圧力計測で世界に躍進する長野計器〜丸窓電車資料館
圧力計測や制御技術で世界の産業を支える長野計器株式会社(以下長野計器)は、圧力計・圧力センサなどの計測機器のリーディングカンパニーである。長野県上田市にある圧力センサの製造拠点、丸子電子機器工場の入口にはレトロな丸窓電車を展示している。丸窓電車にはブレーキ圧の監視用として長野計器の圧力計が搭載され、かつては工場の前を上田電鉄 西丸子線が走っていた。そんな経緯もあり、当時の長野計器の宮下茂社長(現相談役)のアイデアで、地域の歴史の証として保存すべく、2004年に上田電鉄から丸窓電車1両を譲り受けた。老朽化した車両は社員によって改修され、資料館とて公開されている。
電車は枕木の上に敷かれたレールに設置され、張られた架線にパンタグラフを上げて、今にも動き出しそうである。現在はコロナ禍で休館している資料館を見学させていただき、総務統括部 工場事務部 次長 阿部 博文氏(2020年11月取材時)にお話を伺った。資料館内部の展示品などを撮影写真で紹介する。
長野計器の歴史と圧力センサ
長野計器は1896年創業、今年で125年を迎える歴史ある企業である。創業者の和田嘉衡は日本で初めてブルドン管※1を用いた圧力計を作って事業を起こした明治の企業家である。ブルドン管式圧力計は1849年にフランス人のユージン・ブルドンが発明したもので、構造がシンプルであるため現在まで幅広い分野で使われている。和田の創業した会社は、1902年に合名会社東京計器製作所に改組し、大正から昭和にかけて大きな発展を遂げた。1948年に企業再建整備法に基づき東京計器を2社に分離し、長野計器製作所(現長野計器)を設立した。
断面が楕円形の薄い金属製の弾力のある管を、ほぼ円形に巻いたもの。管の変位によって管内の気体や液体の圧力を知ることができるので圧力計に使われる。
ブルドン管というと、圧力計の代名詞といえる。
創業当時に使われたブルドン管の成形機や分銅式標準圧力計は歴史的な価値があるとして、国立科学博物館の重要科学技術史資料(未来技術遺産)に登録されている(前者は2011年、後者は2016年)。いずれも歴史的な資産として長野計器では大切に保管している。
明治時代に蒸気機関が動力源として使われていた鉄道や船舶などでは、圧力計は重要な役目を果たし産業の発展とともに生産量は大幅に増加していった。現在でも液体や気体の圧力を計る圧力計や圧力センサは幅広い分野で使われ、長野計器は圧力計測の専業メーカとして市場や顧客の要求に応じた製品を全世界に供給している。圧力センサ需要は、新たなビジネスが拡大していく中で今後一段と市場ニーズが高まってくることから、顧客ニーズを的確に捉えながら歩みを着実に進めていく。
長野計器の開発や生産の拠点はすべて長野県上田市にあり、機械式圧力計は上田計測機器工場、圧力センサは丸子電子機器工場が担当している。丸子電子機器工場では自動車や建設機械などに搭載される多品種の圧力センサを大量に生産できる自動化ラインを持っている。2005年には長野計器テクニカル・ソリューションズ・センターが設立され開発拠点となっている。
丸窓電車
電車はモータで走り、空気圧によるブレーキで止まる仕組みで、空気圧によるブレーキは運転台にある圧力弁を操作することによって動作する。ブレーキを駆動するシリンダーに空気圧が加えられていることを運転手が確認するために、前後の運転台に1台ずつ機械式の圧力計が装備されている。
長野計器が保有している丸窓電車は、別所線上田駅から信州の名湯である別所温泉までを結ぶ11.6kmの区間を走っていた。この電車は1928年に製造された木材と金属を使って作られた半鋼製車の電車で、1986年まで長年に渡って地域の交通手段として使われた。現存する3両の車両は、上田電鉄 別所温泉駅、さくら国際高等学校、長野計器 丸子電子機器工場に静態保存されている。
長野計器の丸窓電車(モハ5253)は外観だけでなく内部も綺麗に改装され、当時の運賃表や切符、行先案内板などの関連する資料を展示し、一般公開している。
丸窓電車は戸袋窓が楕円形という特長的なデザインとなっている。このようなデザインは大正期から昭和初期に流行ったもので鉄道ファンにはよく知られている。このため丸窓電車は上田市のシンボル的な存在となっていて、毎年春には上田電鉄の下之郷車庫で「丸窓まつり」が行われ、地域の人々や鉄道ファンが多く集まるイベントとなっている。
長野計器が目指す未来
長野計器の強みは、圧力計測の専業メーカとして市場や客先のさまざまな要求に応じた製品を少量生産から大量生産まで対応できる製造能力を持ち、グローバルに製品を安定供給できる流通体制を確立していることである。これらはいずれも創業から125年の歴史のなかで培ってきた。
長野計器は圧力計測の専業メーカとして順調な成長を続けてきた。創業以来続く機械式の圧力計は安定した需要を維持し、圧力センサは自動車や建設機械などの幅広い事業分野に需要が拡大したことで確固たる地位を確立している。
長野計器では2020年からの新たな中期計画に沿った4つの施策(既存事業の競争力強化、グローバル戦略の強化、経営基盤の強化、新たな事業領域の拡大)により更なる成長を目指している。
長野計器は製品開発や販路拡大など、グローバル戦略を積極的に進めてきた。アメリカ、メキシコ、ブラジル、ドイツなどの新たな販売拠点を確保し、グローバルネットワークを通じて、技術サービスも合わせて展開を図っている。今後はグローバル市場で圧力センサの地産地消を展開していく。また、新型コロナ感染防止に向けた製品の販売では、人工呼吸器の圧力計測をはじめ、ニーズの高い医療関係についてもユーザ各社から高い評価を受けている。脱炭素社会に向けた取り組みでは、今後加速する水素エネルギーの需要増加を見込み、製品のラインアップを図っている。「一芸を極めて世界に挑戦」を企業理念に掲げ、圧力計測の専業メーカとして、米国などに拠点を置きエクセレントカンパニーを目指している。
今後の長野計器の発展を期待していきたい。