技術情報・レポート

2018/05/22

メモリレコーダの基礎と概要 (第3回)

メモリレコーダの用途例

メモリレコーダは主に自動車など輸送機、産業機械、家電機器、材料・部品、電力機器、バイオ・医療など多方面に使われる。これらの用途では多チャンネルのアナログ信号とロジック信号を同時に観測することが要求される。また取り込んだ波形を直接観察するだけではなく、演算を行って加工した結果を利用することもある。

ここではさまざまな用途での利用事例を紹介する。

エレベータの振動計測

高層ビルに使われるエレベータは低振動で高速に昇降できるように工夫されている。エレベータに異常があると振動が増加するため、保守点検のときはエレベータ運転時の上下の加速度、及び前後左右の振動を同時に測定できる3方向振動センサを使って振動計測を行う。

図28. エレベータの振動計測

図28. エレベータの振動計測

計測したデータの中から、3軸それぞれを個別に参照することにより、ドアの開閉時の振動や、エレベータ固有の振動、さらに上昇・下降時の振動及び、DC加速度波形が記録できる。

回転機の偏心測定

回転機を長期間使うと磨耗やアライメントのずれによって軸に偏心が生じて、異常な振動や騒音などを発生する要因となり、機械の寿命にも影響を及ぼすことになる。このためポンプや発電機などの回転機は常時もしくは定期的に偏心量を測定する必要がある。

軸の変位は渦電流式変位計もしくはレーザ変位計を用いて測定する。下記には渦電流式変位計を用いた事例を示す。軸の偏心を測定するセンサと軸に位相基準を検出するセンサを使う。

図29. 渦電流式変位計を用いた回転体の偏心測定

図29. 渦電流式変位計を用いた回転体の偏心測定

IH調理器の低周波磁界測定

IH調理機器は加熱周波数帯(20~90kHz)が使用されている。加熱コイルにこの周波数の電流が印加されてコイルの上に置かれた鍋などが加熱される仕組みになっている。外部に交流磁界が漏れると人体への健康影響があるため、国際規格(ICNIRP)で漏洩磁界の上限値が規格で定められている。

磁界測定器とメモリレコーダを組み合わせることによって、IH調理器から漏洩する磁化のレベルを測定できる。磁界測定器からは3軸(x、y、z)の出力をメモリレコーダのFFTで周波数解析することができる。また、合成実効値出力を用いると長時間の変動を観測できる。

図30. IH調理器の低周波磁界測定

図30. IH調理器の低周波磁界測定

ギアモータの潤滑油劣化診断

ギアモータには動きを滑らかにするためにギアボックスの内部に潤滑油が入っている。潤滑油はモータの使用に伴って劣化するため交換が必要になる。生産ラインでは突然のギアモータの故障は生産に影響を及ぼすため、故障前に異常を見つけることが必要になる。

ギアの動きが滑らかでないとモータに負荷が掛かるため、電流波形から異常な状態であることを検出できる。

図31. ギアモータの潤滑油劣化診断

図31. ギアモータの潤滑油劣化診断

パワーコンディショナの系統連系試験

住宅用太陽光発電システムに使われる直流を交流に変換するパワーコンディショナは系統連系技術要件ガイドライン(資源エネルギー庁)や電気用品安全法などに従った設計がされ、一般財団法人電気安全環境研究所の認証を得る必要がある。この試験で使われる電源波形をモニタするためにメモリレコーダが使われることがある。

図32. 系統連係試験装置でのメモリレコーダの利用

図32. 系統連係試験装置でのメモリレコーダの利用

生体信号(筋電)測定

医療機器、福祉機器、スポーツ医学、バイオなど生物分野の研究では生体信号を観測する必要がある。生体信号のなかでも筋電信号を観測するには1Hz~10kHzの広い周波数帯域が必要なため、メモリレコーダが使われる。

筋電信号を観測するには入力インピーダンスが100MΩ以上、CMRRが100dB程度必要となるため高感度な筋電アンプ(差動アンプ)を用いる。

図33. 筋電測定の構成

図33. 筋電測定の構成

モータの軸受け電圧の測定

モータの軸受けとケースの間に電圧が発生すると軸受けベアリング内部で放電が生じてベアリング金属表面に傷をつける。これを軸受け電食という。これによりモータの劣化が進み異音の発生や振動の増加を招く。この放電現象を観測するためにモータの軸受け電圧の測定が必要になる。下記の図はモータの軸受けに電圧を発生される要因となるモータの中性点電圧と軸受け電圧を同時に波形測定する事例を示す。必要に応じてモータの駆動電圧波形(U、V、W)や振動などの測定も同時に行う。

軸受け電圧を測定すれば軸受けで放電が起きているかを観測することができる。放電現象は高速であるため、観測にはMHz帯域まで測定できるメモリレコーダが必要となる。

図34. 高速現象を観測できるメモリレコーダを使ってのモータの軸受け電圧測定

図34. 高速現象を観測できるメモリレコーダを使ってのモータの軸受け電圧測定

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