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橋 (橋梁) ~ 全ての橋は日本橋に通ず ? ~

「はし」を広辞苑で引くと、「梯」、「嘴」、「階」、「端」、「箸」、「枦」、「橋」などとなります。自動車を念頭にすると「はし」と言えば「橋」となるでしょう。一方、「橋」の語源は「わたす」であるとの説があります。分かりやすく言えば、「橋」※1とは、河川、谷などの障害物をさけるために設置された、道路や鉄道など、構造物の総称です。人々の往来を可能にする交通インフラのかなめと言えます。日本の沿岸部にある平野は主として川による土砂の堆積により形成されているので、国土の面積に対して、河川の数は多いと推察されます。よって、河川にかかる橋も多くあります。

※1

土木学会が昭和11年に発行した「土木工学用語集」によると、「橋梁」として定めています。使われ方は、一般的には「橋」が、工学的な視点では「橋梁」が使われています。「土木工学用語集」では、以下の記載(新仮名使いに変換)となっています。
橋梁(英語:bridge):河川、道路、鉄道、凹地等を超えて道路、鉄道、水路等を通ずるために造った構造物。

本稿では、日本国内の橋の中で、特に道路として運用されている橋を主に取り上げます。最初に、橋の変遷について特徴的なことを概説します。ここで、日本における橋の原点と言える日本橋を紹介します。また、橋に設置されている「橋名板」や、橋の建設状況を解説します。次に橋の分類を紹介し、その後に、橋の基本形式である、桁橋、アーチ橋、トラス橋、ラーメン橋、吊り橋、斜張橋などの特徴を概説します。橋梁の基本構造として、橋脚を支えるケーソンや、上部構造と下部構造の間にある支承などにも触れます。最後に、橋梁の維持管理に適用される手法と橋に関連した計測器を紹介します。

《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》

橋の変遷

橋の変遷は人類の歴史とともに発展してきました。橋を架け始めた明確な記録は残っていませんが、最初のころを想像すると、飛び石を置いたり、倒木を利用したりしたであろうと思われます。記録に残っている史実によると紀元前から、木製の杭を打ち込んだものや、飛び石をならべたもの、山間部では蔦(つた)や竹を用いた吊り橋がかけられています。図1は飛び石をならべた例です。

図1 飛び石の例
図1 飛び石の例

(遺構ではない)

図2はクラッパと呼ばれる扁平な石で組み上げられている石橋です。南イングランドにあるター・ステップです。川の流れをスムーズに逃がす構造となっています。

図2 クラッパ(石橋)
図2 クラッパ(石橋)

図3はインド北東部メガラヤ州にある生きた木の根を使った吊り橋です。日本の吊り橋では徳島県 祖谷地方の「かずら橋」が知られています。

図3 インド北東部メガラヤ州の吊り橋
図3 インド北東部メガラヤ州の吊り橋

(遺構ではではない)

図4 徳島県祖谷地方のかずら橋
図4 徳島県祖谷地方のかずら橋

その後も、木造の橋や石材を組み合わせた橋が長い間作られました。鉄製の橋が急速に普及し始めたのは産業革命により製鉄技術が発展したころからです。橋の構造については次節以降で述べますが、現在の橋に引き継がれている基本構造は、古代ローマ時代に建造された石造りのアーチ橋です。図5は世界文化遺産に登録されている「ガール水道橋」です。南フランスで西暦50年ごろに建設されました。3層構造で最上層は水路になっています。高さは約50mです。建設に係った古代ローマのローマ人による技術は卓越したものと評価されます。

図5 ガール水道橋
図5 ガール水道橋

日本の橋には「入口」と「出口」があります。入口は「起点」、出口を「終点」とされています。大正時代の旧道路法※2により東京市が国道の起点となっています。より詳しく言えば「日本橋」が「起点」となります。ここに「東京市道路元標」※3が設置されました。日本橋は、6つの一般国道(1号・4号・6号・14号・15号・17号・20号)の起点となっています。その後、法令が改正され、日本橋が全ての「起点」ではなくなっています。現在の「起点」は道路法や自治体により定められています。

※2

大正9年に施行された起点に関する条文
第十条:国道の路線は左の路線に付、主務大臣、之を認定す

  • 東京市より神宮(三重県 伊勢神宮のこと)、府県庁所在地、師団司令部所在地、鎮守府所在地又は枢要の開港に達する路線
  • 主として軍事の目的を有する路線
※3

「日本国道路元標」は今でも日本橋の道路中央部に設置されている。記載されている文字は当時の内閣総理大臣である佐藤栄作の揮毫(きごう)※4によるもの。「東京市道路元標」は日本橋の北側にある「元標の広場」に「日本国道路元標」の複製とともに設置されている。

※4

毛筆で文字や絵をかくこと。特に著名人による場合に使われる。

図6 日本国道路元標
図6 日本国道路元標

(日本橋 道路中央部)

図7 東京市道路元標と日本国道路元標
図7 東京市道路元標と日本国道路元標

(日本橋 「元標の広場」に設置)

橋には「橋名板」が備えられています。「橋名板」に記載されている内容に統一的な基準はないようです。国道や自治体が管理する橋によって異なっています。一般的な記載内容は、「橋の名前」、河川に係っている場合は「河川の名前」、「橋の竣工年月」などです。図8は「橋名板」の例です。「橋の名前」と「川の名前」が記載されている例です。この例では、通常、起点側は漢字表記、終点側はひらがな表記となっています。また、起点側見てから左手側は「橋の名前」、右手側は「川の名前」です。終点側でも同様に左手側が「橋の名前」、右手側は「川の名前」となっています。

図8 橋名板の例
図8 橋名板の例

上左:起点側左、上右:起点側右、下左:終点側左、下右:終点側右

日本橋の橋名板は「日本橋」及び「にほんはし」が刻まれています。この文字は江戸幕府 最後の将軍 徳川慶喜の揮毫(きごう)によるものです。

図9 日本橋の橋名板
図9 日本橋の橋名板

日本における橋の建設状況

図10は橋の建設状況です。いわゆる高度経済成長の始まりとともに建設数が急速に増えました。その後は漸減しています。高速道路や主要幹線道路の整備が進展したので、近年の建設数は少なくなっています。なお、その他に古い橋などで記録が確認できない建設時期が不明な橋が約21万橋あるようです。

図10 橋の建設状況
図10 橋の建設状況

出典:国土交通省 道路メンテナンス年報(令和4年度)を抜粋して作成

橋の構造

橋の構造を分類する観点は種々ありますが、材料、構造形式、用途でまとめると図11となります。

図11 橋の分類
図11 橋の分類

1 材料による橋の分類

図12は日干しレンガを材料としています。紀元前1800年頃のティリンス(Tiryns)の遺跡です。前述した図5は石造り、図13は日本の代表的な木製橋である「錦帯橋」です。

図12 Tiryns遺跡
図12 Tiryns遺跡
図13 錦帯橋
図13 錦帯橋

世界一長い木造歩道橋は静岡県 島田市 大井川にかかる「蓬莱橋」です。全長897.4メートルで1997年に「世界一長い木造歩道橋」としてギネスブックに認定されました。

図14 蓬莱橋
図14 蓬莱橋

出典:島田市ホームページ https://www.city.shimada.shizuoka.jp/

図15 コンクリート製の橋
図15 コンクリート製の橋

2 用途

橋の用途は、道路、鉄道、水路、パイプライン、歩道等があります。図16~20は各用途の例です。

図16 道路
図16 道路
図17 鉄道橋
図17 鉄道橋
図18 水道橋
図18 水道橋
図19 パイプライン橋
図19 パイプライン橋
図20 歩道橋
図20 歩道橋

3 構造形式

橋梁の構造について解説します。本節では、科学的な解説となっているので、「橋」ではなく「橋梁」とします。

1)橋梁の基本構造

橋梁の構造物を上下で分けると、上部構造は道路面より上方の部分となります。下部構造は上部構造物を支える部分となります。

図21 橋梁の基本構造
図21 橋梁の基本構造

上部構造物
橋梁の中で、直接、人や物が乗る面より上部の部分です。上部工とも呼称されます。

下部構造物
上部構造物を支える構造体。橋脚、橋台、基礎などで構成される。

橋脚
橋梁の中間部にある上部構造物を支える。

橋台
橋梁の両端に位置し、取り付け道路と橋梁部とを仕切り、上部構造物を支える。取り付け道路の崩壊を防止する擁壁の役割もある。

躯体(くたい)
橋台、橋脚において上部構造物を支える本体部分。

基礎

  • 杭基礎
    杭を用いた基礎。軟弱な地盤に用いられる。強固な地盤では「直接基礎」が用いられる。
  • ケーソン基礎
    コンクリートで作られた箱型(ケーソン)の構造物。大きな筒の中を掘り下げながら、支持地盤に基礎を構築する工法。橋梁では、オープンケーソン工法、ニューマチックケーソン工法、設置ケーソン工法に大別される。オープンケーソン工法は水中掘削で行われる。ニューマチックケーソン工法は、掘削する作業面の圧力を高めて、水圧とバランスさせながら掘削する工法。設置ケーソン工法は造船所などで予め建造されたケーソンを海上輸送し所定の位置に設置する方法。本州四国連絡橋で建造されたケーソンは幅59m、長さ75m、高さ55m、重さ約18,000tにもなる巨大な構造物。
図22 ケーソン基礎の工法
図22 ケーソン基礎の工法

支承(しけい)
上部構造と下部構造をつなぐ部分。上部構造物の荷重を下部構造物に伝える部分。構造物の温度変化やたわみによる回転や移動を吸収する。鋼製やゴム、コンクリートなどで作られている。

図23 支承の例
図23 支承の例

左:回転する支承、右:ゴム製の支承

伸縮機構
橋梁が伸縮した場合に橋梁の接合部においてすき間を吸収する部材。路面に設置される。

図24 伸縮機構の例
図24 伸縮機構の例


橋台または橋脚間にあり、上部構造全体の荷重を支持して下部構造に伝える断面形状によって、I桁と箱桁、材料によって鋼桁、鉄筋コンクリート桁、PC(プレストレストコンクリート)桁などがある。

床板(しょうばん)
橋梁を通行する自動車や歩行者など荷重を桁に伝える部分。

橋梁の寸法

  • 橋長:橋梁全体の長さ
  • 径間長:橋台と橋脚間、橋脚中心間の長さ
  • 桁長:桁の全長

2)構造形式

橋の構造別に分けると、桁橋、アーチ橋、トラス橋、ラーメン橋、吊り橋、斜張(しゃちょう)橋となります。図25は橋梁の基本形です。以下、各々の構造について解説します。

図25 橋梁の基本構造
図25 橋梁の基本構造

3)桁橋

プレートガータ橋とも言われます。橋脚に桁をかけ、その上に床板を形成します。特徴は、構造が簡単なため設計や施工が容易です。鉄道の普及時に多く採用されました。桁の強度やたわみを考慮すると橋長を長くすることが難しい構造です。橋長を長くするためには多くの橋脚が必要です。

4)アーチ橋

弧を描くアーチにより荷重を支える構造です。多くの種類があります。図26は代表的なアーチ橋の構造です。ランガ橋のアーチリブは直線部材で構成されています。ローゼ橋のアーチリブは曲線部材で構成されています。トラスドランガ橋やニールセンローゼ橋は複合形式です。

図26 代表的なアーチ橋
図26 代表的なアーチ橋

5)トラス橋

主構造にトラス構造を採用した橋梁です。トラスは三角形を基本の単位とする集合体で構成される構造形式です。トラス橋における上下の部材を上弦材、下弦材と呼称します。三角形になるように接続する部材を斜材および垂直材と言います。図27は代表的なトラス橋の基本構造です。

図27 トラス橋の基本構成
図27 トラス橋の基本構成

トラス橋を単純形として大別すると、ハウトラス、プラットトラス、ワーレントラストなります。ハウトラスは斜材を桁の中心に向かって着けた構造です。プラットトラスはハウトラスと反対側に斜材を接続する構造です。ワーレントラスは斜材をW形に配置した構造です。この基本形をもとに垂直部材を配置した構成やアーチリブとの組み合わせなど多くの構造が方案されています。近年の橋で主に採用されている形式はワーレン構造となっているようです。

図28 トラス橋の基本構造
図28 トラス橋の基本構造

トラス橋の規模を示す径間長による日本最長のトラス橋は大阪港にかかる「港大橋」です。径間長は510メートル、全長980メートルです。

図29 港大橋
図29 港大橋

6)ラーメン橋

柱と梁や桁が橋脚とを一体化した構造です。

図30 灘浜大橋(神戸市)
図30 灘浜大橋(神戸市)

7)吊り橋

塔の上に張り渡したケーブルから桁を吊っています。ケーブルは、その両端をアンカレイジという大きなコンクリートの土台に固定されます。桁は吊り下げられているだけです。

図31 吊り橋の構造
図31 吊り橋の構造

世界最長の吊り橋はトルコ ダーダネルス海峡にかかる「1915チャナッカレ橋」です。吊り橋の規模を示す主塔間の距離は2,023メートルです。2022年に完成。明石海峡大橋は二番目です。

図32 1915チャナッカレ橋
図32 1915チャナッカレ橋

8)斜張橋

斜張橋は、吊り橋とちがって塔から直接張り渡したケーブルで桁を支えます。このため、アンカレイジのような大きな土台がいらないのが特徴です。そのかわり、桁にはケーブルから圧縮する力が入ります。つまり、ケーブル・桁・塔の三角形が橋を支えていることになります。

図33 斜張橋の構造
図33 斜張橋の構造

西瀬戸自動車道(しまなみ海道)にかかる「多々羅大橋」は世界有数の長さを誇っています。

図34 多々羅大橋
図34 多々羅大橋

9)可動橋

橋梁の構造とは異なる観点です。文字通り、動く橋梁です。橋梁の桁下から水面までの距離を確保するため、橋梁の一部もしくは全体を一時的に動かす構造です。跳ね橋、旋回橋、昇開橋などがあります。跳ね橋は桁の端部を回転中心として跳ね上げる構造です、一例として、愛媛県 肱川(ひじかわ)河口にかかる長浜大橋があります。現役で動く日本最古の橋です。東京 隅田川にかかる勝鬨橋も跳ね橋ですが、現在は通行車両や船舶の増加により稼働を停止しています。

図35 長浜大橋(愛媛 肱川河口)
図35 長浜大橋(愛媛 肱川河口)
図36 勝鬨橋(東京 隅田川)
図36 勝鬨橋(東京 隅田川)

旋回橋は橋桁を回転させる構造です。日本三大風景で知られている天橋立に旋回橋(小天橋とも呼称)があります。

図37 廻旋橋(京都 天橋立)
図37 廻旋橋(京都 天橋立)

昇開橋は桁全体を上下に移動させる構造です。図38は筑後川昇開橋です。福岡県 筑後川にかかっており、旧国鉄 佐賀線の鉄橋として建設されました。現在は歩道橋として運用されています。

図38 筑後川昇開橋
図38 筑後川昇開橋

変わり種の可動橋として、スペインのネルビオン川にかかる「ビスカヤ橋」があります。トラス桁から吊り下げられたゴンドラを行き来させることで、人や車両を運びます。この種の橋梁は世界で10橋程度しか残っていません。

図39 ビスカヤ橋
図39 ビスカヤ橋

10)橋梁の型式別設置数

日本の型式別設置数は2022年 道路統計年報によると、図40となっています。構造がシンプルな桁橋と床板橋が多くを占めています。

図40 構造別の橋梁設置数
図40 構造別の橋梁設置数

出典:国土交通省 道路統計年報2022年をもとに作成

  • 床板橋:床板を渡した構造。強度の制約から長い距離の橋は難しい。
  • 溝(カルバート):道路の下部に形成した溝部に床板をかけた構造。ボックスカルバートとも呼称されます。
図41 ボックスカルバート
図41 ボックスカルバート
図42 床板橋
図42 床板橋

4 橋梁の検査

橋梁の利用者および第三者の安全を維持管理するためには点検が必要です。検査方法等は道路法施行規則に定められています。点検の基本は、近接目視により5年に一回の頻度となっています。必要に応じて触診や打音等の非破壊検査を併用して行うこととなっています。コンクリート構造物検査の主な手法を紹介します。

  • 可視光カメラ
    コンクリート表面のひび割れを観測する。
  • 赤外線カメラ
    コンクリート内にひび割れや剥離、空洞があると、該当部分の表面温度が均一にならないため、赤外線カメラで撮影すると温度分布の違いが判り、コンクリート内部の浮きなどを観測できる。
  • ファイバースコープ
    肉眼では見えない内部を観測できる。
  • 衝撃弾性波法
    コンクリート表面に加速度センサを設置し、別の場所をハンマや鉄球で打撃を与え、加速度センサで受信した信号を解析することで、コンクリート内部の欠陥やコンクリート層の厚みを検出する。
  • 超音波法
    コンクリート層を挟むように超音波発振器と受信センサを設置し、超音波を通過させて信号を解析することで内部欠陥を検出する。
  • 電磁波レーダ法
    コンクリート内へパルス状の電磁波(2.6GHzなど)を放射すると、電気的特性(比誘電率)が異なる物質(例えば、鉄筋、内部空洞等)に当たると反射する。それを受信アンテナで受信し信号処理することで鉄筋や空洞などの位置を検出する。
  • 電気抵抗法
    乾燥したコンクリートは電気を流しにくいが、ひび割れ部で漏水すると電気回路として検出できます。また、漏水によりコンクリートの可溶成分から「エフロレッセンス(白華)」が生成されていると、乾燥状態でも電気を流しやすくなるのでひび割れの検出が可能。

関連計測器の紹介

橋梁に関連した計測器の一例を紹介します。

図43 橋梁に関連した計測器の例
図43 橋梁に関連した計測器の例

その他の製品や仕様については 計測器情報ページ から検索してください。

おわりに

「橋」は自然環境を克服する手段として設置されてきました。本稿で紹介した道路としての橋に限らず、モビリティ社会※5においては移動手段である自動車に注目されがちですが、「橋」は移動手段を支える重要なインフラです。また、「橋」の機能として、景観や歴史的・文化的な視点の評価も求め続けられるでしょう。

※5

人や物の移動、交通手段が容易に選択でき、暮らしを豊かにする社会。


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