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電力計の基礎と概要 (第1回)

電源の種類

電気エネルギーを供給する電源には電池や電力会社から供給される商用電源が一般的である。それ以外の特殊な電源もあるので、ここではそれらを紹介する。

直流源

最も古い電源であり、電池から得られる電源として始まった。身近にある電子機器は直流電源で動いているが、多くは交流電源から整流によって得られた直流である。直流電圧源は狭義では安定した電圧値を維持することが要求されるが、広義では半端整流や全波整流で得られる脈流も含まれる。電子回路の駆動には安定した電圧が要求されるが、電気めっきなどで必要な直流電源は広義の直流でよい場合がある。最近、太陽光発電や電池を搭載したハイブリッド車や電気自動車が登場したため、大きな直流エネルギーを正確に測定する機会が増えてきた。

商用単相交流源

単相交流源は電力会社から住宅や商店などに供給される最も一般的な商用電源である。日本では周波数は50Hzもしくは60Hzで、電圧は100Vもしくは200Vである。100Vは家電機器や事務機器などに広く供給される。200VはIHヒータや大型の家庭用や店舗用のエアコンなどに使われている。海外ではプラグの形状や電圧(110V~240V)が異なるので注意が必要である。日本では電力会社から供給される商用電源は、周波数は安定しており、停電はほとんどなく、電圧変動の少ない品質のよい電源である。海外では電源品質がよくないところがあるので注意が必要である。

電柱にある柱上トランスから住宅や商店などへの配線は下記のようになっている。100Vの電源が柱上トランス端では105Vとなっているのは配線による電圧降下を考慮したものである。

図17. 単相低圧配電供給

図17. 単相低圧配電供給

従来、住宅に供給される交流電源は電力会社から住宅への一方向のエネルギーの流れだけであったが、最近では太陽光発電システムを取り付けた住宅などがあるためエネルギーの流れが双方向となる。

商用三相交流源

三相交流源は配電線から直接誘導モータに接続することができるため、工場やビルなどの動力用電源として使われてきた。日本では周波数が50Hzもしくは60Hzで電圧は200Vである。海外では電圧(200V~600V)が異なるため注意が必要である。

柱上トランスから工場やビルなどへの配線は下記のようになっている。単相と同様に柱上トランス端の電圧は配線による電圧降下を考慮して210Vとなっている。

図18. 三相低圧配電供給

図18. 三相低圧配電供給

航空機・船舶用交流源

航空機や船舶の一部では電源機器の軽量化のために400Hzの電源が使われる。最新の旅客機では油圧で駆動していた装置を電気で動かすようになったため、大きな電力が必要となり搭載される発電機が大きくなった。このため軽量化を目的に400Hzを得るための調速機を省いた可変周波数電源を搭載している。

電力計選定のポイント

電力計を選定する場合は測定対象の特長をよく知ることと、電力計の仕様を理解する必要がある。また電力計で測定値の信頼性を確保するため、計測トレーサビリティについても理解する必要がある。

電圧や電流レンジが十分なこと

インバータが登場する以前は、正弦波の電圧・電流波形から電力値を求めていたため、電圧・電流の実効値から電力計の電圧レンジと電流レンジを決めることができた。

インバータではパワー半導体をスイッチング動作させるため、正弦波でない波形を扱うことになる。このためクレストファクタを考慮したレンジ設定が必要になる。

図19. クレストファクタの定義

図19. クレストファクタの定義

クレストファクタが大きな値であれば実効値とレンジ設定をするための波高値が異なるため、注意が必要となる。パワーエレクトロニクス装置でよくみられる波形を例にクレストファクタがどのような値になるかを示す。

最初はトライアック(トライアックはサイリスタの一種)を使った白熱灯用調光器など見られる波形制御の事例を示す。

図20. 点弧角対クレストファクタのトライアック波形特性

図20. 点弧角対クレストファクタのサイリスタ波形特性

次はインバータやスイッチング電源で使われるパルス幅制御の例を示す。

図21. パルスデューティサイクル(= t / T)とクレストファクタの関係

図21. パルスデューティサイクル(= t / T)とクレストファクタの関係

入力モジュール数が十分なこと

機器の消費電力や電源伝導ノイズを測定するだけであれば、限られた入力モジュールで測定ができる。最近の電力計はパワーエレクトロニクス装置に搭載された複数の電力変換器の変換効率を同時に測定するため、測定対象にあわせた入力モジュール数を用意できるようになっている。最近の電力計では利用者の便宜をはかるため、入力モジュールを用途に合わせて利用者自身が交換できるようになっている。

図22. 自由に入力モジュールを交換できるパワーアナライザ(WT5000 横河計測)

図22. 自由に入力モジュールを交換できるパワーアナライザ(WT5000 横河計測)

提供:横河計測

必要な周波数帯域を持つこと

パワーエレクトロニクス機器に使われるパワー半導体のスイッチング速度が速くなってきているので、電力計に要求される周波数帯域は高まっている。高い周波数までの電力測定が必要な場合は電力計の周波数特性を知ることが必要である。下記には周波数帯域が1MHzのパワーアナライザの事例を示す。

図23. 力率=1の時の周波数-電力確度の特性(WT3000E 横河計測)

図23. 力率=1の時の周波数-電力確度の特性(WT3000E 横河計測)

また測定対象の力率が低い場合は力率=0の時の周波数特性も知る必要がある。

図24. 力率=0の時の周波数-電力確度の特性(WT3000E 横河計測)

図24. 力率=0の時の周波数-電力確度の特性(WT3000E 横河計測)

幅広い周波数帯域を必要とする電力測定の場合は、周波数帯域の異なる電力計で測定した結果が異なることがあるので注意が必要である。

測定確度が十分なこと

電力計で測定する対象の挙動が安定したものであれば、必要な測定精度は容易に決めることができるが、測定対象の電圧・電流が大きく変動して測定中にレンジの変更できない場合は、小さい電力でも必要な確度を得るために高い精度の電力計が必要となる。例えば余熱機能を持ったコピー機の待機電力を測定する場合は、余熱のために大きな電力を消費する加熱時と、電子回路の待機状態だけの少ない消費電力を同じ電流レンジで測定しなければならないため、正確な待機電力を測定する場合は精度の高い電力計が必要となる。

ノイズ耐性、長期安定度がよいこと

正確な電力測定をする場合は外来ノイズによる影響を受けないことが必要である。特にパワーエレクトロニクス機器を測定する場合はコモンモードノイズの影響を受けやすいので、電力計の同相信号除去比(CMRR)の仕様をあらかじめ確認する必要がある。

計測トレーサビリティが確立していること

電力計は規格試験や取引に必要な電力測定に使われるため、精度が保証された測定結果が要求される。信頼ある測定を行う場合は定期的に国家標準とトレーサブルな標準器を使った校正を行う必要がある。

電力計の利用を考慮すると、下記の点についても機種選定時に考慮しなければならない。

過去に利用実績があること

最近の電力計は多くの機能を実現するため多くのパラメータを設定しなければならないなど、電力計を使いこなすための習熟に時間が必要になる。コンピュータで電力計を制御する場合は機種ごとの制御コマンドの違いを修正する手間が掛かる場合がある。

過去の測定結果との相関が重視される場合は、電力計の仕様や特性の違いで測定結果に差異が生じることがある。このような不安がある場合は利用実績を優先して機種を選択するのが望ましい。

利用支援が充実していること

電力計を使う上での「技術的な問合せ、校正、修理」が必要な時に迅速に対応できる窓口があるメーカの製品を選ぶのがよい。

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