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2022/12/23

ワイパー ~ なくてはならない装備

悪天候で自動車を運転する時、フロントガラス(和製英語、米:windshield、英:windscreen)の視界を維持するためワイパーは欠かせない装備です。現在の原型が取り入れられてから100年ほど経っていますが、基本的な機能や性能は大きく変わっていません。ワイパーの機能が進化する中で、人間模様が映画化されたこともありました。本稿では、ワイパーに関する歴史、構造や関連する技術について紹介します。ブレード、ワイパーモータ、ワイパースイッチなどの各部を概説します。ADAS※1の影響でワイパーの方式に変化があります。ワイパーに採用されているエレクトロニクス技術や、自動車以外のワイパーも触れます。最後にワイパー技術に関連した計測器を紹介します。

※1

(Advanced Drive-Assistance System)先進運転支援システム。「エーダス」と呼称。自動車の安全性を高め、ドライバの運転支援を行うシステム。

《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》

ワイパーの歴史

最初の実用的なワイパーを発明したのは、米国メアリー・アンダーソン(MARY ANDERSON 1866~1953)と言われています。類似の方式は以前から存在していたようですが、彼女の考案によるワイパーはゴムが組み込まれたアームをバネでガラス面に密着させる構造となっており往復させると雨や雪を払拭できることが画期的でした。発明のきっかけは、路面電車に乗っていて、運転手が車両を停車させてガラス窓の雪を取り除いていたことを目の当たりにしたからとされています。1903年に特許が成立しました。最初の量産車とされているT型フォードの生産開始前(1908年販売)ですので、この特許による利益は得られなかったようです。残念ながら特許が失効した後に、この特許の基本構造を活かしたワイパーが普及しました。早すぎた発明だったのでしょう。なお、メアリー・アンダーソンは2011年に全米発明家殿堂(National Inventors Hall of Fame®)に殿堂入りしました。図1はメアリー・アンダーソンが考案したワイパーの構造です。

図1 メアリー・アンダーソンの特許
図1 メアリー・アンダーソンの特許

出展:米国特許商標庁(USPTO:United States Patent and Trademark Office)
特許検索ツール(Patent Public Search)よりPATENT NUMBER 743,801を抜粋して作成

ワイパーの基本構造

自動車におけるワイパーの要件は道路運送車両法の保安基準(第四十五条)で規定されています。保安基準ではワイパーのことを「窓ふき器」と定めています。条項の要点をまとめると、フロントガラスに自動で作動するワイパーが必要であり、かつ、ウォッシャー機能とデフロスタ(ガラスに風を当てる機能)が必要です。また、ワイパーがふき取る範囲を別途、法令で定めています。なお、リヤのワイパーを装備することは法令で定められていませんが、装備されているワイパーを外し、突起物が残っている場合、車検に通らないことがあります。

ワイパーの基本構造はブレード、アーム、ワイパーモータ、リンク、ワイパースイッチです。図2はワイパーの基本構成です。

図2 ワイパーの基本構成
図2 ワイパーの基本構成

ドライバがワイパースイッチを操作すると、ワイパーモータが回転し、その動きがリンク機構を経由してワイパーアームを動作させます。ワイパーアームに取り付けられているブレードのゴムがガラス面を払拭し雨や雪を取り除きます。ワイパーが動作する方式は色々な構造が採用されています。図3は方式の一例です。左右両面式の採用例は見かけなくなりました。フロントガラス上部の拭き残し部分にADASのセンサが装着される機種が増えていることから、ガラス面の汚れにより認識性能に影響があることから見送られているようです。縦型方式はブレードが平行に移動することが特徴です。一部のバスで採用されています。

図3 ワイパーの方式
図3 ワイパーの方式

ワイパーを装着する場所はフロントガラスだけでなく、ヘッドライト、ドアミラー、サイドウインドウなどの採用例があります。リヤウインドウ用のワイパーを日本で初めて採用したのは、ホンダの初代シビックです。ウォッシャー装置はワイパーと独立して設けられることが一般的ですが、ワイパーブレード部から噴射する機構を採用した機種がありました。ブレードの往復で噴射位置を切り替えます。

1 ブレード

ブレードの方式はトーナメント式とフラット式があります。トーナメント式の一例は図4です。大きなフレームが2つの中型フレームを支持し、さらにそれぞれが小型のフレームに分かれていく構造です。トーナメント表のような形状で圧力を分散させています。部品点数が多いことがデメリットです。

図4 トーナメント式ブレード
図4 トーナメント式ブレード

フラット式は2000年ごろから普及し始めました。現在の主流となっています。アーチ状のスプリング全体でラバーを押し付ける方式で、面圧が均等になりやすく、部品点数はトーナメント式に比べて少ない構造です。また、重量も軽減されています。

図5 フラット式ブレード
図5 フラット式ブレード

ガラス面を押し付ける強さの分布は図6のイメージとなります。

図6 ブレードの面圧分布
図6 ブレードの面圧分布

一般的なワイパーブレードでは走行中に降雪すると、十分に払拭できないことがあります。その対策として、冬用のワイパーブレードが販売されています。金属部分の樹脂によるコーティングや低温でも硬くなりにくいゴムが適用されています。

2 ワイパーモータ

発明当初は電動式ではなく、手動でワイパーを操作していました。その後、電動式が考案され現在に至っています。図7はワイパーモータです。減速機構のイメージを書きました。DCモータの回転をウオームホイールで減速しワイパーアームを動かします。

図7 ワイパーモータ
図7 ワイパーモータ

3 ウインドウ・ウォッシャー

道路車両運送法の保安基準では「洗浄液噴射装置」と定義されています。ワイパーと併せて使用しフロントガラスに付着したホコリや少ない霜、雪などを溶かして除去します。洗浄液は一般的にウォッシャー液と呼称され、主な成分はアルコール類と界面活性剤です。撥水機能を追加したものもあります。

4 ワイパースイッチ

自動車のワイパーは、ハンドル付近にすべての機能を集中したスイッチを設けて、運転中でも支障なく操作できるようになっています。基本的な操作はワイパーの掃引時間(High、Low)、ウォッシャー液の噴射、間欠動作(インターバル時間の設定)です。

図8 ワイパースイッチ
図8 ワイパースイッチ

5 間欠ワイパー機能

近年の車両ではワイパーの掃引速度を低速と高速に切り替えられる機能に加えて、小雨などのために、掃引間隔を抑えた間欠動作する機能が標準的に装備されています。間欠ワイパーに関する特許は米国ロバート・カーンズ(Robert Kears 1927.3~2005.2)によって考案されました。最初の特許は1964年に出願され、請求内容は抵抗やコンデンサを用いたタイマーによりワイパーモータを制御する基本的な構成となっています。特許の明細書を前述の米国特許商標庁 特許検索ツール (Patent Public Search | USPTO) で閲覧することができます。ロバート・カーンズは、この特許に関してOEMを特許侵害で告訴しました。複数の裁判で勝訴しOEMから巨額の賠償金を得ました。訴訟そのものが却下された事案もありました。2008年に公開された映画「幸せのきずな(原題:Flash of Genius(天才のひらめき)」は、ロバート・カーンズが米国のOEMを特許侵害で訴え、係争した実話をもとに描かれています。

ワイパーのエレクトロニクス

1 雨滴検知式間欠ワイパー

フロントガラスの上部に設置された雨滴検知センサが検知する雨滴量信号に応じて、ワイパーの停止、間欠動作、低速動作、高速動作を自動で行う機能です。最初に搭載されたのは1983年に発売された日産 セドリックです。雨滴感知センサは赤外LEDとフォトダイオードとで構成されています。図9は雨滴検知センサの動作原理です。ガラス面に雨滴がない場合、赤外LEDで照射された赤外光はガラス面で反射されフォトダイオードに入射されます。雨滴がある場合、赤外光は雨滴がレンズ効果となりガラス面で一部が反射せずに外部へ漏れ、フォトダイオードへの入射量が変わります。入射量に応じて雨滴量を判定し、ワイパーの動作状態や掃引速度をECU※2で制御します。センサの搭載場所は一般的にフロントガラスの上部です。

※2

(Electronic Control Unit)システムを制御する装置

図9 雨滴検知センサの原理
図9 雨滴検知センサの原理
図10 雨滴検知センサの搭載場所
図10 雨滴検知センサの搭載場所

2 左右独立のワイパーモータ

リンク機構を持たず、左右のブレードが干渉しないようにワイパーモータを制御する方式が採用されています。ワイパーシステムの軽量化、ワイパー取り付け部の設計自由度が向上するなどのメリットがあります。

図11 独立制御システムの構成例
図11 独立制御システムの構成例

3 ブラシレスモータ化

一般的なワイパー用のモータはブラシモータですが、近年、ブラシレスモータの採用が進み、静音化、小型化、エネルギの効率化、電気的ノイズの抑制などに寄与しています。また、ECUにより払拭範囲を緻密に制御可能です。

自動車以外のワイパー

自動車以外でもワイパーは装備されています。

1 船舶

プレジャーボートなどでは自動車と同様な、アームが一本のワイパーやアームが2本のワイパーが採用されています。漁船や作業船などの船舶では、アームによるワイパーではなく、旋回窓でガラスの表面に付着した水滴を飛ばします。往復運動のワイパーブレードでは視界が遮られることがあるので、回転するガラスにより連続して視界を確保することが可能です。ブレード式の場合、拭き残した海水が乾燥すると塩分が白く堆積して反って視界を悪化させます。なお、旋回窓では、回転するガラスと固定されているガラス面との漏水対策が必要です。Oリングのような摺動抵抗がある部材ではなく形状等の工夫で漏水を防ぎます。

図12 船舶の旋回窓
図12 船舶の旋回窓

2 航空機

航空機にもワイパーが装着されています。飛行中は飛行速度により水滴は付着しませんが、離着陸時の滑走速度は遅いので、視界の確保が必要です。過去にはワイパーはなく空気を吹き付けて水滴を飛ばす機種があったようです。

図13 航空機のワイパー
図13 航空機のワイパー

3 鉄道車両

自動車と同様なワイパーが装着されています。但し、除雪車などの作業用車両では常時、視界を確保するために旋回窓が採用されています。

図14 旋回窓の鉄道車両
図14 旋回窓の鉄道車両

関連計測器の紹介

ワイパーに関連した計測器の一例を紹介します。

図15 ワイパーに関連した開発で使用される計測器の例
図15 ワイパーに関連した開発で使用される計測器の例

その他の製品や仕様については 計測器情報ページ から検索してください。

おわりに

自動車のワイパーは導入されて以来、基本機能は変わらないものの自動車を運転する時は不可欠な装備です。自動運転が普及してもワイパー自体がなくなることはないと思われますが、今後も自動車の進化に対応したワイパーが開発されることを期待しましょう。


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