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スペクトラムアナライザの基礎と概要 (第3回)

スペクトラムアナライザの校正

スペクトラムアナライザの測定の精度を維持するためには定期的な校正が必要となる。また法律や規則で定められた無線設備や放送設備の保守点検に使う測定器は定期的な校正が義務付けられている。

校正体系

測定の基準となる国家標準にトレーサブルな環境を保証するためには、校正作業で使われる測定器の精度が国家標準とつながりがあることを示す必要がある。下図はアンリツのトレーサビリティ体系図を示す。校正の能力はトレーサビリティ体系から判る。

図45. アンリツの高周波トレーサビリティ体系図

図45. アンリツの高周波トレーサビリティ体系図

出典:アンリツホームページ 校正証明書の発行のページにあるトレーサビリティ体系図総合

スペクトラムアナライザの校正項目

スペクトラムアナライザは周波数と信号レベルを観測する測定器であるため、基本の校正項目は「基準周波数確度、単側波帯雑音、入力アッテネータ切替誤差、RF周波数特性、スパン確度、表示周波数確度、表示平均雑音レベル」となる。メーカが行う校正は基本の校正項目に追加して測定精度の信頼性をより高めたものとしている。下表はアンリツが行うスペクトラムアナライザの校正項目例である。

表7. アンリツのスペクトラムアナライザの校正項目例

<機能名称> <校正項目(抜粋)>
基本性能 内部基準発振器 周波数確度
単側波帯雑音
入力アッテネータ切替誤差
RF周波数特性
スプリアス応答
残留レスポンス
スペアナ スパン確度
表示周波数確度
表示平均雑音レベル
2信号 3次歪
イメージレスポンス
プリアンプ 2次高調波歪
平均雑音レベル
RF周波数特性
2信号 3次歪

出典:計測器校正の勘どころ「メーカ校正と第3者校正」(アンリツのホームページ)

登録点検較正

社会インフラである無線設備や放送設備の保守点検に使われる測定器のうち、「周波数計、スペクトル分析器、電界強度測定器、高周波電力計、電圧電流計、標準信号発生器」は電波法24条の2に規定された校正事業者で1年ごとに測定精度が確認されたものを使うことが義務つけられている。スペクトラムアナライザは該当するので無線設備や放送設備の保守点検に使う場合は定期的に較正を行う必要がある。

【ミニ解説】校正と較正

電波法では測定器の精度を維持することに較正(こうせい)という文字を使っている。一般に使われている計量法に基づく校正と何が違うのかについて説明する。

電波法で使われている較正の本来の意味は「測定器を基準器と比較して正しい測定ができるように調整する」という意味を持っており、一般に使われる校正は「基準器と比較して正しい測定結果が得られるか確認する」ことである。本来は違う意味であったが、現在は較正であっても調整は行わず、校正と同じ作業が行われている。測定器を作ったメーカ以外の校正事業者が回路を調整するとメーカの品質保証が得られないという背景があり、現在では較正であっても調整は行わない運用が一般的である。

技術適合証明に使われる測定器の較正

携帯電話や小電力無線(コードレス電話、無線LAN、Bluetoothなど)は技術適合証明(技適)を取得することによって定期的な無線設備の保守点検はされないで使われる。技術適合証明をするための測定器は較正されていることが必要である。対象となる測定器は電波法第38条の8の別表3で定められている。

表8. 技術標準適合証明を行う際に使用する測定器

一. 第38条の2の2第1項第1号の事業
(小電力無線局)
1. 周波数計 5. オシロスコープ 9. 電圧電流計
2. スペクトル分析器 6. 高周波電力計 10. 低周波発振器
3. バンドメーター 7. 電力測定用受信機 11. 疑似音声発生器
4. 電界強度測定器 8. スプリアス電力計 12. 疑似信号発生器
二. 第38条の2の2第1項第2号の事業
(携帯電話)
1. 一の項に掲げるもの 2. 変調度計 3. 直線検波
4. 非吸収率測定装置 5. ひずみ率雑音計
三. 第38条の2の2第1項第3号の事業
(その他)
1. 二の項に掲げるもの 2. レベル計 3. 標準信号発生器

スペクトラムアナライザは較正を行う対象になるので、技術適合証明を行う登録証明機関が使う測定器は基準を満たしている必要がある。

おわりに

今後ともIoTの利用拡大、5G携帯電話の普及、ミリ波を使う次世代の高速通信の研究の活発化など市場の要求に応じた通信機器の開発が進むと期待されている。その中でスペクトラムアナライザは必須の測定器であるため今後とも新しい製品が登場することが期待されている。この記事がスペクトラムアナライザの理解の一助となることを願っている。

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