LCRメータの基礎と概要 (第1回)
交流インピーダンスの測定の原理
交流インピーダンスは発振器によって得られる交流信号を測定対象に印加して、電流と電圧の大きさと位相差を測ることによって得られる。歴史的に古い測定方法では厳密に位相の影響を考慮しない場合もあった。
ブリッジ法
精密に直流抵抗を測定する方法として使われていたブリッジを交流に応用したものである。下図の交流ブリッジでは点線で囲まれた部分が測定対象にあたる。
直流では浮遊容量や配線インダクタンスの影響はあまり考慮する必要はなかったが、交流ではこれらの影響が測定誤差となる。このためさまざま方式の交流ブリッジが登場した。
交流ブリッジは構造が単純であるが、操作に熟練が必要なため、LCRメータの登場によって使われることは非常に少なくなった。しかし学校教育では交流インピーダンス測定の原理の基本を知るために現在でも授業で使われることがある。
共振法(Qメータ法)
発振器、同調回路、電流計、電圧計から構成される測定器であり、コンデンサやインダクタのQ値やインピーダンスを測定することができる。
Qメータも操作に熟練が必要なため、LCRメータ登場により使われることは非常に少なくなった。
I-V法
インピーダンスの測定基本原理と同じ構成でインピーダンスを測定する方法である。
I-V法では発振器の電圧と負荷に流れる電流の測定が必要になる。電圧と電流の位相差を考慮しない測定であれば交流電圧計やデジタルマルチメータが用いられる。位相差を含めた正確な測定を行う場合はロックインアンプ、周波数特性分析器(FRA)、電力計が用いられる。
I-V法はLCRメータでは測定しにくい大型のリアクトル(コイル)のインダクタンスを測定する場合に使われている。ほかにも負荷装置などと組み合わせて測る電気化学分野ではI-V法が使われている。
自動平衡ブリッジ法
LCRメータに採用されている方式であり、電子部品などのインピーダンス測定では広く使われている方式である。OPアンプの特性をうまく利用しており、発振器と電圧信号の大きさと位相差を測定できるベクトル電圧計によって構成されている。初期の製品はインピーダンスを求める演算をアナログ回路で行っていたが、現在では波形をA/D変換器によってデジタル化して演算を行う方法が一般的である。
【ミニ解説】ベクトル電圧計
LCRメータを構成する要素としてベクトル電圧計がある。この回路はロックインアンプの技術が使われている。ロックインアンプは物理学の実験ではよく使われる測定器で入力される微弱な信号に同期した信号を参照信号として入力し、nVオーダーの微弱な信号の振幅や位相を検出することができるものである。
ロックインアンプの内部は位相検波器とフィルタ、アンプによって構成されている。ローノイズで大きなダイナミックレンジの信号を測定できるかが製品の価値を決めている。
LCRメータにもロックインアンプと同じ原理の回路がベクトル電圧計として組み込まれている。
LCRメータでは発振器の周波数を固定してインピーダンスを測定するが、高機能なインピーダンスアナライザでは発振周波数がスイープできるようになっているため、インピーダンスの周波数特性が画面にグラフィックで表示される。
実際のLCRメータでは信号源のHc、試料の端子間電圧を測定するためのHp、Lp、電流を吸い込むLcの4つの入出力端子がある。この4つの端子の配置と端子間の距離はメーカが異なっても同じ場合もあり、そのときは異なるメーカのテストフィクスチャを機械的に取り付けることができる。ただし異なるメーカのテストフィクスチャを利用する場合は特性が保証されないので注意が必要である。
LCRメータはさまざまな用途で使われるため、製品分類すると下記のようになる。
電池駆動のハンドヘルドLCRメータは機器に組み込まれた電解コンデンサの経年劣化による容量の減少を診断するなど現場での利用を想定している。また電子部品生産向けのLCRメータやCメータは高速にインピーダンスを測定して選別のための判定結果を電気信号として出力する機能を持っている。
高周波でのインピーダンスを測定する方法
100MHzを超える高い周波数のインピーダンスを測定する場合は自動平衡ブリッジ法では難しくなるため、高帯域インピーダンスアナライザではRF I-V法やネットワーク解析法が採用されている。