プログラマブル (出力可変型) 直流安定化電源の基礎と概要 (第1回)
試験用直流電源の種類
計測用に使われる直流電源はさまざまなタイプがある。ここでは切り口を変えて直流電源の種類を見てみる。
安定化の方式で分ける
直流安定化電源は2つの方式がある。1つはドロッパ方式である。ドロッパ方式はリニア方式、シリーズレギュレータ方式とも呼ばれることもある。ドロッパ方式は1960年から電気学会標準電子回路専門委員会で3年間にわたり検討され、その成果は広く知られることになり、ドロッパ方式の普及に貢献した。
2つ目は1970年代に登場したスイッチング方式である。スイッチング電源は宇宙開発で要求される高効率で軽量な電源から始まって、小型化と高効率化が進み現在では多くの電気製品で使われている。
それぞれの特長は一般に下記のようになる。
ドロッパ(リニア)方式 | スイッチング方式 | |
---|---|---|
回路構成 | 単純 | 複雑 |
制御動作 | 降圧 | 降圧・昇圧・極性反転 |
応答 | 早い | 遅い |
出力ノイズ | 少ない | 多い |
体積・重さ | 重くて大きい | 軽くて小さい |
発熱 | 多い(効率が悪い) | 少ない(効率がよい) |
出力容量で分ける
市販されている直流電源を容量で分類すると下記のようになる。厳密な区分ではないが、容量によって用途が異なってくる。
区分 | 容量 | 利用例 |
---|---|---|
小型 | ~0.3kW | 小規模な電子回路の評価、教育のための実験 |
中型 | 0.3~5kW | 自動車用補器の試験、電力用半導体の試験 |
大型 | 5~10kW | 電動パワーステアリング、住宅用パワーコンディショナの試験 |
超大型 | 10kW~ | 駆動用車載インバータ、大型パワーコンディショナの試験 |
レンジ制御方式で分ける
直流電源は最大出力電圧と最大出力電流がどの設定状態でも同じである固定単一レンジの製品が広く普及していたが、最近はワイドレンジの製品が増えてきた。菊水電子工業のワイドレンジ電源であるPWR401Lを事例に動作を示す。
この電源では10Vまでの定電圧出力場合は最大40Aまで出力できる。また40Vの定電圧出力の場合は最大10Aまでとなる。
単一固定レンジの直流電源であれば電圧を可変しても電流値が一定であるので、400Wモデルで最大40V出力の直流電源では、10Vに設定しても10Aまでしか出力は得られなかった。
ワイドレンジの電源は一般に固定レンジの電源に比べて、価格は高いが1台で対応できる範囲が広いため、用途が多様な場合は便利である。
ワイドレンジという機能はメーカによって表現が異なる場合があるので注意を要する。現在市場にある直流電源に搭載された同じ機能がオートレンジ、マルチレンジ、ズームと表現されている。
卓上型と薄型
直流電源の多くは正面パネルから操作をしやすいように設計されている。このためケース形状は操作しやすい高さになっている。組み込みシステム専用電源の場合はパネルからの操作はほとんど行わず、通信からの制御もしくは設定を固定にしての利用が主となる。組み込みシステム専用電源の場合はスペース効率が優先されるため、ラックに多くの電源が実装できる薄型となる。
ユニット当たりの出力数
多くの直流電源はユニット(筐体)当たりの出力数は1つであるが、狭い実験ベンチの上に多くの電源装置を並べるのはスペース効率がよくないので、一つの電源ユニットに複数の出力を持つものがある。このような電源は複数の出力を同期させて変化させることができる機能や、出力のオンのタイミングを出力ごとに遅延させる機能も搭載されている。
よい直流電源とは
ここでは直流電源を選ぶ場合の留意すべき項目について述べる。
出力の変動要因
直流電源を定電圧源(CV:Constant Voltage)や定電流源(CC:Constant Current)として利用する場合、設定した出力状態は下記のような外部要因により変動する。
- 負荷の変動
- 入力電源の変動
負荷変動は電源の出力インピーダンスや制御性能によって変わってくる。負荷が変動して電源から出力される電流や電圧に変化があった時の出力の変化を示す仕様として負荷変動率(ロードレギュレーション)がある。無負荷と全負荷の時の差を示す。
入力電源変動は商用電源(日本ではAC100V)の電圧変動によって出力が変化する。日本の商用電源は安定しているが、海外では商用電源の電圧が安定しない地域がある。入力電源変動率(ラインレギュレーション)は規定された入力電源電圧の範囲での出力の変化率を仕様として示している。
電力変換効率
商用電源から入力した電気エネルギーをどの程度効率よく出力に変換できるかという指標である。スイッチング方式直流電源は仕様に効率が規定されている。
下記には菊水電子工業のスイッチング方式直流電源の効率を示す。いずれも70%以上の効率となっている。
シリーズ |
レンジ 制御 |
効率 |
---|---|---|
PWR-01 |
ワイド レンジ |
400Wモデル 75%typ 800Wモデル 75%typ 1200Wモデル 75%typ 2000Wモデル 75%typ |
PWR |
ワイド レンジ |
70%以上 |
PAV |
固定 レンジ |
200Wモデル:AC100V入力時 76~79%typ(機種により異なる) 200Wモデル:AC200V入力時 77.5~81%typ(機種により異なる) 400Wモデル:AC100V入力時 81~87%typ(機種により異なる) 400Wモデル:AC200V入力時 83~88.5%typ(機種により異なる) 600Wモデル:AC100V入力時 80~84%typ(機種により異なる) 600Wモデル:AC200V入力時 82~86%typ(機種により異なる) |
PAT-T |
固定 レンジ |
4kWモデル 84~85%以上(機種により異なる) 8kWモデル 85%以上 |
PWX |
ワイド レンジ |
750Wモデル 74%以上 1500Wモデル 74%以上 |
PAG |
固定 レンジ |
750Wモデル:AC100V入力時 76~83%typ(機種により異なる) 750Wモデル:AC200V入力時 78~87%typ(機種により異なる) 1500Wモデル:AC100V入力時 77~84%typ(機種により異なる) 1500Wモデル:AC200V入力時 79~88%typ(機種により異なる) 2400Wモデル:AC200V入力時 84~88%typ(機種により異なる) 3300Wモデル:AC200V入力時 82~88%typ(機種により異なる) 5000Wモデル:AC200V入力時 83~88%typ(機種により異なる) |
注)PWRシリーズは生産終了となっている |
ドロッパ方式直流電源は仕様に効率は規定されていないが、一般に25~50%となっている。直流電源の損失はすべて熱となるため、スイッチング方式直流電源に比べてドロッパ方式直流電源の発熱は大きくなる。
力率
スイッチング方式直流電源は回路構成上、入力側に大きな容量の電解コンデンサが接続されているため、一次側の入力電流が尖った波形となり、結果として力率を低下させる。低力率の電源装置を使うと受電設備に影響が生じる恐れがある。
力率の低下を起こしやすい単相入力のスイッチング方式直流電源では、ほとんどの製品で力率改善(PFC)回路が搭載されている。
ノイズ対策
直流電源が外部からのさまざまなノイズの影響を受けないこと、また直流電源からノイズの発生を抑制することが求められる。直流電源は国際規格に準拠した試験を行い、適合していることが求められる。
ノイズの影響を受けない性能をノイズイミュニティという。国際規格のIEC61000-4規格で測定法が標準化されている。この規格では電源変動や瞬低、電源高調波、静電ノイズ、雷サージ、磁界、高周波電界に対しての試験法と判定基準が定められている。菊水電子工業のコンパクト・ワイドレンジ直流電源 PWR-01シリーズの仕様を見ると、EN61326-1 Class Aに適合していると書かれている。これはIEC61000-4のイミュニティ試験に適合していることを示す。
ノイズを発生することをノイズエミッションという。スイッチング電源は高速に動作する回路が使われているため、伝導ノイズが放射ノイズを発生する。菊水電子工業のコンパクト・ワイドレンジ直流電源 PWR-01シリーズの仕様を見ると、EN55011とEN61000-3-2、EN61000-3-3に適合していると書かれている。これは国際規格CISPR 11とIEC61000-3-2、IEC61000-3-3に適合していることを示す。
突入電流
一般的なスイッチング方式直流電源はコンデンサインプット型となっているため、電源オン時に入力平滑コンデンサを充電するための大きな電流が流れる。大きな突入電流はスイッチやリレーなどの接点の溶着を生じる恐れがある。
なお突入電流は数msと短い時間であるが、ブレーカの動作特性によっては突入電流によりブレーカが動作することがあるので、低速型または遅延型を選ぶ必要がある。
突入電流を軽減するために、スイッチング方式の直流電源には突入電流防止回路が組み込まれている。
菊水電子工業のスイッチング方式の直流電源の突入電流は下記のようになる。
シリーズ | 突入電流 | |
---|---|---|
スイッチング方式 | PWR-01 |
400Wモデル 25Apeak以下 800Wモデル 50Apeak以下 1200Wモデル 75Apeak以下 2000Wモデル 125Apeak以下 |
PWR |
400Wモデル 35Apeak以下 800Wモデル 70Apeak以下 1200Wモデル 140Apeak以下 |
|
PAV |
200Wモデル:AC100V入力時 15~25A以下(機種により異なる) 200Wモデル:AC200V入力時 25~30A以下(機種により異なる) 400Wモデル:AC100V入力時 25A以下 400Wモデル:AC200V入力時 25A以下 600Wモデル:AC100V入力時 30A以下 600Wモデル:AC200V入力時 30A以下 |
|
PAT-T |
4kWモデル 50Apeak以下 8kWモデル 100Apeak以下 |
|
PWX |
750Wモデル 70Apeak以下 1500Wモデル 70Apeak以下 |
|
PAG |
750Wモデル 25A以下 1500Wモデル 50A以下 2400Wモデル 50A以下 3300Wモデル:単相または三相200V時 50A以下 3300Wモデル:三相400V時 20A以下 5000Wモデル:三相200V時 50A以下 5000Wモデル:三相400V時 20A以下 |
|
注)PWRシリーズは生産終了となっている |
リップル
スイッチング方式の直流電源は内部で高速に電流のオンとオフを繰り返しているために高周波ノイズが発生する。直流電源の出力波形には下記のようなノイズが直流電圧に重畳している。これをリップルという。
リップルノイズの測定法は電子情報技術産業協会(JEITA)が定めた「スイッチング電源試験方法(RC-9131C)」に記載されている。ここではオシロスコープを使って測定する方法が示されているが、画面から測定結果を読み取るのは手間が掛かる。なお、高い周波数成分を含むリップルノイズ電圧の測定を過去の測定結果と互換性を保つにはオシロスコープの周波数帯域を100MHzに固定するのが望ましい。リップルノイズを測定する専用機「リップルノイズメータ」を利用すれば簡単に測定できる。
リップルの測定条件はメーカによって独自に定めている場合があるので、製品を比較する場合は注意が必要である。
スイッチング方式直流電源を長期間使用すると内部にあるアルミ電解コンデンサが劣化してリップル電圧が増加するため劣化を診断する指標になっている。
温度係数
エージング試験や耐久試験のように長時間連続して利用する場合は、温度変化によって直流電源の内部にある基準電圧が変動して影響が出力に現れるので、利用する前に直流電源の仕様を確認する必要がある。定電圧動作時と定電流動作時では温度係数が異なる場合があるので注意が必要である。
過渡応答時間
負荷状態の急変時、出力電圧が設定値の規定した範囲内に復帰するまでの応答時間という。負荷変動が大きな対象物に接続して利用する場合は直流電源の仕様を確認しておくことが必要である。ただし。過渡応答時間は定電圧電源として利用した場合の仕様値である。 過渡応答時間は過渡回復時間と表現しているメーカもある。
安全
直流電源はエネルギーを供給する装置であるため、安全に配慮された設計になっている。電源装置を選定する場合は「電気計測器の製品安全の国際規格IEC 61010-1(EN 61010-1、JIS C1010)」に適合していることが望ましい。
また、実際に直流電源を利用する場合は、対象物への接続は取扱説明書の書かれた手順で行い、安全のために金属端子には樹脂カバーを付けて利用する。
利用者支援
最近の直流電源は高機能であるため、取扱い説明書を読んでも使い方が理解できないことがある。使い方が判らない時の電話やメールによる相談窓口が用意されていることや、ホームページに技術情報が掲載されているメーカの製品は安心して利用できる。
また、電源装置の故障や点検に迅速な対応ができるかも重要な視点である。