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技術コラム

2018/04/23

メモリレコーダの基礎と概要 (第1回)

はじめに

メカトロ機器、電力設備、機械、材料、バイオなど幅広い分野で波形観測に使われるのが波形記録装置の一種であるメモリレコーダである。現在のメモリレコーダは12ビット以上の高分解能A/D変換器と波形記録メモリで構成された製品であるが、歴史は古く機械的な仕組みによって写真フィルムや感光紙に波形を記録する装置から始まっている。その後、記録媒体として感熱紙や磁気テープを使う波形記録装置なども登場してきたが、現在ではメモリレコーダに集約されている。

電子回路技術者がよく使うオシロスコープとメモリレコーダはよく似ているが異なるところがあり、それぞれ用途に適した設計となっている。今回の解説記事ではメモリレコーダの歴史、製品の種類、機種選定での留意点、製品の内部構造、使用上の注意点、利用事例の紹介などメモリレコーダを理解するうえでの基礎知識を紹介していく。

記事執筆には長年に渡って幅広い分野にメモリレコーダを設計、生産、販売している日置電機株式会社の協力を得た。

図1. さまざまな波形測定器

図1. さまざまな波形測定器

歴史的な波形記録装置

電磁オシログラフ

ブラウン管を用いたオシロスコープが発明される以前から使われていた波形測定器である。電磁オシログラフの原理は1893年、フランスの物理学者アンドレ・ユージン・ブロンデル(Andre-Eugene Blondel 1863 - 1938)によって考案され、その後イギリスの物理学者であり電気工学のエンジニアであるウィリアム・ダッデル(William Du Bois Duddell 1872 - 1917)によって改良され、測定可能な周波数が50Hzを超えるものを実用化した。

電磁オシログラフは多チャンネルが可能であったため、電力や機械の分野で1980年代くらいまで広く使われた。

動作原理は指示計器(メータ)と同じで、メータの針の代わりに小さな鏡を付けたものである。光源からの細い光を鏡に当てて、鏡が電気信号により振動することによって光が左右に振れる。この光を移動するフィルムや感光紙に当てて波形を記録していく。

図2. 電磁オシログラフの原理図

図2. 電磁オシログラフの原理図

日本では1924年に横河電機が電磁オシログラフを国産化した。その成果は1928年に電気学会で「電磁オッシロとその応用(青木晋、多田潔、友田三八二)」として発表された。

図3. 電磁オシログラフ(1924年)

図3. 電磁オシログラフ(1924年)

提供:横河電機株式会社

電磁オシログラフの構造は単純であるが、初期のモデルは写真フィルムに波形を記録するため現像が必要なこと、電気信号を機械的な変化に変換する方式であるため周波数帯域が数kHzくらいまでとなっていた。その後、写真フィルムから紫外線感光紙を使うようになり、現像をしなくても波形を見ることができるようになった。

電磁オシログラフの後を引き継いだのは、サーマルアレーヘッドを使って最速500mm/秒で感熱紙に波形を記録するタイプの製品であるが、波形を直接紙へ記録する需要が減少して、半導体メモリに記録や保存を行うメモリレコーダに代わっていった。

ペン書きオシログラフ

電磁オシログラフと構造はよく似ているが、可動コイル形計器の針先にペンが付いた構造となっている。記録には,インキ,熱,放電などが用いられる。電磁オシログラフに比べて可動部が大きいため、周波数帯域は100Hz程度までとなる。心電図、脳波などの生体信号、低い周波数の機械振動を多チャンネルで記録するのに使われた。

図4. ペン書きオシログラフの原理図

図4. ペン書きオシログラフの原理図

最近までペン書きオシログラフは販売されていたが、価格が安く、取扱いやすいメモリレコーダに置き換わりつつある。

磁気テープ記録データレコーダ

半導体メモリが高価であった時代にkHz帯域の波形を多チャンネルで長時間記録するには磁気テープが広く使われた。初期においてはアナログ記録であったが、1987年にDAT(Digital Audio Tape)規格が定められると、記録がアナログからデジタルに変わっていった。磁気テープ記録のデータレコーダはランダムアクセスができないため、測定した波形から観測したい部分を見つけ出すのに手間が掛かる欠点があった。磁気テープ記録のデータレコーダは波形記録装置であったため、記録した波形はオシロスコープなど別な波形表示装置を使って観測した。

現在では半導体メモリが安価になったため、磁気テープ記録のデータレコーダは販売されなくなった。またDATテープは現在生産が終了しているため、今後テープの入手は難しくなる。

現在よく使われる波形記録装置

現在使われている波形記録装置はほぼすべてがA/D変換器と半導体メモリで構成されているメモリレコーダやデジタルオシロスコープなどとなっている。メモリレコーダは実験室や生産現場など主に屋内での利用と、点検や保守など屋外を含む現場での利用がある。ここでは市販されているメモリレコーダの種類と特長を紹介する。

デスクトップ型メモリレコーダ

メモリレコーダで古くからあるオールインワンタイプの製品である。いくつかの計測器メーカから製品が販売されているが、高性能・高機能な製品から基本機能に絞った製品までさまざまな種類が存在する。

メモリレコーダは電圧の観測だけではなく、さまざまなセンサから得られる物理量を観測するため、用途に応じた入力モジュールが用意されている。

最近のデスクトップ型メモリレコーダは大量の波形データを高速に演算処理して画面に表示するための専用の画像処理回路を搭載してリアルタイムに波形を表示できる。

また、メモリレコーダを持ち歩く時に建物や大型設備などへ接触することが考えられるため、本体ケースにプロテクタが付けられた製品もある。屋外で利用する製品は商用交流電源以外に自動車で使われる12Vや24Vの直流電源でも利用可能となっている。

図5. 高性能・高機能なデスクトップ型メモリレコーダ
(MR6000)

図5. 高性能・高機能なデスクトップ型メモリレコーダ(MR6000)

提供:日置電機株式会社

図6. 持ち歩いて使うことを考えたデスクトップ型メモリレコーダ(MR8847A)

図6. 持ち歩いて使うことを考えたデスクトップ型メモリレコーダ(MR8847A)

提供:日置電機株式会社

電池駆動型メモリレコーダ

主に屋内外の現場で利用することを目的とした電池で駆動できるコンパクトなメモリレコーダである。機能や性能はデスクトップ型メモリレコーダに比べると劣るが、現場での使い易さに特化している。

屋外での利用は耐環境性能や操作性に厳しい要求があるため、製品はこれらの要求を満足する設計となっている。最近ではタッチパネルを搭載した製品も登場している。

屋外の現場でGPSを使った位置情報を波形観測データとともに保存できる製品もある。

図7. 現場での使い易さを追求した電池駆動型メモリレコーダ(MR8870)

図7. 現場での使い易さを追求した電池駆動型メモリレコーダ(MR8870)

提供:日置電機株式会社

システム組込型メモリレコーダ

計測システムに組み込まれて使われるのがシステム組込型メモリレコーダである。操作キーや画面は最小限となっており、機器の設定や観測した波形の表示はパソコンなどを使って行う。大きな表示画面が持たないため、システムに組み込んだ場合の実装効率は高い。

取り込んだ波形データはパソコンで演算や表示を行うため、パソコンの性能やプログラムの複雑さ、取り込んだ波形データの量によって波形が表示されるまでの時間が掛かる場合があるので、システム設計を行う場合は留意する必要がある。

図8. 計測システムに組み込まれるシステム組込型メモリレコーダ(MR8740)

図8. 計測システムに組み込まれるシステム組込型メモリレコーダ(MR8740)

提供:日置電機株式会社

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