電力計の基礎と概要 (第1回)
<連載記事一覧>
第1回:「はじめに」「さまざまな電力測定器」「パワーエレクトロニクス技術の進化が新しい電力計の登場を促す」「電源の種類」「電力計選定のポイント」「【コラム】電池駆動の小型船の開発が進んでいる」
第2回:「電力計の構造」「電力計による主な測定や演算結果」「電力計への結線」「ノイズ対策」「電力計と組み合わせて使う大電流センサ、PCソフト」「【コラム】国内で入手できる主な電力計一覧」
はじめに
電気の利用は電池の発明によって電信電話などに使われることから始まった。人々の生活に広く電気の利用が広まったのは交流発電機、変圧器、電球の発明からである。日本では明治時代に電気利用が始まり、火力発電所や水力発電所の建設が進み、電灯や電気鉄道から普及が始まった。
当初は電灯の数によって電気料金を決める方法であったが、その後、電力使用量に応じた料金体系が作られるようになり、それに伴って電力使用量(積算電力)を測る計器が登場することになった。日本では1910年に電気測定法(1966年に計量法に統合)が公布され、当初は外国製の積算電力量計が導入された。その後、いくつかの国産の積算電力量計が作られるようになった。
図1. 初期の国産積算電力量計(TU-S型交流積算電力計、横河電機製作所/(現)横河電機、1932年)

提供:横河電機
積算電力計以外に単位時間あたりに消費される電気エネルギー量を測定する電力計が登場している。現在の電力計はすべて電子回路によって作られているが、初期の電力計は精密機械である指示計器であった。
現在は電力を測るニーズは拡大してきているので、さまざまなタイプの電力測定器が登場している。今回の記事では高性能、高機能が要求されるベンチトップ電力計に絞って解説する。
図2. さまざまな電力計

提供:横河電機
今回の記事執筆では1915年の創業以来、さまざま電力測定器の開発、販売を行っている横河計測の協力を得た。
さまざまな電力測定器
電力測定器には主に電気料金の支払いための積算電力量計と機器の消費電力を測る電力計に大きく分かれる。積算電力量計は機械式から電子式のスマートメータに更新が進んでおり、電力消費量を人による検針に頼らず、遠隔から通信経由で読み取れるようになってきた。
電力計は機械式と電子式に大別できる。電子式の電力計は機器に組込んで制御や監視に使うものと、設計、生産、保守の現場で使われる計測用途のものがある。
機械式電力計
電力計測が始まった当初からある指示計器である。直流から交流までの電力が測定でき、駆動するための電源は不要で、構造がシンプルであり、表示が直感的であるため開発から生産まで幅広く使われていた。現在では電子式への移行が進んで、限られた用途でしか使われなくなってきている。
図3. 携帯用単相電力計(2041 横河計測)

提供:横河計測
簡易電力計
節電を目的に家庭や事務所などにある多くの電気機器の消費電力と積算電力を測る需要に応じた安価な電力計である。一般の人を対象に作られた電力計であるため取扱いは簡単なものとなっている。
図4.簡易電力計(EC-03N カスタム)

提供:カスタム
電力モニタ
工場やビルなどで使われる機器の消費電力を監視するために作られた電力計である。分電盤や装置に組込まれて使われ、測定結果は表示されるだけでなく、パルス出力信号もしくは通信で制御装置に伝送することもできるようになっている。
図5. 電力モニタ(PR300 横河電機)

提供:横河電機
電力変換器
電力測定した結果を規定された電圧もしくは電流のアナログ信号に変換して、制御機器や監視装置に伝送する機能を持った製品である。電力変換器には表示器はないため、測定結果は制御機器や監視装置にある表示器から読み取る。
図6. 電力変換器(JUXTA DWT/R18 横河電機)

提供:横河電機
計測用電力計(ベンチトップ電力計、平均電力測定)
比較的消費電力の変化が少ない白物家電製品や産業用パワーエレクトロニクス機器などの開発や生産の現場で、電力を高精度に測定するために使われるのがベンチトップ(据え置き)型電力計である。ベンチトップ電力計は基本機能を重視した数字表示の電力計と、高機能でグラフィック表示を持つパワーアナライザがある。パワーアナライザは電圧、電流、電力の測定だけではなく、さまざまな解析機能を持っている。
基本機能を重視した電力計は消費電力などの測定に使われることが多く、設置面積、測定タクトタイム、外部機器との接続性が重視される家電製品の生産ラインでの利用が多い。
図7. 基本機能を重視した電力計(WT300Eシリーズ 横河計測)

提供:横河計測
パワーアナライザは一般に高性能であるため、設計時の性能評価や規格試験に使われる。高機能が要求されるEMCノイズ試験や機器の効率などの測定に適している。最近では入力モジュールを多く搭載して、複数の電力変換器を搭載したパワーエレクトロニクス装置の評価に適したパワーアナライザが登場している。
図8. 多くの入力モジュールを持つ新しいパワーアナライザ(WT5000 横河計測)

提供:横河計測
計測用電力計(ベンチトップ電力計、瞬時電力測定)
多くの電力計は平均的な電力を正確に測定できるように作られているため、放電現象やモータへの急負荷時の瞬時電力を測定するにはメモリレコーダやディジタルオシロスコープなどの波形測定器を用いた測定結果から電力演算を行って電力値を得ることはできるが、測定確度は保証されていない問題点がある。そのため直流から交流まで電力確度が保障された専用の瞬時電力を測定できる波形測定器ベースの電力計が必要となる。
図9. 瞬時電力測定に適した電力計(PX8000 横河計測)

提供:横河計測
クランプ電力計
電気設備の保守点検で主に使われる電池および商用交流電源で駆動する小型の電力計である。配電線からクランプ電流計で電流を検出して、電圧は配電盤の端子から測定コードを介して検出する。クランプ電力計には電圧、電流、電力のみを測定する単機能な製品から、電源品質を解析できる機能や測定データを長時間記録できる高機能な製品まである。
図10. クランプ電力計(CW500 横河計測)

提供:横河計測
パワーエレクトロニクス技術の進化が新しい電力計の登場を促す
測定に使われる電力計はパワーエレクトロニクス技術の進化によって新しい製品が生まれてきた。ここでは電力計の進化を理解するためにパワーエレクトロニクス技術を取り巻く状況や歴史ついて述べる。
電気エネルギー利用の拡大
現在、日本国内では年間約1兆kWhの電力エネルギーが消費されている。下記には部門別の電力エネルギー消費の推移を示す。これによると産業部門の電力エネルギー消費の推移は減少しているが、民生部門の電力エネルギー推移は増加している。
民生部門で電力エネルギーの消費が増えているのは、石油やガスを使う暖房機器から電気を使う冷暖房設備への切り替わりが進んだこと、温水洗浄便座や大型冷蔵庫の普及、パソコンやサーバなどの情報機器の普及などが理由としてあげられる。
図11. 日本の部門別電力最終消費の推移(単位:10億kWh)

出典:資源エネルギー庁
電気エネルギー消費はさまざまあるが、その中でモータによる消費は大きい。特に産業分野では約75%の電気エネルギーがモータで消費されている。
図12. 日本の消費電力構成

出典:2009年エネルギー消費機器実態等調査報告書(資源エネルギー庁)
1997年に登場したトヨタ自動車のハイブリッド車「プリウス」は世界中に普及するとともに、世界の自動車会社はハイブリッド自動車の開発生産を行うようになり、自動車の駆動源にモータが広く使われるようになった。今後は電気自動車の普及が見込まれて、日本では2030年を目標に自動車の電動化を拡大する政策が取られている。
2017年 (新車販売台数構成比) |
2030年 普及目標値 |
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従来車 | 63.6% | 30~50% | |
次世代自動車 | 36.4% | 50~70% | |
ハイブリッド自動車 | 31.6% | 30~40% | |
電気自動車 | 0.41% | 20~30% | |
プラグイン・ハイブリッド自動車 | 0.82% | ||
燃料電池自動車 | 0.02% | ~3% | |
クリーンディーゼル自動車 | 3.5% | 5~10% | |
注)新車乗用車販売台数:438.6万台(2017年) |
出典:自動車新時代戦略会議中間整理(経済産業省 自動車新時代戦略会議 2018年8月)
パワーエレクトロニクスの進化
古くから電気鉄道の分野ではモータを制御することが行われていた。現在では工作機械、家庭用のエアコンや洗濯機などさまざまな分野でパワー半導体を使ってモータが制御されている。
パワー半導体は1957年のサイリスタの発明から始まり、最近ではSiCやGaNといった新しい半導体の普及が始まろうとしている。
下記に長いパワー半導体の歴史を示す。現在はパワーMOSFETやIGBTといった半導体がよく使われている。
図13. パワー半導体の歴史

現在はパワーエレクトロニクスという言葉がよく使われるが、起源は1973年にウェスティングハウスのWilliam E.Newell 博士が「パワー(電気・電力・電力機器)とエレクトロニクス(電子・回路・半導体)とコントロール(制御)を融合した学際的分野」をパワーエレクトロニクスと定義したことから始まっている。
さまざまなパワー半導体は用途に応じて使い分けられている。大きなものは電力設備であり、小さなものは身近にある家電製品である。今後SiCやGaNといった新しいパワー半導体が普及していけば制御装置の高効率化と小型化が同時に進むと期待されている。
図14. パワー半導体の種類と用途

出典:ICガイドブック2012年版(JEITA)
パワーエレクトロニクス回路は電力エネルギーを変換して使い易くすることが役割となる。このことを電力変換といって下記の4つに分類される。パワーエレクトロニクス装置ではこれらの基本方式を単独もしくは組み合わせて使われている。
図15. 電力変換の4つの基本方式

一般に市販されているインバータ装置は上記のコンバータとインバータを組み合わせたものを指すので注意が必要である。
さまざまな分野で使われているインバータ装置は電力会社が供給される固定電圧で周波数が50Hzもしくは60Hzの交流を一度直流に変換して、再び用途に応じた電圧と周波数の交流を作り出す仕組みになっている。インバータ装置内では電力変換が行われるため、損失が生じて熱となり空気中に放出される。損失を少なくすることがパワーエレクトロニクス機器の大きな開発目標となる。またインバータ装置内部ではスイッチング動作を行っているため、ノイズの発生がある。ノイズの発生を小さくすることも開発の目標になっている。
図16. インバータ装置の基本構成
