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プログラマブル (出力可変型) 直流安定化電源の基礎と概要 (第1回)

はじめに

直流電源の歴史は古く、1800年にボルタが電池を発明したときから始まる。電池は電気化学現象を利用して直流の電気を得るため、長時間に渡って安定した電源として使うことは難しいが、電池の登場によって電信通信やアーク灯といった新しい技術が生まれた。

セレン整流器や二極管の発明によって発電機から得た交流を整流して直流を安定して取り出すことができるようになった。その後、電子回路の進化によってプログラマブル(出力可変型)直流安定化電源が開発され、任意の電圧や電流を得ることができるようになり試験や検査での利用が始まった。

直流電源はさまざまな分野で使われているため、多くの製品が市場にある。今回の解説では製品の開発や生産の現場で使われているプログラマブル直流安定化電源のうち、対象物にエネルギーを供給する試験用電源について「製品の種類、機器選定での留意点、製品の内部構造、使用上の注意点、利用事例の紹介」などプログラマブル直流安定化電源を理解するうえでの基礎知識を紹介していく。今回は紙面の都合でバイポーラ電源(高速直流電源)と高電圧電源の詳細は割愛する。

また、解説記事ではプログラマブル試験用直流電源のうち、一般によく利用されているドロッパ方式電源とスイッチング方式電源を便宜上「直流電源」という表現をする。

今回の記事は菊水電子工業の協力を得て執筆を行った。

図1. さまざまな直流電源装置

図1. さまざまな直流電源装置

上記の図はさまざまな直流電源を示す。試験や検査で使われるのは点線で囲ったプログラマブル安定化直流電源である。この領域の計測に使われる電源について概要を示す。

ドロッパ方式直流電源

リニア電源やシリーズ電源と言われることもある直流電源で、低ノイズではあるが効率はスイッチング電源と比較するとよくない。ノイズを嫌う用途で使われる。

図2. コンパクトなドロッパ方式電源(PMX-Aシリーズ)

図2. コンパクトなドロッパ方式電源(PMX-Aシリーズ)

提供:菊水電子工業株式会社

スイッチング方式直流電源

効率がよいため、現在では主流となっている。最近のスイッチング方式直流電源はノイズ対策がされているため、幅広い分野で利用されている。また、ドロッパ方式直流電源では難しい大容量電源を作ることができるため、ハイブリッド自動車などの試験に使われている。

図3. ベンチトップのスイッチング方式直流電源(PWR-01シリーズ)

図3. ベンチトップのスイッチング方式直流電源(PWR-01シリーズ)

提供:菊水電子工業株式会社

高電圧電源

数千~数万ボルトの直流電圧が発生できる高電圧電源は「光電子増倍管、質量分析、電子ビーム、複写機などの感光ドラムへの帯電」などに使われる。

バイポーラ電源

直流から高い周波数帯域を持った電力を供給(ソース)できると共に吸収(シンク)することができる4象限電源で、低出力インピーダンスの電力増幅器としても利用される。信号源と組み合わせて高速な試験波形を発生できるので、自動車に搭載される電子機器の電圧変動試験や圧電素子の駆動試験などに利用される。

図4. 高速動作が可能なバイポーラ電源(PBZシリーズ)

図4. 高速動作が可能なバイポーラ電源(PBZシリーズ)

提供:菊水電子工業株式会社

校正用電圧電流発生器

電圧や電流を測定するデジタルマルチメータやプラント制御機器など校正や検査に利用される基準として使われる電圧電流発生器である。通常の直流電源と異なり、大きなエネルギーを発生する目的には使われない。

図5. 6.5桁デジタルマルチメータまで校正できる電圧電流発生器(5522A)

図5. 6.5桁デジタルマルチメータまで校正できる電圧電流発生器(5522A)

提供:株式会社TFF フルーク社

図6. プラント制御機器の点検に使われる電圧電流発生器(CA150)

図6. プラント制御機器の点検に使われる電圧電流発生器(CA150)

提供:横河計測株式会社

ソース/メジャーユニット

電子部品や電子回路の評価を行うための「高精度な電圧電流発生装置+電圧電流測定器」である。主に利用されるのは半導体の評価で、測定器メーカが提供するPCソフトウェアを使って半導体の電圧電流特性が評価できる。

最近ではパワー半導体の評価ができる大容量のソース/メジャーユニットも登場している。

図7. 半導体評価に使われるソース/メジャーユニット(GS820)

図7. 半導体評価に使われるソース/メジャーユニット(GS820)

提供:横河計測株式会社

直流電源を取巻く市場動向

直流を必要とする機器

交流はトランスで簡単に電圧を変更することができるので、送配電に適している。交流をそのまま使える身近な電気器具は白熱電球や誘導電動機など限られたものになっている。多くの電気製品は交流を直流に変換して利用している。

表1. 主な直流電源の利用と電圧
用途 直流電圧
デジタルICへの給電 1~5V
携帯電話、スマートフォン電池 3.8V
USB直流給電 5V
ACアダプタ 3~24V
LED照明用外部電源 6~200V
データセンター直流給電 12V、48V
通信機器駆動用電源 48V
自動車電源 12~48V
船舶直流給電 24V
鉄道車両用補助直流電源 24V、100V
航空機直流給電 14V、28V、270V
HVDCバス給電(データセンターなど) 300~400V
ハイブリッド車パワーユニット 274~650V
電気自動車用急速充電器 360~1000V
直流電車給電 600~1500V
メガソーラー用パワーコンディショナ入力 600~1500V
直流高圧送電 125kV~500kV

最近はハイブリッド自動車や電気自動車の開発が活発となり、高電圧で大電流を扱う用途が増えている。また再生可能エネルギー分野では太陽光発電の普及が今後とも期待されている。

低電圧化が進む電子機器

1960年代初頭に登場した初期のデジタルICであるRTL(Resistor Transistor Logic)やDTL(Diode-transistor logic)は12Vの電源で動作していたが、1960年代中ごろに登場したTTL(Transistor Transistor Logic)では5Vとなった。しばらくは5Vで動作するデジタルICが使われてきたが、その後、低電圧化が進んでいった。

図8. 電源電圧の許容範囲が狭くなる

図8. 電源電圧の許容範囲が狭くなる

出典:ザインエレクトロニクス株式会社の資料(http://sp.chip1stop.com/thine-interveiw-module/

製造プロセスの微細化高集積化によりデバイスのパフォーマンスは向上しているが、電源にとっては低電圧大電流となり、今まで以上の安定度が要求される。計測用電源においても半導体デバイスの低電圧化に伴い、安定度の高い電源が要求されている。

自動車のエレクトロニクス化

1960年代に乗用車に真空管式のAMラジオが搭載されたのが、本格的なカーエレクトロニクスの始まりである。2度のオイルショックにより石油価格が高騰して、燃費のよい自動車が求められるようになったため、1970年代後半には最適な燃焼制御を行うための電子制御回路を搭載した自動車が多く作られるようになった。

最近では快適で安全に運転ができるように、さまざまな電子機器が自動車に搭載されるようになっている。今後は自動運転などより高度な制御を行うための電子機器の搭載がさらに増えると予測される。

図9. 車載組込みシステム

図9. 車載組込みシステム

出典:組込みシステム技術協会ホームページ

エネルギーの有効利用の観点でハイブリッド自動車が普及し、駆動のためのモータが自動車に組込まれるようになった。これにより直流電源に新たに大容量化の要求が生じた。

自動車は人を乗せて「安全」に移動できることが最も重要であるため、自動車に搭載された電子回路は誤動作を生じない保障が必要となる。自動車内の電源環境はエンジンを始動するためのスターターモータ、ヘッドランプ、エアコンなどが起動したとき、供給電圧が大きく変動する。このため自動車に搭載する電子機器は国際規格に従った電源環境試験が必要となっている。

再生可能エネルギー

地球温暖化対策のため、世界中で再生可能エネルギー利用の拡大は進んでいる。日本国内では太陽光発電が急速に普及した。今後とも環境・エネルギーへの関心の高まりにより市場が拡大すると期待されている。

図10. 2050年までの太陽光発電の累積稼働見通し(国内)

図10. 2050年までの太陽光発電の累積稼働見通し(国内)

出典:太陽光発電協会発行「太陽光発電2050 年の黎明(2017年6月)」

太陽光発電では太陽電池で得た直流を交流に変換するパワーコンディショナが使われる。パワーコンディショナを評価するためには太陽電池を模擬する直流電源が必要となる。パワーコンディショナは住宅用の小型のものからメガソーラーに使われる大型のものまであるため、利用される直流電源の容量や電圧はさまざまとなる。

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