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車載ネットワークの歴史と最新動向 ~ CAN・LINからCAN XL・車載Ethernetへ ~

この記事は、2023年6月30日に公開した記事「車載ネットワークの歴史と規格概要~CANからLIN、FlexRay、CAN FDまで」を改版したものです。技術情報の追加や最新情報による内容の更新を行い、併せて、内容の整合を図るため文章の調整を行っていますが、一部、現在では異なる場合があります。今後も、技術の進化に合わせて、改版を行ってまいります。

今や、車両に搭載されているほとんどのECU※1に通信手段が搭載されています。2輪車でも中型大型車で採用が進んでいます。本稿では通信手段の中でも、日本や欧米で生産されている車両のほとんどに適用されている通信プロトコル※2CAN※3を主に、導入されてきた経緯や現状について概説します。

始めに車両内ネットワークが導入された背景や歴史を述べてから、CAN規格の概要を説明します。CAN以外にLIN、FlexRay、CAN FDという現在導入されている主要な規格が生まれた理由や、特長、使用されるアプリケーションなども解説します。最後に今後の規格の動向と、評価用測定器の代表例を紹介します。

《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》

※1

Electronic Control Unit エンジンやブレーキ、通信機器を制御するユニット

※2

ここではECU間の信号を送受信する手順のこと

※3

Controller Area Network

車両内通信が導入された背景

車両内には「走る・曲がる・止まる」機能をつかさどる多くのECUが搭載されています。また、ナビなどのインフォテインメント※4や快適システム、ボディ制御にも適用されているので、ECU間の通信手段がないと車両システムを構築できない状況です。

※4

インフォメーション(情報)とエンターテインメント(娯楽)を合わせた造語。車載システムでは情報と娯楽の2つが提供されるため、このように呼ばれる。

図1 車両内通信概観
図1 車両内通信概観

ECU間の信号をやり取りするために通信手段が導入されるまで、自動車の高機能化、高度化に合わせて、ECU間を一対一の配線を接続することで行ってきました。しかしながら、各種の情報を入出力する信号やモータなどを制御するアクチュエータの数が年々飛躍的に増大し、従来手法では入出力信号を接続するコネクタのサイズが大きくなるとともに、ECUサイズの増大や配線重量の増加などの課題が深刻化してきました。

従来の配線方式でシステムを構成すると、

  • 配線本数が多くなる
  • コスト、重量、配線やECUの体積が増える
  • 複数のECUに各種の信号がまたがるので制御が複雑化する
  • 制御仕様や構造変更が難しくなる
  • 各ECUの故障診断、安全設計が複雑化する

などの課題が顕在化してきました。これらの課題を解決するために、ECU間を接続する配線の本数を減らすことが最も効果的といえます。この課題を解決する手法として、いわゆるネットワークの導入が検討されました。ネットワークを適用することの効果は配線が減るので明確です(図2)。

図2 従来方式のシステム構成(左)とネットワーク方式でのシステム構成(右)
左 従来方式でシステムを構成
右 ネットワーク方式でシステムを構成

車両内ネットワークの歴史

車両内ネットワークを実現するためにECU間を接続するプロトコルが検討されました。1980年頃から、各自動車メーカは独自のプロトコルを導入してきました。この時点で、本稿で主に着目するCANは既に採用されていますが、標準化へ移行するほど、浸透していません。

表1 1980年頃の各自動車メーカのプロトコル
No 自動車メーカ プロトコル
1 GM J1850VPW
2 フォード J1850PWM
3 ダイムラー CAN
4 BMW I-BUS
5 トヨタ BEAN
6 ホンダ MPCS
7 日産 DUETTE
8 マツダ PALMNET
9 三菱 SWS

出典:平成18年度 標準化経済性研究会報告書を元に作成

CANの開発は、1983年頃にボッシュ社※5で開始されました。このプロトコルは、1986年にデトロイトで開催された米国の自動車技術会(Society of Automotive Engineers)の会議で公式に発表されました。この仕様に基づいて、1987年にインテルとフィリップスがCANコントローラICを製造し、初めて発売されました。実際に量産車へ適用されたのは、1991年にベンツSクラスが最初です。その後、標準化の動きとなり、1994年に国際標準化機構(ISO)により標準規格(ISO11898/ISO11519)になりました。

※5

Robert Bosch GmbH ドイツに本社がある世界最大の自動車部品(電装品)メーカ

表2 標準化されたCAN規格
規格 種類 通信速度
ISO11898 高速CAN通信 125kbps~1Mbps
ISO11519 低速CAN通信 125kbps

CANプロトコルを適用する場合は主要な知的財産権を保有するボッシュ社へライセンス料が発生します。マイクロコントローラ※6などでCANプロトコルが採用されている場合、マイクロコントローラのサプライヤーが予めライセンス料を支払っていると思われます。ボッシュ社のWebサイトでライセンスの条件を閲覧することが可能です。車両システムの故障状況やシステム診断を外部機器と接続をするプロトコルは欧米ではCAN規格が採用されています。日本でも全ての自動車メーカがCANを採用しています。CANの開発経緯から、採用されているのは車両システムだけと思われるかもしれませんが、産業用の設備や医療関係の機器など、多くの分野でも採用されています。

※6

microcontrollerメモリやI/Oを内蔵して、電子機器の制御に特化した低価格のマイクロプロセッサ。

CAN規格の概要

それでは、CANの仕様について概説します。CANには多くの特徴があります。

1. 低コスト・省配線

各ECUをシリアル配線で接続するため、車両全体の配線コストを下げることができます。

図3 CAN方式でシステムを構成した例
図3 CAN方式でシステムを構成した例(信号によっては配線で接続する場合もある)

信号によっては配線で接続する場合もある

ネットワークトポロジ(配線の構造)にはスター型、リング型、バス型などがあり、CANはバス型です。

図4 ネットワークトポロジ (左)スター型 (中)リング型 (右)バス型
ネットワークトポロジ スター型
ネットワークトポロジ リング型
ネットワークトポロジ バス型

2. システムの柔軟な拡張性

バス型のトポロジなのでノードの追加や削除がしやすい構成です。

3. 高信頼性

外部ノイズに強い差動信号方式となっており、またデータの正確性を検知するCRC(Cyclic Redundancy Check)が付加されています。

4. マルチタスク

各ノード※7からアクセスできるマルチマスタ方式※8を採用しています。バスが空いていれば、どのノードからでも送信を開始することができます。

※7

node コンピュータネットワークにつながったさまざまな機器(能動的な電子デバイス)。

※8

1つのネットワーク内で複数のマスタがスレーブに対して通信できる方式。1つのノードがマスタとなり、それ以外のノード(スレーブ)の通信タイミングをコントロールするのをシングルマスタ方式という。

図5 マルチマスタ方式
図5 マルチマスタ方式

5. 送信の優先順位付け

他のノードよりも早くバスにアクセスしたノードが送信の優先権を得ますが、複数のノードから同時にデータが送信された場合、バス上で信号の衝突を検知し、ID※9による優先順位の決定が行われます。優先順位が高いIDが送信されることになります。この方式はCSMA/NBA方式(Carrier Sense Multiple Access Nondestructive Bitwise Arbitration)といわれています。Ethernetで採用されている方式はCSMA/CD(Carrier Sense Multiple Access with Collision Detection)です。信号の衝突を検知したノードは他のノードが発信していないかを検出し、発信していない場合、所定時間待機後に再送信します。そのため、一時的にバスが空になり、バスの使用効率が低下しますが、CANの方式は何れかのノードが送信するのでバスの使用効率は高くなります。

※9

バス上に送信するデータの内容や送信ノードの識別、優先順位情報

CAN以外の規格の概要

車両内ネットワークのプロトコルにはCANの他にも、通信速度やコストなどの目的に応じた各種のプロトコルが採用されています。代表的な規格として、LIN、FlexRay、CAN FDがあります。

表3 各プロトコルの開発経緯
1991年 ISO11519-1認証(CAN低速規格)
1993年 ISO11898認証(CAN高速規格)
2000年 LINコンソーシアム設立
2000年 FlexRayコンソーシアム設立
2012年 ボッシュ社がCAN FD 1.0を発表

1. コスト重視のプロトコル ~ LIN(Local Interconnect Network)

CANは既に多くの車両やシステムで採用されていますが、アクチュエータなどの通信ではブレーキの制御システムで求められるような通信速度や信頼性は必要とされていません。コストの観点でもCANの採用は最適と思われません。そこで、策定されたのがLINです。2000年にコンソーシアムが設立され、自動車メーカ、半導体サプライヤーなどが参加し、規格化を推進してきました。CANプロトコルと異なりLINプロトコルはパテントフリーです。適用されている分野はパワーウインドウ、ドアロックなどの快適系やウォーターポンプなどの制御系で採用されています。LINの主な特徴を以下に述べます。

1)ネットワークトポロジ

ワイヤ1本で構成するバス型です。ハードウエアのインタフェースはコンパレータ方式なので、CANに比べて低コスト化が可能になります。

2)ネットワークマネジメント

シングルマスタ方式です。CANのようにメッセージの調停を行わないので、マスタノードが通信スケジュールの管理と「トークン」といわれる送信要求をバス上に送信します。スレーブノードは「トークン」に応じてデータを送信します。

図6 シングルマスタ方式
図6 シングルマスタ方式

3)通信方式

多くのマイクロコントローラに搭載されているUART(Universal Asynchronous Receiver/Transmitter 汎用非同期送信受信)を使用して送信受信を行います。

4)クロック精度

マスタノードの最大許容誤差は0.5%以内、スレーブノードの最大許容誤差は15%以内です。

5)同期方式

スレーブノードはフレームごとにクロック誤差を補正するためのデータを受信します。データ1ビットの時間を計測し、必要に応じてUARTのボーレートを調整します。この方式により、スレーブノードがクロックの精度を高めることは不要になります。

2. 制御系のECUで適用されている高速プロトコル ~ FlexRay

2000年に欧米の自動車メーカや半導体メーカがメンバーとなったFlexRayコンソーシアムが設立され、規格化の活動を推進してきました。FlexRayのコンセプトはCANに比べて、機能性能の面で上位に位置づけられる仕様です。適用を想定しているシステムとしてはステアバイワイヤ※10などです。このシステムではデータ送受の高速性に加えて、冗長性が求められます。日本では2004年にCANの代替規格としてFlexRayのコストダウンを観点にした規格の策定を主な目的として、自動車メーカやサプライヤーが参加したJASPAR(Japan Automotive Software Platform and Architecture)が設立され、仕様を策定してきました。

※10

Steer-by-wire 自動車の運転制御システムの一種。従来の機械式制御に代わり電線(ワイヤ)の電気信号でステアリングを制御する。

FlexRayの主な特徴は、以下の4つが挙げられます。

1)時分割アクセス

通信方式はTDMA(Time Division Multiple Access)。ノードの通信時間を一定時間ごとに分割することで多重通信を実現しています。この方式では、送信タイミングや順番を予め定めているので、送信の衝突は発生せず、バス上の負荷を制御できます。CANはイベントドリブン方式(送信するタイミングは各ノードが独自に送信)です。前述したCANの特長であるデータの衝突と優先順位処理が発生します。そのため、CANでは期待したタイミングでデータの送信を行えない可能性があります。

2)ネットワークトポロジ

CANはバス型ですが、FlexRayはスター型、バス型との混合型など、色々なトポロジに対応できます。

3)高信頼性

ネットワークが2重化されているので、冗長性が高く、通信の継続性を維持できます。

4)高速通信

最大10Mbpsが可能です。

<FlexRayに関する状況>

FlexRayは10Mbpsの高速通信とリアルタイム性を備えた車載ネットワークとして、ステアバイワイヤや電子制御サスペンションなどの高度なシャーシ・安全制御系ECUを中心に採用されてきました。一方で、専用トランシーバやコントローラが必要でシステムコストが高価であることや、ネットワーク設計の複雑さが課題となっていました。そのため、近年の新規車種開発においては、用途に応じて、CAN FDやCAN XL、あるいは大容量通信が可能な「車載Ethernet(100BASE-T1など)」が採用されています。

3. CANの高速化プロトコル ~ CAN FD(CAN Flexible Data rate)

CANの通信速度はシステムの高度化に対して、送受信のスピードやデータ量の課題が顕在化しました。これらの課題を解決するため、ボッシュ社はCAN規格の拡張に取り組み、2012年にCAN FD 1.0を発表しました。この仕様では、高速の通信速度に切り替わるだけでなく、異なるデータ長を可能にするデータ構造となっています。CAN FDは既存のCAN 2.0プロトコルと互換性があり、CAN FD ECUは既存のCAN ECUと同じバス上に共存できます。

車両内ネットワークで主として採用されている各プロトコルの特長をまとめると以下の通りです。

表4 通信プロトコルの比較
プロトコル CAN CAN FD LIN FlexRay
アプリケーション例 制御系 制御系 ボディ制御、
アクチュエータ制御
シャーシ制御
エンジン、ブレーキ、電動パワステ EV、エンジン ドア、エアコン ステアバイワイヤ
特徴 プロトコルとして主流 CANの高速化 低コスト、
簡単なデータ保護(パリティ、チェックサム)
高速通信、高信頼性
最大通信速度 1Mbps 5Mbps 20kbps 10Mbps
送信データ長 8byte 64byte 最大8byte 254byte
ハードウェアインタフェース 差動電圧(2線) 差動電圧(2線) コンパレータ(1線) 差動電圧(2線、2チャンネル)

4. CAN FDより高速・大容量なCAN XL

従来のCANは最大1Mbps、一般的なCAN FDでは5Mbps程度まで高速化され、データ長も8byteから64byteへ拡張されました。しかし近年では、高機能ADASや高解像度カメラ、LiDAR※11、SDV(Software Defined Vehicle)※12の普及により、車両内で通信するデータ量が急増しています。こうした中、高機能化するECUでは、CAN FDの通信速度やデータ長では十分に対応できないケースが生まれました。一方で、すべてのECUに車載Ethernetを導入するほどの通信帯域は必要としない用途も少なくありません。このような背景から、CAN FDと車載Ethernetの性能ギャップを埋める通信技術として、より高速・大容量な通信を実現する「CAN XL」が開発・標準化されました。「CAN XL」の規格概要は次の通りです。

※11

(Light Detection And Ranging) レーザー光を照射して、その反射光の情報をもとに対象物までの距離や対象物の形などを計測する技術。概要は2021年7月に公開した記事「自動運転を支える技術~安心安全技術の進化~」をご覧ください。

※12

2024年9月に公開した記事「自動車のE/Eアーキテクチャ ~ SDVに向けた新たな自動車システム ~」で詳しく解説しています。

<CAN-XL規格概要>

  • 通信速度:
    データフェーズで最大20Mbpsの高速通信を実現。アービトレーションフェーズ(調停段階)はCAN FDと同様の考え方を継承しており、CANおよびCAN FDとの共存を考慮した設計。
  • データ長:
    最大2,048バイト(2KB)まで拡張。CAN FDの最大64バイトと比較して32倍の大容量化。標準的なEthernetフレーム(最大1,500バイト程度)をCAN XLの単一フレームでそのまま転送することが可能。
  • SIC(Signal Improvement Capability)物理層:
    CAN XLの高速通信(20Mbps)を引き出すには、CAN FD用とは異なる新しい物理層トランシーバ(SIC-XLトランシーバなど)が必要。
  • フレームフォーマットと混在性:
    CAN XLのフレーム構造はCAN FDとは異なり、アービトレーションフェーズの仕様を共有することで、CAN FDノードとCAN XLノードが同一ネットワーク上に混在(共存)できるよう設計。
  • Ethernetフレームのトンネリング:
    最大2KBのペイロードを活かし、EthernetフレームをCAN XLペイロード内にカプセル化して転送する「Ethernet tunneling(ペイロードモード)」をサポート。これにより、例えば、セントラルECUからゾーンECU間のEthernet通信と、その配下のCAN XL通信との間で上位ソフトウェアスタック(IPスタック等)をシームレスに再利用でき、ソフトウェアアーキテクチャの一貫性を保持。

CAN XLの正式な規格はISO 11898-1:2024及びISO 11898-2:2024で規定されています。なお、CAN技術の国際的な普及と標準化を推進している国際団体がCAN in Automation(CiA)です。CiAはCAN XLなどの仕様策定を行うとともに、ISOの国際標準化活動に参画しています。https://www.can-cia.org/

高度化する車載ネットワーク

2019年に日産自動車の「スカイライン」が車載Ethernetを本格採用したことを契機に、ADAS(先進運転支援システム)やSDVの普及に伴い、多くのOEM※13で車載Ethernetの採用が進んでいます。近年の自動車では、CASE※14の進展に加え、自動運転や高度ADASの実現に向けて、高解像度カメラ、ミリ波レーダ、LiDAR、ドライバーモニタリングシステム(DMS)などのセンサから生成されるデータ量は飛躍的に増大しており、従来のCANやCAN FDのみでは必要な通信帯域を確保することが困難になっています。さらに、SDV時代の車両では、従来の分散型アーキテクチャからドメインアーキテクチャやゾーンアーキテクチャへの移行が進んでいます。このアーキテクチャの進化については後述します。アーキテクチャの進化に伴い、車両内の各ゾーンECUと中央コンピューティングユニット(Central Compute)を接続する高速ネットワークが必要となっています。そのため、車載Ethernetは単なる高速通信手段ではなく、センサ、ECU、クラウドをつなぐ車両全体のデジタル基盤として重要性が増しています。

※13

(Original Equipment Manufacturer)自動車業界では一般的に完成車メーカを指す。

※14

Connected(コネクティッド)、Autonomous(自動運転)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)の頭文字をとった造語。

1. 車載Ethernet

最大1Mビット/秒のCANに対して、車載Ethernetの規格 100BASE-T1では100倍以上の100Mビット/秒でのデータ伝送が行われます。なお、PCなどで普及している100Base-TXとは各種仕様が異なっています。100BASE-T1による100Mbit/s通信に加え、現在では1000BASE-T1(1Gbit/s)の採用が広がっており、高解像度カメラやレーダ、LiDARなどが生成する大容量データの伝送を可能にしています。さらに、自動運転やSDV向け車両では、2.5GBASE-T1、5GBASE-T1、10GBASE-T1などのマルチギガビットEthernetへの展開も進められています。車載Ethernetは、一般的な民生用Ethernet(100BASE-TX、1000BASE-T等)と同じIEEE 802.3規格を基礎としながらも、自動車特有の厳しい要求に対応するため、以下のような要件を考慮して設計されています。

  • 動作電源電圧
  • 動作保証温度範囲
  • EMC(Electro Magnetic Compatibility:電磁適合性)対応
  • 待機時の電流(一般的には暗電流と呼称)
  • 通信時刻の同期性
  • 実装するECUのCPU性能や使用メモリ容量の負荷
  • 通信ワイヤのコスト(一本のツイストペア線で双方向通信を実現、100BASE-TXは送受信用に2ペアを使用)
  • 車載用途に適した伝送距離(最大約15m、100BASE-TXは100m)

などです。詳細な技術仕様については各所の情報をご覧ください。

従来のCANおよびLINでは、1本の通信線を複数のECUで共有するバス型ネットワークを採用しています(前述)。これに対し、現在の車載Ethernetの基本構成は一般的なEthernetと同様に、ポイントツーポイント接続を基本とし、Ethernetスイッチを介したスター型ネットワークです。最近のゾーンアーキテクチャでは、各ゾーンECUと中央コンピューティングユニットを車載Ethernetで接続する構成が主流となっています。この構成には次のようなメリットがあります。

  • 各ECU間の接続がポイントツーポイントによる全二重通信※15のため、通信の衝突(コリジョン)が発生しない。
  • 各通信リンクが独立しているので、専用帯域となるため、高速かつ安定した通信が可能である。
  • Ethernetスイッチにより、各ECUとの通信を柔軟に制御できる。
※15

送信と受信を同時に実行できる通信方式。車載Ethernetでは1対のツイストペア(2本の導線)なのでECUとスイッチをポイントツーポイントで接続するため全二重通信が可能。前述のLINは1本の信号線を共用して送受するので、半二重通信。

図7 スター型ネットワーク
図7 スター型ネットワーク

一方、一般的なEthernetでは通信量の増加に伴って、Ethernetスイッチ内での通信待ちによる通信遅延やジッタ(遅延時間のばらつき)が発生します。このため、厳密なリアルタイム性が要求される車載制御には適していません。この課題を解決するため、車載EthernetではTSN(Time-Sensitive Networking)が利用されています。TSNはIEEE 802.1で標準化されたリアルタイムEthernet技術群であり、高精度な時刻同期や通信スケジューリング、優先制御などによって、決定性の高い通信を実現します。これにより、ADASや自動運転システムなどで求められるリアルタイム通信が可能となっています。

表5 TSNの主な規格と役割
IEEE規格 技術 主な役割
IEEE 802.1AS Time Synchronization ネットワーク機器の時刻を高精度に同期
IEEE 802.1Qbv Scheduled Traffic(Time Aware Shaper) 通信時間を事前にスケジュールし、決定性を確保
IEEE 802.1Qbu / IEEE 802.3br Frame Preemption 低優先通信を中断し、高優先フレームを優先転送
IEEE 802.1Qav Credit-Based Shaper(CBS) 帯域使用量を制御し、遅延やジッタを抑制
IEEE 802.1Qci Per-Stream Filtering and Policing ストリーム単位で通信量を監視し、異常・過剰通信を遮断
IEEE 802.1CB Frame Replication and Elimination for Reliability(FRER) 通信経路を冗長化し、高信頼通信を実現
IEEE 802.1Qcc TSN Configuration TSNリソース予約やネットワーク設定を管理

図8は車載EthernetにおけるIEEE TSNのイメージです。TSNの基本的な仕組みは、「全員の時刻を合わせる」、「通信する時間を決める」、「重要なフレームを途中で割り込ませる」、「通信量そのものを制御する」、「通信経路を二重化する」です。

図8 IEEE TSNの仕組み
図8 IEEE TSNの仕組み

出典:Geminiが生成した画像を元に作成

車載Ethernetの仕様策定を推進している組織は「OPEN(One-Pair Ether-Net)Alliance」です。日本においては、一般社団法人JASPAR(Japan Automotive Software Platform and Architecture:ジャスパと呼称)が高速LAN等の標準化活動を推進しています。

2. 光ファイバ通信

1)MOST(Media Oriented System Transport)

車載のマルチメディア系で採用されている通信規格です。3つの速度グレード(25/50/150Mbps)があります。150MbpsのMOST150は高速化しただけでなく、Ethernetとの共存を可能にしています。MOST150からEthernetへ接続することが可能です。仕様の策定を推進している団体はMOST Cooperationです。

2)高速光ハーネス化

車載ネットワークの進化として、光ファイバによるハーネス化は1980年代から検討されていますが、光系のデバイスやファイバそのもののコスト課題が解決できずにいました。近年の技術進化により現実的な手法として検討が進められています。また、高精細センサである8Kカメラを採用するシステムでは伝送レートが20Gbpsを超えることが想定されるので、光通信の採用が進展する状況となっています。光ハーネスの特徴を挙げると以下となります。

  • 10Gbps超の超高速通信が可能
  • 金属ワイヤーハーネスに比べ軽量かつ細径
  • EMC耐性が優位
  • 光分岐デバイスを用いると、信号の分岐が可能。例えば、高精細カメラのデータをADAS ECUと表示系ECUへ同時に送信が可能

一方で、量産車へ適用させるためには、コストダウンを含めて光ファイバハーネス、光コネクタ、光分岐デバイスなどの技術開発が必要です。

3)無線通信

無線通信の新たなアプリケーションとして、電動車のバッテリモニタシステムへ適用が進んでいます。電動車のリチウムイオンバッテリはセル自体のコストが高く、さらに各セルの電圧や温度を監視するICやハーネスの複雑化やコストダウンが課題です。その解決策として、ワイヤレスのバッテリマネジメントシステムが検討されています。具体的にはバッテリセルを監視する各監視ICと監視ICを統合するマイコン間のハーネスをワイヤレス化し、ハーネスやコネクタ類の材料費およびバッテリパックの製造コストの削減、さらに、ハーネスが省略できることで、重量軽減や小型化につながります。ワイヤレス通信の手法として、標準化されたSmartMesh(スマートメッシュ)技術を適用した例があります。詳細は各所の技術情報をご覧ください。

図9 バッテリマネジメントシステムのイメージ
図9 バッテリマネジメントシステムのイメージ

3. CXPIインタフェース(Clock Extension Peripheral Interface)

既存技術のLINをより高速化しつつもCANに対して低コスト化を狙った通信規格です。LIN通信はシングルマスタによる定期通信なので応答性に制約があります。一方、CXPI通信は各ノードからの通信が可能です。また、CRC(Cyclic Redundancy Check)によりデータの信頼性が高められています。応答性が求められるHMI領域(Human Machine Interface)で適用されることが想定されます。公益社団法人 日本自動車技術会でJASO D 015として策定され、その後、2020年にISO 20794として国際標準化されました。CXPI通信と他の通信との位置付けは図10となります。なお、厳密な区分ではなく、イメージとして作成しています。

図10 CXPIの位置づけ
図10 CXPIの位置づけ

CXPIの特徴を概説します。

  1. ネットワーク構成
    LIN通信と同様に単線によるバス型のネットワーク構成です。
  2. ネットワークマネジメント
    1マスタとスレーブノードで構成されます。スレーブノード数は最大16です。
  3. アクセス方式
    CSMA/CR※16方式、定期応答とイベント応答が可能です。
  4. 通信方式
    PWM方式。マスタノードがバスへクロックを供給し、スレーブノードは、このクロックを用います。
  5. 伝送ボーレート
    LIN通信と同様に最大20kbpsの通信レートです。
  6. 同期方式
    マスタノードからのクロックで同期できます。
  7. エラー検知
    CAN通信で適用されているCRCが通信のエラー検知に適用されています。
  8. フレームバイト
    1フレームで12byte、バーストフレームで255byteまで送信可能です。
※16

(Carrier Sense Multiple Access/Collision Resolution)バスにメッセージを送信した際、データ衝突の調停を行う方式。

車載アーキテクチャの進化とSDV時代における車載通信ネットワーク

SDV(Software Defined Vehicle:ソフトウェア定義車両)の登場により、車載ネットワークは歴史的な転換期を迎えています。車載ネットワークは単なるECU間の通信基盤から、車両全体をソフトウェアで制御・アップデートするためのデジタル基盤へと進化しています。従来はCAN系を中心とした分散型の制御ネットワークが主流でしたが、近年では物理的な配置(ゾーン)ごとに統合するゾーンコントローラや、車両システムの中央にECUを配置し、Ethernetをバックボーンとするゾーンアーキテクチャとすることがトレンドとなっています。図11は車載ネットワークの進化です。旧来の分散型アーキテクチャから機能を統合したドメイン型アーキテクチャへ発展し、さらにゾーン型アーキテクチャへ進化しています。なお、現状の車両では各アーキテクチャを併用する車両システムも採用されています。

図11 車載ネットワークの進化
図11 車載ネットワークの進化

SerDes(Serializer / Deserializer:サーデス)

SerDesは、複数の並列データ(パラレル信号)を直列データ(シリアル信号)へ変換するSerializerと受信したシリアル信号を再び並列データへ復元するDeserializerを組み合わせた高速シリアルデータ通信技術です。SDV時代の自動車においては、高画質カメラ、LiDAR、ミリ波レーダ、ハイレゾディスプレイなどの機器間で用いられています。図12はSerDes技術のイメージです。パラレルデータをシリアルデータへ変換し、シリアル通信ラインで伝送します。受け側では、シリアルデータをパラレルデータへ変換します。

図12 SerDesのイメージ
図12 SerDesのイメージ

代表的な車載向けのSerDes規格として、FPD-Link、GMSL、ASA-ML、MIPI A-PHYなどが挙げられます。近年のADASおよびSDV向け車両では、TI社(テキサス・インスツルメンツ:Texas Instruments Incorporated)の「FPD-Link」とAnalog Devices(アナログ・デバイセズ:Analog Devices,Inc.)の「GMSL」が量産車で広く採用されています。一方、将来の標準化を視野にして、MIPI Alliance※17が推進する「MIPI A-PHY」や、Automotive SerDes Alliance※18が策定する「ASA-ML」の採用検討が進んでいます。これらの規格は主にカメラ、LiDAR、レーダ、ディスプレイなどの大容量データを、低遅延かつ高信頼でゾーンECUや中央コンピューティングユニットへ伝送するために利用されます。

※17

Board Member:Google、Intel、Qualcomm、SAMSUNG、SONY、STMicroelectronics、synopsys、TEXAS INSTRUMENTS

※18

Promoters:BMW、AUMOVIO、BROADCOM、Ford、Fraunhofer IIS、MICROCHIP、NXP、REALTEK、VOLVO。加盟企業はOEM、ティアワン、半導体サプライヤーを始め多くの企業が参画。

FPD-Link、GMSL、ASA-ML、MIPI A-PHYの特徴を端的に表現すると、次の通りです。

  1. FPD-Link:車載カメラ・ディスプレイ接続で豊富な量産実績を持つTI系SerDes規格
  2. GMSL:ADAS・自動運転向けカメラ・センサ接続で高い採用実績を持つADI系SerDes規格
  3. MIPI A-PHY:車載高速センサ接続の標準化を目指す次世代オープン標準規格
  4. ASA-ML:業界横断での相互接続性確保を目指すオープンSerDes規格

① FPD-Link(Flat Panel Display Link)

FPD-LinkはTexas Instruments(TI)が開発した車載SerDes規格であり、現在のADASカメラやディスプレイ接続で広く採用されている代表的な規格の一つです。FPD-Linkの大きな特徴は、同軸ケーブルまたはシールドツイストペアを用いて数Gbps級のデータを長距離伝送できることです。また、PoC(Power over Coax)に対応しているため、1本の同軸ケーブルで映像データ、制御信号、および電源を同時に伝送できます。これにより、車両配線を大幅に簡素化できるため、軽量化やコスト削減にも寄与します。

② GMSL(Gigabit Multimedia Serial Link)

GMSLは、Analog Devices(旧Maxim Integrated)が開発した車載SerDes規格です。FPD-Linkと並ぶ車載SerDes市場の代表的な規格の一つとして広く採用されています。高解像度カメラやLiDAR、レーダから生成される大量のデータを低遅延で伝送することを目的として設計されています。長距離伝送性能やEMC(Electromagnetic Compatibility:電磁両立性)特性に優れることから、ADASや自動運転システム向けのセンサネットワークで採用されています。

③ MIPI A-PHY

MIPI A-PHYは、MIPI Allianceが策定する車載向けの高速SerDes物理層規格です。カメラ、LiDAR、ミリ波レーダ、ディスプレイなどを統一的に接続できるオープン標準規格として設計されています。A-PHYは最大15m程度の車載配線を想定しており、高いEMC性能と極めて低い誤り率を実現しています。さらに、機能安全規格 ISO 26262への対応や将来の自動運転システムを見据えた高帯域化が進められており、マルチギガビット級の高速伝送に対応します。

④ ASA-ML(Automotive SerDes Alliance Motion Link)

ASA-MLは、Automotive SerDes Alliance(ASA)が策定する車載SerDes標準規格です。従来の車載SerDes市場はFPD-LinkやGMSLといったベンダ独自規格が中心であり、部品選定やサプライチェーンにおいて特定ベンダへの依存、すなわちベンダーロックインが課題となっていました。ASA-MLはこうした課題を解決するため、異なるメーカ間でも相互接続可能なマルチベンダ環境の実現を目指しています。ASA-MLは、カメラ、レーダ、LiDARなどのセンサデータ伝送を主な対象としており、SDV時代のゾーンアーキテクチャや中央集約型コンピューティングとの親和性を重視した設計となっています。

以上のように、現在はFPD-LinkおよびGMSLが市場の主流である一方、将来的にはMIPI A-PHYやASA-MLなどのオープン標準規格の普及が期待されています。

量子コンピュータ時代への課題

自動車の寿命は一般的なIT機器より長く、販売後も10~20年使用されます。そのため、現在開発中の車両が量子コンピュータ実用化時代まで運用される可能性があります。近年の車両は次のような外部通信を採用しています。

  • OTA(Over-The-Air)ソフトウェア更新
  • V2X(車車間・路車間通信)
  • テレマティクス通信(携帯電話などによる通信)
  • クラウド連携(クラウドサーバによるサービス)
  • デジタルキ(スマホなどを車両の鍵として利用)

これらの通信では、RSA(Rivest-Shamir-Adleman)やECC(Elliptic Curve Cryptography)などの公開鍵暗号・電子署名アルゴリズムが利用されています。将来、高性能な量子コンピュータが実用化されると、現在の暗号化通信を収集・保存しておいた第三者によって、将来解読されるリスクが生じます。この考え方は「Harvest Now, Decrypt Later」と言い、日本語では「今収集し、後で解読する」と表現できます。現在は解読できない暗号化データを収集・保存しておき、将来の量子コンピュータなどの技術進化によって復号する攻撃手法を指します。このような将来の脅威に備えるため、自動車業界においてもPQC(Post Quantum Cryptography:ポスト量子暗号・耐量子計算機暗号)の適用検討が進められています。また、暗号アルゴリズムの変更や更新に柔軟に対応可能なCrypto-Agility(暗号アジリティ)の設計思想も重要な課題となっています。車載ネットワークにおいては、長期にわたって安全性を確保するため、こうした観点からセキュリティ技術のさらなる高度化が求められます。

関連計測器の紹介

車載ネットワークに関連した計測器の一例を紹介します。

図13 車載ネットワークに関連した計測器の例
図13 車載ネットワークに関連した計測器の例

その他の各社製品や仕様などについては、計測器情報ページ から検索してください。

おわりに

車両内ネットワークの導入により、システムの多機能化や高度化を実現してきましたが、自動車世界に変革をもたらすといわれているCASE(Connected、Autonomous、Shared、Electric ケース)により、自動化や電動化がさらに進みます。これらを実現するためには車両システムを構成するネットワーク技術の重要性がますます高まってくると推察されます。急速に普及しているSDV時代に対応する車両内ネットワーク技術の動向に目が離せません。

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