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初めて使うデジタルマルチメータ・・・第6回 「直流/交流の電流測定と仕様の見方」

連載記事一覧
第1回:デジタルマルチメータが届いたら最初にすること
「はじめに」「6.5桁ベンチトップ型のデジタルマルチメータのパネル」「パネルに書かれた警告表示」「テストリード」「電源の投入と日付時刻の設定」
第2回:デジタルマルチメータの基礎知識
「直流電圧を正確に測る歴史」「現在のデジタルマルチメータの構造と機能」「デジタルマルチメータの選定」「【ミニ解説】測定カテゴリーとは」
第3回:直流電圧の測定と仕様の見方
「直流電圧を測定するための結線」「デジタルマルチメータの直流電圧測定の仕様表現」「直流電圧を測定するためのデジタルマルチメータの操作」「直流測定で発生する誤差要因」「1000Vを越える直流高電圧の測定」「微小な直流電圧の測定」「【ミニ解説】デジタルマルチメータで採用されている安全端子」
第4回:交流電圧の測定と仕様の見方
「交流電圧を測定するための結線」「平均値検波と実効値検波の違い」「交流電圧測定での周波数帯域」「デジタルマルチメータの交流電圧測定の仕様表現」「交流電圧を測定するためのデジタルマルチメータの操作」「歪んだ波形を測る際の注意点」「750Vrmsを越える交流高電圧の測定」
第5回:抵抗の測定と仕様の見方
「抵抗を測定するための結線」「デジタルマルチメータの抵抗測定の仕様表現」「抵抗を測定するためのデジタルマルチメータの操作」「34461Aでの2端子測定での抵抗測定の操作手順」「4端子式測定を行う場合の注意事項」「高抵抗を測定する際の注意事項」「【ミニ解説】直流による抵抗測定と交流による抵抗測定」
第6回:直流/交流の電流測定と仕様の見方
「直流電流を測定するための結線」「デジタルマルチメータの直流電流測定の仕様表現」「直流電流を測定するためのデジタルマルチメータの操作」「34461Aでの3Aレンジ以下の直流電流測定の操作手順」「電流入力端子に実装されている保護用ヒューズの断線を防ぐ」「直流電流測定時の注意事項」「10Aを越える直流電流の測定」「交流電流を測定するための結線」「デジタルマルチメータの交流電流測定の仕様表現」「交流電流を測定するためのデジタルマルチメータの操作」「34461Aでの3Aレンジ以下の交流電流測定の操作手順」「10Aを越える交流電流の測定」
第7回:周波数測定と仕様の見方
「周波数を測定するための結線」「34461Aで採用されているレシプロカル・カウント方式」「34461Aで設定可能なゲート時間」「34461Aの周波数測定の仕様表現」「周波数/周期を測定するためのデジタルマルチメータの操作」「34461Aでの周波数/周期測定の操作手順」「【ミニ解説】ユニバーサル・カウンタとの違い」
第8回:温度測定と仕様の見方
「温度を測定するための結線」「【ミニ解説】さまざまな温度センサ」「34461Aの温度測定の仕様表現」「温度を測定するためのデジタルマルチメータの操作」「34461Aでの温度測定の操作手順」「【ミニ解説】温度測定で使われる多点温度計」
第9回:導通/ダイオード試験、容量測定
「導通/ダイオード試験をするための結線」「34461Aでの導通試験の操作手順」「34461Aでのダイオード試験の操作手順」「コンデンサの容量を測定するための結線」「34461Aの容量測定の仕様表現」「容量を測定するためのデジタルマルチメータの操作」「34461Aでの容量測定での操作手順」「【ミニ解説】正確にコンデンサの容量を測定するときはLCRメータを使う」
第10回:デジタルマルチメータをシステムで使う
「デジタルマルチメータをシステムで使う」「外部トリガ入力と測定完了出力端子」「外部トリガ機能の設定」「34461Aに搭載されている通信インタフェース」「ラックを選定する際の注意点」「測定システムのノイズ対策」
第11回:デジタルマルチメータの周辺アクセサリ
「測定器メーカが用意しているアクセサリ」「DC結合電流プローブ」「30A電流シャント抵抗」「ターミナル・コネクタ」「34401Aから34461Aへの置き換え」
第12回:キーサイトの新しい教育向け汎用測定器
「【インタビュー】キーサイト・テクノロジーが考える教育向け汎用測定器」

直流電流を測定するための結線

デジタルマルチメータの内部にはシャント抵抗が組み込まれており、測定電流をシャント抵抗に流すことによって発生する電圧を高分解能A/D変換器によって数値化する仕組みとなっている。

今回の解説記事でつかう34461Aでは3Aレンジまでを測定する入力端子と10Aレンジで測定する端子は別々にある。

3Aレンジまでの測定をする場合の測定対象との結線は下記に示すようになる。

図47. 34461Aの3Aレンジまでの直流電流を測定する場合の結線

図47. 34461Aの3Aレンジまでの直流電流を測定する場合の結線

10Aレンジの測定をする場合の測定対象との結線は下図のようになる。電流値が大きくなるのでクリップやグラバー使う場合は接触抵抗を考慮する必要がある。可能であればネジ端子などを使うことを勧める。

図48. 34461Aの10Aレンジでの直流電流を測定する場合の結線

図48. 34461Aの10Aレンジでの直流電流を測定する場合の結線

デジタルマルチメータの直流電流測定の仕様表現

直流電流測定の仕様には負荷電圧という項目がある。電流測定回路にはシャント抵抗やヒューズなど抵抗値を持つ部品がデジタルマルチメータの内部にあるため、これらによって発生する電圧を負荷電圧と呼んでいる。電流値が大きくなるほど負荷電圧値は大きくなる。3A以下のレンジと10Aレンジでは入力回路が異なるため10Aレンジの負荷電圧は小さくなっている。

レンジ 負荷電圧 24時間
TCAL±1℃
90日間
TCAL ± 5℃
1年間
TCAL±5℃
2年間
TCAL±5℃
温度係数/℃
100μA <0.011V 0.010+0.020 0.040+0.025 0.050+0.025 0.060+0.025 0.0020+0.0030
1mA <0.11V 0.007+0.006 0.030+0.006 0.050+0.006 0.060+0.006 0.0020+0.0005
10mA <0.05V 0.007+0.020 0.030+0.020 0.050+0.020 0.060+0.020 0.0020+0.0020
100mA <0.5V 0.010+0.004 0.030+0.005 0.050+0.005 0.060+0.005 0.0020+0.0005
1A <0.7V 0.050+0.006 0.080+0.010 0.100+0.010 0.120+0.010 0.0050+0.0010
3A <2.0V 0.180+0.020 0.200+0.020 0.200+0.020 0.230+0.020 0.0050+0.0020
10A <0.5V 0.050+0.010 0.120+0.010 0.120+0.010 0.150+0.010 0.0050+0.0010
注1)確度仕様の表現は±(読み値の%+レンジの%)となっている。
注2)仕様は、K=2のISO/IEC 17025(JIS Q17025)に準拠している。
注3)温度係数はTCAL±5℃から外れる場合、1℃外れるごとにこの値が追加される。
注4)負荷電圧は入力のシャント抵抗の値がレンジによって異なるために生じる。

表9. 34461Aでの直流電流測定の仕様表現

直流電圧測定と同じように誤差表現はレンジによる誤差と読み値による誤差および温度係数に別れる。

直流電流を測定するためのデジタルマルチメータの操作

34461Aにおいて直流電流を測定するための設定項目は下記のように構成されている。

図49. 34461Aでの直流電流測定設定項目の構成

図49. 34461Aでの直流電流測定設定項目の構成

今回の記事ではよく使われる3Aレンジ以下の直流電流測定での34461Aの操作手順を説明する。

34461Aでの3Aレンジ以下の直流電流測定の操作手順

34461Aのパネルにある「SHIFT」キーを押してから青字で書かれた「DCI」キー(「DCV」キーと同じ)を押して直流電流測定の設定画面を表示させる。

図50. 34461Aでの直流電流を測定するための初期画面

図50. 34461Aでの直流電流を測定するための初期画面

電流入力端子を選択する「Terminals」キーから「3A」端子を選ぶ。3A入力端子を選択した場合の「Range」設定は「Auto」であれば測定レンジを気にすることなく測定できる。測定スピードを速くしたい場合やレンジ間誤差を無くしたいときは固定レンジを選択する。その他の設定の考え方は直流電圧測定と同じである。

10A入力端子を選択した場合には直流電流レンジは10Aレンジのみとなる。

図51. 34461Aでの3A入力端子設定時の直流電流レンジを設定する画面

図51. 34461Aでの3A入力端子設定時の直流電流レンジを設定する画面

電流入力端子に実装されている保護用ヒューズの断線を防ぐ

直流および交流の電流測定で最も注意しなければならないのは電流測定端子にテストリードを接続した状態で誤って出力抵抗が低い電圧源を測定することである。電流入力端子は入力抵抗が低いため電圧源から大電流が流れてデジタルマルチメータを破損させる危険がある。本体の破損を防ぐためにデジタルマルチメータには保護用ヒューズが内蔵されている。34461Aの3A入力端子には2種類のヒューズが実装され、10Aには1種類のヒューズが実装されている。

誤操作によってヒューズが断線したときは取扱説明書に記載されているヒューズに取り換える。

外部から交換可能な電流保護ヒューズ 本体内部にある電流保護ヒューズ
保護対象端子 3Aの電流入力端子 10Aと3Aの電流入力端子
交換作業 ユーザが可能 有資格のサービスマン
キーサイトの部品番号 2110-1547 2110-1402
ヒューズの仕様 3.15A、500VAC / 400VDC、時間遅延 11A、1,000V、高速作動

表10. 34461Aの電流測定入力端子に組み込まれている保護用ヒューズ

直流電流測定時の注意事項

低い電圧の直流電圧源から流れる電流をデジタルマルチメータによって正確に測定する場合は負荷電圧Vbによる誤差が生じていることを理解する必要がある。

図52. 直流電流測定時の負荷電圧による誤差発生

図52. 直流電流測定時の負荷電圧による誤差発生

10Aを越える直流電流の測定

10Aを超える大電流をデジタルマルチメータで測定する場合は外部にシャント抵抗器を下図に示すように接続してシャント抵抗器の両端に発生する電圧を測定し、演算によって電流値に換算する。シャント抵抗器の仕様によって測定誤差が決まるので仕様の確認が必要である。

図53. シャント抵抗器を使って10A以上の直流電流を測定する場合の接続

図53. シャント抵抗器を使って10A以上の直流電流を測定する場合の接続

交流電流を測定するための結線

交流電流を測定する仕組みはシャント抵抗器に交流電流を流して発生する交流電圧をAC-DC変換器によって直流電圧に変換してから高分解能A/D変換器よって数値データとしている。

交流電流を測定する場合の結線は直流電流を測定する場合と同じであり、3Aレンジまでと10Aレンジは電流入力端子が異なる。

図54. 3Aレンジまでの交流電流を測定する場合の結線

図54. 3Aレンジまでの交流電流を測定する場合の結線

図55. 10Aレンジでの交流電流を測定する場合の結線

図55. 10Aレンジでの交流電流を測定する場合の結線

デジタルマルチメータの交流電流測定の仕様表現

交流電流の仕様は電流レンジと電流周波数によって規定されている。複数の周波数成分を持つ歪んだ波形を測定した場合の測定確度を規定するには波形の周波数分析が必要となる。

レンジ 負荷電圧 周波数 24時間
TCAL±1℃
90日間
TCAL ± 5℃
1年間
TCAL±5℃
2年間
TCAL±5℃
温度係数/℃
100μA <0.011V 3Hz ~ 5kHz 0.10+0.04 0.10+0.04 0.10+0.04 0.10+0.04 0.015+0.006
5kHz ~ 10kHz (代表値) 0.10+0.04 0.10+0.04 0.10+0.04 0.10+0.04 0.030+0.006
1mA <0.11V 3Hz ~ 5kHz 0.10+0.04 0.10+0.04 0.10+0.04 0.10+0.04 0.015+0.006
5kHz ~ 10kHz (代表値) 0.10+0.04 0.10+0.04 0.10+0.04 0.10+0.04 0.030+0.006
10mA <0.05V 3Hz ~ 5kHz 0.10+0.04 0.10+0.04 0.10+0.04 0.10+0.04 0.015+0.006
5kHz ~ 10kHz (代表値) 0.10+0.04 0.10+0.04 0.10+0.04 0.10+0.04 0.030+0.006
100mA <0.5V 3Hz ~ 5kHz 0.10+0.04 0.10+0.04 0.10+0.04 0.10+0.04 0.015+0.006
5kHz ~ 10kHz (代表値) 0.10+0.04 0.10+0.04 0.10+0.04 0.10+0.04 0.030+0.006
1A <0.7V 3Hz ~ 5kHz 0.10+0.04 0.10+0.04 0.10+0.04 0.10+0.04 0.015+0.006
5kHz ~ 10kHz (代表値) 0.10+0.04 0.10+0.04 0.10+0.04 0.10+0.04 0.030+0.006
3A <2.0V 3Hz ~ 5kHz 0.23+0.04 0.23+0.04 0.23+0.04 0.23+0.04 0.015+0.006
5kHz ~ 10kHz (代表値) 0.23+0.04 0.23+0.04 0.23+0.04 0.23+0.04 0.030+0.006
10A <0.5V 3Hz ~ 5kHz 0.15+0.04 0.15+0.04 0.15+0.04 0.15+0.04 0.015+0.006
5kHz ~ 10kHz (代表値) 0.15+0.04 0.15+0.04 0.15+0.04 0.15+0.04 0.030+0.006
注1)確度仕様の表現は±(読み値の%+レンジの%)となっている。
注2)仕様は、K=2のISO/IEC 17025(JIS Q17025)に準拠している。
注3)温度係数はTCAL±5℃から外れる場合、1℃外れるごとにこの値が追加される。
注4)負荷電圧は入力のシャント抵抗の値がレンジによって異なるために生じる。

表11. 34461Aでの交流電流測定の仕様表現

交流電流を測定するためのデジタルマルチメータの操作

34461Aにおいて交流電流を測定するための設定項目は下記のように構成されている。

図56. 34461Aでの交流電流測定設定項目の構成

図56. 34461Aでの交流電流測定設定項目の構成

直流電流の測定であった積分時間の設定はないが、ACフィルタの設定がある。

今回の記事ではよく使われる3Aレンジ以下の交流電流測定での34461Aの操作手順を説明する。

34461Aでの3Aレンジ以下の交流電流測定の操作手順

34461Aのパネルにある「SHIFT」キーを押してから青字で書かれた「ACI」キー(「ACV」キーと同じ)を押して直流電流測定の設定画面を表示させる。

図57. 34461Aでの交流電流を測定するための初期画面

図57. 34461Aでの交流電流を測定するための初期画面

電流入力端子を選択する「Terminals」キーによって「3A」端子を選ぶ。3A入力端子を選択した場合の「Range」設定は「Auto」であれば測定レンジを気にすることなく測定できる。測定スピードを速くしたい場合やレンジ間誤差を無くしたいときは固定レンジを選択する。その他の設定の考え方は直流電圧測定と同じである。10A入力端子を選択した場合には交流電流レンジは10Aレンジのみとなる。

図58. 34461Aでの3A入力端子設定時の交流電流レンジを設定する画面

図58. 34461Aでの3A入力端子設定時の交流電流レンジを設定する画面

交流電流を測定する場合は交流電圧測定と同じようにACフィルタの設定をすることができる。よく使われる50Hzや60Hzの商用電源の電流を測定する場合は「>20Hz」の初期設定でよい。

図59. 34461AでのACフィルタを設定する画面

図59. 34461AでのACフィルタを設定する画面

10Aを越える交流電流の測定

10Aを超える交流電流を測定する場合は計測用変流器(CT:Current Transformer)を使って測定可能な電流値に変換してから交流電流測定を行い、演算によって実際の交流電流を求める。計測用変流器の仕様によって測定できる電流範囲、周波数範囲、確度が決まるので予め確認する必要がある。

図60. 計測用変流器を使って10A以上の交流電流を測定する場合の接続

図60. 計測用変流器を使って10A以上の交流電流を測定する場合の接続

計測用変流器と原理は同じで同じである交流クランプ電流センサは配線を測定のために切断しないで使えるので便利である。

図61. 交流クランプ電流センサ(キーサイト・テクノロジー U1583B)

図61. 交流クランプ電流センサ(キーサイト・テクノロジー U1583B)


執筆:横河レンタ・リース株式会社 事業統括本部 魚住 智彦

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