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LCRメータの基礎と概要 (第1回)

【インタビュー】コイルを使う技術者に向けて情報発信するサガミエレク

自社のホームページの技術コラムに自社製品の巻線インダクタの基礎から応用までを設計技術者向けに詳しい解説を行うとともに、最近はあまりコイルに馴染みのない方や次世代を担う小中学生を対象に判りやすいインダクタやトランスの説明とそれらの使われ方について書かれた入門資料を公開しているサガミエレクの方々にお話を伺った。

図18. コイル専業メーカのサガミエレク本社

図18. コイル専業メーカのサガミエレク本社

Q1:サガミエレクはどんな会社ですか

サガミエレクは1946年に創業した巻線インダクタと小型のDC/DCコンバーに使われるトランスを設計製造する神奈川県横浜市にあるコイル専業メーカである。事業の大きな柱はDC/DCコンバータなどに使われるパワーインダクタと車載用オーディオ機器に使われているD級アンプ用のインダクタである。
巻線インダクタは組み込まれる製品に合わせた品種の開発が必要で、電子部品の中では多品種少量生産となる傾向である。部品の構造はシンプルであるが、お客様の要望に応じた特性を作り出すことと、お客様が要求するコストと納期で納入できる生産能力を持つことが必要不可欠である。そのためコイル専業メーカとしての商品設計能力の向上と、自社製品にあった生産設備を独自に作る能力が必要となる。
サガミエレクの巻線インダクタやトランスは日本で開発や設計を行い、中国とインドネシアで生産して国内外のお客様に向けて出荷している。
(参考)サガミエレクのグローバルネットワークは下記のホームページに掲載されている。
https://www.sagami-elec.co.jp/jp/company/network.php

図19. サガミエレクが生産する製品の進化

図19. サガミエレクが生産する製品の進化

【ミニ解説】 コイルメーカに求められること

電子機器やパワーエレクトロニクス機器にはコイルが数多く使われている。同じコイルでも電子機器に使われる小型のコイルはインダクタと呼ばれ、パワーエレクトロニクス機器に使われる大型のコイルはリアクトルと呼ばれている。いずれも同じ機能を持つ部品であるが、使われる用途で異なる呼ばれ方がされている。電子機器に搭載されるインダクタには巻線型、積層型、薄膜型がある。

コイルは磁性材料で作られた磁心(コア)と巻線によって組み立てられたものと、磁心がないコイルだけのものがある。コイルを作るメーカでは納入先の要望や最終製品での使われ方に合わせた設計を行う。コイルメーカの技術者には数多くある磁心材料や線材のなかから最適なものを選び、性能や品質が確保できるコイル構造や組み立て方を決める能力が求められる。優れたコイルを作るメーカにはこれらを実現するための知識や経験が豊富にある。

納入先からは品質が高く低コストでコイルを作ることが要求されるため、コイルの組み立て法や検査法には多くのノウハウが必要となる。時間を掛けて蓄積した知識や経験はコイルを製造するメーカの重要な財産となっているため、生産や検査で使う装置は自社開発されることがある。

市場にはさまざまなコイルの種類があるため、日本国内では分野ごとに得意な技術を持つコイルメーカが多く存在する。機器を設計する技術者がコイルを選ぶ際にはコイルメーカが得意とする設計や生産の能力などをよく理解する必要がある。

図20. 自社で生産設備を開発するサガミエレク

図20. 自社で生産設備を開発するサガミエレク

Q1:自社のホームページに技術情報を掲載する経緯を教えてください

自社のホームページに技術者向けの解説記事を執筆するきっかけは、若い技術者が学生の時に実際のコイルに触れる機会はあまりなく、社会に出て設計の現場に入ってから改めてコイルのことを学ぶという現実を知ったからである。大学の電子工学科でもコイルやトランスの特性を授業で教えることがあっても、実際の電子機器に組み込まれている部品を見たり、触れたりする機会はほとんどない。
電子機器を設計する場合は電子部品を作る技術者が意図した使い方をしないと部品の性能を十分に発揮することができなかったり、問題が生じたりすることがある。
そのようなこともあり、2008年に全12回連載の「コイルを使う人のための話」という解説記事を自社のホームページに掲載した。長年コイルの設計をしている技術者(星野康男様)が持つ知識や経験をもとに、さまざまな種類のコイルの基礎から丁寧に解説を行ったものである。好評だったので第二部の連載記事を執筆することになった。より多くの設計技術者にコイルのことを知ってもらうために、この2つの連載記事をもとにして作った冊子(A5版、63ページ)はCQ出版が発行するトランジスタ技術誌(2011年5月号)の付録に採用された。
現役の若手技術者向けの解説記事はお客様から好評を頂いたので、自社の得意分野である「デジタルアンプ用インダクタ」についても2回連載の記事として追加することになった。
インダクタなどの販売活動を行うときにはコイルをよく知る技術者だけではなく、コイルに馴染みがない購買の窓口の方々との会話が必要なため、ビジネスをスムーズに行うためにも効果があった。これらの記事はすべてサガミエレクのホームページから閲覧できるようにしている。

技術コラム
https://www.sagami-elec.co.jp/jp/techinfo/techinfo.php

公開した技術情報はコイルを使うお客様での教育資料となったり、現場での課題解決に使われたりして期待以上の成果が得られたと感じている。

図21. トランジスタ技術の付録になった「コイルを使う人のお話」(星野康男様が執筆)

図21. トランジスタ技術の付録になった「コイルを使う人のお話」(星野康男様が執筆)

技術者向けの解説記事は海外のお客様にも見て頂けるようにと考えて、現在は英文に翻訳して自社の英文ホームページに掲載している。英文化した解説記事は自社の海外工場にいる技術者の能力向上にも役立っている。
最近は現役の若手技術者向けだけではなく、電気に馴染みのない文系の人や小中学生でも判る入門解説「はじめてのコイルの話」を文系の営業社員が中心となって作成した。この入門解説では初めてコイルやトランスに触れる人を対象にしているので、できるだけ判りやすく説明することに注力した。例えば直流電流によってコイルから生じる磁束を砂鉄によって可視化する判りやすい実験を動画(https://www.youtube.com/watch?v=NM_HXa1T3RE)で説明する工夫を行った。
サガミエレクでは自社で開発した製品をよりよく使って頂くためと、国内外の若い技術者がコイルの知識を習得できるようにするために、これからも積極的な情報発信を行っていきたいと考えている。

取材を終えて

今回のインタビューは新型コロナウイルスが蔓延した時期と重なったため、初回の記事構成についての打合せのみで、コイルの解説記事を執筆された方々へのインタビュー取材はできなかった。サガミエレクの関係者各位様のご厚意で資料の提供と、メールによる原稿作成にご協力頂いたことに深く感謝している。

現在、日本の製造業では技術や技能の伝承に課題があると言われている。サガミエレクの皆様の活動は自社の技術力のアピールにとどまらず、電子産業に関わる技術者の能力向上に寄与する価値ある貢献である。電子回路を設計している若手技術者の方々には、ぜひ同社のホームページを一度ご覧になることを勧める。

今後も同社の活動に期待していきたい。


執筆協力:株式会社エヌエフ回路設計ブロック ホームページは こちら

執筆:横河レンタ・リース株式会社 事業統括本部 魚住 智彦

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