速納.com

学び情報詳細

プログラマブル (出力可変型) 直流安定化電源の基礎と概要 (第1回)

【コラム】電源装置の研究開発

島根大学発ベンチャー企業のパワエレアカデミー代表の服部文哉氏に最新の電源装置の研究開発の現状について伺った。

電源装置は入力変動や負荷変動があっても安定した品質の良い電圧や電流を供給することが求められる電子回路で、そのシンプルな要求は長年変わっていない。デジタル制御電源が登場したことよってアナログ回路だけではできなかった高度な制御が可能になってきた。

スイッチング電源を選ぶ人が注目する仕様項目では「出力電圧、出力電流、ラインレギュレーション、ロードレギュレーション、効率、ノイズ(高調波やリップル含む)、使用環境、長期信頼性(寿命)、安全、外形寸法、重さ」など基本的なところは昔から大きく変わらない。またビジネスの視点で見ると、電源は国内外で多くの参入企業があり、コスト競争が激しい産業である。

電源技術は「材料技術、半導体技術、受動部品技術」が根幹にあり、その上に「実装技術、回路技術(アナログ制御技術を含む)、さらにデジタル制御電源ではソフトウェア技術やDSP技術」という階層構造になっている。

特に「材料技術、半導体技術や受動部品技術」は電源の進化に大きく貢献しており、幅広い分野で研究開発が行われている。SiCやGaNといった新しい半導体デバイスは雑誌などで紹介され、多くの電源技術者の関心を得ている。すでにSiCやGaNを使った電源装置の登場は始まっているが、研究レベルではその先を見据えた下記のようなGaNを使った電源装置が名古屋大学 未来材料・システム研究所 教授の山本真義氏から発表されている。

図18. 世界最高電力密度(3.56W/cm3)のDC-DCコンバータ

図18. 世界最高電力密度(3.56W/cm3)のDC-DCコンバータ

出典:名古屋大学

しかし、半導体だけ進化しても革新的な電源装置を作ることができない。材料や受動部品の進化も必要とされ研究開発は進んでいる。

電源装置はベースになる部分の開発には幅広い知識が必要で、多くの経験がないと安定した「ものづくり」ができないため、日本の産業特性にあっている。

パワーエレクトロニクス分野で日本は世界で優位な地位を現在持っている。しかし半導体や受動部品を使って、実際に「ものづくり」ができる若手人材を育成していかないと、開発現場の強みは保てないため、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は「パワーエレクトロニクス人材育成事業」を行って、社会人を対象に大学や高等専門学校で電子回路設計を習得する教育を毎年実施している。コースは2つ用意されており、基礎技術を習得する「ベーシックコース」と、より高度な知識を習得する「アドバンストコース」がある。ベーシックコースは電源を支える「材料、半導体、受動部品」の技術者も対象にしており、電子回路の設計を直接行わない人でも理解できるよう講座を工夫している。例えば「インダクタ、キャパシタ、抵抗の基礎知識」や、「オシロスコープの基本的な使い方」も講座に含めている。

電源技術の進化は自動車産業や情報・通信機器産業から期待が高く、今後とも市場の要求に沿った電源装置の研究開発は進んでいく。

株式会社パワエレアカデミーの紹介

2013年に技術セミナーを主な事業とする島根大学発のベンチャー企業第一号として設立された。「電源装置開発に必要な幅広い知識を設計現場で活躍している技術者に伝えるとともに、電源技術者のネットワーク構築に役立ちたい」という強い思いが設立の背景にある。2018年6月までに26回のセミナーを開催して、多くの電源を開発する技術者に最新の技術情報を伝えた。また、パワエレアカデミー代表の服部文哉氏はNEDO事業「パワーエレクトロニクス技術に関する人材育成事業」に奈良工業高等専門学校准教授の石飛学氏と共に参画している。
URL: http://powerele-academy.co.jp/index.html

図19. パワエレアカデミー社が行う技術セミナー

図19. パワエレアカデミー社が行う技術セミナー

※ 新製品リリースに伴い表4、5のPWR-01シリーズの内容を変更(2019年8月29日)
※ 新製品リリースに伴い図16を変更(2020年7月17日)


執筆協力:菊水電子工業株式会社 ホームページは こちら

執筆:横河レンタ・リース株式会社 T&M事業部 魚住 智彦

速納.com