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スコープコーダの基礎知識 (第4回)

第4回では、ロジック、車載ネットワークの測定に使うモジュールとノイズ対策などについての解説を行う。また最後にスコープコーダの強みや新しい取り組みについて紹介する。

ロジック入力モジュール

ロジック入力モジュールは、メカトロニクス機器やパワーエレクトロニクス機器の制御基板に入力されるスイッチやセンサーからのロジック信号や制御基板から出力されるロジック制御信号を観測するために使われる。
電子回路基板上のロジック信号は多くは5 V系もしくは3.3 V系の電圧論理信号である。メカトロニクス機器やパワーエレクトロニクス機器の動作を観測する際には、ロジックICの電圧以外に無電圧接点信号や機械式リレーの接点を開閉するための高い直流電圧の制御信号などを絶縁入力で測る必要もある。
ロジック入力モジュールは多様なロジック信号に対応した構造となっている。

ロジック入力モジュールの構造

ロジック入力モジュールを利用するには、外部に置くロジックプローブが必要である。
ロジック入力モジュール本体の仕様は下表のようになっている。

表12. ロジック入力モジュールの仕様概要
区分 形名 最高
サンプル
レート
入力
ch数
入力形式 入力コネクタ 最大入力電圧 最大定格
対地間電圧
ロジック 720230 10 MS/s 8ビット
×2ポート
700986:非絶縁
700987:絶縁
702911:非絶縁
702912:非絶縁
専用プローブ 700986:42 V
700987:250 Vrms
702911:±35 V
702912:±35 V
700987:250 Vrms

ロジックプローブには、TTL信号と無電圧接点入力に対応した非絶縁タイプ(720211/720212)と高速応答の非絶縁タイプ(700986)、高い電圧の信号も扱える絶縁タイプ(700987)がある。

表13. ロジックプローブの仕様概要と形状
名称 形名 入力
点数
絶縁/非絶縁 最大
入力電圧
スレッショルド
レベル
応答時間
(Typ.)
ロジックプローブ 702911:1m ケーブル
702912:3m ケーブル
8 非絶縁 ±35 V 約 1.4 V 3 μs 以内
高速ロジックプローブ 700986 8 非絶縁 30 Vrms 約 1.4 V 1 μs 以内
絶縁ロジックプローブ 700987 8 絶縁 250 Vrms 6 VDC または
50 VAC
1 ms 以内(DC)
20 ms 以内(AC)
ロジックプローブ 702911/702912 高速ロジックプローブ 700986 絶縁ロジックプローブ 700987

ロジック入力モジュールにロジックプローブを接続した状態のブロック図を下図に示す。

図75. ロジック入力モジュール(720230)とロジックプローブ

図75. ロジック入力モジュール(720230)とロジックプローブ

自動車の車載ネットワーク用モジュール

自動車に組込まれた多くの電子制御基板間を接続するための車載ネットワークは1980年代初めのころから導入が始まった。現在は用途に合わせてさまざまな車載ネットワークが使われている。車載ネットワーク上を流れる信号波形のディジタルデータをスコープコーダに取り込んでそのトレンド変化をアナログ波形として、センサー出力やバッテリ出力、モーター駆動信号などの波形と同一時間上で観測する要求がある。これによりセンサー出力、制御データと実際の応答などの相関や応答性を観測できる。
車載ネットワークには車両の制御を行う制御用ネットワーク、車両に搭載したセンサーと制御基板を繋ぐセンサー用インタフェース、画像情報など大容量データを扱うネットワークがある。スコープコーダは、制御用車載ネットワークとセンサー用インタフェースを観測できる。

制御用車載ネットワーク

現在の自動車は下図に示すように車両を制御するための複数の電子回路基板をCAN(Controller Area Network)やLIN(Local Interconnect Network)といった車載ネットワークで結んでいる。

図76. CANとLINを使った車載ネットワークの事例

図76. CANとLINを使った車載ネットワークの事例

CANにはISO11898-2で規定された最大1Mbpsの高速CANとISO11898-3で規定された最大125Kbpsの低速CANがある。それ以外にCANをより高速にしたCAN FD規格もある。
LINはISO17987で決められた規格で最大20kbpsの低速通信である。
スコープコーダは、CAN/CAN FD/LINの観測ができる。

センサー用インタフェース

センサーと電子回路基板の間はLINでも接続は可能であるが、高速にセンサーと制御基板の間を接続するためのセンサー用インタフェースにSENT (Single Edge Nibble Transmission)やPSI5 (Peripheral Sensor Interface 5)などがある。スコープコーダではSENTの観測ができる。

車載ネットワーク用モジュール

スコープコーダには、CAN、CAN FD、LIN、SENTに対応したモジュールがある。
仕様は下表のようになっている。

表14. 車載ネットワーク用モジュールの仕様概要
形名 入力 入力
ch 数
入力
形式
入力
コネクタ
最大入力電圧 最大定格
対地間電圧
720245 CAN/CAN FD と
LIN 切り替え
60 シグナル
× 2 ポート
絶縁 D-SUB 9 ピン
(オス)
10 V (CAN ポート)
18 V (LIN ポート)
42 V
720242 CAN/CAN FD 60 シグナル
× 2 ポート
絶縁 D-SUB 9 ピン
(オス)
10 V 42 V
720241 CAN/LIN 60 シグナル
× 2 ポート
絶縁 D-SUB 9 ピン
(オス)
10 V (CAN ポート)
18 V (LIN ポート)
42 V
720243 SENT 11 データ
× 2 ポート
絶縁 BNC
(絶縁タイプ)
42 V 42 V

車載ネットワーク用モジュールの構造は下図のようになっており、通信線を流れる情報を読み取るようになっている。

図77. CAN & LINバスモニタモジュール(720241)

図77. CAN & LINバスモニタモジュール(720241)

スコープコーダで波形測定する際のノイズ対策

メカトロニクス機器やパワーエレクトロニクス機器の波形測定する際にはノイズ対策が必要な場合がある。誘導、放射、伝導によって信号にノイズが重畳されて正しく信号の波形が測定できなくなる。ノイズ対策は下図に示す手段が基本的な考え方となる。

図78. ノイズ対策の基本的な考え方

図78. ノイズ対策の基本的な考え方

ノイズ対策を行うには、実際に測定器が設置されている現場をよく観察することから始まる。ノイズ対策は、誘導、放射、伝導によって手段は異なる。ノイズ対策の手段によっては費用が発生するので、効果のある対策を選ぶことも重要である。

表15. 具体的なノイズ対策手段
伝導
ノイズ
誘導
ノイズ
放射
ノイズ
電源線や信号線の配線の工夫 ノイズ源となる装置から配線を遠ざける
配線距離を短くする
平行配線、束線を避ける
信号線へのシールド線、ツイスト線の採用
ノイズ源となる装置の配線のシールド化
ノイズ源となる装置との接地線の強化と分離
電源ノイズ対策機器の使用 電源ラインフィルターの利用
シールド付き絶縁トランスの利用
信号線ノイズ対策部品の使用 周波数フィルターの利用
コモンモードチョークの利用

FFT解析機能を使った周波数分析

スコープコーダやオシロスコープには、FFT解析機能が搭載されている。時間軸上で波形を見る通常の使われ方とは異なり、周波数軸上で波形を観測すると波形に含まれる周波数成分が判り便利な場合がある。

DL950でのFFT解析

DL950を使ってインパルスハンマーと加速度センサーの波形を取り込んで、その波形をFFT解析した結果を下図に示す。

図79. DL950でのFFT解析画面

図79. DL950でのFFT解析画面"

波形のFFT解析を行うことによって、波形に含まれる複数の周波数成分を抽出することができる。モーターで駆動される機械であれば、加速度センサーで検出された振動波形の周波数成分から、モーターの回転数(回転速度)やモーターを駆動している電源の周波数、部品の固有振動数などを加味して、振動の要因を見つけ出すことができる。
その他にも、信号に重畳したノイズを周波数分析することによって、ノイズ源を見つけ出すことができる。

FFTアナライザとスコープコーダの違い

FFTアナライザは主に音響や振動の周波数分析に利用される測定器であり、波形の正確な周波数成分を観測する計測器である。スコープコーダにもFFT解析機能を搭載しているが、下表に示すように仕様の違いがあるため、用途によって計測器の選択が必要となる。音響測定をする場合はファンからの騒音が問題になるので、最近のFFTアナライザは計測器本体に空冷ファンを搭載していない。

表16. FFTアナライザとスコープコーダの違い
  ポータブル FFT アナライザ
小野測器 CF-9000
スコープコーダ
DL950
主な利用目的 振動や音響の現象に含まれる周波数成分を観測する。
2 ch 間の伝達特性を測定する事ができる。
メカトロニクス機器や電力変換器などからのセンサー信号や駆動信号のアナログ波形、ディジタル波形の時間変化を観測する。
入力構造 固定の電圧入力 モジュール構造で多様な入力が可能
アナログ入力チャネル数 2 ch もしくは 4 ch 最大 32 ch
最大入力電圧 70 Vrms 1000 V (DC + ACpeak)
(モジュールにより異なる)
周波数帯域 DC ~ 100 kHz
(最大サンプリング周波数 256 kHz)
DC ~ 40 MHz
(720212 200 MS/s モジュールの場合)
A/D 変換器の分解能 24 ビット 12 ビット ~ 16 ビット
(モジュールにより異なる)
アンチエリアジングフィルター 高性能アンチエリアジングフィルター搭載 一部の入力モジュールに
アンチエリアジングフィルター搭載
ダイナミックレンジ 120 dB 以上 仕様は規定していない
FFT 演算チャネル数 2 ch もしくは 4 ch 最大 8
リアルタイム FFT 演算 機能あり 機能なし
オクターブ解析 機能あり 機能なし
トラッキング解析 機能あり 機能なし
サーボ解析 機能あり 機能なし
空冷ファン なし あり

小野測器には多ch計測タイプ(最大240 ch)のPC型のFFTアナライザ DS-5000があります。

交流電源が利用できない環境でのDL950の利用

スコープコーダを交流電源がない屋外や自動車、鉄道、航空機、船舶などの輸送機の中で使う場合がある。ポータブル型のスコープコーダ DL350はオプションのバッテリを使って測定を行うことができるが、ベンチトップ型のスコープコーダ DL950では、交流電源を得るために発電機やポータブル電源を利用する。

ポータブル電源の利用

長時間に渡って交流電源を得る必要がある場合や大きな電力容量が必要な場合は発電機から交流電源を得るしかないが、発電機は重量があり、燃料が必要なため運搬の負担が大きくなる。スコープコーダだけを限られた時間使う場合は、バッテリ駆動のポータブル電源の利用が便利である。
市販されている多くのポータブル電源は正弦波インバータが組み込まれているため正弦波交流を供給できるが、自動車の12 V直流電源から交流を得るDC/ACコンバータには正弦波インバータを使った製品と矩形波インバータを使った製品がある。計測器を利用する場合は正弦波の交流が必要であるため、利用する時は正弦波の交流が得られることを確認する必要がある。

図80. 正弦波インバータと矩形波インバータの交流電源波形の違い

図80. 正弦波インバータと矩形波インバータの交流電源波形の違い

ポータブル電源を使う場合は、安全やノイズ低減のために接地することが望ましい。車載で利用する場合は、接地端子をシャーシに接続する。ポータブル電源には接地端子がない場合があるため、スコープコーダの電源コードを3ピンテーブルタップに接続し、3ピンテーブルタップの接地端子から接地を行うのが容易である。

図81. ポータブル電源との接続

図81. ポータブル電源との接続

PCを使った波形データの解析

スコープコーダに取り込んだ波形データは本体が持つ解析機能を使って波形データの特長を抽出できるが、高度な波形解析や他の計測器で得た測定結果と演算や解析を行う場合などはPCを使う必要がある。
また、波形データを記録としてPCやサーバーのストレージなどの記憶装置に保存する場合もある。

PCへの波形データの転送

スコープコーダに保存されている波形データをPCへ移すには、下表に示すように有線通信を使う手段と外部ストレージを使う手段の2つがある。

表17. 波形データをPCに移す手段
  長所・短所
有線通信 USB 長所:簡単に接続ができる
短所:ケーブル長が USB 2.0 で最大 5 m と制限される
イーサネット 長所:最大 100 m までのケーブルが使える
短所:初期設定に手間がかかる
外部ストレージ SD カード 長所:計測器のスロットに内蔵するので、突起物がない
短所:SD カードが小さいため、紛失のリスクがある
USB ストレージ 長所:ほぼ全ての PC で利用できる
短所:計測器に接続した時の突起物になる
ネットワークドライブ 長所:記憶メディアを使わないため、セキュリティが確保される
短所:初期設定に手間がかかる

外部ストレージのSDカードとUSBストレージには、いずれもフラッシュメモリーが使われている。フラッシュメモリーは便利に使えるものであるが、データの保存期間が限られているので長期間のデータ保存が必要な場合は他の記録メディアにデータを移す必要がある。
またUSBストレージを計測器に接続すると下図に示すように突起物となるため、USBストレージを取り付けた状態で計測器の持ち運びは破損の危険があるためしてはならない。外部ストレージを取り付けた状態で使う必要がある場合はSDカードを使う。

図82. 外部ストレージを取り付けた状態

図82. 外部ストレージを取り付けた状態

スコープコーダは、本体をPCに接続するとストレージとして認識されるため、PC上でのファイル操作でデータをコピー/移動させることができ、大変便利である。企業によっては、セキュリティ上、SDカードやUSBストレージの使用を禁じており、ネットワークドライブへの保存機能と合せ、有用な機能である。
また、スコープコーダは機器組み込み用OSを採用しており、ウィルス対策でWindows OSの計測器のネットワーク接続を禁じている場合でも、IT担当者から社内ネットワーク接続の許可を得やすい。

PCによる波形解析

PCに移した波形データを演算処理する方法には、利用者自身がプログラムを作る方法、横河計測が提供するソフトウェアを利用する方法、その他の企業が提供するソフトウェアを利用する方法がある。
横河計測は、IS8000統合計測ソフトウェアプラットフォームというソフトウェアを提供している。このソフトウェアを使えば、スコープコーダと弊社の電力計、オシロスコープを組み合わせた同期測定システムを容易に構築できる。またフォトロン社の高速度カメラやDTSインサイト社の制御ソフト検証ツールRAMScopeとの同期測定も可能となる。下図にIS8000の同期測定機能を活用した動作状況と電力の測定システムの事例を示す。

図83. 温水洗浄便座の吐水制御の評価

図83. 温水洗浄便座の吐水制御の評価

注)温水洗浄便座の仕組みは公開特許公報2001-90151の掲載図を参考に作成

IS8000 APIを利用すれば、標準でサポートしていない計測器との通信やデータファイル読み込み、別ソフトウェアとの通信が可能になる。

他社が提供しているソフトウェアで利用できるものとして、小野測器の音響・振動解析ソフトウェア「O-Solution」やMathworks社の「MATLAB」などがある。

おわりに

メカトロニクス機器やパワーエレクトロニクス機器の波形観測には必須のスコープコーダについての基礎的な解説を行ってきた。ぜひ、スコープコーダを有効に使って、効率的な製品の評価をして頂くことを期待する。

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