評価に加えて、予防安全性能評価が開始されました。最初の評価試験は「被害軽減ブレーキ性能」です。

※1

自動車の安全性能に関する評価等に関する規程(平成十一年七月二十一日運輸省告示第四百四十号)

表2 JNCAPの沿革
年度 試験、評価項目 沿革
1995年度 衝突安全性能評価を開始(フルラップ前面衝突試験)
ブレーキ性能試験を開始
1999年度 側面衝突試験を開始
2000年度 オフセット前面衝突試験を開始
2001年度 チャイルドシートアセスメントを開始(前面衝突試験と使用性評価)
2003年度 歩行者頭部保護性能試験を開始
2008年度 サイドカーテンエアバッグの評価を開始
2009年度 後面衝突頚部保護性能試験を開始
前面衝突後席乗員保護性能評価を開始
後席シートベルト使用性評価試験を開始
座席ベルトの非装着時警報装置評価試験を開始
2011年度 歩行者脚部保護性能試験を開始
衝突後の感電保護性能の評価を開始
2014年度 予防安全性能評価の開始(被害軽減ブレーキ(対車両)試験と車線はみ出し警報試験)
2015年度 後方視界情報試験を開始
ブレーキ性能試験を終了
2016年度 被害軽減ブレーキ(対歩行者[昼間])試験を開始
2017年度 車線はみ出し警報試験から車線逸脱抑制試験に変更
後席シートベルト使用性評価試験を終了
2018年度 被害軽減ブレーキ(対歩行者[夜間:街灯あり条件])試験を開始
高機能前照灯の評価を開始
ペダル踏み間違い時加速抑制試験(対障害物)を開始
事故自動通報装置の評価を開始
2019年度 被害軽減ブレーキ(対歩行者[夜間:街灯なし条件])試験を開始
2022年度 被害軽減ブレーキ(対自転車)試験を開始
2023年度 後方視界情報試験を終了
ペダル踏み間違い時加速抑制試験(対歩行者)を開始
2024年度 被害軽減ブレーキ(対車両)試験を終了
被害軽減ブレーキ [交差点(対車両:右直)] 試験を開始
被害軽減ブレーキ [交差点(対歩行者:右左折)] 試験を開始
オフセット前面衝突試験を新オフセット前面衝突試験に変更

出典:NASVAが公開している資料をもとに作成

諸外国との評価内容の違い等については、国土交通省のサイトをご覧ください。
https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/02assessment/foreignCountries.html

各種試験を実施する際の全体の流れを説明します。とりまとめは、自動車アセスメント評価検討会で行います。メンバは国土交通省、学識者、関係団体委員で構成されています。メンバ数は国土交通省を除くと17名です(令和6年7月時点)。

検討会で実施要領(評価項目等)、評価対象車の選定、試験の実施(自動車事故対策機構が実施)、試験結果をとりまとめ、国土交通省が評価結果を公表します。対象車両を選定する考え方は、その年度(もしくは前年)に発売された新規車種(もしくはマイナーチェンジが実施された)中から、販売台数の多いものが選ばれているようです。車両メーカが試験を依頼することもあるようです。試験の準備から実施するまでに要する期間は、衝突安全性能評価は2ヶ月程度、予防安全性能評価は1ヶ月程度と言われています。

図5 自動車アセスメントの流れ
図5 自動車アセスメントの流れ

出典:国土交通省が公開した資料を抜粋して作成

図6 自動車アセスメントの全体像
図6 自動車アセスメントの全体像

出典:国土交通省が公開した資料を抜粋して作成

自動車安全性能評価

2020年度以降の評価項目沿革について概説します。

  1. 2020年度
    2019年度までは、「衝突安全性能」や「予防安全性能」など、別々に評価をしていましたが、2020年度から、総合的に評価することになりました。自動車安全性能をより判りやすくするためです。
  2. 2022年度
    2022年度から、「衝突被害軽減ブレーキ」について、自転車との事故に対応した新たな評価を導入されました。「総合評価」は、「予防安全性能」、「衝突安全性能」及び「事故自動緊急通報装置」の総合得点により決まる★の数で示され、★の数が多いほど総合的な安全性能が高いことが示されます。
  3. 2023年度
    2023年度から「ペダル踏み間違い時加速抑制装置性能」について、歩行者との事故に対応した新たな評価が追加されました。
  4. 2024年度
    2021年3月29日に「中央交通安全対策会議」※2で決定した「第11次交通安全基本計画」では、「道路交通の安全」に関して、対策の柱として、車両の安全性の確保」が掲げられました。
※2

内閣府に設置されている会議。会長は内閣総理大臣。会議の概要は次の通りです。「交通安全基本計画の作成及びその実施の推進その他交通安全に関する総合的な施策で重要なものの企画に関する審議及びその実施の推進を目的として、中央交通安全対策会議を開催」

図7 第11次交通安全基本計画(令和3年3月29日決定)
図7 第11次交通安全基本計画(令和3年3月29日決定)

出典:国土交通省が公開した資料を抜粋して作成

「第11次交通安全基本計画」を受けて、国土交通省内に設置された「交通政策審議会」では今後の自動車アセスメントの重点テーマを設定し、ロードマップに反映しました。図8において、黄色のハイライト部分が自動車アセスメントの関連事項です。「★」付の項目は2024年度から導入される項目です。

図8 交通政策審議会陸上交通文化会自動車部会報告書(概要)
図8 交通政策審議会陸上交通文化会自動車部会報告書(概要)

出典:国土交通省が公開した資料を抜粋して作成

自動車アセスメントロードマップ2024で定められているアセスメントの計画は図9です。

図9 自動車アセスメントロードマップ2024
図9 自動車アセスメントロードマップ2024

出典:国土交通省が公開した資料を抜粋して作成

2024年度から導入される評価項目は従来通り「衝突被害軽減ブレーキ」、「乗員保護性能」及び「歩行者保護性能」です。「衝突被害軽減ブレーキ」については、交差点で直進してくる対向車の前方を自車が右折した場合や、交差点を自車が右左折した先で歩行者が横断する場合の評価項目が追加されました。「乗員保護性能」については、オフセット前面衝突時に、従来の自車乗員の保護性能(Self Protection:SP)に加えて、新たに追加された衝突した相手車への加害性低減性能(Partner Protection:PP)についても評価されます。「歩行者保護性能」については、「脚部保護」の評価対象部位が拡大され、膝部や脛部の保護性能に加えて、大腿部の保護性能についても評価されます。

図10 2024年度から導入された項目
図10 2024年度から導入された項目

出典:国土交通省が公開した資料を抜粋して作成

安全性能評価の「総合評価」は、「予防安全性能」、「衝突安全性能」及び「事故自動緊急通報装置」の総合得点により決まります。総合評価の★は、「★★★★★」から「★」までの5段階です。「自動車安全性能2024」の最高評価(★★★★★)を獲得するたには、「予防安全性能」及び「衝突安全性能」が最高評価(評価結果のランク)を取得し、かつ、「事故自動緊急通報装置」を備えていることが求められます。

以下、最新の評価方法について紹介します。最新の自動車アセスメントの詳細については、次のサイトをご覧ください。
https://www.nasva.go.jp/mamoru/about/about.html

2023年12月末時点の安全装置の装備状況(メーカ別、車種別)は次の資料をご覧ください。
https://www.nasva.go.jp/mamoru/download/JNCAP_2023.12_safety_devices.pdf

自動車アセスメントの評価する性能区分と試験項目は表3です。評価区分は車両としての「衝突安全性能」、「歩行者保護性能」、「座席ベルトの非装着時警報装置」、「予防安全性能」、「事故時自動緊急通報装置」です。「チャイルドシートアセスメント」も実施されます。

表3 自動車アセスメントの評価する性能区分と試験項目
性能区分 試験方法
衝突安全性能 フルラップ前面衝突試験
新オフセット前面衝突試験
側面衝突試験
電気自動車等の衝突試験時における感電保護性能試験
後面衝突頚部保護性能試験
歩行者保護性能 歩行者頭部保護性能試験
歩行者脚部保護性能試験
座席ベルトの非装着時警報装置評価 座席ベルト非着用時警報装置試験
予防安全性能 衝突軽減ブレーキ(対歩行者:昼間)
衝突軽減ブレーキ(対歩行者:夜間[街灯あり]
衝突軽減ブレーキ(対歩行者:夜間[街灯なし]
衝突軽減ブレーキ(対自転車)
被害軽減ブレーキ(交差点における右折時の対向車との衝突に対して):2024年度から
被害軽減ブレーキ(交差点における右左折時の横断歩行者との衝突に対して):2024年度から
車線逸脱抑制
後方視界情報提供装置性能試験方法PDF【改定:2022年3月23日】(2022年度まで)
ペダル踏み間違い時加速抑制装置
高機能前照灯
事故自動緊急通報装置装備 事故自動緊急通報装置
チャイルドシートアセスメント チャイルドシート前面衝突安全性能試験
チャイルドシート使用性評価

出典:NASVAが公開している資料を元に作成

主要な試験項目について概説します。各々の図はNASVAのサイトから引用しました。詳細は以下のURLをご覧ください。
https://www.nasva.go.jp/mamoru/download/car_download.html#h05

1) 衝突安全性能評価

https://www.nasva.go.jp/mamoru/assessment_car/newtest.html

①フルフラップ前面衝突試験

フルフラップ前面衝突試験

試験車を時速50kmでコンクリー卜製の障壁(バリア)に正面衝突させ、衝撃や室内の変形をもとに、乗員保護性能の度合いを5段階で評価します。

②新オフセット前面衝突試験

新オフセット前面衝突試験

従来、実施していた自車乗員の保護性能(Self Protection:SP)に加え、衝突相手車への加害性低減性能(Partner Protection:PP)についても評価します。

③側面衝突試験

側面衝突試験

自動車の衝突事故における乗員傷害のうち、前面衝突に続き傷害程度の大きな衝突形態として側面衝突があります。静止状態の試験車の運転席側に、台車を衝突させます。台車は一般的な乗用車と同様な固さを持つアルミハニカムの衝撃吸収部材を取り付けてあります。

④電気自動車等の衝突試験時における感電保護性能試験

電気自動車等の衝突試験時における感電保護性能試験

電気自動車及び電気式ハイブリッド自動車が、衝突事故を起こした場合、乗員が高電圧により感電しないことが求められます。フルラップ前面衝突試験、オフセット衝突試験、側面衝突試験を実施した際、「感電保護性能要件」、「高電圧バッテリーの電解液漏れの有無」、「高電圧バッテリーの固定状況」の評価を行います。適合が確認されると、マークによる表示を行います。

⑤後面衝突頚部保護性能試験

後面衝突頚部保護性能試験

自動車の衝突事故における乗員傷害のうち、後面からの衝突が乗車中の事故形態の中で最も多く、ほとんどは頚部の傷害となっています。後面衝突を再現できる試験機を用い、衝突された際に発生する衝撃(速度変化、波形等)をもとに、頚部保護性能の度合いを5段階で評価します。

2) 歩行者保護性能

①歩行者頭部保護性能試験

歩行者頭部保護性能試験

自動車が一定の速度で歩行者をはね、歩行者の頭部が自動車のボンネット及びフロントウィンドウ等に衝突したことを想定して、試験を行います。

②歩行者脚部保護性能試験

歩行者脚部保護性能試験

「歩行者脚部保護性能」については、2024 年度より評価対象部位を拡大し、膝部や脛部の保護性能に加え、大腿部の保護性能についても評価します。

③座席ベルトの非装着時警報装置評価

座席ベルトの非装着時警報装置評価

シートベルトリマインダは、乗員がシートベルトを装着していない時に、運転者等に知らせる装置です。運転者以外の乗員のシートベルトの着用率の向上を図り、死傷者数の低減を図ることを目的としています。

3) 予防安全性能評価

https://www.nasva.go.jp/mamoru/active_safety_search/about_active_safety.html

①衝突軽減ブレーキ(対歩行者:昼間)

衝突軽減ブレーキ(対歩行者:昼間)

昼間の道路を横断中の模擬歩行者(ターゲット)に10~60km/h で試験車を接近させて、警報及び被害軽減ブレーキの作動状況を確認します。

②衝突軽減ブレーキ(対歩行者:夜間)

衝突軽減ブレーキ(対歩行者:夜間)

夜間の道路を横断中の模擬歩行者(ターゲット)に30~60km/h で試験車を接近させて、警報及び被害軽減ブレーキの作動状況を確認します。

③衝突軽減ブレーキ(対自転車)

衝突軽減ブレーキ(対自転車)

昼間の道路を横断中又は前方を直進中の模擬自転車(ターゲット)に10~60km/h で試験車を接近させて、警報及び被害軽減ブレーキの作動状況を確認します。

④被害軽減ブレーキ(交差点における右左折時の歩行者および対向車との衝突に対して)

被害軽減ブレーキ(交差点における右左折時の歩行者および対向車との衝突に対して)

交差点内での事故を模擬した試験です。右左折時の歩行者や車両との事故に対応した警報や被害軽減ブレーキの作動により評価します。

⑤車線逸脱抑制

車線逸脱抑制

試験車両を60km/h及び70km/hで道路に引かれた車線からはみ出すように走行させたときに、車線を維持するよう試験車両を制御するか否かを確認します。正式名称:車線逸脱抑制装置(Lane Departure Prevention System、LDPS)

⑥ペダル踏み間違い時加速抑制装置

ペダル踏み間違い時加速抑制装置

「ペダル踏み間違い時加速抑制装置」の評価に、歩行者との事故に対応した評価が追加されました。ブレーキペダルとアクセルペダルを踏み間違えた状況を模擬するために、試験⾞を模擬⾞両や模擬歩⾏者に接近させ、停⽌状態から急速にアクセルペダルを踏み込みます。その際に、衝突防⽌または被害軽減のために急発進、急加速を抑制するかを確認します。

⑦高機能前照灯

高機能前照灯

夜間走行時に前方の交通状況によって、前照灯の照射範囲を自動的に適切なものへ変更させることを目的とした「自動防眩型前照灯」又は「自動切替型前照灯」の機能を備えているか否かを確認します。

4) 事故自動緊急通報装置

事故⾃動緊急通報装置は、エアバッグが展開するような事故が発生した際、自動的にコールセンターへ通報するシステムです。事故発生から治療開始までの時間短縮や死者数の減少に効果があります。国連欧州経済委員会自動車基準調和世界フォーラム(WP29)で採択されたことを踏まえての導入です。新型車は2020年1月1日から、継続生産車は2021年7月1日からの適用が義務付けられています。装置の基本性能により、基本型は「事故自動通報装置(ACN:Automatic Collision Notification)」、先進型は「先進事故自動通報装置(AACN:Advanced Automatic Collision Notification)」です。両装置の違いは、AACNでは、自動的に通報される事故時の情報に、車内乗員の傷害を予測することができる情報が含まれていることです。事故の状況により、ドクターヘリやドクターカの出動が可能となります。

図11 事故自動通報装置(ANC)の概要
図11 事故自動通報装置(ANC)の概要

出典:NASVAが公開している資料を抜粋して作成

図12 先進事故自動通報装置(AACN)の概要
図12 先進事故自動通報装置(AACN)の概要

出典:NASVAが公開している資料を抜粋して作成

評価方法は、該当車両に事故自動通報装置が搭載されているかどうかを判定することが基本です。その装置の仕様により評価点が異なります。自動的に通報される事故時の情報に、車内乗員の傷害予測のための情報を送信する装置の方が高い得点が与えられます。装置の性能基準として4つの型が定義されています。

  • 先進型:保安基準に適合する事故自動緊急通報装置のうち、当該車両の乗員の傷害予測のための情報を送信する装置。
  • 基本型:「先進型」以外の保安基準に適合する事故自動緊急通報装置。
  • 基本型(基準非対応):保安基準非対応であるが、継続生産車への基準適用までの間は評価対象となる、事故自動緊急通報装置(基本型)と同様の機能を有する装置(携帯電話利用型は除く)。
  • 先進型(基準非対応):保安基準非対応であるが、継続生産車への基準適用までの間は評価対象となる、事故自動緊急通報装置(先進型)と同様の機能を有する装置(携帯電話利用型は除く)。

評価点は次の通りです。評価点がアセスメントに反映されます。

  • 先進型/先進型(基準非対応):8点
  • 基本型/基本型(基準非対応):2点

5) チャイルドシートアセスメント

チャイルドシートのアセスメントは2001年度に開始されました。市販のチャイルドシートを対象に、全面衝突試験と使用性評価試験を実施し、結果を安全性能評価として公表されます。図13で示す通り、試験用の台車に固定された試験用シートにチャイルドシートと子供のダミーを取り付けます。そして、台車を速度変化が時速55km(国の安全基準の速度の1割増)となるように打ち出し、自動車が前面衝突した場合と同様の衝撃を発生させます。チャイルドシートは一般の量販店で購入したものを使用します。チャイルドシートの取付部等の破損状況、ダミーの頭部や胸部の合成加速度、ダミー頭部の前方への移動量などの項目を計測します。

図13 チャイルドシート前面衝突試験方法
図13 チャイルドシート前面衝突試験方法

出典:NASVAが公開している資料を抜粋して作成

チャイルドシードに関するパンフレットはNASVAのサイトをご覧ください。販売されている各社の商品について評価結果が記載されています。2024年3月版「チャイルドシート安全比較BOOK」
https://www.nasva.go.jp/mamoru/download/JNCAP_2024.3_panf_child.pdf

予防安全システムの注意事項

本稿で解説した予防安全システムは、万能ではありません。その性能を過信することなく、安全運転を徹底しましょう。以下、予防安全システムに対する注意事項です。

自動車が前方の自動車、歩行者や自転車等を検知し警告やブレーキの作動を行う「被害軽減ブレーキ」は、ドライバーがきちんと安全運転をしていることを前提にしています。
システムが作動する速度条件や認識できる距離は、検出装置の方式や車種によって異なります。
また、気象条件や路面状態等、周囲の環境や歩行者や自転車の状況等によってはシステムが作動しない場合や、十分な効果を発揮しない場合(*)があります。
取扱説明書でよく確認をしたうえで、システムに頼った運転はせず、安全運転をこころがけてください。

(*)十分な機能を発揮しない例

  • 夜間や雨天の場合
  • 窓の汚れがある場合
  • ダッシュボード上に置かれたものが反射している場合
  • 検出装置の前に遮断物がある場合
  • 精度保持のための専門店によるメンテナンスが不足している場合
  • 歩行者や自転車が飛び出してきた場合

出典:NASVAが公開している資料を抜粋して作成

JNCAPの最新評価結果

1) ファイブスター大賞

2024年5月28日に2023年度に実施した自動車アセスメント(乗用車12車種、軽自動車4車種)の中で最高評価であるファイブスター賞※3を得た中で、最高得点を獲得した「スバル クロストレック/インプレッサ」が「ファイブスター大賞」※3となりました。詳細はNASVAのサイトをご覧ください。
https://www.nasva.go.jp/gaiyou/pdf/2024/20240528_1.pdf

※3

「ファイブスター賞」とは、予防安全性能と衝突安全性能が最高ランクであり、事故自動緊急通報装置を搭載している。「ファイブスター大賞」とは、ファイブスター賞を獲得した車種の中で、最高得点を獲得した車種が同賞を獲得

2) 2024年度 評価結果

2024年度の評価結果が、2024年11月6日、12月6日に公表されました。

  • 車種:クラウン セダン / トヨタ
      :CIVIC / ホンダ
  • 評価結果:ファイブスター賞
表4 2024年度のファイブスター賞
ブランドトヨタホンダ
車種クラウン セダンCIVIC
領域評価項目評価評価
総合評価 評価結果 ★★★★★ ★★★★★
得点率 95% 94%
評価点(193.8点満点) 184.30 182.44
  • 試験映像リンク
  • 詳細結果
表5 最新の自動車安全性能2024結果詳細
ブランドトヨタホンダ
車種クラウン セダンCIVIC
領域評価項目評価評価
予防安全性能 AEBS(対歩行者:昼) 100% 100%
AEBS(対歩行者:夜) 100% 100%
AEBS(対自転車) 98% 100%
AEBS(交差点) 76% 91%
車線逸脱 100% 100%
高機能前照灯 100% 100%
ペダル踏み間違い時加速抑制 100% 70%
予防安全性能総合評価 ランク A A
得点率 97% 98%
総合得点(85.5点満点) 83.78 84.80
領域評価項目評価評価
衝突安全性能 フルラップ全面衝突 99% 97%
新オフセット前面衝突 87% 88%
側面衝突 100% 100%
後面衝突頚部保護 94% 78%
歩行者頭部保護 87% 81%
歩行者脚部保護 96% 93%
シートベルトリマインダ 88% 77%
予防安全性能総合評価 ランク A A
得点率 92% 89%
総合得点(100点満点) 92.52 89.64
領域評価項目評価評価
事故後 種類 先進型 先進型
得点率 100% 100%
評価点(8点満点) 8 8

出典:NASVAが公表した資料を元に作成

自動車アセスメント導入による効果

自動車アセスメントの結果によると、自動車の衝突安全性能が長期的に向上していることが判ります。図16は評価結果の割合の推移です。星の数がほぼ5以上になっていることが判ります。

図14 衝突安全性評価の推移(2000年から2006年)
図14 衝突安全性評価の推移(2000年から2006年)

出典:国土交通省が公開した資料を抜粋して作成

国土交通省が所管する「車両安全対策検討会」が公開した資料によると、2023年に発生した死者数は2020年に比べて減少していることが判ります。グラフ中の略語は以下の通りです。RUP:突入防止装置、FUP:全部滑り込み防止装置、SBR(シートベルトリマインダ)安全対策の内容や集計の条件等の詳細は、次の資料をご覧ください。
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001843041.pdf

図15 削減効果の算出結果
図15 削減効果の算出結果

出典:国土交通省が公開した資料(第2回車両安全性対策検討会 令和6年11月7日)を抜粋して作成

今後の車両安全対策の方向性

自動車アセスメントの中で衝突安全に関する項目や実験方法については、今後もより安全指向で見直されて行くと推察しますが、予防安全性能については、技術革新を踏まえて、要求される機能や性能が急速に拡大すると思われます。世界のNCAPの中で特に厳しいとされるEURO NCAPでは、「Euro NCAP 2030 VISION」が公開されました。従来の自動車安全に焦点をあてた活動だけでなく、将来のモビリティ環境においてEuro NCAPが果たす役割をビジョンとして掲げています。

  • 運転支援システムおよび自動運転システムのテストと評価
  • 運転者の機能障害と認知的注意散漫を監視する技術の評価
  • 速度支援技術の実用的有効性をさらに向上させるための要件
  • 実際の道路環境をより厳密にシミュレートし、ヒューマンマシンインタラクション(HMI)設計を検査するアクティブセーフティテストにより、堅牢で効率的な運転支援システムを確保
  • V2V、V2I、V2X通信によって実現される安全機能のテストと評価
  • 男女平等とドライバー/乗員の高齢化に重点を置いたパッシブセーフティテスト
  • 電気自動車の火災リスクと熱暴走の評価と、第一・第二対応者への情報の改善
  • 車両のセキュリティとデータ アクセスに関するベスト プラクティスを推進

主なマイルストーンは図18です。

表6 Euro NCAP 主なマイルストーン
領域 追加項目 2026 2029 2030
安全運転 M1 インテリジェントなスピードアシストを超えて    
M2 ドライバーアウェアネス: 運転能力の低下から認知的注意散漫まで
M3 ADグレーディング: ドメイン拡張とドライバーエンゲージメント
衝突回避 M4: 堅牢性の向上と実世界での有効性  
M5: 車両コネクティビティの活用  
M6: ペダルの踏み間違い 衝突保護    
衝突保護 M7: 高齢者保護: そりによる低重症度テスト    
M8: 遠方側および側面の衝突前インセンティブ  
M9: モデリングによる保護の公平性
M10: むち打ち保護の同等性  
M11: パッシブVRU保護 – Aピラーとマイクロモビリティ 衝突後保護  
衝突後保護 M12: Dコールを含む次世代アップデート  

出典:Euro NCAPが公開した資料を元に作成■:適用開始、改版

関連計測器の紹介

NCAPに関連した計測器の一例を紹介します。

図16 NCAPに関連した計測器の例
図16 NCAPに関連した計測器の例

その他の製品や仕様については計測器情報ページから検索してください。

おわりに

自動車安全アセスメント(JNCAP)が導入されたことから、消費者が新車を購入する際の安全性の指標が得られ、より安全な車種が選択できるようになりました。その結果、自動車メーカがより安全な車両を設計し提供することにつながっています。今後も自動車の安心・安全が向上し、死亡事故ゼロに向けた取り組みが進展することを期待しましょう。

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