技術情報・レポート

2021/04/20

スペクトラムアナライザの基礎と概要 (第3回)

【インタビュー】アンリツの無線通信用測定器の取組み

アンリツは創業1895年と100年以上の長い歴史を持つ日本を代表する測定器メーカである。長い歴史の中では無線通信機、ラジオ、電話機などさまざまな製品を市場に送り出してきたが、現在では通信用測定器と異物検査機を主に生産するグローバル企業である。

今回は無線通信機器の送信特性評価で主に使われるスペクトラムアナライザについてお話を伺った。なお今回はコロナ禍のためアンリツの皆様とは直接面談しないでインターネットを活用した。

図46. インタビューを受けて頂いた第1営業推進部 部長 隨念英生様(右)、同部 課長 丸田純一様(中央)、同部 課長 高橋英明様(左)
(アンリツ本社にあるショールームで撮影)

図46. インタビューを受けて頂いた第1営業推進部 部長 隨念英生様(右)、同部 課長 丸田純一様(中央)、同部 課長 高橋英明様(左)(アンリツ本社にあるショールームで撮影)

Q1:長い歴史をもつアンリツについて紹介してください

有線通信の歴史は長く1832年にパヴェル・シリングが電信機を発明したことから始まっており、その後1837年にサミュエル・モールスがモールス符号を発明したことによって電信通信は普及し、日本では1870年に東京と横浜の間で電信通信が始まった。無線通信はグリエルモ・マルコーニが1895年に無線通信を成功させたことから始まっている。

アンリツのツールは1895年設立の石杉(せきさん)社と1900年設立の安中電機であり、1912年には世界初となる無線電話を実用化したことで脚光を浴びた。その後、1974年にMS62Aという製品でスペクトラムアナライザ市場に参入した。AMやFMなどアナログ方式が主流の時代のスペクトラムアナライザは、高周波信号のシンプルな分析ができればよかった。しかし、デジタル方式が主流になると様々な通信方式・変調方式に応じた信号品質の評価が必要となり、その解析機能を備えた製品をシグナルアナライザと呼ぶようになった。シグナルアナライザのシリーズは2007年に発売されたMS2690Aから続いている。

Q2:現在のスペクトラムアナライザの市場トレンドや御社製品の強みはなんですか

ひと昔前のスペクトラムアナライザは大きく・重く、机の上で利用する“ベンチトップタイプ”が主流だった。最近は下図のように様々な利用目的に適した形状や機能性能をもった製品が登場し、ベンチトップタイプも測定評価対象に合わせて多様化している。

図47. アンリツのスペクトラムアナライザ ラインアップ

図47. アンリツのスペクトラムアナライザ ラインアップ

また国内では2005年に総務省でスプリアス測定に関する技術基準等の関係省令および関係告示が改正されており、2022年11月30日の移行期限が迫っている。特に、数十~数百MHz帯を利用する公共業務無線は、周波数の有効活用のためにアナログからデジタルへ移行してチャネル間隔が狭くなり、その結果スプリアス測定が厳しくなった。それらを評価する測定器にも優れた位相雑音性能を求められ、かつアナログとデジタルの両方の評価機能が求められるため、それらを1台で実現したMS2830Aが好評を得ている。 また例えば気象・船舶・航空などパルスやチャープの一次レーダの信号は短時間で変動するため、掃引型のスペクトラムアナライザでは信号を捉えることが困難である。これはFFT(Fast Fourier Transform)解析を組み合わせて評価するが、マイクロ波帯で位相雑音性能も良いMS2840Aが有効である。さらにベンチトップタイプでは測定時間も重視されるため、各種の自動測定ソフトにより測定時間を短縮しており、これは利用者の規格や操作の必要スキルのハードルを下げる効果も大きいと言える。

一方、多くの無線設備では、保守や定期点検(登録点検)を実施する必要があり、場合によっては山の上やビルの屋上に設置してある無線局舎まで測定器を持ち運ぶ必要があるので軽量でバッテリ駆動ができるハンドヘルドタイプのニーズが高く、こちらもマイクロ波回線向け、地上波デジタル放送向け、携帯電話基地局向けなど様々なニーズに対応できる様に多様化している。

近年、無線利用が進む一方で電波干渉による通信障害の問題も発生し易い状況となっており、日頃から電波の状況を監視したいとのニーズも高まっており、ネットワーク経由で遠隔操作も可能な電波監視専用スペクトラムアナライザも登場している。そして実際に電波干渉が発生した場合などに特に便利なリアルタイムスペクトラムアナライザ機能を備えたハンドヘルドモデルもあり、より高機能・高性能化が進んでいる。これ以外にも今後のミリ波利用拡大を見据え170 GHzまで対応できるものまで含め市場の様々なニーズや課題に答えられるスペクトラムアナライザを用意している。

Q3:アンリツの新しい取り組みは

アンリツはこれまで、“はかる”技術をコア・コンピタンスとして、通信計測や食品・医薬品の品質保証などの分野で社会に貢献してきており、通信計測の分野ではスペクトラムアナライザや、ネットワークアナライザなどいわゆる汎用測定器を提供し、電波法対応や、市場における無線機開発や製造で必要とされる計測器のラインナップを揃えている。一方、市場によって無線特性の品質評価は検証レベルや、要求レベルが異なるため、専用測定器の開発・提供にもこれまで力を入れている。

例えば、携帯電話端末市場においては、信号品質だけでなく、実用面を考慮したスループットや、プロトコル、あるいは機能面の検証も活発であり、市場要求に特化した専用測定器の提供を継続している。5G通信においては、Sub-6と呼ばれる6GHz以下の周波数帯に加え、ミリ波帯の運用もはじまり、単に測定器の提供に限らずOTA(Over the Air)測定環境や、素材や基板の誘電率測定に必要とされる共振器と組み合わせた測定環境など、協業を含めた総合的なソリューション構築・提供に取り組み、対応の範囲を拡大させている。

また、5Gの普及に伴い、利活用の動きも活発化しており、ローカル5Gでは様々なプレイヤーが実証実験をおこなっている。アンリツは市場の課題解決に向け、テストベッド構築や、電波暗室を含めた測定環境と技術の提供を主とした評価支援サービス、あるいは測定環境の利用サービスを市場提供する新しい取り組みに着手している。

さらに、アンリツでは無線通信計測だけでなく、有線通信向けの計測器提供も行っており、無線と有線を組み合わせた通信ネットワークの総合的な検証やモニタリング可能なソリューション提供も行っている。将来の自動運転や遠隔医療など通信の幅広い利用に向けた遅延検証や時刻同期などの検証、あるいはデジタルトランスフォーメーションを備えた検証データ管理・利用に向けた新しい市場要求に対しても協同検証を通じてソリューション提供に取り組んでいる。

昨今では、Beyond-5Gや6Gと呼ばれるサブテラヘルツ帯を利用した材料、基板の研究・開発が動き出しており、アンリツではネットワークアナライザの提供を開始している。今後はデバイス開発や、実証実験を通じて品質検証が進むことになるが、サブテラヘルツ帯の市場の動きへ追随することが課題となる。

図48. アンリツの携帯電話 5G製品群とBeyond 5Gの取り組み

図48. アンリツの携帯電話 5G製品群とBeyond 5Gの取り組み

新型コロナウイルスが常態化する中で、従来の営業活動やプロモーション活動が制限される形となったが、ウェビナーや、リモート会議など環境構築にもいち早く対応しており、今後も市場の変化や、これらソリューション紹介など、新しい情報を早期に市場提供できる取り組みを継続していく。


執筆協力:アンリツ株式会社 ホームページは こちら

執筆:中村 尚史 アンリツ株式会社に在籍時に長年に渡って電子計測器の設計や販売支援を担当
魚住 智彦 横河レンタ・リース株式会社 事業統括本部