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スコープコーダの基礎知識 (第2回)

第2回は、スコープコーダ DL950を例に、実際のスコープコーダ本体の構造やさまざまな入力モジュールについて解説する。

スコープコーダ DL950本体の構造

DL950の外観

スコープコーダDL950の外観はオシロスコープとよく似ているが、入力がモジュール形式になっており、オシロスコープとは異なる点もある。
DL950の前面パネルには、多チャネルの信号波形を同時に見ることができる12.1型の大きなディスプレイと操作ボタンが配置されている。ディスプレイにはタッチパネルを搭載しているため、操作ボタンとタッチパネルのどちらか操作しやすい方法を選択できる。操作モードには、オシロスコープの操作性のスコープモードと、データレコーダの操作性のメモリーレコーダモードがある。スコープモードを使えば、時間(横)軸や電圧(縦)軸の設定やトリガの設定はオシロスコープとほぼ同じであるため、オシロスコープに慣れた人であればすぐに使えるようになっている。同様に、メモリーレコーダモードを使えば、データレコーダに慣れた人もすぐに使える。

図26. DL950の前面パネル

図26. DL950の前面パネル

DL950の側面パネルには、入力モジュールを実装するスロットとさまざまな制御信号端子やプローブ電源端子などが用意されている。多くの測定点を同期して測定したい要求があるので、最大5台のDL950を同期して運転するための専用端子がある。

図27. DL950の側面パネル

図27. DL950の側面パネル

入力モジュールは下図のように用途に応じて交換できる。

図28. DL950に実装する入力モジュール

図28. DL950に実装する入力モジュール

DL950本体のブロック図

スコープコーダは多チャネルで大容量メモリーに取り込んだ波形を高速に処理してディスプレイに波形として表示するため、取り込んだ波形を高速に処理するための仕組み(GIGA-Zoom Engine)が組み込まれている。

図29. DL950本体のブロック図

図29. DL950本体のブロック図

DL950にはさまざまな外部制御信号に対応した仕組みが搭載されていることもブロック図から判る。また、DL950では測定結果をPCに多様な手段で転送できるように記録メディアや通信のポートが用意されている。

入力モジュールの種類

主にメカトロニクス機器やパワーエレクトロニクス機器の評価を対象にしているDL950では、電気信号以外にさまざまなセンサーを使った物理量の測定も行うため入力回路がモジュール形式になっており、用途に応じて必要なモジュールを組み合わせて使える。
DL950では下図に示す入力モジュールが用意されている。多くの入力モジュールは絶縁入力形式となっているが、一部に非絶縁形式の入力モジュールがあるので選定するときは仕様を確認する必要がある。最近は高帯域の電気信号を同時に観測する要求があるため、200 M/s、40 MHz帯域の入力モジュールが用意されている。

図30. DL950用入力モジュール

図30. DL950用入力モジュール

DL950の複数台同期運転

スコープコーダの多くの使い方では本体に実装できるチャネル数で十分であるが、用途によって1台の本体に実装できるチャネル数では不足する場合がある。その際に最大5台のDL950を光ファイバーで連結し、最大160チャネルで高い同期精度の波形観測が可能となる。

図31. DL950の複数台同期運転

図31. DL950の複数台同期運転

DL950では本体間をEthernetケーブルで接続して、IEEE1588で規定された同期運転の仕組みが用意されている。ただし、同期精度は1µs以下となり光ファイバーケーブルで同期させた時より精度は低下する。その他にも、GPSを用いた同期測定ができるようになっている。GPSを用いた場合、遠隔地間の同期が取れるメリットがある。

電圧測定用モジュール

メモリーレコーダでは電圧波形の観測が最も多いので、さまざまな入力モジュールが用意されている。DL950では下表に示す入力モジュールが用意されている。

表4. DL950用電圧モジュールの仕様概要
区分 形名 最高
サンプル
レート
分解能 周波数
帯域
入力
ch数
入力
形式
入力
コネクタ
最大入力電圧 最大定格
対地間電圧
DC確度 残留ノイズ
レベル
(typ)
コモンモード
除去比
電圧 高速 720212 200 MS/s 14 bit 40 MHz 2 絶縁 BNC
(絶縁タイプ)
1000 V
(DC+ACpeak)
1000 Vrms ±0.5% ±0.15 div 80 dB以上
720211 100 MS/s 12 bit 20 MHz 2 絶縁 BNC
(絶縁タイプ)
1000 V
(DC+ACpeak)
1000 Vrms ±0.5% ±1.1 mV
または
±0.15 div
80 dB以上
中速 720250 10 MS/s 12 bit 3 MHz 2 絶縁 BNC
(絶縁タイプ)
800 V
(DC+ACpeak)
400 Vrms ±0.5% ±400 µV
または
±0.06 div
80 dB以上
720256 10 MS/s 16 bit 3 MHz 4 絶縁 BNC
(絶縁タイプ)
600 V
(DC+ACpeak)
400 Vrms ±0.25% ±0.025 div
(50 mV/div以上)
80 dB以上
701255 10 MS/s 12 bit 3 MHz 2 非絶縁 BNC
(金属タイプ)
600 V
(DC+ACpeak)
±0.5% ±400 µV
または
±0.06 div
80 dB以上
低速 701251 1 MS/s 16 bit 300 kHz 2 絶縁 BNC
(絶縁タイプ)
600 V
(DC+ACpeak)
400 Vrms ±0.25% ±100 µV
または
±0.01 div
80 dB以上
720254 1 MS/s 16 bit 300 kHz 4 絶縁 BNC
(絶縁タイプ)
600 V
(DC+ACpeak)
400 Vrms ±0.25% ±0.025 div
(50 mV/div以上)
80 dB以上
720268 1 MS/s 16 bit 300 kHz 2 絶縁 BNC
(絶縁タイプ)
1000 Vrms 1000 Vrms ±0.25% ±2 mV
または
±0.04 div
80 dB以上

高速絶縁入力モジュール

現在のメカトロニクス機器やパワーエレクトロニクス機器の動作を観測するには、10 MHz帯域以上の信号を観測する必要がある。そのため、高速絶縁入力モジュールがラインアップに加わるようになってきた。DL950には、200 MS/s、40 MHz帯域、14ビットの入力モジュールがある。内部構造は、下図のように1つのモジュールに独立した2つの絶縁入力がある。
このモジュールでは高速に波形データを本体に伝送するために、絶縁箇所に光ファイバーを用いた信号絶縁を行っている。

図32. 200 MS/s、14ビット、2 ch絶縁入力モジュール(720212)

図32. 200 MS/s、14ビット、2 ch絶縁入力モジュール(720212)

中低速絶縁入力モジュール

一般的な機械の状態や動作を観測するための中速、低速の絶縁入力モジュールが最適である。1つのモジュールには独立した2入力もしくは4入力の端子がある。内部の構造は下図に示すようになっている。メカトロニクス機器やパワーエレクトロニクス機器の信号を観測する箇所は多く、多チャネルの要望が多い。4入力モデルで要望に応えている。
このモジュールでは信号絶縁に外部からの電界や磁界の影響を受けにくい容量絶縁方式ディジタルアイソレータが採用されている。

図33. 10 MS/s、16ビット、4 ch 絶縁電圧モジュール(720256)

図33. 10 MS/s、16ビット、4 ch 絶縁電圧モジュール(720256)

絶縁入力モジュールと組み合わせて使うテストリードとプローブ

絶縁入力端子に接続するテストリードやプローブは下図のようになる。電圧プローブは一般的なオシロスコープと異なり、金属部分が絶縁物で覆われた絶縁プローブである。絶縁入力モジュールに一般のオシロスコープ用のプローブを使うことは金属部分に触れた時に感電するので使用してはならない。

図34. 絶縁入力モジュールに接続して使うテストリードとプローブ

図34. 絶縁入力モジュールに接続して使うテストリードとプローブ

測定対象に確実に接触して信号を観測するために、テストリードや電圧プローブのグラバー・クリップが交換できるようになっている。下図は電圧プローブに用意されたものを示す。

図35. 絶縁電圧プローブに用意されたグラバーやクリップ

図35. 絶縁電圧プローブに用意されたグラバーやクリップ

電圧プローブは、オシロスコープと同じように波形観測する前に本体にあるプローブ補償信号出力端子から出力されているパルス信号を使って下図に示すような位相補正が必要となる。

図36. 絶縁型電圧プローブの位相補正

図36. 絶縁型電圧プローブの位相補正

電圧プローブは入力される信号の周波数によって印加できる電圧が決められているので、高い周波数を測定する際には事前に電圧プローブの仕様を確認する必要がある。

図37. 絶縁電圧プローブの最大入力電圧(702902)

図37. 絶縁電圧プローブの最大入力電圧(702902)

非絶縁入力モジュール

入力のBNC端子の外側が本体のケースに繋がっている非絶縁モジュールがある。このモジュールは高電圧差動プローブを利用する場合やオシロスコープのようにプリント基板の信号を観測する場合に使う。
非絶縁入力モジュールは下図のような2入力の構造をしている。コモンモード電圧が異なる2つの信号を同じ非絶縁入力モジュールで観測するのはショートの危険であるので注意が必要である。
内部構造は下記のようになっている。

図38. 10 M/s、12ビット、2 ch非絶縁入力モジュール(701255)

図38. 10 M/s、12ビット、2 ch非絶縁入力モジュール(701255)

非絶縁入力モジュールと組み合わせて使うテストリードとプローブ

非絶縁入力モジュールには下図に示すようにオシロスコープで使われる電圧プローブや高電圧差動プローブが接続される。

図39. 非絶縁型入力モジュールに接続して使うテストリードとプローブ

図39. 非絶縁型入力モジュールに接続して使うテストリードとプローブ

任意の2点間の電圧差を測定できる高電圧差動プローブは電源を必要とするので、下図に示すような接続をする。この場合、DL950にプローブ電源オプション(/P4または/P8)が必要である。

図40. 高電圧差動プローブのDL950への接続

図40. 高電圧差動プローブのDL950への接続

電圧プローブや高電圧差動プローブに高い周波数を印加した時の最大入力電圧は低下するので注意が必要である。下図には高電圧差動プローブの仕様に示されている最大入力電圧を示す。

図41. 高電圧差動プローブの最大入力電圧(701978)

図41. 高電圧差動プローブの最大入力電圧(701978)

電流信号測定と電流センサー

メカトロニクス機器やパワーエレクトロニクス機器では、電圧と電流を同期させて観測する場合が多い。電流測定には用途に応じた電流センサーが使われる。電流センサーから出力される電圧を電流信号波形としてスコープコーダで観測する。

表5. さまざまな電流センサー
シャント抵抗 カレントトランス
(変流器)
サーモカップル ロゴスキーコイル ホール素子型
電流センサー
ゼロフラックス型
電流センサー
光ファイバー
電流センサー
測定対象 AC/DC ACのみ AC/DC ACのみ AC/DC AC/DC AC/DC
駆動電源 不要 不要 不要 必要 必要 必要 必要
特長 構造が単純 電流線と絶縁可能 周波数帯域が広い 小型化が可能 構造が単純 高精度が可能 高絶縁が可能
欠点 周波数帯域が狭い 直流測定が不可 破損しやすい 直流測定が不可 温度特性がある 高額 研究段階

AC/DC電流測定

500 A以下の直流や交流の電流波形であれば、電流プローブと電圧モジュールを組み合わせれば容易に測定できる。電流プローブは電源を供給する必要があるので、下図に示すようにDL950と接続する。DL950にプローブ電源オプション(/P4または/P8)が必要である。

図42. 電流プローブのDL950への接続

図42. 電流プローブのDL950への接続

下図に示すように電流プローブで高い周波数の信号を観測する場合は、電流値に上限があるので注意が必要である。規定された上限を超えた電流を連続して観測すると電流プローブが過熱して危険となる。

図43. 10 MHz、150 Arms電流プローブ(701930)の入力電流ディレーティング

図43. 10 MHz、150 Arms電流プローブ(701930)の入力電流ディレーティング

AC/DC大電流測定

大型の電力設備や自動車駆動用の車載インバータでは、100 A以上のAC/DC大電流を測定する場合がある。AC/DC大電流を測定する場合には、電流センサーを用いて波形観測を行う。
古くからAC/DC大電流を測定する方法としてシャント抵抗が利用されてきた。シャント抵抗は簡単に大電流波形を観測できるが、周波数範囲が狭いこととシャント抵抗自身が発熱してエネルギー消費するので、利用する場合は仕様の確認が必要である。

図44. シャント抵抗を用いた電流波形測定

図44. シャント抵抗を用いた電流波形測定

高精度にAC/DC大電流の波形を観測する場合はゼロフラックス型電流センサーを用いる。ゼロフラックス型電流センサーは電源供給が必要となるため、下図のような構成にする必要がある。

図45. ゼロフラックス型電流センサーを用いたAC/DC大電流測定

図45. ゼロフラックス型電流センサーを用いたAC/DC大電流測定

AC電流測定

直流成分を無視して交流成分のみの電流波形を観測する場合は、トランスの原理を応用したAC専用の電流センサーを利用する。出力は電圧信号となるので電圧モジュールに直接接続することができる。AC専用の電流センサーは外部から電源を供給する必要はないため簡単に利用できる。

図46. AC専用の電流センサーの接続

図46. AC専用の電流センサーの接続

温度測定用モジュールと温度センサー

メカトロニクス機器やパワーエレクトロニクス機器は発熱する部品などがあるため、装置の内部の温度の変化を観測することが多い。

温度センサー

温度を測るセンサーは下図に示すように多くの種類があり、用途や測定する温度範囲によって使用する温度センサーが選ばれる。接触式は温度を測りたい物体にセンサーを張り付けるものである。非接触式は物体から放射される赤外線から温度を求める方式である。

図47. さまざまな温度センサー

図47. さまざまな温度センサー

温度センサーの中で最もよく使われるのが、安価で使いやすい熱電対である。熱電対はJIS規格やIEC規格で規定されている。下表に示す熱電対がよく使われるものであり、DL950でも対応している。

表6. よく使われる熱電対
熱電対の
種類
使用温度
範囲(℃)
特徴
B 600 ~ 1700 耐酸化、耐薬品性が良く、1000℃以上の測定に適する。
R 0 ~ 1600 耐酸化、耐薬品性が良く、精度が良くバラツキや劣化が少ない。
S 0 ~ 1600 R 熱電対と同様の特徴を持つ。違いはロジウムの含有量。
N -200 ~ 1200 1200℃以下での耐酸化性が良く、熱起電力の直線性が良い。
K -200 ~ 1200 熱起電力の直線性が良く、耐熱・耐食性が高い。工業用として多く利用される。
E -200 ~ 900 電気抵抗が高く、熱起電力が大きい。
J -40 ~ 750 還元性雰囲気中で使用ができ、熱起電力が大きい。
T -200 ~ 350 電気抵抗が低く、熱起電力の直線性がよい。

DL950は、これらの熱電対以外に極低温を測定する金鉄クロメル熱電対と高温測定ができるタングステン - レニウム熱電対(W:W-5% Re/W-26% Re)に対応している。またDIN規格(ドイツ)のU熱電対(Tに類似)、L熱電対(Jに類似)にも対応している。

温度モジュール

DL950に使われる温度モジュールは下表の種類がある。モジュールは熱電対を直接モジュールの端子に接続するタイプとモジュールの外に置かれたスキャナに熱電対を接続するタイプに分かれる。

表7. DL950に使われる電圧/温度モジュールの仕様概要
区分 形名 最高
サンプルレート
分解能 周波数
帯域
入力
ch数
入力
形式
入力
コネクタ
最大
入力
電圧
最大定格
対地間
電圧
DC確度 残留ノイズ
レベル
(typ)
コモンモード
除去比
電圧・温度 高速 701261 100 kS/s(電圧)
500 S/s(温度)
16 bit(電圧)
0.1℃(温度)
40 kHz(電圧)
100 Hz(温度)
2 絶縁 バインディング
ポスト
42 V 42 V ±0.25%
(電圧)
±100 µV
または
±0.01 div
80 dB以上(電圧)
120 dB以上(温度)
701262 100 kS/s(電圧)
500 S/s(温度)
16 bit(電圧)
0.1℃(温度)
40 kHz(電圧)
100 Hz(温度)
2 絶縁 バインディング
ポスト
42 V 42 V ±0.25%
(電圧)
±100 µV
または
±0.01 div
80 dB以上(電圧)
120 dB以上(温度)
低速 701265 500 S/s(電圧)
500 S/s(温度)
16 bit(電圧)
0.1℃(温度)
100 Hz 2 絶縁 バインディング
ポスト
42 V 42 V ±0.08%
(電圧)
±4 µV
または
±0.01 div
80 dB以上(電圧)
120 dB以上(温度)
720266 125 S/s(電圧)
125 S/s(温度)
16 bit(電圧)
0.1℃(温度)
15 Hz 2 絶縁 バインディング
ポスト
42 V 42 V ±0.08%
(電圧)
±4 µV
または
±0.01 div
80 dB以上(電圧)
120 dB以上(温度)
720221 10 S/s 16 bit 600 Hz 16 絶縁 ねじ締め式
端子
20 V 42 V ±0.15%
(電圧)
±0.01 div 100 dB以上(電圧)
140 dB以上(温度)

直接入力型温度モジュール

直接入力型温度モジュールは、熱電対や電圧信号をモジュールの端子に直接入力するタイプである。熱電対は入力端子の温度と物体に接触している物体の温度差によって起電力が発生するものであるため、端子の温度を別の温度センサーで測定することで、基準接点温度(端子温度)を補償している。(基準接点補償)
下図のブロック図には示していないが、波形観測時に熱電対の断線が生じたことを検出するバーンアウト機能も保有している。

図48. ユニバーサル(電圧/温度)モジュール(701261)

図48. ユニバーサル(電圧/温度)モジュール(701261)

温度モジュールは42Vまでの電圧も測定することができる。このモジュールでの信号絶縁は容量絶縁方式ディジタルアイソレータが採用されている。

スキャン型温度モジュール

直接入力型温度モジュールでは1つの入力端子で1点の温度測定ができる。機器や装置の温度分布を測定する場合は多くの点の温度を測る必要があるため、スキャナを使って多点の測定をするのが便利である。
スキャン型温度モジュールの構造は下図のようになっている。1つのA/D変換器で最大16点の温度を観測することができる。スキャナの端子温度を測る冷接点補償の仕組みを持っている。

図49. 16 CH温度/電圧入力モジュール(720221)

図49. 16 CH温度/電圧入力モジュール(720221)

【コラム】 熱電対以外の温度センサー

メカトロニクス機器やパワーエレクトロニクス機器の温度測定では熱電対が使われることが多いため、DL950は各種の熱電対に対応している。DL950では対応していないが、その他の温度センサーもあるので紹介する。

  1. 測温抵抗体
    熱電対に次いで工業用途でよく使われる温度センサーである。温度によって抵抗値が変化する特性を利用した温度センサーである。温度によって抵抗値が変化する材料としては白金、ニッケル、銅がある。JIS規格やIEC規格では白金を用いた測温抵抗体が規定されている。利用できる温度範囲は熱電対に比べて狭いが精度の高い温度測定ができる。また熱電対では必要な冷接点補償が不要である。本体からセンサーまでの配線の影響をなくして抵抗を測定するために通常は3線で配線される。
  2. サーミスタ
    サーミスタは温度によって抵抗が変化するセラミックス半導体である。測定できる温度範囲は測温抵抗体より狭い。測温抵抗体に比べて小型で安価であるため、電子体温計や家電機器内の温度監視などに組込まれて多く使われている。
  3. 蛍光温度センサー
    光ファイバーの先端に付けた蛍光物質に閃光(せんこう)を与えたのちに蛍光輝度の減衰が温度に応じて変化する特性を利用したものである。電気的に絶縁された状態で温度を観測できる特長がある。マイクロ波加熱装置内での温度測定や高電圧が印加された機器の温度測定に適している。
  4. 水晶温度センサー
    水晶振動子の発振周波数が温度に依存する特性を利用したものである。白金測温抵抗体や熱電対より精度の高い温度測定ができるため、一般的な温度測定ではなく校正のための温度の計測標準器として使われる。
  5. 赤外線温度センサー
    物体から発生する赤外線は温度が高くなるにしたがって多くなる特性を利用して非接触で温度を測ることができる。非接触であるため安全に温度の測定ができるが、光沢のある金属やガラス越しでの温度測定はできない場合がある。また物質固有の放射率の設定をしないと正しい温度測定ができない。
    赤外線サーモグラフィカメラを用いると物体の温度分布の測定もできる。IS8000 統合計測ソフトウェアプラットフォームを使えば、赤外線映像とDL950の波形データを同一時間上で表示することができる。
  6. 光ファイバー温度センサー
    光ファイバーを通る赤外線から散乱して戻ってくる光のうち、ラマン散乱光が温度に依存する特性を利用した新しく登場したセンサーである。発したパルス光から戻ってくる散乱光の時間を測れば特定の場所の温度が判る。このため1本の光ファイバーを物体に巻き付けば温度分布の観測ができる。化学プラントで使われる大型設備の温度監視などに使われる。

【温度測定について詳しく学びたい方へ】

日本電気計測器工業会(JEMIMA)と計測自動制御学会(SICE)が執筆した温度測定に関する書籍がある。

新編温度計の正しい使い方 第5版
日本電気計測器工業会 編
https://www.nikko-pb.co.jp/products/detail.php?product_id=2762

温度計測- 基礎と応用 –
計測自動制御学会 温度計測部会 編
https://www.coronasha.co.jp/np/isbn/9784339032260/

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