技術情報・レポート

2020/11/18

1/2に小型化、2000kWまでユーザで増設可能~電力回生型 双方向直流電源RZ-X 100kW

70年前に創業し、産業用電源を製造・販売している株式会社高砂製作所(以下、高砂製作所)は、国内初の技術を搭載した電源を次々に開発・提供してきた業界のパイオニアである。1959年の半導体直流安定化電源の開発から始まり、1966年に半導体化周波数交流安定化電源、1991年にワイド入力・ズーム出力直流電源※1、1993年にはアナライジング機能を付けた交流電源と、他社に先駆けた製品を発売してきた。2000年から発売した回生型モデルに続く製品として、2017年に電力回生型 双方向直流電源RZ-X 10kWモデルを発売し、その拡充として2020年10月に大容量100kWモデルを発表した。新製品開発の背景や今後の展望などを、技術本部 商品技術部の大沼 政和氏と営業本部 本社営業部 宮崎 裕久氏に伺った。

※1

出力範囲が従来品より約4倍広いEXシリーズを「ズーム電源」の名称で発売。その後、電源メーカ各社が「ワイドレンジ」などの名称で同等品を発売。

バナー

大型直流電源の市場動向と製品開発の経緯

高砂製作所が2000年以前に手掛けてきた充放電試験装置は非回生型直流電源による製品であった。時を同じくして自動車業界では排ガス規制と低燃費競争によるHEV・EV・FCV※2の開発が活発になり、二次電池(バッテリー)の大容量化が進んだ。大容量二次電池の試験には放熱が小さい回生型電源が消費電力削減や空調の小型化に寄与するため、2000年に二次電池向け電力回生型充放電試験装置を発売した。電気自動車開発の進展に合わせ、電力回生型双方向電源※3を内蔵した装置は充放電装置から回生型直流電源、回生電子負荷、モーターエミュレータとラインアップを増やし、国内外の電池・自動車関連メーカに数多く採用された。国内ほとんどの乗用車・軽自動車メーカとTier1※4のインバータ/モータメーカ、大手電池メーカに納入されている※5

※2

HEV:Hybrid Electric Vehicle、ハイブリッド電気自動車。EV:electric vehicle、電気自動車。FCV:Fuel Cell Vehicle、燃料電池自動車。

※3

双方向電源に電力回生機能を備えた製品。双方向とは接続を変えずに出力電流をプラス(力行・充電)からマイナス(回生・放電)にシームレスに変えること。電力回生とは供試体から回生・放電した電力を抵抗で熱にして消費せず、装置の1次側(電力系統側)に返すこと。省エネ型として近年の計測用電源、電子負荷に導入された。

※4

メーカに直接納入する1次サプライヤ。多くの部品を使う業界のサプライチェーンを示す用語だが、自動車産業で特に良く使われる。

※5

高砂製作所の電源機器の販売額は、約40%が「自動車・電装」向け(HPの会社概要・取引実績グラフより)

近年は欧州・米国・中国などのZEV規制※6への対応やCASE※7の進展で、さらに電池の大容量化(大電流・高圧化)が進み、電池やインバータを評価する電源装置も大容量化した。これは電源装置の大型化を意味する。また評価数量の増加も重なり電源装置の数も増えたため、お客さまの装置設置スペースが逼迫し、小型化が強く要望された。これに応えて高砂製作所は2016年に従来機との体積比で約半分の小型化を行ったRPSシリーズを発売した。今回は更なる市場の要求に合わせRPSシリーズから更に1/2ダウンサイジングを実現した100kWモデルRZ-X-100K-Hを発売することとなった。

※6

米国カリフォルニア州は州内の自動車販売メーカにZEVを一定比率以上販売することを義務付けている。ZEVはzero emission vehicleの略。日本語訳:ゼロエミッション車。有害な排気ガスをまったく出さない電気自動車や燃料電池車などのこと。

※7

Connected(つながる)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(シェアリングとサービス)、Electric(電動化)の頭文字をつなげた造語。読み方:ケース。2016年にダイムラーのCEOが提唱して以来、近未来の自動車の方向を示すキーワード。

設計ポリシーとRZ-X-100K-Hの特長

高砂製作所の電源は、電流の負荷変動に対する電圧安定度や低ノイズ・低リップル※8などの出力特性と堅牢性を売りにしている。2000年以降、スイッチング電源の大容量化が進む中でも、高電圧・大電流においてアンダー・オーバーシュート※9を出さない高速制御に磨きをかけ、400kWクラス以上の回生型双方向電源装置(カスタム製品)も多く納入してきた。電力回生・双方向電力制御技術により、実環境に近いテスト環境(エミュレーション)を提供し顧客の評価を得ている。

※8

ripple 日本語訳:脈流。交流を直流に整流した際に残る交流成分による、電圧や電流の変動。電気工学の用語。

※9

波形の立ち上がり部分で、定常値となる基線を波形が超過する現象をオーバーシュート。立ち下りで起こる同じ現象をアンダーシュート。

1. 増設の容易さ

電動化製品の普及には電池の充電時間短縮や電力密度向上などの課題があり、その解決策の1つは電池の大容量化である。4輪車の電動化でも様々な方向性が検討され、どう大容量化するかを模索している。将来的にさらに高電圧化するのか大電流化に進むのか、まだはっきりしない情勢の中で評価設備の容量を増やすには、新規の大容量電源を購入するよりも増設した方が投資額を抑えることができる。RZ-X-100K-Hはお客さま自身で直列・並列を自由に組み換えることができるため、高電圧・大電流のどちらにも対応でき、設備の有用性が高い。

最大20台まで増設すると2000kWになるが、接続方法により定格出力電圧は750~1500V、定格出力電流は4000~8000Aの範囲で設定できる。現在の電気自動車の電池パックは350~750V/200~500Aだが、電圧を1200V以上に高くする方向と電流を2000A以上に大きくする方向の2つが研究開発で検討されている。本製品はこれに対応できる仕様である。お客さまは様々な容量のインバータ/モータを開発/生産していて、低容量時には電源を並行※10で、高容量時には直並列して、導入設備を最大限有効活用できる。電源がカスタム製品だと増設に納期・費用がかかるが、RZ-X-100K-Hは100kW単位の標準品である。

※10

電源を複数台保有しているユーザは、定格が100kW以下の供試体の試験では、複数台を多チャンネルとして使用し、同時に多くの試験を行うことができる。

100kWを単位として電圧・電流を自由に組み合わせて2000kWにできる

100kWを単位として電圧・電流を自由に組み合わせて2000kWにできる

2. 省スペース化

開発スピード短縮のためにはより多くの試験設備の導入が望まれるが、電池を模擬する大容量電源のサイズは大型で、お客さまは設置スペースを確保できないという悩みがある。これに応えて同社従来機の1/2サイズ(容積比)に小型化し「100kWを1架※11に収める」ことにこだわってRZ-X-100K-Hは開発された。従来機と比べて幅を半分、高さを約200mm低くして、設置場所への搬入もし易くなった。

※11

高砂製作所では一般的な19インチラックによる横幅550mmとワイドラックによる横幅750mmの2種類を規定している。ほとんどの充放電装置、回生型直流電源はワイドラックで設計され、RZ-X-100K-Hもワイドラック1架で開発された。

従来機RPSシリーズ100kW(左)とRZ-X-100K-H(右)

従来機RPSシリーズ100kW(左)とRZ-X-100K-H(右)

3. 実態に近い電池挙動の再現

2017年のRZ-X-10000-L/H(10kW)販売時に電池模擬アプリケーションソフトLinkAnyArts-BTを発売した。RZ-X-100K-Hでもこの製品を使い充電率や温度パラメータごとの電池挙動を再現する。I-V特性を予め入力することで、供試体※12が要求する電流の力行・回生※13に合わせてRZ-X-100K-Hが自動的に電圧を昇降圧し、電池と同じ電圧挙動を再現する。実電池では難しい再現性のある試験を繰り返すことができる。

※12

性能を調べるために実験や試験などに提供する物。ここでは自動車のバッテリーとつながるモータ、インバータ、減速機などを指している。

※13

力行(りきこう)とは、商用電源からモータや電池へ電力を供給(または充電)している状態。反対にモータの回転エネルギーが電力供給側である商用電源に流れ込み、モータが発電機になっている状態や、電池から商用電源へ電力を放電している状態を回生。インバータ制御で使われる用語。

高砂製作所は前述のように、電圧の安定度を重要視している。そのため本製品は電池摸擬時の基本モードを電圧源として制御を行っている。電池の電圧は電流の充放電で増減するが高速に変動はしない(ただし電源には電池を模擬する上で十分な速さのCV※14応答性能は必要)。電流を充放電する特性(スピード)は、電池が決めるのではなく供試体の特性による。他社には定電流動作を基本とした電池摸擬の製品があり、実挙動に近い電池模擬として「電流の高速応答性」を特長にしているが、RZ-X-100K-Hのコンセプトは「電圧源としての電池特性の模擬」である。どちらの方式を選ぶかはお客さまの選択であるが、電流の応答性の速さより電圧安定度を評価ポイントにするお客さまの方が多いと感じている。

※14

入力電圧、負荷電流、温度などの変化に対して、負荷に供給する出力電圧が一定に保たれている状態を定電圧(CV)動作という。

I-V(電流-電圧)特性データ設定画面

I-V(電流-電圧)特性データ設定画面

SoC(電池充電率)と温度設定画面

SoC(電池充電率)と温度設定画面

4. ノイズ対策

供試体はインバータ、DC/DCコンバータなどのスイッチング素子を使用した電源製品がほとんどのため、それらにはノイズ評価が欠かせない。RZ-X-100K-Hはノーマルモードノイズだけでなく、コモンモードノイズも抑える低ノイズ対策を施し、供試体のノイズ測定を極力邪魔しない設計となっている。2017年に発売したRZ-X 10kWモデルで出力・回生効率を落とさずにコモンモードノイズを低減する改善に取り組み、本製品にもその技術を取り入れている。

コモンモードノイズ(電流)を1/7に低減(RZ-X-10000-Lの例)

コモンモードノイズ(電流)を1/7に低減(高砂製作所社内環境でRZ-X-10000-Lの例)

5. CAN FDインタフェースの採用

電池以外は実物の供試体を使用する試験では、模擬電池とのCAN通信を含めた総合試験を行う。従来は電源の情報を外部でCANに変換していた。完成車試験の電池模擬では車両ECU※15との通信で、RZ-X-100K-Hが本物の電池のように振舞うことが求められる。CAN FD※16インタフェースを装備しECUとの通信を遅延なく行えることは時代にマッチした仕様である※17

※15

Electronic Control Unit 自動車の電子制御装置の総称。自動車技術者協会(SAE)や国際標準化機構(ISO)で規定されている。

※16

CAN with Flexible Data Rate 自動車の標準プロトコルであるCAN(Controller Area Network)の拡張仕様。従来よりも通信速度を速くし、送受信データを大容量にできる。CANを開発したボッシュ社(Robert Bosch GmbH)が2012年に発表した。

※17

CAN FDとCANの両方のインタフェースに対応している。オプション対応。

RZ-X-100K-Hの優位点と今後の開発計画

RZ-X-100K-Hの標準価格は15,000,000円、年間販売計画台数は100台以上としている。競合との優位点は前述のようにサイズ、直並列台数、電圧安定度、電池模擬ソフトウェアなどである。高砂製作所は100kWクラス以上の回生直流電源では国内トップベンダーと自負している。他社には15kW~50kWを基本単位として増設可能な回生直流電源があるが、本機のターゲットは100kW以上の大容量ユーザのため、100kW単位で増設できることは設置場所の占有度やコストメリットで有利である。また他社の100kWモデルとの比較でも、設置面積や増設時の最大出力電力、シミュレーションなどの機能面で優れている。

RZ-X-100K-Hの電圧は750Vだが、この製品をベースとしてより高圧(1筐体で1500V)の製品、RZ-X-100K-Uを100kWモデルの次のラインアップに計画している。逆に100kWクラスの低圧大電流(80V/数千A)のモデルや100kW以上の標準品は市場状況を見ながらの対応としている。RZ-Xシリーズは従来のラック型だった製品を小型化したのと同時に、カスタム対応の専用機だった前身モデル(RPSシリーズ)を標準品の汎用機にした。充放電装置RBTシリーズも大幅に小型化したRBT-2シリーズを2020年6月に発表したが、お客さまにはより小型化、標準品化への強いニーズがある。これに応えるべく今回の標準品化の手法を充放電装置にも応用し、ダウンサイジングした新シリーズも検討している。

高砂製作所への期待

計測用電源はすでに成熟した機器となり新しいイノベーションは起こりにくいが、高砂製作所は過去にはズーム電源を開発した実績がある。一般に電源は電圧と電流の最大出力範囲の組み合わせで仕様が決まっている。そのため使いたい電圧と電流の組み合わせで(同じシリーズでも)多くの機種があり、それは現在も変わらない。様々な電圧・電流を使う実験室には何種類もの電源が必要になる。そんな状況下で、一定範囲の中で焦点を合わせられるカメラのズーム機能のように、ある程度の電圧・電流範囲を1台でカバーする広い出力の電源があれば、資産のスリム化、実験環境の効率化、電源の相互融通などで顧客に喜ばれると考えた。従来の100機種(GPシリーズ)から12機種(EXシリーズ)に集約した、電圧・電流の最大値でなく電力(容量)で仕様を規定した、新しいカテゴリーの電源(ズーム電源、ワイド出力電源)が誕生した。

10年後でも魅力的な機能で現役であり続ける新製品を模索する中で、顧客の課題を吸い上げ開発されたズーム電源は、直流安定化電源の最も売れ筋のカテゴリーとして、現在は主要な電源メーカ各社から発売されている。自動車業界に先進の大型電源を供給し、電力回生型 双方向直流電源でもトップを行く業界のフロンティア、高砂製作所に注目していきたい。

大沼 政和氏(左)と宮崎 裕久氏

大沼 政和氏(左)と宮崎 裕久氏

主な仕様

項目 仕様
形名 RZ-X-100K-H
希望小売価格(円・税抜) 15,000,000
出力仕様 定格出力電圧 +750V
定格出力電流 ±400A
定格出力電力 ±100kW
定電圧特性(CV) 設定範囲 High レンジ +0.00V~+787.50V
Low レンジ +0.000V~+78.750V
設定確度 High レンジ 設定値の±(0.1%+0.75V)以内〈※18〉
Low レンジ 設定値の±(0.1%+0.075V)以内〈※18〉
設定分解能 High レンジ 20mV
Low レンジ 2mV
定電流特性(CC) 設定範囲 High レンジ −420.00A~+420.00A
Low レンジ −42.000A~+42.000A
設定確度 High レンジ 設定値の±(0.2%+400mA)以内〈※19〉
Low レンジ 設定値の±(0.2%+40mA)以内〈※19〉
設定分解能 High レンジ 20mA
Low レンジ 2mA
定電力特性(CP) 設定範囲 電圧:H/ 電流:H −105000W~+105000W
電圧:H/ 電流:L −31500W~+31500W
電圧:L/ 電流:H −31500W~+31500W
電圧:L/ 電流:L −3150W~+3150W
動作電源 AC378V~AC462V 3相50Hz/60Hz
外形寸法(突起物含まず) 750mm(W)×1755mm(H)×956mm(D)
マスターブースター直並列運転 最大直列台数 2台
最大並列台数 20台
最大定格出力電圧 +1500V
最大定格出力電流 ±8000A
最大定格出力電力 ±2000kW
各種機能 内部抵抗可変
外部制御(絶縁) 出力ON/OFF、出力制御、非常停止信号、ステータス
計測モニタ オプション
通信機能 LAN(出力電圧・電流・保護レベルの設定と計測)CAN(オプション)
使用温度温度・湿度温度 0~40℃ 湿度20~85% (凍結、結露なきこと)
質量 600kg以下
注1:上記内容につきましては予告なく変更させていただくことがあります。 注2:本装置は、電池の充放電試験には対応しておりません。
※18

出力電圧設定値+20Vから適用(周囲温度23℃±5℃)また、20V以下の力行・回生時の電圧設定確度は保証外

※19

出力電圧+20Vから適用(周囲温度23℃±5℃)また、20V以下の力行・回生時の電流設定確度は保証外

その他の高砂製作所の記事は こちら

RZ-X-100K-Hの製品カタログ(会員限定)は こちら

取材協力:

株式会社高砂製作所のホームページは こちらから