エアバッグシステム~自動車の衝突安全性を高める
自動車アセスメント※1で評価する項目として予防安全性能評価と衝突安全性能評価があります。予防安全のシステムとしては車線逸脱抑制や被害軽減ブレーキなど、衝突安全では車体構造などによる乗員の保護と衝突時の衝撃を吸収するエアバッグシステム※2やシートベルトなどがあります。
本稿では衝突安全の主要な機能であるエアバッグシステムについて解説します。先ずエアバッグの歴史を紹介します。その後にエアバッグシステムの動作原理や構成する部品(インフレータやクロックスプリングなど)を概説します。運転席・助手席だけでなくサイドカーテンエアバッグや、側突・歩行者を検知するセンサ、またECUの基本構成や機能も説明します。最後にエアバッグシステムの開発に関連する計測器類を紹介します。
《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、本稿に記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》
2021年公開記事「自動車の安心・安全を評価する仕組み〜日本の自動車アセスメントJNCAP」を参照ください。
シートベルトと併用して使用されるので、SRS(Supplemental Restraint System 補助拘束装置)エアバッグと言われるが、本稿ではエアバッグと呼称する。
エアバッグの歴史
エアバッグは1950年代に米国で最初の特許が登録されました。現在のエアバッグの基本構成は1963年 小堀保三郎(こぼり やすさぶろう)※3が申請し特許登録されました。その後、海外でも登録されています。米国では1969年 米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)※4がエアバッグの法制化を提案しました。連邦法FMVSS208(衝突時の乗員保護)※5で規定されています。ドイツでは、1981年 メルセデスが上級車のSクラスで初めて採用しました。日本の量産車では1990年 ホンダレジェンドが運転席に採用しました。二輪車ではホンダのゴールドウイングが最初です。
特定非営利活動法人日本自動車殿堂から日本の自動車社会構築の功労者として「日本自動車殿堂者」として選定されている。詳細は日本自動車殿堂のサイトを参照ください。
https://www.jahfa.jp/2006/01/01/小堀-保三郎/
(National Highway Traffic Safety Administration)ニッツァと呼称。
(Federal Motor Vehicle Safety Standards) 連邦自動車安全基準。50項目以上の基準が制定され、100番台は事故回避、200番台は事故の被害軽減、300番台は事故後の安全対策。
自動車用のエアバッグの搭載個所は当初、運転席だけでしたが、その後、助手席も追加されました。最近では、運転席、助手席それぞれのエアバッグ、サイドエアバッグに加えて、車両側面からの衝突に備えて左右の窓に、カーテンエアバッグシステムが搭載されています。車両の側面に衝突されて横方向に強い衝撃を受けると、カーテンエアバッグは窓を隠すように膨らみ、乗員の頭部を保護します。さらに、歩行者との衝突を検知すると、歩行者の頭部がエンジンなどの硬い部品との接触を防ぐためにボンネットが浮き上がる仕組みも導入されています。
システム構成
基本構成は、衝突を検知するサテライトセンサ、エアバッグを膨らませるガスを発生させるエアバッグモジュール、衝突を判断し、エアバッグモジュール内のインフレータ※6を着火するECU※7です。
(inflator)ガス発生装置。
(Electronic Control Unit)エアバッグを制御する装置、イーシーユーと呼称される。

動作原理
車両のフロント部に組み込まれたサテライトセンサおよびECU内に搭載された加速度センサによって衝突を検知するとECUが衝突か否かを判断し、衝突と判断した場合、スクイブを通電します。スクイブから点火剤(火薬)に着火し、ガス発生剤に着火しガスが発生します。このガスがバッグを膨らませ、搭乗者が受けた衝撃を吸収します。この時、乗員の動作を拘束するシートベルトを引っ張る機構(シートベルトプリテンショナ)が装着されているシステムもあります。エアバッグと併せて、乗員の衝撃を吸収します。衝突を検知してからバッグを膨らませるまでの時間は0.05秒程度です。

ここで、エアバッグに関する注意事項を述べます。エアバッグは、補助拘束装置と呼ばれる通り、シートベルトの機能を補助し、衝突した際に乗員の衝撃を軽減するものです。あくまでも、シートベルトを適正に使うことが前提です。衝突角度や速度、衝突物の形状等により膨らまないことがあります。事例としては、電柱に衝突し車両の一部が極端に変形した時、トラックの荷台の下に潜り込むように衝突した時、壁などに斜めに衝突した時などが考えられます。エアバッグは膨らんだのちに、しぼむため、二次的な衝突に対しては機能することができません。衝突していない場合でも膨らむことがあります。例えば、縁石に強く乗り上げた場合などです。エアバッグ装着車では、シートベルトを着用することに加えて、正しく座ることが勧められます。バッグが高速で膨張するため、展開による傷害が考えられます。エアバッグのモジュールが実装されている箇所に近づき過ぎないことや、物を置かないことが求められています。
各部品の概説
エアバッグシステムを構成する主要な部品について説明します。
1 インフレータ
ECUから駆動され、エアバッグを膨らませるガスを発生する装置です。

2 エアバッグの例
主に実装されているエアバッグは図4です。上級車種では10個以上のエアバッグが搭載されている例もあります。

■運転席エアバッグ
エアバッグが最初に導入されたのは運転席です。その後、助手席にも装着されました。運転席側はハンドル内に装着されています。図5は運転席と助手席のエアバッグが展開された状況です。

インフレータとエアバッグが一体となったモジュールがハンドルに組み込まれます。インフレータ内の着火装置とECUとの接続はフレキシブルなフラットケーブルがゼンマイのように巻かれた機構で車両側と接続されています。ハンドルを回してもフラットケーブルが導通できる構造となっています。通常、クロックスプリングと呼ばれます。フラットケーブルにはエアバッグモジュールとの接続以外に、ハンドルに装備されたスイッチ類の信号も含まれます。



■助手席エアバッグ
助手席のダッシュボード内に装着されています。外観形状は運転席エアバッグと異なりますが、構造は運転席側と同じく、インフレータとエアバッグとで構成されています。最近の技術では、衝突の状況や乗員の着座状況に応じて、インフレータを二段階に展開する機能が導入されている車両もあります。

■サイドエアバッグ
側面からの衝突に対して、乗員を保護します。主としてシート内のドア側に実装されています。

■サイドカーテンエアバッグ
サイドカーテンエアバッグは、乗員と窓との間に展開させ、側面衝突時の頭部傷害を軽減させることができます。

■歩行者保護エアバッグ
歩行者と衝突した際、フロントガラスの下部など硬い部分を覆い、歩行者の頭部と車両の硬い部品との衝撃を抑制し傷害を軽減します。実用化された車種が複数あります。
3 サテライトセンサ
衝突した時の加速度を検出します。車両前方の強固なフレームに実装されます。ECUとの通信はPSI5※8やDSI※8が採用されています。

(Peripheral Sensor Interface 5、Distributed Systems Interface)概要は本サイトの市場動向レポート「自動車ECUのインタフェース~スイッチ信号から無線通信まで多岐にわたる技術を適用」を参照ください。
4 側突検知用圧力センサ
車両の側面に衝突を受けた際、カーテンエアバッグやサイドエアバッグを起動するためのセンサとして、車両のドア内などに実装され、衝突によるドアの変形を圧力によって検知します。ECUとの通信はPSI5やDSIが採用されています。

5 歩行者用衝突検知センサ
バンパ内に設置した加速度センサやパイプ状の圧力センサにより構成されます。歩行者用衝突検知センサが実装されているバンパには、衝突の検知を適正に検知できない可能性があるため、字光式ナンバープレート※9の装着が禁止されています。
灯火した時にナンバープレートの文字が光る。日本独特の仕様。

6 ECU
図15は運転席、助手席エアバッグが搭載されているECUの構成例です。サトライトセンサとECU内部の加速度センサの信号により衝突を判定し、スクイブを駆動します。DCDCは電源電圧が低下しても一定電圧を維持します。バックアップコンデンサは衝突により、バッテリやハーネスが破損しても、エアバッグを起動できるエネルギを確保します。外部センサとの通信は、PSI5、DSIなどの通信規格が採用されています。

関連計測器の紹介

その他の製品や仕様については計測器情報ページ から検索してください。
おわりに
自動車のエアバッグは乗員を保護するシステムとして標準的に装備されています。自動運転システム技術が進化し、予防安全機能や性能が高まったとしても、衝突安全システムとして欠かせません。今後も自動車アセスメントの強化に合わせて機能や性能が向上していくでしょう。
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