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カーボンニュートラル燃料 ~ 持続可能なエネルギ源への移行に期待

地球温暖化問題を改めて言及するまでもなく、気象変動に関連する最重要課題であることは周知の事実です。地球温暖化は大気中の温室効果ガス(greenhouse gas:GHG)が増加することが主因とされています。主な温室効果ガスとして、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、フロン類が挙げられます。なかでも、CO2は大気中に含まれる割合は約0.04%ですが、地球温暖化への影響がもっとも高いとされています。

本稿ではCO2の排出に対して、削減もしくは相殺に有効で、実質的にCO2の排出をゼロ化可能な燃料について解説します。この燃料については一般的に、カーボンニュートラル燃料と呼称されます。最初に、カーボンニュートラルに関する規制や取組みについて概説します。CO2の排出量の推移や、発電から消費までのカーボンニュートラル燃料の全体像などを解説します。排出削減を証券のように扱うカーボンクレジットについても触れます。そのあとに、カーボンニュートラル燃料とその製法について解説します。代表的なものに合成燃料、バイオマス燃料、水素、アンモニアがあります。関連する技術としてFT合成、CCS、CCUS、DAC、SAFなどを説明します。最後にカーボンニュートラル燃料に関連した計測器を紹介します。

《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》

カーボンニュートラルとは

ここで、改めて「カーボンニュートラル」の定義を明記すると、「温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること」※1とされています。「排出を全体としてゼロ」にすることは、CO2などの温室効果ガスの「排出量」※2から、「吸収量」※2を引いて、合計でゼロにすることです。気象変動問題を解決するため、2015年にパリ協定が採択され、120以上の国と地域で「2050年カーボンニュートラル」を世界共通の目標となりました。図1はカーボンニュートラルのイメージです。左側が自動車や工場で排出されるCO2の総量です。右側は風力発電や太陽光発電などによる天然エネルギの創出と植物によるCO2の吸収を合わせてCO2の削減を表し、左右の排出と吸収とを合わせてCO2の発生をバランスさせる考え方です。

※2

人為的なもの

図1 カーボンニュートラルのイメージ
図1 カーボンニュートラルのイメージ

カーボンニュートラルの現状

1 CO2排出の現状

日本におけるCO2の分野別排出量は図2です。発電などのエネルギ部門での排出量が5割近くを占めています。物づくり部門である製造業や建設業の次に運輸部門の排出が占められています。なお、運輸部門の内、9割弱が自動車からの排出となっています。この排出を抑えるカーボンニュートラル燃料を導入することでCO2の排出抑制につながります。実現するためには自動車単独でなく他部門も関係します。

図2 CO2分野別排出量
図2 CO2分野別排出量

出典:国立研究開発法人 国立環境研究所
「日本国温室効果ガスインベントリ報告書2023年」をもとに作成

図3はCO2排出の推移です。2013年以降減少傾向です。

図3 CO2排出量の推移
図3 CO2排出量の推移

出典:地球環境研究センタ「日本国温室効果ガスインベントリ報告書2023年」を抜粋して作成

2 カーボンクレジット

「カーボンクレジット」とはカーボンニュートラルを達成するための1つの手法です。大きく分けると、「CO2の排出許可」と「排出削減」の証書として発行され、証券のように扱われます。クレジットの仕組みとして4種類挙げられます。

森林の利用
森林の再生や保護などによるCO2の吸収量をクレジットとして算定

再生可能エネルギ利用
風力や太陽光、水力などによって発電することで、CO2の排出量をクレジットとして算定

CO2の回収や貯蔵
CO2の排出源や大気中から直接回収し地中に埋めて長期間保持することで、クレジットとして算定

エネルギの効率化
エネルギの効率化を図り、CO2の排出量を抑制した量をクレジットとして算定

クレジットを具体的に取引する制度としては、① 国や国連が主導、② 民間が主導に分けられます。国連が主導している制度としては、CDM(Clean Development Mechanism:クリーン開発メカニズムと呼称)があります。日本と二国間でのクレジット制度として、JCM(Joint Crediting Mechanism)が運用されています。日本国内の制度としては、政府全体の取り組みとして、「国内クレジット」が運用されています。民間が主導する仕組みとして、ボランタリ(任意)クレジット市場があります。

3 モータスポーツ※3でもカーボンニュートラル指向

インディカ
2006年からバイオエタノール燃料の義務化。2023年からサトウキビ廃棄物で生成されるエタノールとその他のバイオ燃料を混合した非化石燃料を義務化。

フォーミュラ1(F1)
2026年から電動モータの比率を高め、合成燃料などのカーボンニュートラル燃料の使用をルール化。ホンダのF1マシーンではF1からに撤退を宣言した2021年にカーボンニュートラル燃料を投入済み。

ル・マン24時間レース
今後、燃料電池車(FCV)に加えて水素エンジン車も参加車両の対象とする計画。

世界ラリー選手権(WRC)
2022年からハイブリッド方式の車両をルール化。また、合成燃料とバイオ燃料を混合した100%持続可能な非化石燃料を適用。

カーボンニュートラル燃料

カーボンニュートラル燃料とは、製造や使用時に排出されるCO2濃度を増加させない燃料のことです。排出したCO2と吸収したCO2の量が同じになるので、いわゆるライフサイクルで差し引きゼロになることを狙います。なお、各種のエネルギ源を重量当たりと体積当たりで比較すると図4のイメージとなります。ガソリンや軽油などの液体燃料は体積エネルギ密度、重量エネルギ密度とも高いことが分ります。

図4 エネルギ密度の関係
図4 エネルギ密度の関係

1 カーボンニュートラル燃料の種類と特徴

カーボンニュートラル燃料には実用化されているものや、研究開発中のものなど多くの種類があります。製造方法を大きく分けると、① CO2を化学的に処理し、燃料の材料とする。② CO2を吸収した植物などを使用し燃料とする。③ そもそも、使用時にCO2を発生しないもの。図5はカーボンニュートラル燃料の全体像です。

図5 カーボンニュートラル燃料の全体像
図5 カーボンニュートラル燃料の全体像

代表的なカーボンニュートラル燃料を解説します。

1)合成燃料

合成燃料とは、CO2と水素を合成して製造されるガソリンや、軽油などの総称です。人工的な原油とも言えます。成分を精製することで、ガソリン、軽油、ジェット燃料などが製造できます。合成燃料を製造する工程で重要な技術であるFT合成は後ほど解説します。

2)バイオマス燃料

バイオマス燃料は動植物由来の原料から生成される燃料です。「バイオマス」は動植物由来の資源を示す際に使われます。バイオマス燃料を製造する手法としては、① サトウキビやトウモロコシ、木材や草などのセルロース※4などを酵母や微生物により発酵させてエタノールを生成する。② 油脂(なたね油や大豆油、廃食用油など)をエステル化によって生成する。③ 生物ガス(畜産での排せつ物など)により生成する。

※4

(cellulose)植物細胞の主成分で、人間が消化できない植物繊維。糖類で構成されている。樹木は約7割がセルロース類で構成されている。

バイオマスを原料としてバイオエタノールを生成する工程は図6となります。原材料を分けると、① サトウキビなどの糖質系、② ジャガイモやトウモロコシなどのデンプン系、③ 稲わらや廃木材などのセルロース系となります。

図6 バイオエタノール生成工程
図6 バイオエタノール生成工程

植物油を原料として生成されるバイオマス燃料はバイオディーゼル燃料と呼称されます。植物油にメタノールと触媒を加えてエステル化し、分離した成分がバイオディーゼル燃料となります。分離したその他の成分としてグリセリンが生成されます。
植物油 + メタノール → メチルエステル(バイオディーゼル燃料) + グリセリン

図7 バイオディーゼル燃料の生成工程
図7 バイオディーゼル燃料の生成工程

ガソリンにエタノールを混合した自動車用の燃料は、ガソホール(gasohol)と呼称され、既に多くの国で導入されています。日本においても、2012年から施行され、バイオエタノールを10%まで混合したガソリン(E10)の使用が認められています、なお、E10を使用できるE10対応車はガソリン給油口にE10対応車であることが明示されています。対応車は燃料配管の腐食対策や燃料タンクなどの蒸発ガス対策などが必要です。また、ディーゼルエンジン用の軽油にバイオディーゼル燃料を5%混合したB5燃料やバイオディーゼル燃料100%の使用も可能となっています。図8はバイオエタノール対応車の給油口に明示されている混合比のラベル例です。「E10」であることが明示されています。

図8 バイオエタノール対応車の給油口
図8 バイオエタノール対応車の給油口

バイオマスを原料として、エタノールの生成に加えて、エネルギや製品に変換する技術をまとめると表1となります。

表1 バイオマスの活用技術
バイオマス資源 主な技術 製品・エネルギ
生ごみ・食品廃棄物・家畜排せつ物・汚泥・草木系廃棄物 等 メタン発酵 微生物によって有機物を分解させてガスを発生し、熱・電気などを得る。 メタンガス
生ごみ・食品廃棄物・家畜排せつ物・汚泥・草木系廃棄物 等 たい肥・飼料化 微生物の働きにより分解し安定させ、たい肥を作ります。
また、加温などの加工で家畜用の飼料とします。
飼料・肥料
木質系バイオマス・生ごみ・農作物残渣 等 燃料・ガス化 木質系資源等を燃焼・ガス化させることで、熱・電気などを得ます。 発電・熱利用
糖質系作物・木質系バイオマス・生ごみ・食品廃棄物・資源作物 等 プラスティック化 とうもろこしや生ごみなどを原料としてポリ乳酸などを作り、バイオマスプラスティックを作ります。 バイオマスプラスティック
廃食用油・資源作物・木質系バイオマス 等 燃料化 使い終わった食用油などを原料にして軽油の代替えの燃料、エタノールを作ります。 バイオディーゼル燃料、ガソホール
出典:各所の情報をもとに作成

3)水素

カーボンニュートラル燃料として理想的なものです。燃焼時にCO2の排出がありません。酸素と反応して水となります。水素を生成する主な手法としては、① 化石燃料から生成する。② 溶鉱炉などの工業で発生する副産物から生成する。③ 森林資源などのバイオマスから生成する。④ 水を電気分解して生成する。⑤ 食品廃棄物、家畜排せつ物などで生成されるメタンガスから生成する。水素の製造方法と環境への影響を考慮して色分けする呼称は表2となります。なお、カーボンニュートラル水素として、現状、特に注力されているのは「グリーン水素」と「ブルー水素」です。

表2 水素の製造方法と呼称
水素の種類 製造方法
グレー水素 化石燃料、特に天然ガスから生産される水素。相当量の二酸化炭素を排出。
ブルー水素 化石燃料から水素を生成。製造する過程で生成される二酸化炭素を回収・地中貯留することで、二酸化炭素の排出量はを正味ゼロ。
グリーン水素 再生可能なエネルギーを起源とする電力を用いた水の電気分解によって生成。
ターコイズ水素 メタンの熱分解によって生成される水素。炭素は気体ではなく固体で生成される。高温反応炉は再生可能エネルギーを起源とする二酸化炭素排出量正味ゼロのエネルギー源を用いる。
イエロ水素 原子力発電による電力を用いた水の電気分解によって生成される水素。
ブラウン水素 石炭から生成される水素。グレー水素に分類されることもある。その生産にはかなりの量の二酸化炭素を排出。
ホワイト水素 他の製品生産プロセス(例えば製鉄)の中で副産物として生成された水素。生産量は限定的。
出典:独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構の資料をもとに作成

内閣官房は、2023年6月6日に「水素基本戦略」を改訂しました。なお、「水素基本戦略」中の「水素」は、水素そのものに加えて、アンモニアや合成メタン、合成燃料なども含めた意味で記載されています。経済産業省は2023年7月11日に、水素の利用普及に関して、特に自動車分野における導入拡大を目的とした「モビリティ水素官民協議会」が中間とりまとめを公表しました。本稿では解説しませんが、詳細については、各サイトをご覧ください。

4)アンモニア

常温常圧では気体ですが、強い刺激臭があります。分子式はNH3です。燃やしてもCO2が発生しません。但し、燃えると窒素酸化物(NOX)が生成されるので、酸性雨や光化学スモッグの発生要因となるなど大気汚染の原因となります。分解すればH2を取り出すことができるので、水素を生成する原料になります。

カーボンニュートラル燃料に関連する技術

1 FT合成(Fisher Tropsch)

合成ガス(一酸化炭素と水素の混合ガス)からガソリンなどの石油代替燃料を合成する触媒反応です。合成ガスは天然ガス(シェールガス、メタンハイドレートを含む)、バイオマス、石炭、可燃性ゴミ、重質油などから製造できます。FT合成は1920年代にフランツ・フィッシャ(ドイツ)とハンス・トロプシュ(ドイツ)により発見されました。「FT」は両氏の名前から由来しているようです。発見された当時の世界状況から、石油に頼らない液体燃料の製造に活用されたようです。その後、安価な石油が供給されるようになり、FT合成はすたれたようです。2000年代にはいると、原油の高騰や天然ガスの供給が進み、再度、FT合成が注目されました。近年は、カーボンニュートラルに対応する方策として、石炭や天然ガスなどの化石資源を抑制するため、バイオマス原料やCO2から液体燃料を生成するFT合成が脚光をあびています。

FT合成で生成される液体燃料の製造方法は、大きく分けると二つの工程となります。
石炭、天然ガス、バイオマス → 合成ガス(一酸化炭素(CO) + 水素) → 液体燃料
最初の工程は、原料を高温の水蒸気でガスに分解します。高温により原料の分子構造がバラバラになります。次の工程で、バラバラになった合成ガスを触媒反応により、分子構造を形成します。そして、液体燃料(ガソリン、軽油、ジェット燃料など)が生成されます。

図9 FT合成による液体燃料の生成
図9 FT合成による液体燃料の生成

2 CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)

CO2を回収し貯蔵する技術です。発電所や化学工場などから排出されたCO2を分離して集め、地中深くに貯留・圧入することです。

図10 CCSの概要
図10 CCSの概要

3 CCUS(Carbon dioxide Capture、Utilization and Storage)

分離・貯留したCO2を利用することです。米国の例では、古い油田にCO2を注入し、その圧力で油田に残った原油を押し出し、CO2は地中に貯留するCCUSがおこなわれています。油田の全体ではCO2削減が実現できるほか、石油の増産にもつながるので、ビジネスになっています。図11の左側が油田での再利用を示しています。

図11 CO2の再利用例
図11 CO2の再利用例

4 DAC(Direct Air Capture)直接回収

大気中のCO2を直接回収する方法です。発電所や工業プロセスで排出されるCO2濃度が低いので、特徴的な技術が開発されています。大きく分けると、① 冷熱により、ドライアイス化して分離回収、② CO2と結合しやすい化学物質の吸着材を用いて分離回収、③ CO2だけを通す薄膜を用いて分離回収、があります。

図12 CO2の直接回収方法
図12 CO2の直接回収方法

5 SAF(Sustainable Aviation Fuel)

「持続可能な航空燃料」のことです。食用油の廃油(廃食用油)などから生成されるバイオマス燃料を原料にすることが主流です。航空機へ適用する際、生成されたバイオ燃料単体での使用は未だ認められていません。化石燃料由来のジェット燃料と混合することが義務付けられています。2023年時点で従来のジェット燃料に対して最大50%の混合比率が認められています。今後、SAFの需要が増加することから、廃食用油等の原料確保が課題です。

6 有機ハイドライド技術

水素の運搬や貯蔵が容易な性状に変換する技術です。水素とトルエンとを触媒で反応させ、常温・常圧で液体となるメチルシクロヘキサン(Methylcyclohexane:略号MCH)を生成します。容積は約1/500となります。インクの文字を消す修正液など身近な製品でも使用されています。ガソリンと同じ扱いが可能で、既存のタンクローリや貯蔵設備の活用が可能です。
水素(3H2) + トルエン(C7H8) → (触媒反応) メチルシクロヘキサン(C7H14)
この反応は可逆反応で、メチルシクロヘキサンから水素を取り出すとトルエンが得られ、再利用できます。

7 カーボンニュートラル燃料を製造するための電力

カーボンニュートラル燃料を製造するためには、安価で大量な電力の供給が不可欠です。電力を生成する方法としては、① 風力発電や太陽光発電などの再生可能なエネルギの拡大導入を行うこと。② 既存の原子力発電を活用すること。安全性の確保が前提であることは言うまでもありません。③ 新たな原子力発電を技術開発し商用化すること。などが挙げられます。

図13 再生可能なエネルギ
図13 再生可能なエネルギ

8 カーボンニュートラル燃料の価格

カーボンニュートラル燃料の課題は価格です。とりわけ、製造コストの低コスト化が大きな課題と捉えられています。各所の情報によると、主要なカーボンニュートラル燃料の概算価格は以下の通りです。将来目標を達成するためには画期的な技術の開発が必要でしょう。

  • 合成燃料:700年円/L@2020年 国内製造、将来目標200円/L@2050年
  • 水素:200円/Nm3@2020年、将来目標30円/Nm3@2030年
  • SAF:1,600円/L@2020年、将来目標200円/L@2030年

関連計測器の紹介

カーボンニュートラル燃料に関連した計測器の一例を紹介します。

図14 カーボンニュートラル燃料に関連した計測器の例
図14 カーボンニュートラル燃料に関連した計測器の例

その他の製品や仕様については 計測器情報ページ から検索してください。

おわりに

カーボンニュートラルに関連した報道を日々見聞きしています。いかに、社会にとって重要な課題であることの表れでしょう。カーボンニュートラル燃料の選択肢は増えつつありますが、製造コストや流通等の課題を解決しなければ、普及することは難しいでしょう。今後のさらなる技術進化に期待しましょう。加えて、個人レベルで地球温暖化に対する行動が求められることを認識しましょう。


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