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オシロスコープ校正 新製品発表会~フルーク マルチプロダクト校正器 55x0Aシリーズ

フルーク 校正器営業部※1は、校正用計測器(電気校正器・標準器)を計測器の精度維持管理をしている校正室に納入している。校正事業者も多くのフルーク製品を使用して事業を行っている。同社は2023年春にマルチプロダクト校正器の新シリーズ55x0Aを発売し、さらに秋にオシロスコープ校正オプションを発表したのを機に、10月27日~11月7日にかけて「オシロスコープ校正の基礎セミナー × 新製品発表会」を開催した。TechEyesOnline取材班は、2023年10月31日に東京会場(品川)で開催された発表会に参加し、新製品の開発背景や特長を取材した。

※1

正式な会社名は「株式会社テクトロニクス&フルーク フルーク社 校正器営業部」(米国フルーク・コーポレーションの日本法人)。1977年にフルーク日本支店設立。1998年にダナハー(現フォーティブ)グループの傘下になり、2021年から株式会社テクトロニクス&フルーク。海外ではFLUKE Calibration(フルーク・キャリブレーション)がブランド。

オシロスコープ校正仕様は周波数帯域の向上(2GHz)、立ち上がり時間とSSB位相雑音の改善、VSWRの仕様化などがなされた。標準仕様でも6.5桁デジタルマルチメータでTUR 4:1や、大電流アプリケーション(30A/1500A)に対応した。新製品と旧モデルの仕様比較や、校正器ラインアップ中での位置づけを示し、オシロスコープの周波数帯域やDMMの表示桁数(精度)の市場動向も合わせてお伝えする。

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オシロスコープの校正器

フルークにはオシロスコープ校正の専用器として9500Bオシロスコープ校正器がある※2。電圧・電流・電力測定器(マルチメータ、クランプ電流計、電力計など)の校正ができるマルチプロダクト校正器(5080A、5502A、5522Aなど)は、9500Bより性能・機能は劣るがオプションにオシロスコープ校正機能がある。オシロスコープの校正には専用器である9500Bと、複数の機種群に対応するマルチプロダクト校正器(オシロスコープ校正オプション付き)の2つの選択肢がある。

※2

以下の記事に主な校正項目を説明。2018年10月公開 デジタルオシロスコープの基礎と概要(第3回)

同社は2023年3月にマルチプロダクト校正器の新製品、55x0Aシリーズの3モデル5540A、5550A、5560Aを発表した。従来の5502A/5522Aを性能アップさせた5540A/5550Aに更新し、上位モデル5560Aも発売した。従来のオシロスコープ校正オプションは周波数帯域1.1GHzまでだったが、新製品では2.1GHzまで対応できるようになった(オシロスコープ校正オプションは10月発売)。

55x0Aシリーズ

55x0Aシリーズ

オシロスコープの周波数帯域の変化と、2GHz校正オプションの発売

国内のオシロスコープ市場は、2012年から10年間の売上額がほぼ100億円前後の横ばいで、2022年から2026年の年平均成長率予想も0.9%(微増)であることが報告されている(日本電気計測器工業会 2022年12月16日発行 「電気計測器の中期見通し2022~2026年度」)。ただしオシロスコープの性能・機能は進化していて、毎年のように新製品が発売され、ミドルクラスのモデルの周波数帯域は500MHzから1GHz(GHz帯域)に移行している※3。周波数帯域別のオシロスコープの販売比率(台数)は、大手オシロスコープメーカでは2021年に「1GHz以上」が「1GHz未満」を上回り、1GHz以上が2023年には前年より10%近く伸長した(発表会の配布資料よりTechEyesOnlineが推定)。

※3

オシロスコープの変遷は次の記事が詳しい。2022年11月公開 オシロスコープの動向と、最新1GHz帯域モデルの各社比較

発表会に参加した大手校正事業者から「校正を実施しているオシロスコープの周波数帯域は500MHzまでが全体の約70%」という現状を、TechEyesOnline取材班は聞いた。計測器の使用年数は長く、いまだにアナログオシロスコープを使っている電気エンジニアも存在する。現役で使われている多くのオシロスコープがまだGHz帯域でないことは事実だが、大手オシロスコープメーカの販売比率は今後GHz帯域のモデルが確実に増えることを示唆している。このような背景から、フルークはマルチプロダクト校正器のオシロスコープ校正性能を1.1GHzから向上させた。新製品の最上位モデル5560Aはオシロスコープ校正オプションを2.1GHz、1.1GHz、600MHzの3種類から選択できる。

3種類 6モデルのオシロスコープ校正

モデル オシロスコープの周波数帯域
5560A/2G 2.1GHz
5560A/1G 1.1GHz
5550A/600M 600MHz
5550A/1G 1.1GHz
5550A/600M 600MHz
5540A/600M 600MHz

立ち上がり時間とSSB位相雑音の改善、VSWRの仕様化

立ち上がり時間はオシロスコープの重要な性能である。オシロスコープの選定はまず周波数帯域から始まる。周波数帯域によって立ち上がり時間は変わり、高速な信号を観測した場合の波形表示の正確さに影響する。つまり、立ち上がり時間が短いほど高速なパルス信号を正確に捉えることができる。立ち上がり時間の校正のためには、校正器の出力信号の立ち上がり時間は限りなく短いことが望ましい。55x0Aシリーズは5522Aより立ち上がり時間を58%改善している。同社では「エッジ175ps未満」と説明している(下表)。

発振器の出力信号は、位相の揺らぎによって中心周波数の近傍でノイズ(位相雑音)が発生する。信号純度の指標としてSSB位相雑音(Single Side Band phase noise※4)があり、中心周波数に対する電力比(dBc※5)で表す。マイナスの数値が大きいほど雑音が少ない優れた信号で、性能が良い。位相雑音はジッタ※6なので、時間軸の波形表示に影響する。ジッタが少ない信号を使えば、より正確な校正ができる。55x0AシリーズはSSB位相雑音が改善された正弦波出力(低ジッタ)になっている(下表)。フルークはオシロスコープ校正器の出力信号を定振幅正弦波(レベルドサイン)と呼称している。

※4

位相雑音は中心周波数(搬送波)の下と上の両側に同じ形状で現れ、側波帯(side band)と呼ばれる。片側の側波帯だけで位相雑音を評価できるのでSSB(Single Side Band)という。

※5

搬送波(carrier)に対する電力比の意味でdBの後に「c」を付けている。

※6

(jitter)信号の時間方向の揺らぎ、時間的なズレ。「タイミング信号の位相変動が周波数10Hz以上の短期的な位相変動(ITU-Tの勧告G.810)」。

55x0Aシリーズで改善された仕様の値

改善されたレベルドサインの仕様 新製品 55x0A 旧モデル 5522A
立ち上がり時間(エッジ) < 175ps < 300ps
SSB位相雑音(ジッタの指標) -40dBc -33dBc
VSWR(反射の指標) 1.3:1(仕様) 1.5:1(推測値)

ケーブルなどの伝送線路にはインピーダンスがある。インピーダンスの異なる媒体の接合点(コネクタなど)では反射が起こり、信号が減衰する。反射は少ないことが望ましく、一般にVSWR※7で規定する。従来のマルチプロダクト校正器はVSWRを仕様に明記していなかった。2017年にフルーク(米国 本社)のエンジニアが定義しようとしたが、SSB位相雑音の関係で測定できなかったという。旧モデル5522AのVSWRは推測値で1.5:1である。55x0AシリーズのVSWRは1.3:1で(上表)、出力端面ではなくオシロスコープにつなぐ同軸ケーブルのBNCコネクタ端で規定している※8。VSWRの値が大きいと入力信号と反射信号が干渉し、オシロスコープに入力する信号の振幅が変動するため、VSWRを仕様化したことは改善といえる。

※7

(Voltage Standing Wave Ratio)電圧定在波比。伝送線路上で「波長・伝送速度が同じで、信号の進行方向が逆向き」の2つの信号が存在すると、干渉によって波形がその場に止まって振動しているように見えるため、定在波という。定在波の最大電圧と最小電圧の比がVSWR。VSWRの値は1~∞で、1が反射ゼロの理想状態。値が1に近いほど反射が少ない。

※8

オシロスコープとの接続は専用ケーブルの使用を推奨しているため、ケーブルのみの販売もしている。

55x0Aシリーズと旧モデル(5522Aなど)の仕様比較

55x0Aシリーズと旧モデル(5522Aなど)の仕様比較

Preliminary Spec / 暫定仕様

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6.5桁デジタルマルチメータに対してTUR 4:1を実現

マルチプロダクト校正器はデジタルマルチメータの校正に一番多く使われるので、その性能について触れる。フルークは過去5年間の国内の校正事業者のデジタルマルチメータ校正台数を、桁数別に分析している。「4.5桁※9以下」、「5.5桁」、「6.5桁」の3分類で台数比較すると4.5桁以下が圧倒的に多いが、2018年から2022年の台数推移はマイナスで、校正した台数が減っている。反対に6.5桁は年平均数%で伸びている。6.5桁は2018年以前から増加していたが最近も増え続け、5.5桁よりも主流になってきたといえる。55x0Aシリーズは旧モデルよりTUR※10を改善し、6.5桁のデジタルマルチメータに対してTUR 4:1での校正が可能になった。市場で増えている6.5桁モデルへの対応である。

※9

「5桁」の最大数は「99999」だが、デジタルマルチメータの最大表示数は「19999」(または「40000」)の場合が多い。そのため「完全な5桁ではないが4桁よりは多い」という意味で「4.5桁」(または4 1/2桁)と表現する。このような桁数表記でベンチトップのデジタルマルチメータの精度は表される。ハンドヘルド型は「表示カウント数」を指標にするモデルが多い。

※10

(Test Uncertainty Ratio)「試験の不確かさの比率(テストの確度比)」。披校正器の仕様の不確かさと、試験する校正器の仕様の不確かさの比。校正器の維持コストの観点から4:1が理想とされる。不確かさやTURの説明は簡単ではなく、フルークは「不確かさとガードバンド」セミナーを毎年開催し、解説している。

55x0Aシリーズの位置づけ

55x0Aシリーズの位置づけ

30A/1500A大電流アプリケーションに対応

SDGs※11など、脱炭素社会に向けたエネルギーマネージメント※12の需要が増している。自動車の電動化(xEV※13)の進展は大電流電子部品の製造を増やし、大電流アプリケーションは増える傾向にある。マルチプロダクト校正器は、クランプ式の電流測定器の校正機能も特長の1つである。従来の5522Aでは電流発生は20Aまでだったが、55x0Aシリーズは30Aに性能アップした(5522Aができなかった連続電流出力もできるように改良)。また、巻き数50の電流コイル(55XXA/COIL 50)を併用すれば1500Aまで拡張できる。ハンドヘルドのクランプ電流計だけでなく、オシロスコープの電流プローブの校正も可能である。

※11

(Sustainable Development Goals)日本語では「持続可能な開発目標」。2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された指針(目標)。経済産業省や環境省が資料を公開している。「エスディージーズ」と呼称。

※12

エネルギーを使用状況に応じて管理すること。工場やビルではエネルギーマネジメントシステム(EMS)の導入によるエネルギーの合理的な活用が始まっている。最近のEMSの事例を次の記事で紹介。2023年3月公開 【展示会レポート】ENEX2023(第47回地球環境とエネルギーの調和展)

※13

(electric vehicle)電気自動車の詳細は次の記事が詳しい。2020年12月公開 電動化システムの主要技術と規制動向~進展するxEVの現状と今後

電流コイルを併用したクランプ電流計の校正

電流コイルを併用したクランプ電流計の校正

巻き数50の電流コイル

巻き数50の電流コイル

オシロスコープ校正の実演とハンズオン

テクトロニクス社が2022年発売の新製品、2シリーズMSO※14を校正対象として、実機を使ったデモとハンズオン(参加者の実機体験)が行われた。

※14

(Mixed Signal Oscilloscope)現在のミドルクラスのオシロスコープの主流の機種群。その登場は以下の記事が詳しい。計測器の形名・・・第3回 オシロスコープPart2 ~ DSO、DPO、DSA、MSO

校正の実演とハンズオン1
校正の実演とハンズオン2
校正の実演とハンズオン3
校正の実演とハンズオン4

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校正の実演とハンズオン5

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校正の実演とハンズオン6

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価格と出荷時期

今回発売した「オシロスコープ校正オプション付きマルチプロダクト校正器」のメーカ標準価格は約1千万~2千万円としている(5540A/600Mが10,500,000円、5560A/2Gが20,220,000円)。日本での出荷開始は2023年12月以降を予定している(10月31日現在)。

55x0Aシリーズは、GHz帯域のオシロスコープの普及に対する2GHz校正オプションの発売、6.5桁DMMの増加に対するTUR 4:1の仕様改善を行った。これらは、市場で多く稼動している現役の基本測定器である、ミドルレンジのオシロスコープやベンチトップDMMの高性能化に対応して、校正器も性能アップしたことを意味する。電流測定の大電流化という時流を捉えた、クランプメータの電流測定範囲の拡大もしている。55x0Aシリーズは1台で校正できる計測器の範囲を増やしたといえる。電気の基本物理量である電圧・電流・時間などの測定需要の変化や測定器の性能変化に、対応する校正器をフルークは提案している。需要に応える校正器の発売が、今後も期待される。

マルチプロダクト校正器のラインアップ

55x0Aシリーズ

主な仕様や製品カタログ
5540A 5550A 5560A
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