技術情報・レポート

2021/04/06

スペクトラムアナライザの基礎と概要 (第2回)

<連載記事一覧>

第1回:「はじめに」「スペクトラムアナライザの概要と主な利用分野」「スペクトラムアナライザの種類」「スペクトラムアナライザの形状」「【コラム】スペクトラムアナライザを理解するための用語」

第2回:「スペクトラムアナライザの構造」「スペクトラムアナライザの基本的な設定」「スペクトラムアナライザの使用上の注意」「【コラム】日本国内で販売されている主なスペクトラムアナライザ」

第3回:「スペクトラムアナライザの周辺機器」「スペクトラムアナライザの利用事例」「スペクトラムアナライザの校正」「おわりに」「【インタビュー】アンリツの無線通信用測定器の取組み」(4月下旬頃掲載予定)

スペクトラムアナライザの構造

アナログ方式の掃引型スペクトラムアナライザの基本的なブロック図を示して機器の機能を説明する。

図19. アナログ方式の掃引型スペクトラムアナライザの構造

図19. アナログ方式の掃引型スペクトラムアナライザの構造

入力信号はアッテネータを介してミキサに入力される。周波数を外部信号によってスイープできるローカル発振器とミキサによって入力信号は中間周波数に変換される。観測する信号のダイナミックレンジが広いため、中間周波数に変換された信号は対数増幅器を通過させることによってLOGスケール(対数目盛り)となる。その後、検波器とビデオフィルタを通過して画面に表示される。画面の縦軸はレベル、横軸は周波数である。横軸の周波数はローカル信号を制御する掃引発振器の信号となる。縦軸と横軸が決まることによって周波数分析をした結果は2次元で表現できる。

【ミニ解説】ミキサの機能

ミキサは2つの入力信号を掛け合わせることができるデバイスである。周波数がf1とf2の正弦波信号をミキサによって掛け合わせるとf1+f2の周波数成分を持つ信号とf1-f2の周波数成分を持つ信号が出力される。

図20. 周波数ミキサの機能

図20. 周波数ミキサの機能

スペクトラムアナライザではミキサの出力を周波数帯域幅が可変できるバンドパスフィルタを使って和もしくは差の周波数を中間周波数信号として取り出せる仕組みとなっている。

スペクトラムアナライザの性能はローカル発振器の性能に依存する。ローカル発振器の位相雑音(発振周波数に揺らぎ)が大きいと入力信号の周波数成分を正しく表示することができなくなる。

図21. スペクトラムアナライザの発振器の位相雑音性能を良くする理由

図21. スペクトラムアナライザの発振器の位相雑音性能を良くする理由

例えば、測定信号の近傍にスプリアスや波形の持ち上がりがあった場合、位相雑音の悪いスペクトラムアナライザでは測定できないが、位相雑音の良いスペクトラムアナライザであれば測定できる。

図22. 位相雑音の良いスペクトラムアナライザと悪いスペクトラムアナライザの違い

図22. 位相雑音の良いスペクトラムアナライザと悪いスペクトラムアナライザの違い

このためスペクトラムアナライザに搭載されるローカル発振器は外部制御電圧によって幅広い発振周波数の制御ができ、かつ位相雑音が小さいことを要求される。スペクトラムアナライザのローカル発振器にはVCO(Voltage-controlled oscillator)もしくはYTO(YIG Tuned Oscillator)が使われる。それぞれの特長が異なるため製品に要求される性能によって使い分けられている。

表4.VCOとYTOの特長の比較
発振器に関する性能項目 VCO YTO
掃引速度 ×
コスト性 ×
周波数リニアリティ ×
発振器の位相雑音 ×

出典:低位相雑音シンセサイザを搭載したシグナルアナライザMS2840A の開発(アンリツテクニカル No. 92 Mar. 2017)

スペクトラムアナライザには観測する信号を入力する端子以外に、基準周波数の入力端子(10MHz Ref入力)や出力端子(10MHz Ref出力)がある。これらの端子は複数の測定器を使ってシステムを構築する場合に基準となる周波数源を1つにするために使われる。

IF出力は設定した周波数帯域での信号レベルを観測するときに使われる。その際はスペクトラムアナライザのスタート周波数とストップ周波数を同じにするゼロスパン設定として、IF出力端子の信号を高周波電力計に接続して測定を行う。電波法で免許がいらない10mW以下のスペクトラム拡散方式無線装置では10mW/MHz以下の電力密度が規定されているため、IF出力端子を使う測定が行われている。

そのほかにもIF出力信号をオシロスコープなどで波形をメモリに取り込んでから変調解析を行う場合もある。

スペクトラムアナライザの基本的な設定

現在販売されているスペクトラムアナライザは多くの機能を持つため、設定項目は複雑になっている。ここでは最も基本的な使い方をする際に設定する項目について説明する。

周波数範囲の設定

スペクトラムアナライザは観測したい周波数の範囲を設定する。その際には中心周波数を設定したのちに観測したい周波数範囲(スパン)を設定する方法と、掃引の起点となる周波数(スタート周波数)と終点となる周波数(ストップ周波数)を設定する2つの方法がある。

図23. 観測する周波数範囲の設定

図23. 観測する周波数範囲の設定

アッテネータの設定

スペクトラムアナライザは入力信号に含まれる周波数成分を観測するものであるため、スペクトラムアナライザ内部で発生するひずみが小さくなるようにアッテネータによって信号レベルを最適に設定する。下図に入力信号のレベルが高すぎて測定器内部でひずみが生じた例を示す。

図24. アッテネータの設定(ミキサ過入力によるひずみ)

図24. アッテネータの設定(ミキサ過入力によるひずみ)

また、アッテネータによる減衰量を大きくすると測定器内部に入力される信号も小さくなり、ノイズフロア(測定器内部で発生する雑音の平均値)と信号の差は小さくなるので注意が必要である。

図25. アッテネータの設定(減衰量とノイズフロアの関係)

図25. アッテネータの設定(減衰量とノイズフロアの関係)

【ミニ解説】 dBmとは

スペクトラム解析では電力で振幅差の非常に大きい信号を取り扱う必要があるため、1mWを基準(=0dBm)としてP(dBm)=10×log10(P(mW))で変換した単位系である"dBm(デービーエム)"という単位がよく使われる。例えば1Wの場合は、P(dBm)=10×log10(1,000mW)=30dBm、1µWの場合、P(dBm)=10×log10(0.001mW)=-30dBmと表現される。

分解能帯域幅(RBW)の設定

中間周波数回路のバンドパスフィルタの帯域幅を設定して、観測する信号の周波数帯域を決める設定のことである。分解能帯域幅(RBW:Resolution Band Width)を決めることにより、観測する信号の周波数成分をどれだけ細かく見るかが決まる。ただし分解能帯域幅を小さくすると掃引時間が長くなるので注意が必要である。

図26. 分解能帯域幅(RBW)の設定(設定周波数幅の違いによる観測結果の違い)

図26. 分解能帯域幅(RBW)の設定(設定周波数幅の違いによる観測結果の違い)

分解能帯域幅(RBW)の周波数を狭くすると信号は平均化されてノイズレベルは小さくなる。この現象を理解するには分解能帯域幅(RBW)の設定をコップに例えれば判り易い。周波数の広い設定は直径の大きなコップ、周波数の狭い設定は直径の小さなコップで考えてみる。大きなコップは幅広い周波数の信号の平均値となり、直径の小さなコップは狭い周波数の信号の平均値となる。

図27. 分解能帯域幅(RBW)を変えると測定波形が変わる理由

図27. 分解能帯域幅(RBW)を変えると測定波形が変わる理由

ビデオ帯域幅(VBW)の設定

ビデオフィルタは入力信号の検波された信号レベルの変動を少なくするためのローパスフィルタである。ビデオ帯域幅(VBW:Video Band Width)の周波数範囲を狭くするとノイズレベルは平均化されて小さく抑えられるが、掃引時間が長くなるので注意が必要である。レーダのバースト信号を観測する際にビデオ帯域幅(VBW)を狭くすると信号レベルが正しく観測されないことがある。

図28. ビデオ帯域幅(VBW)の設定によるノイズによるレベル変動の平均化

図28. ビデオ帯域幅(VBW)の設定によるノイズによるレベル変動の平均化

【ミニ解説】分解能帯域幅(RBW)とビデオ帯域幅(VBW)の設定と掃引時間

分解能帯域幅(RBW)とビデオ帯域幅(VBW)はいずれもフィルターであるため応答時間がある。正しく入力信号レベルを測定するためには、掃引時間の設定を分解能帯域幅(RBW)とビデオ帯域幅(VBW)の設定値から最適な掃引時間を計算して設定する必要がある。Kは機種固有の値である。

分解能帯域幅(RBW)≧ビデオ帯域幅(VBW)の場合
分解能帯域幅(RBW)≧ビデオ帯域幅(VBW)の場合

分解能帯域幅(RBW)<ビデオ帯域幅(VBW)の場合
分解能帯域幅(RBW)<ビデオ帯域幅(VBW)の場合

通常、スペクトラムアナライザを使う場合はAutoの設定があるので上記の計算をしないで使うことができる。また設定が正しくない場合はスペクトラムアナライザの画面にUncalという警告が表示される。