メモリレコーダの基礎と概要 (第2回)
メモリレコーダの利用上の留意点
メモリレコーダはさまざまな環境下で、電気信号や物理量の変化を多チャンネルで観測するため、製品を利用する場合にはいくつか留意することがある。ここでは主なものを紹介する。
ノイズ対策
インバータ機器などコモンモードノイズを発生する製品の評価を、メモリレコーダを用いて行う場合はコモンモードノイズの影響を受けないようにする。そのためには下記のことに留意して波形観測環境を構築する。
① コモンモード電流が入力アンプに流れ込まないように絶縁入力モジュールを選択する。
② ノイズを含んだ動力線などの配線と波形観測を行う信号線は分離して、信号線はノイズの影響を受けないように撚り対線(ツイストペアケーブル)を用いる。また必要であればシールドも行う。
③ ノーマルモードノイズはメモリレコーダに内蔵されているフィルタもしくは外付けの周波数可変フィルタなどによってノイズ成分を除去する。
④ メモリレコーダを駆動する商用電源からのコモンモードノイズの影響を受ける場合は、ノイズ除去トランスを用いる。
⑤ 交流磁界を発生するトランスやモータの近くにメモリレコーダ本体や信号線を近づけない。
⑥ 非絶縁入力モジュールを利用する場合はコモンモードノイズを除くために差動プローブや光絶縁プローブを用いる。
安全対策
メモリレコーダを使って波形観測する対象には危険が存在するものがあるため、事故を起こさないよう安全に留意する必要がある。
① 入力モジュールの耐電圧が観測する電圧を超えていないことを確認する。
② 入力モジュールの耐電圧より高い電圧を測定する場合は、高電圧差動プローブや光絶縁プローブを利用する。
③ 電池など発生電圧を遮断できない測定対象物は事故を防ぐためヒューズを挿入する。
④ 高温を発生する装置に測定器や信号線を近づけない。
⑤ 波形観測のため回転機などの近くに配線をする場合は配線の巻き込みを防ぐため、配線の固定など対策を行う。
⑥ 実験を行う際、破裂などの危険がある場合は、通信機能を使って遠隔から設定や波形観測を行う。
⑦ 屋外の測定対象を長期間に渡って波形観測する場合は、落雷による機器の破損を防ぐ対策を電源線、信号線、通信線に講じる。
発熱対策
メモリレコーダを使って正確な波形観測をするには機器内の温度が異常に上昇しないように設置しなければならない。設置条件は取扱説明書に書かれているのでシステムにメモリレコーダを組込む場合などは事前に確認する必要がある。
また、冷却効果を維持するために、通風孔の清掃を定期的に行うのが望ましい。
長期に渡って機内温度が高い状態になると、電解コンデンサの劣化を早めることになるので、発熱対策はメモリレコーダの故障を防ぐうえでも重要である。
冷却のためのファンモータは寿命部品であるため、取扱説明書に書かれた寿命を目安に交換することを勧める。
電池の劣化
デスクトップ型メモリレコーダや電池駆動型メモリレコーダには電池が搭載されている。電池は寿命部品であるため、取扱説明書に掲載された寿命を参照して交換する必要がある。デスクトップ型メモリレコーダは設定情報の保存や内蔵時計を駆動するための小型の一次電池が搭載されている。また電池駆動型メモリレコーダは充電可能なリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池が搭載されている。
電池は丁寧な取り扱いが必要な部品であるため、電池工業会から使用上の注意点が示されている。利用するうえでは「熱源や高温になる場所に放置しない」と「強い衝撃を加えない」を守る必要がある。
充電式電池には産出量が少ない貴重な資源が使われているため、廃棄する場合は電池に張り付けられたリサイクルマークを見て適切に処分する必要がある。
メモリレコーダの固定
メモリレコーダの小型化と多チャンネル化が進んでいるため、軽量でコンパクトな本体に多くの配線がされるようになってきた。
このため配線に引きずられてメモリレコーダが机の上から落下する可能性がある。多くの配線をメモリレコーダに接続する場合は、配線の固定もしくはメモリレコーダを固定することが望ましい。
最近はパソコン、サーバ、電子計測器の地震対策のための固定具が販売されているため、メモリレコーダの固定にも利用可能である。
観測データの記録や伝送
ここでは観測した波形データの記録や伝送について解説する。
印字・記録
メモリレコーダに取り込んだ波形データは画面で見るだけではなく、記録として保存する必要がある。大容量メモリが安価に入手できるようになる以前は感光紙や感熱紙などへの記録が多かったが、最近では紙へ記録する需要は減り、パソコンでの解析がしやすいSDカード、CF(CompactFlash)カード、USBメモリへの記録が多くなってきた。
最近の製品では長時間の記録をするために、ハードディスクやSSD(Solid State Drive)に直接波形データをリアルタイムに保存できる製品もある。
通信インターフェース
メモリレコーダにはパソコンへ観測結果を転送したり、メモリレコーダを制御するための通信インターフェースを持っている。高速通信が可能なUSBやイーサネットは多くの製品で対応している。過去に一般的であったGP-IBはオプションで対応しているメーカがある。
コンパクトな電池駆動型メモリレコーダには通信経由で設定できないものや、通信インターフェースの種類が選べない製品があるので、機種選定では注意が必要である。
PCソフトウェア
メモリレコーダに取り込んだ波形データをパソコンで加工して表示すると便利なことがある。パソコンソフトはメモリレコーダを製造するメーカから自社製品向けに提供されるものや、ほかの企業から提供されるものがある。例えば小野測器から販売されている音響や振動解析に向いたPCソフトウェア「Oscope」は日本国内で使われている多くのメモリレコーダに対応している。
注)小野測器のOscopeの詳細は下記のURLに記載
https://www.onosokki.co.jp/HP-WK/products/keisoku/software/others/oscope2.htm
メモリレコーダの周辺機器
メモリレコーダに接続して使う周辺機器は製造するメーカが取り揃えて、本体とともに利用者に提供している。ここでは代表的なものを紹介する。
入力接続ケーブル
波形観測した対象物と接続するためのケーブルは端子形状に合わせてさまざまな先端形状のクリップが必要となる。波形観測している間にクリップが容易に外れないものを選ぶ必要がある。
ケーブルやクリップには使用できる最大電圧が規定されているので選定する場合は仕様の確認が必要である。
電流センサ
メモリレコーダはパワーエレクトロニクス機器の波形観測に使われることが多いため、電流センサの接続が必要な場合がある。電流センサは直流から交流まで使えるものと、カレントトランス(CT)のように交流のみにしか使えないものがある。観測したい電流波形の最大電流値、必要な周波数帯域、測定対象のケーブル径などを考慮して電流センサの選択を行う。
電圧プローブ
メモリレコーダでもオシロスコープのような10:1や100:1の減衰機能付きの広帯域絶縁プローブが必要な場合がある。最近では非接触電圧プローブが販売されるようになったので、被覆したケーブルの上から交流電圧波形が観測できるようになった。防水加工などがされていて容易に電圧を測定できない部分の波形観測に便利である。
高電圧差動プローブ
高電圧で動作する機器の電圧波形を観測するには、入力モジュールの耐電圧が不足するため直接接続することはできない場合がある。そのようなときには高電圧差動プローブを利用する。