市場動向詳細

自動車用内燃機関の進化~まだまだ活躍するガソリンエンジン

自動車の三大要素である「走る」「曲がる」「止まる」の中で、エンジンは「走る」を支える主要な機能です。近年の自動車はECU※1によって、三大要素を協調制御しています。一方、各国が目標として掲げるカーボンニュートラルへ対応するためにガソリンを燃料とする自動車の販売が大きく制限される方向となっています。日本※2においても、2030年代にはガソリン車の販売が禁止される方針が示されています。その対応策として注力されているのが電気自動車です。しかしながら、ガソリン車から急速に電気自動車へ移行することは、バッテリの技術課題や経済性、インフラの整備等、課題が多くあります。そのため、ハイブリッド車や水素エンジン等のエンジン技術が併用されることもカーボンニュートラルへの対応として位置づけられています。

本稿では、自動車用のエンジンに関する技術、いわゆる内燃機関の基本的な技術を紹介します。まず、内燃機関の歴史を述べ、その後に、内燃機関の原理、基本構造、内燃機関を構成する主要部品を説明します。基本であるオットーサイクルやPV線図から始まり、ガソリンエンジンとディーゼルエンジン、ロータリエンジンの違いを述べます。部品はシリンダ、ピストン、ターボチャージャ、点火プラグなどを概説し、進化の技術として可変圧縮比や希薄燃焼、直噴などに触れます。最後に内燃機関の開発で使用される計測器を紹介します。

※1

(Electronic Control Unit)システムを制御する装置、イーシーユーと呼称される。

※2

参考情報として、国土交通省が公表している自動車の燃費を紹介します。詳細は以下のサイトをご覧ください。
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha10_hh_000263.html
欧州においては、欧州自動車工業会(European Automobile Manufacturers Association:ACEA)が欧州委員会に対して内燃機関が禁止されることの回避を提案しています。

【普通・小型自動車部門】
順位 車名 通称名 WLTCモード燃費値
(km/L)
1 トヨタ ヤリス 36.0
2 トヨタ アクア 35.8
3 トヨタ プリウス 32.1
4 トヨタ ヤリス クロス 30.8
5 トヨタ カローラ スポーツ 30.0
6 ニッサン ノート 29.5
7 ホンダ フィット 29.4
8 トヨタ カローラ 29.0
トヨタ カローラ ツーリング 29.0
10 ホンダ インサイト 28.4

出典:国土交通省 令和3年末時点

《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、本稿に記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》

エンジンの歴史

自動車用の動力として、1700年代の後半に蒸気機関が採用されましたが、機構が大型で自動車用として実用化へ至らなかったようです。1870年代にドイツのニコラス・オットーが今のエンジンの基本型を作り上げました。このエンジンは後にオットーサイクルと呼称されています。その後、多くの研究者によって色々な取り組みがなされ、1885年にドイツのベンツによって世界最初のガソリン自動車(ベンツ パテント モーターカー)が製作されました。また、ディーゼルエンジンやロータリエンジンが開発されました。

エンジンの基本構造

1 基本原理

ガソリンエンジンの基本原理はオットーサイクルと言われます。燃焼サイクルの4工程「吸気」→「圧縮」→「燃焼」→「排気」で説明できます。図1は各工程を図示したもので、エンジンが2回転すると4工程となります。

  1. 吸入:ピストンが下降し始めると最上点(上死点)直前に吸気バルブを開いてシリンダ内に混合気を吸入します。
  2. 圧縮:吸入工程の後に吸気バルブを閉じ、ピストンが上昇すると混合気が圧縮されます。
  3. 燃焼:圧縮した混合気に点火プラグの火花で着火させ、燃焼ガスの圧力でピストンを押し下げます。
  4. 排気:ピストンが上昇し始めるピストンの最下点(下死点)より前に排気バルブを開いて燃焼ガスを排出します。
図1 4ストロークエンジンの工程
図1 4ストロークエンジンの工程

以上の燃焼サイクルを評価する方法として、図2のPV線図が使われます。縦軸がP(シリンダ内圧力)、横軸がV(シリンダ容積)で、PV線図で囲まれた領域がエンジンの仕事量を表します。図3は理想のオットーサイクルですが、実際は色々なロスが生じるので面積は減ります。つまり、熱を仕事に変換する効率が下がります。改善する方策として、効率の悪化を抑制するために、圧縮比を上げる(PV線図の行程容積)、燃焼速度を速める(PV線図の圧力軸方向)などが考えられます。

図2 オットーサイクルのPV線図
図2 オットーサイクルのPV線図

2 エンジンの種類

(1)ガソリンエンジン/ディーゼルエンジン

エンジンの種類を分けると、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンとなります。ガソリンエンジンの構造と基本的に同じですが、燃料としてCNG(Compressed Natural Gas:圧縮天然ガス)やLPG(Liquefied Petroleum Gas:液化石油ガス)を使用するエンジンもあります。ガソリンエンジンは前述の通り、オットーサイクルを原理としています。ディーゼルエンジンは、ディーゼルサイクルと呼称される4つの工程となります。各工程は「空気を吸入」→「圧縮」→「燃料を噴射して燃焼」→「排気」となり、ガソリンエンジンと大きく異なることは「燃焼」です。ガソリンエンジンは、点火プラグによる火花で着火させますが、ディーゼルエンジンは、気筒内に燃料を噴射し、圧縮された空気の熱で自然着火させます。

図3 ガソリンエンジンの点火イメージ
図3 ガソリンエンジンの点火イメージ
図4 ディーゼルエンジンの構造
図4 ディーゼルエンジンの構造

その他の方式として2ストロークサイクルがあります。過去に2輪車や軽自動車のエンジンとして採用されていました。図5は2ストロークサイクルの工程です。クランクシャフトの1回転で1回の燃焼となります。図5の左側はピストンが最上位を示しています。赤矢印で示している通り混合気が吸入されます。真ん中の工程は点火された状態です。その後、図5の右側の工程へ移行します。吸入された混合気がシリンダ内に流入するとともに、燃焼した排気ガスが図中の黒矢印の流れで排気されます。この時、排気工程で吸気された燃料が排気ガスに混じるため、排ガス規制の対応が困難となりました。現在、4輪車、2輪車とも採用されていません。

図5 2ストロークサイクル エンジンの工程
図5 2ストロークサイクル エンジンの工程

(2)ロータリエンジン

これまで説明してきたエンジンはピストンが往復運動する構造で、レシプロエンジンと呼称されます。自動車で採用されたその他の方式としてロータリエンジンがあります。ロータリエンジンは複数の構造がありますが、マツダ社が採用したロータリエンジンはバンケル型ロータリエンジンとなります。特徴を端的に表現すると「おむすび型のロータ」が回転します。ちなみに、ジェットエンジンもロータリエンジンに分類され、速度型ロータリエンジンと言われます。以降、バンケル型ロータリエンジンをロータリエンジンと呼称します。工程の概要は図6となります。4サイクルエンジンンのクランクシャフトに相当するエキセントリックシャフトの周りをおむすび型のロータが回り、ロータハウジングとロータとで、4サイクルエンジンと同じく「吸入」「圧縮」「燃焼」「排気」となります。ロータハウジングとロータとが接する面はペリトロコイド曲線となっています。4サイクルエンジンにある、吸入・排気のバルブはありません。吸排気のポートがロータによって解放されます。ロータが1回転する間にエキセントリックシャフトが3回転しますが、ロータの各辺で4工程が順番に行われるので、燃焼行程は1回転ごとに繰り返され、2回転に1回燃焼する4サイクルエンジンに比べて、高出力となります。

図6 ロータリエンジンの工程
図6 ロータリエンジンの工程

3 エンジンの構造

エンジンの構造は多くあります。基本構造はシリンダの配置と数で分類されます。

(1)シリンダの配置

直列はシリンダが一列に並べられています。水平対向はシリンダが向かい合うように並べられています。V型は直列に並べられたシリンダの列がV字のように配置されていますV字の角度は色々な条件により設定されています。W型は直列のシリンダの列がW字のように並べられています。欧州の上級車で採用されています。航空機のエンジンでは多気筒を星形に配置した例もあります。

図7 直列4気筒エンジンの例
図7 直列4気筒エンジンの例
図8 V型エンジンの例
図8 V型エンジンの例
図9 水平対向6気筒の例
図9 水平対向6気筒の例
図10 星形エンジンの例
図10 星形エンジンの例

(2)気筒数

シリンダの数です。例えば4気筒はシリンダの数が4です。直列4気筒でしたら、4つのシリンダが直列に配置されています。「V型6気筒」でしたら、直列3気筒がV字に配置されたエンジンです。「W型12気筒」の場合は直列3気筒がW字に配置されています。

4 主要部品

エンジンの基本構成は図11となります。エンジンブロック、ピストン、バルブ、点火プラグ、カムシャフト、コネクティングロッド(通称:コンロッド)、クランクシャフトなどで構成されています。

図11 エンジンの基本構成
図11 エンジンの基本構成

図12はエンジンを分解した一例です。多くの部品で構成されています。この例は直列4気筒です。

図12 エンジンの構成部品例
図12 エンジンの構成部品例

それでは、主要な部品の機能や特徴について説明します。

(1)エンジンブロック

エンジンの主要な部品が組み込まれる重要な部品です。冷却水が流れる水路やオイルの油路が設けられています。かつては、鋳鉄製でしたが、近年は軽量化や高性能化に対応するため、アルミ合金製が採用されています。

(2)ピストン

ピストンは往復運動を繰り返します。アルミの鋳造品が主流でしたが、高温や高圧力に耐え、さらに高出力化や高信頼性を両立させるため、鍛造によるピストンも採用されています。

図13 ピストン
図13 ピストン

ピストンの形状は円形ですが、過去に楕円形のピストンが開発されました。複数社によって開発された事例はありますが、実際に二輪車のレースや量産車で採用したのはホンダです。なお、楕円と表記しましたが、実際の形状は正規楕円包絡線形状です。

図14 楕円ピストンのイメージ
図14 楕円ピストンのイメージ

(3)ピストンリング

ピストンリングの機能は、1)ピストンとシリンダ間の気密性確保、2)ピストンの熱をシリンダへ放熱、3)潤滑油の確保です。一般的に3本のピストンリングが使用されます。

図15 ピストンリングとピストン
図15 ピストンリングとピストン

(4)クランクシャフト

ピストンの上下運動を回転運動に変換する部品です。ピストンとはコンロッドによって結合されています。図16は直列4気筒エンジンの例です。

図16 クランクシャフトの例
図16 クランクシャフトの例

クランクシャフトの形状によって、ピストンが往復する距離が決まります。シリンダの直径(ボアと呼称)とピストンの作動工程の長さ(ストロークと呼称)で気筒当たりの容積が決まります。そして、気筒数の合計が排気量となります。ストロークの長短でエンジンの特徴が現れます。ショートストロークエンジンでは高回転向きとされます。ロングストロークエンジンでは回転力(トルクと呼称)が高まる傾向となります。なお、ロータリエンジンの排気量はレシプロエンジンのように簡便な計算では算出できません。形状が複雑なためです。排気量に応じて課税される自動車税はロータリエンジンの排気量に1.5を乗じた数値によって算出されます。

(5)バルブ、カムシャフト

エンジンを動作させるためには、吸気バルブと排気バルブが必要です。各バルブを駆動するのがカムシャフトです。図17はバルブとカムシャフトの構造例です。図17の例は直列4気筒エンジンです。バルブは吸気排気おのおのに2本ずつあります。4バルブエンジンと呼称されています。また、カムシャフトが2本備わっています。この構造はDOHC(Double OverHead Camshaft)と呼称されます。1本の構造はSOHC(Single OverHead Camshaft)と呼ばれます。一般的にはバルブの数が多いDOHCの方が高出力のエンジンとされています。カムシャフトはクランクシャフトとベルトで連結されます。

図17 バルブ、カムシャフトの構造
図17 バルブ、カムシャフトの構造

(6)点火プラグ

圧縮された混合気に点火する役割です。図18は点火プラグの構造です。電極間に火花を飛ばしますが、高圧下であるため、高電圧が必要です。そのために、イグニッションコイルで高電圧に変換します。点火するタイミングはクランクシャフトの回転位置を検出するセンサの信号を元にECUによって制御されます。近年のエンジンでは気筒ごとに、点火をつかさどるイグニッションコイルとイグナイタが設けられています。図19がダイレクト点火システムの一例です。過去のエンジンでは、共通のイグニッションコイルとイグナイタがあり、ディストリビュータ(分配器)で気筒ごとに点火する仕組みとなっていました。

図18 点火プラグ
図18 点火プラグ
図19 ダイレクト点火システム
図19 ダイレクト点火システム

(7)インジェクタ

燃料を噴射する部品です。高圧化された燃料をソレノイドの原理によって弁を開閉します。制御はECUによって行います。近年、排気ガス規制や省燃費化に対応するため、噴射する燃料の制御を緻密化できるピエゾ式インジェクタ※3の採用が進んでいます。

※3

圧電素子のピエゾ効果を使用。ピエゾ効果は電荷を変位に変換する特性。ソレノイド式のコイルやスプリングが不要で可動部の慣性重量が少ないのが特徴である。

図20 インジェクタ(4気筒分)
図20 インジェクタ(4気筒分)

(8)スロットルバルブ

アクセルペダルと連動して、エンジンの吸気量を変化させます。以前のエンジンではアクセルペダルとスロットルバルブとはケーブルで接続されていましたが、近年の車両は、電気的にスロットルバルブを制御する電子制御スロットルシステムが採用されています。スロットルバイワイヤとも呼ばれます。図21の下段はスロットルバイワイヤシステムの構成を示しています。アクセルペダルは踏み込んだ角度を検出するセンサとなっており、ECUに取り込まれ、各種の信号や運転状態に合わせてスロットルバルブの角度が制御されます。排ガス規制や燃費改善に効果があります。ハイブリッドエンジン搭載車ではシフトレバーがPレンジの位置では、アクセルペダルを踏んでも、エンジン回転数が上がらないことを体感できます。また、先進安全機能の急発進防止や衝突回避、渋滞追従などに必要な機能です。

図21 ケーブル式と電子制御式との比較
図21 ケーブル式と電子制御式との比較

(9)O2センサ

排気ガス中の酸素の濃度を検出するO2センサ(オーツーセンサと呼称)は、酸素に反応して電圧を出力する素子が用いられます。取り付ける場所は、後ほど説明する触媒直下です。空気とガソリンとの比率を空燃比と言います。空気の重量を燃料の重量で割った値です。空燃比が小さければガソリンが多く含まれることになります。ガソリンと空気が過不足ない状態を理想空燃比と言い、14.7です。この状態になると、後ほど説明する三元触媒で浄化する排ガス成分(CO、HC、NOx)を効率よく浄化することができます。近年のエンジンではA/Fセンサ(エーバイエフセンサと呼称)も採用されています。O2センサは酸素濃度が「濃い」か「薄い」かの1/0的にしか検出できませんが、A/Fセンサは酸素濃度をアナログ的に検出できます。空燃比の制御をより精緻化するために使われます。装着される場所は排気管の直下です。一般的なO2センサとA/Fセンサの特性は図23です。

図22 O2センサ例
図22 O2センサ例
図23 O2センサ、A/Fセンサ特性
図23 O2センサ、A/Fセンサ特性

(10)ターボチャージャ

ターボチャージャは排気ガスのエネルギを再利用しエンジンの効率を高めるための機能です。過去、エンジンの動力性能を高めることが主な目的でしたが、近年は燃費の改善など、カーボンニュートラルへの対応手段として採用が増えています。図24はターボチャージャの一例です。エンジンの排気管に装着されます。図25はターボチャージャの内部構造です。排気管から導入された排気ガスを、タービンで回転運動へ変換します。タービンに直結したコンプレッサが回転し圧縮空気を生成します。空気をシリンダ内へ圧送することになるので、空気量に見合った燃料も噴射されるため、エンジンの排気量を増やさずに、エンジン出力を増大することができます。

図24 ターボチャージャ
図24 ターボチャージャ
図25 ターボチャージャの構造
図25 ターボチャージャの構造

(11)触媒

三元触媒は化学反応によって、排ガス中の有害物質である、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)を浄化する部品です。排気管の直下に搭載されます。HCを水と二酸化炭素(CO2)へ酸化、COをCO2へ酸化、NOxを窒素に還元します。理想空燃比(14.7)近傍で浄化率が高くなります。触媒はセラミックスの担体に貴金属が浸された構造です。図26は三元触媒の構造例です。O2センサが実装されていることもわかります。図27は空燃比と排ガス浄化率のイメージです。

図26 三元触媒の構造
図26 三元触媒の構造
図27 排ガス浄化率
図27 排ガス浄化率

ディーゼルエンジンはガソリンエンジンと異なり、NOxと粒子状物質(PM)の発生が多くなるため、三元触媒を使用できません。HCやCOを浄化する酸化触媒とPMを捕えるフィルタ(DPF:Diesel Particulate Filter)、NOxを処理する触媒が組み合わされます。NOxを浄化する方法として、尿素SCRシステム(Selective Catalytic Reduction)が採用されています。排気ガス中に尿素水を噴射すると、熱により、CO2とNH3に分解されます。その後の触媒でNOxが窒素と水に分解されます。尿素水はタンクから供給されるので、不足すると充填が必要です。図28はディーゼルエンジンの排ガス浄化システムの例です。

図28 ディーゼルエンジンの排ガス浄化システム
図28 ディーゼルエンジンの排ガス浄化システム

(12)振動対策

レシプロエンジンはピストンの往復運動による振動発生が避けられません。例えば、一般的な直列4気筒エンジンでは「慣性2次振動」が発生します。エンジン回転数の2倍の周波数となります。理由は、ピストン、コンロッド、クランクシャフトの機構により、ピストンの動作速度が上向きと下向きとで差異があるためです。なお、直列6気筒は振動がバランスするエンジンです。直列6気筒エンジンは上級車種で主に採用されています。水平対向エンジンは振動発生を打ち消す構造なので発生しません。レシプロエンジンの振動対策として、振動発生を抑制するバランス機構の採用が主流となっています。振動を打ち消す偏心したシャフトを回転させます。図29はバランスシャフト構造のイメージです。

図29 バランスシャフトの構造例
図29 バランスシャフトの構造例

エンジンの進化技術

自動車のエンジンは排気ガスの規制などに対応するため、多くの技術が開発されました。主要な技術を解説します。また、近年のエンジンには燃費改善やカーボンニュートラルに対応した新たな技術も導入されています。

(1)可変圧縮比

アトキンソンサイクルはオットーサイクルをベースとして圧縮比よりも膨張比を大きくして熱効率を改善する方策です。1882年に英国ジェームズ・アトキンソンにより開発されました。圧縮比は次式で表現できます。

圧縮比=(燃焼室容積+排気量)/燃焼室容量

燃焼室容量を変えることで膨張比を調整しアトキンソンサイクルを実現します。オットーサイクルでは圧縮比と膨張比は等しくなります。アトキンソンサイクルの圧縮比を可変にする方式として、吸気バルブが閉じるタイミングを遅くする方式があります。ミラーサイクルと呼称されることもあります。図30は吸気バルブの閉じるタイミングを遅らせる方式の一例です。

図30 バルブを遅く閉じるアトキンソンサイクルの工程
図30 バルブを遅く閉じるアトキンソンサイクルの工程

そのほかの方式として機械式があります。最近では日産が採用しています。ピストンとクランクシャフトを接続するコネクティングロッドを直接結合するのではなく、特殊なリンク機構を挟んで接続する構造となっています。基本構造は図31です。詳細は各所の情報を参照してください。

図31 可変圧縮比エンジンの構造例
図31 可変圧縮比エンジンの構造例

(2)希薄燃焼

理論空燃比よりも空気が過剰な状態で燃焼させる方式です。リーンバーンとも呼称されます。燃費を改善する方策として導入されています。しかしながら、混合気が理論空燃比より大きいと三元触媒で浄化されるNOxが増加傾向となります。また、エンジンの出力にも影響するため、混合気が希薄な状態で燃焼を最適化するための対策が必要です。具体的には、燃焼室の形状見直しや、後ほど説明するシリンダ内へ燃料を直接噴射するシステムなどが適用されています。

(3)直噴

直噴とは燃料をシリンダ内へ直接噴射する方式です。主な目的は燃焼効率を高めることです。一般的なエンジンは吸気バルブよりも前で燃料を噴射し混合気としてシリンダに吸入されます。直接、燃料を噴射することで、燃料が気化する際の気化熱でシリンダ内が冷却されます。その効果によりエンジンの圧縮比を高められ高出力が期待できます。また、燃費が向上します。図32は直噴エンジンの例です。前述した希薄燃焼の導入が可能になりますが、排ガス対策などの課題解決が必要です。その他の課題として、直噴エンジンでは排気ガス中に微粒子状物質が排出されやすくなります(いわゆるスス)。欧州では既に排出規制が適用されています。対策として排気管中にフィルタを装着する方法があります。

図32 直噴エンジンの構造
図32 直噴エンジンの構造

(4)可変バルブタイミング機構

可変バルブタイミング機構は、吸気バルブや排気バルブの開閉時期や量を可変にする仕組みです。エンジンの高出力化や燃費改善の技術として欠かせないシステムとなっています。各社から様々な機構が提案されています。導入当初の仕組みは低回転時と高回転時の使い分けが主流でしたが、最近の技術では連続的に可変する機構となっています。

(5)アイドリングストップ

信号待ちなどで一時停止した際、エンジンを自動的に停止する機能です。ブレーキを緩めたり、アクセルを踏むと機能が解除され、エンジンが始動します。燃費の改善につながります。課題はスタータの稼働頻度が高まるため耐久性の向上が必要です。エンジンが停止すると、バッテリ電圧の低下、電流供給量の制約などがあるため、電源電圧を昇圧するDCDCコンバータが必要になります。また、エアコンや油圧ポンプが停止するなどの課題があり、対策する仕組みが導入されています。

(6)燃料

日本では2020年10月に首相の所信表明演説で、2050年カーボンニュートラルが宣言されました。この対応のためには従来の手法では達成が困難で挑戦的な技術開発が求められます。従来から使用されているガソリンに加えて、様々な燃料の導入が検討されています。その一つとしてバイオ燃料の使用が可能なエンジンも採用されています。バイオ燃料は再生可能な生物由来の有機資源(バイオマス)を原料として生成された燃料です。燃焼時にCO2を排出しますが、原料となる作物は成長時にCO2を吸収しているので、カーボンニュートラルとして評価されます。なお、バイオ燃料の使用が可能なことを明示するため、自動車のガソリン吸入口に許容される含有量が表示されています。その他の燃料として、合成燃料の開発が進められています。合成燃料は、二酸化炭素(CO2)と水素(H2)を合成して生成される燃料です。

水素の生成は化石燃料からではなくその他の原材料を由来とする方式が検討されています。なお、水素の生成を再生可能エネルギ、例えば太陽光発電から行う場合は、e-fuelと言われています。既存のガソリンは一般的に呼称されているレギュラーガソリンとハイオクガソリンがあります。ハイオクガソリンは異常燃焼の一種である「ノッキング」のしにくさを示す「オクタン価」が高いものです。JIS規格では「96」以上と定められています。両ガソリンを入れ間違えると、近年のエンジン制御は高度なシステムとなっているので、弊害が発生する可能性があります。給油する際は、給油口などに表示されているガソリンの指定を守りましょう。

関連計測器の紹介

図33 エンジン開発で使用される計測器の一例
図33 エンジン開発で使用される計測器の一例

その他の製品や仕様については 計測器情報ページ から検索してください。

おわりに

ガソリンエンジンなどの内燃機関は電動化の進展とともに搭載されるシェアは低下する方向ですが、カーボンニュートラルに対応したハイブリッドエンジンなど、まだまだ自動車を支える技術として重要であると言えます。


自動車関連の他の記事は こちらから