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FFTアナライザの基礎と概要 (第1回)

はじめに

信号の波形観測ではオシロスコープ、メモリレコーダ、記録計といった時間の経過に伴って信号強度の変化を観測する時間領域の測定器が多く使われる。しかし信号に含まれる周波数成分を観測したいときは周波数分析器が必要になる。周波数成分を観測する代表的な測定器としてはスペクトラムアナライザとFFTアナライザがある。今回は低周波信号の周波数成分を観測するFFTアナライザについて解説を行う。

図1. 時間領域と周波数領域

図1. 時間領域と周波数領域

1965年にJ. W. CooleyとJ. W. Tukeyによって考案されたFFTは高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform)の略称である。その後、デジタル電子回路の進化によってFFTアナライザは進化していき、振動や音響の分野では広く使われるようになっている。そのほかにも電力信号や生体信号の分析にも使われるようになってきたが、現在ではオシロスコープ、メモリレコーダ、電力計、心電計、筋電計にFFT解析機能が組み込まれるようになったため、FFTアナライザは振動や音響の分野に特化した測定器となっている。

フーリエ変換についての数学的な解説書は多く存在するので、今回は数学的な解説を割愛して実用的な使い方について紹介を行うことにした。そのため本体だけでなく主なセンサについても多少解説に加えた。今回の執筆には長年に渡ってさまざまなFFTアナライザを開発して、多くの応用分野で実績を持つ小野測器の協力を得た。

FFTアナライザが登場する前にあった周波数分析器

低周波信号の周波数分析をしたい要求は古くからあったため、さまざまな測定器が開発された。ここでは3つの測定器を紹介する。

マルチフィルタ型周波数分析器

特定の周波数範囲だけの信号を通過させることができるバンドパスフィルタと検波器を用いれば信号の周波数分析を行うことができる。安定した信号であればバンドパスフィルタの中心周波数を切り替えて信号強度を記録していけば周波数分析を行うことができる。

時間とともに変化する信号の場合は複数のバントパスフィルタと検波器を用意すればリアルタイムに周波数分析を行うことができる。ただし広い周波数帯域に渡って、細かく周波数分析したい場合は多くのバンドパスフィルタと検波器が必要となるため規模が大きくなる。

オクターブ分析ではLOGスケールで等間隔に区切られた周波数範囲の信号の強度を観測すればよいため、音響分析では現在でもFFTアナライザと併用して使われている。

図2. マルチフィルタ型周波数分析器

図2. マルチフィルタ型周波数分析器

オクターブ分析とは

周波数分析する方法にはFFT分析とオクターブ分析がある。人が感じる周波数特性はピアノの鍵盤と同じように等比的であるため、騒音の分析などではオクターブ分析が用いられる。オクターブ分析で使われるフィルタ特性はJIS C 1514(IEC 61260)で規定されている。
FFT分析は周波数バンド幅がリニアに等間隔(定幅分析)であるのに対して、オクターブ分析では周波数バンド幅がLOG的に等間隔(定比幅分析)となっている。

図3. FFT分析とオクターブ分析の違い

図3. FFT分析とオクターブ分析の違い

サウンドスペクトログラム

サウンドスペクトログラムは人の声の特長(声紋)を分析するために開発された装置である。この装置の原理はヘテロダイン方式のスペクトラムアナライザと同じであるが、記録はペンで紙に書く仕組みとなっている。人の声紋によって個人を特定することができるため、犯罪捜査に使われることもあった。日本では1963年にあった誘拐事件で初めてサウンドスペクトログラムが捜査に使われた。

図4. サウンドスペクトログラムの構造

図4. サウンドスペクトログラムの構造

出典:サウンドスペクトログラフ(荒井隆行、日本音響学会誌 72巻9号(2016))

時間圧縮型周波数分析器

FFTアナライザに使える高分解能A/D変換器が登場する以前にあった製品である。周波数分析はヘテロダイン方式の回路によって行う。ヘテロダイン方式の周波数分析器は低周波の分析が得意でないため、周波数変換を行う仕組みが必要となる。

A/D変換器で信号を取り込んで記憶装置(シフトレジスタ)にいったん波形データを取り込む。取り込んだ波形データを高いサンプル周波数でD/A変換して周波数を上げたアナログ波形をテロダイン方式の周波数分析器に信号を入力する。

FFTアナライザが登場する以前に使われていた周波数分析器であるが、1980年代にはコンパクトなFFTアナライザが登場して時間圧縮型周波数分析器は使われなくなった。

図5. 時間圧縮型周波数分析器の構造

図5. 時間圧縮型周波数分析器の構造

出典:音響スぺクトログラムカラー表示装置(日立評論-万国博特集号-、1970年)

FFTアナライザ

現在のような高集積で高性能なデジタルICがない時代はディジタル・イクイップメント社 (DEC) のミニコンピュータPDP-8などを使ったラックシステムとしてFFTアナライザが登場した。日本では小野測器が1973年に振動解析を行うための装置として、ミニコンピュータを使ったFFTアナライザを始めて製品化した。

図6. ミニコンピュータ使った初期のFFTアナライザ(CF-700)

図6. ミニコンピュータ使った初期のFFTアナライザ(CF-700)

提供:小野測器

図7. ミニコンピュータを使ったFFTアナライザのブロック図(小野測器、CF-700)

図7. ミニコンピュータを使ったFFTアナライザのブロック図(小野測器、CF-700)

出典:統計解析装置(CF-700型)(小野測器 計測と制御 1973年9月号)

1970年代中ごろに登場した8ビットのマイクロプロセッサの登場によってFFT演算はミニコンピュータを利用しなくてよくなり、製品の小型化が急速に進んだ。1975年にIEEEによってGPIB規格が定められ、1980年代になると3.5インチのフロッピーディスクが登場したことによってコンパクトなFFTアナライザが登場する環境が整った。当時の代表的なFFTアナライザとして小野測器のCF-350があげられる。

図8. 1980年代に使われていたポータブルFFTアナライザ(CF-350) 図8. 1980年代に使われていたポータブルFFTアナライザ(CF-350)

提供:小野測器

FFTアナライザの普及に貢献した解説書

1980年代になると多くの技術者がFFTアナライザを使うようになったため、FFTアナライザの解説書が登場した。代表的な書籍としてFFTアナライザ活用マニュアル(城戸健一編著、1984年発行)、2チャンネルFFTアナライザ活用マニュアルⅡ(城戸健一編著、1985年発行)がある。現在FFTアナライザについて解説した書籍は販売されていないが、職業能力開発総合大学校能力開発研究センターがインターネット上に公開している「応用短期課程モデル教材 - 振動実験及び振動解析を活用した機械設計技術 -」の第2章 振動測定技術(執筆担当:小野測器 江連勝彦、2005年発行)にFFTアナライザの解説が書かれている。

現在のFFTアナライザ

FFTアナライザを構成するデジタルICやA/D変換器が高性能になったこと、パソコンによって高度な信号処理ができるようになったため、FFTアナライザは従来からあるポータブル型とパソコンと組み合わせて利用するPCベース型に別れた。ポータブル型は1chから4chの製品となっており小型化が進んだ。PCベース型はさまざまな用途に使えるよう自由度が増す製品となっている。

図9. 新しいポータブル型のFFTアナライザ(CF-9000)

図9. 新しいポータブル型のFFTアナライザ(CF-9000)

提供:小野測器

図10. 最近のPCベース型のFFTアナライザ(DS-3000)

図10. 最近のPCベース型のFFTアナライザ(DS-3000)

提供:小野測器

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