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車載用記録装置の導入 (ドライブレコーダ、バックカメラ、置き去り防止) ~ もしものために ~

この記事は、2023年11月29日に公開した「車載用記録装置の導入 (ドライブレコーダ、バックカメラ、置き去り防止) ~ もしものために ~」を改版したものです。

自動車の安全・安心対策は自動車そのものを技術進化させることで高度化し、事故件数や死亡事故の発生を抑制してきました。一方、不幸にして事故が発生した際には、事故の発生状況を画像で再確認できる装置や、車両情報を収集し記録することで、事故発生状況の分析をより科学的に分析することが可能になりました。その代表例が、ドライブレコーダ、バックモニタ、EDR(Event Data Recorder)です。また、送迎車で散発している幼児置き去り事故の対応として幼児置き去り検知装置が義務化されました。

本稿では、先ず、自動車用記録装置が導入された背景を述べます。その後に、記録装置の代表例である、ドライブレコーダの出荷状況、装着率を紹介します。その後に、後退時車両直後確認装置の要件・装着率を、EDRについては要件について解説します。参考情報として、国連の相互承認協定における採用状況を紹介します。また、米国でのEDR導入状況について紹介します。置き去り検知装置の方式や要件・機能と事故自動緊急通報装置を概説します。最後に、自動車用記録装置関連の計測器を紹介します。

《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。さらに、本稿で取り扱った法令関連の内容については、細則や累次的に追加された条項の前後関係を厳密に記述していません。詳細は各関係法令をご覧ください。》

自動車用記録装置導入の背景

2016年に起きた軽井沢スキーバス事故を受けて、再発防止策を検討する国土交通省の対策委員会が、走行中の映像記録・保存の義務化を決定しました。現在全ての貸切バスにドライブレコーダを設置することが義務づけられています。今後はタクシやトラックなどでもドライブレコーダの義務化が想定されます。前方方向のドライブレコーダが導入された背景を踏まえて、後退時の事故抑制につながる装置の導入が求められました。また、自動車に関連する社会問題化した事象として、幼稚園の送迎バスで起きた幼児の置き去り事故が散発しました。この問題の対応として、送迎バスの置き去りを防止する装置の設置が義務化されました。また、事故が発生した際の状況分析をより高められる、EDR(Event Data Recorder)が導入されました。

1 ドライブレコーダ

ドライブレコーダとは、事故やニアミスなどにより急ブレーキ等の衝撃を受けると、その前後の映像とともに、加速度等の走行データをメモリーカード等に記録する装置のことです。これにより事故等の発生状況が記録され、発生状況の確認や検証等に活用できます。一般の乗用車への設置は義務化されていませんが、アフターマーケット部品での設置や登録車での採用が進んでいます。図1はドライブレコーダの出荷台数です。四半期ごとの出荷台数に変動はありますが、増加傾向となっています。ドライブレコーダの用途として、業務用とコンシューマ用とがあります。

  • 業務用:運行管理や安全運転教育も目的とした法人向けに設計されたモデル。
  • コンシューマ用:万が一の事故等の画像記録を主な目的とするモデル。

出荷台数の統計に参加している企業は以下の通りです(順不同)
(株)アイ・オー・データ機器、アルプスアルパイン(株)、(株)JVCケンウッド、(株)デンソー、(株)デンソーテン、パイオニア(株)、パナソニック オートモーティブシステムズ(株)、三菱電機(株)、矢崎エナジーシステム(株)、(株)ユピテル、(株)TCL、(株)コムテック

ドライブレコーダの装着率は50%を超えました。図2はドライブレコーダの装着率です。

図1 ドライブレコーダの国内出荷実績
図1 ドライブレコーダの国内出荷実績

出典:一般社団法人 ドライブレコーダ協議会が公開しているデータを元に作成

図2 ドライブレコーダの装着率
図2 ドライブレコーダの装着率

出典:ソニー損害保険株式会社が公開しているデータを元に作成
https://www.sonysonpo.co.jp/auto/

ドライブレコーダを取り付ける位置について概説します。フロントガラスにドライブレコーダを取り付ける場合の位置は、道路運送車両法の保安基準の細目第39条で定められています。どこに取り付けても良いわけではないので注意が必要です。概説すると、フロントガラスに装着する場合は「フロントガラスの上縁から開口部長さ20%以内の場所」もしくは「バックミラーの裏側」です。当然のことながら、ワイパーの掃引範囲内に取り付けましょう。雨や雪の影響で鮮明な映像が記録できなくなります。また、運転者の視界や操作を妨げてはなりませんし、検査標章(車検ステッカ)に重なってもならないです。さらに、エアバッグの展開範囲を避けましょう。保安基準の詳細は以下をご覧ください。
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/S039.pdf

ダッシュボード上に設置する場合も、道路運送車両法の保安基準の細目第183条で定められており、運転者の視界に影響を与えてはならないです。「車両前方の対象物を鏡等を使わずに直接確認できること」が基準です。詳細は以下をご覧ください。
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/S183.pdf

2 後退時車両直後確認装置

図3で示している通り、四輪車の後退時事故件数は減少傾向であるものの、全死亡事故に占める構成比は増加傾向です。

図3 後退四輪車による事故の発生状況
図3 後退四輪車による事故の発生状況

出典:交通事故分析センター ITARDA INFORMATION No.128を抜粋して作成

2022年5月以降に発売される新車に対して、後退時の事故防止のため、後退時車両直後確認装置(バックカメラ等)の設置が義務化されました。2024年5月から、継続生産車(既存モデルの新車)に対しても装置の設置が義務化される予定です。後退時の事故抑制の施策として、国際連合 欧州経済委員会 自動車基準調和世界フォーラム(WP29)において、「後退時車両直後確認装置に係る協定規則(第158号)」が新たに採択されました。国内においても規則を導入するため保安基準が改正され、二輪車や一部の特殊車両を除き、乗用車・トラックはほとんどが対象となりました。改正の概要は以下の通りです。なお、「後退時車両直後確認装置」としては、バックカメラだけでなく、検知システムやミラーでも要件を満たせば適用できます。図4はバックカメラでの検知範囲概要です。

1)後退時車両直後確認装置の要件

車両直後のエリア内の障害物を確認できること。

確認手段はカメラ、検知システムまたはミラーによること。

  • 検知システムのみで障害物を確認する場合は、確認範囲が一部異なる。
  • 一部の車種については、目視のみまたは目視とミラーの組み合わせにより確認できればよい。
  • 一定条件の下において、確認手段を組み合わせることも可能。
図4 バックカメラの確認範囲
図4 バックカメラの確認範囲

後退時車両直後確認装置の認証単位
バックカメラでの後方確認装置については装置単位での認証を可能とする技術基準を設ける改正が施行されました。適用は2023年9月22日からです。従前の法令では基本的には登録車での認証となっていましたが、改正後は装置単位での認証が可能となりました。改正内容の概要は以下の通りです。

  • 図4の車両直後の範囲が確認可能であること。
  • 当該要件等を満たすカメラ及び一定の視界要件を満たすモニタの車両への設置範囲を指定すること。
  • 当該設置範囲内で車両に取り付けられていること。

追加された要件緩和の措置

  • 車両後面に設置するカメラ等について、安全上支障が無く車体から突出するものについては車両寸法に含めない。
    取り外した状態で寸法を計測する装置の対象について、車両後面に設置するカメラ等を含め「周辺監視装置」として追加。
  • 安全上支障が無いように高さ2m以下に取り付けた場合には装置外部表面に曲率半径2.5mm未満の突起を有さないこと。
  • 適用2023年10月1日から。

バックカメラの装着率は増加傾向です。

図5 バックカメラの装着率
図5 バックカメラの装着率

出典:交通事故分析センター ITARDA INFORMATION No.128

3 EDR(Event Data Recorder)

「EDR」とは、「エアバッグ等の展開を伴う衝突の時や衝突に近い状態の時、その前後の車両速度を含む車両情報を、時系列データ等で記録する装置」です。一般的に、音声及び画像は記録の対象となっていません。

1)EDRに関する法令

「事故情報記録装置に係る国際規則(協定規則第160号)」が国際連合 欧州経済委員会 自動車基準調和世界フォーラム(WP29)において新たに採択されました。対応するためには、事故情報記録装置(EDR)を備えなければならないです。主な要件は以下の通りです。

記録する車両情報

  • 規定された情報(速度変化量、表示車速、加速度、シートベルト着用有無、ロール角等)。
  • 先進安全技術に関する作動情報(衝突被害軽減ブレーキ、自動操舵機能(ACSF)、事故自動緊急通報装置(AECS)等)について規定された仕様(記録時間範囲、精度及び時間分解能)。

少なくとも2つの異なる発生イベントを格納すること。

以下の条件のいずれかを満たした場合、作動しなければならない。

  • 縦方向または横方向の速度変化が150ミリ秒以下の間隔で時速8km以上。
  • エアバッグ等が作動した場合など。

記録データは、協定規則第94号、第95号及び第137号の各衝突試験時においても、情報を記録保持すること。
衝突が発生しても記録データが保持されていることを求めています。

EDRを停止させないこと。

なお、国土交通省は2008年にJ-EDR(Japan-Event Dara Recorder)のガイドラインを公開しましたが、普及に至らなかった経緯があります。

図6はEDRの構成例です。EDRとして単独の装置を具備する例やエアバッグなどのECU内で構成される例があります。特徴的なことは、衝突により車両のバッテリ電源が失陥しても、データを記録するための電源を有していることです。例えば、コンデンサで実現します。また、データを記憶するメモリは不揮発性です。図7はEDRの動作イメージです。MCU※1は常時、各種信号を処理し、EDRの作動に備えます。衝突が発生すると、発生する前の情報と発生後の情報を不揮発性メモリに書き込みます。事故の状況を検証する際、不揮発性メモリの内容を読み出します。

※1

(Micro Controller Unit)マイクロコントローラなどと呼ばれる。

図6 EDRの構成例
図6 EDRの構成例
図7 EDR作動イメージ
図7 EDR作動イメージ

大型車EDRについては、国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)において、2023年11月に合意されました。本合意については、日本が米国及びオランダとともにWP29傘下の専門家会議の共同議長を務めて議論を主導しました。合意された国連基準の概要は以下の通りです。作動イメージは図7です。

対象車両
バス、トラック等の乗員定員10人以上の乗用車及び車両総重量3.5tを超える貨物車

作動トリガ
次の何れかを検知すると車両の情報等を記録する。

  • 急停車:一定以上の減速度を検知
  • 車両停止:一定時間以上の停止(エンジン停止等の条件あり)
  • 車両安全装置の作動:エアバッグ※2、ABS(アンチロックブレーキシステム※2)、衝突被害軽減ブレーキ※2等の作動

記録情報

  • 加速度、車両速度、アクセル/ブレーキ/ステアリング操作、シートベルト着用有無、衝突被害軽減ブレーキの作動状況、自動操舵機能の作動状況

発効時期
2024年6月頃に道路運送車両の保安基準が改正される予定です。

<参考情報>

国連の、「車両等の型式認定相互承認協定における相互承認の対象項目」は多くありますが、日本での採用状況(2023年1月時点)は表1の通りです。世界基準に適合する多くの項目が既に適用されています。

表1 WP29相互承認の対象項目と採用状況
表1 WP29相互承認の対象項目と採用状況

出典:国土交通省

2)米国の動向

米国ではほとんどの車両にEDRが装着されています。OEMが自主的に適用してきたことから、装着することは法規制化されていませんが、より安全な車作りや安全規制の改善につながるとして、新たなEDR要件が提案されました。従来のデータ記録要件である事故記録のタイミングを5秒前から20秒前へ拡大することです。今後、施行に向けた手続きが進むと推測されます。

4 置き去り検知

前述の車載用記録装置と導入された背景は異なります。送迎バスの車内に幼児の置き去りによる事故が相次いで発生していることから、置き去り事故を防止する送迎バスへの置き去り防止装置の設置が義務付けられました。国土交通省において、送迎バスの置き去り防止を支援する安全装置の性能要件等について、最低限満足すべき要件をまとめたガイドラインが策定されました。幼児置き去り事故防止の基本は人的管理ですが、ヒューマンエラを補完する装置として2種類の方式が提案されました。「降車時確認式」と「自動検知式」の2種類です。定められた要件の概要は以下の通りです。

降車時確認式装置の作動
押しボタンなどの操作を想定しています。

  • エンジン停止後、運転者等に車内の確認を促す車内向けの警報を発する。
  • 運転者等が、置き去りにされたこどもがいないか確認しながら車内を移動し、車両後部の装置を操作することで、警報を解除可能とする。
  • 車内の確認と装置の操作が行われないまま一定時間が経過すると、更に車外向けの警報を発する。

自動検知式装置の作動

  • エンジン停止から一定時間後にカメラ等のセンサにより車内の検知を開始する。
  • 置き去りにされたこどもを検知した場合、車外向けの警報を発する。

両方式に共通の要件

  • 運転者等が車内の確認を怠った場合等には、速やかに車内への警報を行い、15分以内に車外への警報を発すること。
    自動検知式においては15分以内にセンサの作動を開始すること。
  • こども等がいたずらできない位置に警報を停止する装置を設置すること。
  • 十分な耐久性を有すること(例:-30~65℃への耐温性、耐震性、防水・防塵性等)。
  • 装置が故障・電源喪失した場合には、運転者等に対してアラーム等で故障を通知すること。
    電源プラグを容易に外せない装置に限り、回路を二重系にして故障の確率を低くした場合には、電源喪失時の故障の通知要件を緩和する。

こども家庭庁では、国土交通省のガイドラインに適合する装置について、各メーカからの申請に基づいて、適合が確認された製品のリストを作成し公開しています。2023年10月31日時点の製品数は、降車時確認式:55製品、自動検知式:13製品、併用式:22製品です。ガイドラインへの適合確認は、公益財団法人日本自動車輸送技術協会※3が実施しています。各製品の詳細については、こども家庭庁のサイトをご覧ください。https://www.cfa.go.jp/policies/child-safety/list/

各方式の基本動作は次の通りです。

<降車時確認式>

運転手により、置き去りがないことを手順通りに確認しないと警報します。

第一段階
エンジンを停止すると車内のブザーが吹鳴し、また案内音声により、車内の確認を促します。

第二段階
運転手は車内の座席を確認し終えたら、ブザー停止ボタンを押して、ブザーの吹鳴・音声案内を止めます。

第三段階
運転手がブザー停止ボタンを押さずに降車した場合、一定時間後(例えば5分後)に車外に向けてアラームが吹鳴し、車内の確認ができていないことを周囲へ知らせ、置き去りしていないことの確認を促します。

<自動検知式>

人検知のセンサとしては、カメラや超音波センサ、無線センサなどが採用されています。

第一段階
エンジンを停止するとセンサが人の検出を開始します。

第二段階
一定時間後(例えば5分後)に人が残っていると、置き去りが発生していると判断し、車外へ向けてアラームが吹鳴します。

<併用式>

降車時確認式と自動検知式を併用したシステムです。

第一段階
エンジンを停止すると車内のブザーが吹鳴し、また案内音声により、車内の確認を促します。
人検知センサが作動します。

第二段階
運転手は車内の座席を確認し終えたら、ブザー停止ボタンを押して、ブザーの吹鳴・音声案内を止めます。

第三段階
一定時間後(例えば5分後)に人が残っていると、置き去りが発生していると判断し、車外へ向けてアラームが吹鳴します。

1)置き去り防止装置の装備状況

装置の義務化は2024年3月31日が経過措置期間となっていることから、こども家庭庁は装備状況を調査し公表しました。経過措置期限の2024年3月末までに装備完了もしくは装備予定を合算すると全体で99.9%となっています。詳細はこども家庭庁のサイトをご覧ください。https://www.cfa.go.jp/policies/child-safety/effort/anzen_kanri/kekka

図8 置き去り防止装置の装備状況
図8 置き去り防止装置の装備状況

出典:こども家庭庁の公開資料を元に作成

2)乗用車の置き去り検知の法制化動向

乗用車の置き去り検知はまだ法制化されていませんが、欧州で自動車の安全性能評価を行っているEuro NCAP(European New Car Assessment Programme、欧州新車評価プログラム)※4が置き去り検知を評価基準として追加しました。Euro NCAPが2023年10月25日に発表した報道資料によると、こどもの置き去り検知機能(Child Presence Detection:CPD)を初めて評価しました。なお、現時点の評価基準は簡便な仕組みでクリアできそうですが、今後、より厳密な基準が設定されると推察されます。

5 事故自動緊急通報装置

エアバッグが展開するような事故が発生した場合、事故発生を自動的に通報する「事故自動通報システム(Automatic Collision Notification:ACN」を備えた自動車が販売されています。ドライブレコーダやEDRによる事故の状況を監視し記録することに加えて、自動通報により治療開始までの時間を短縮できるとされています。図8はACNの概要です。事故発生を起点に、「事故車」から「コールセンタ」へ自動通報もしくは手動通報により、「救助」から「医療」へつながって行きます。

図9 事故自動通報システムの概要
図9 事故自動通報システムの概要

出典:国土交通省

関連計測器の紹介

車載用記録装置に関連した計測器の一例を紹介します。

図10 車載用記録装置に関連した計測器の例
図10 車載用記録装置に関連した計測器の例

その他の製品や仕様については 計測器情報ページ から検索してください。

おわりに

自動車が安心・安全な乗り物になるためには直近の課題を解決・改善するだけでなく、将来にわたって継続的な施策の検討や導入が必要です。本稿で取り上げた車載用記録装置は世界基準で法制化されてきました。今後も、自動車の性能改善だけでなく、より安心・安全な自動車につながる機能やシステムが導入されることを期待しましょう。


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