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デジタルマルチメータの基礎と概要 (第4回) 「DMM使用上の注意と安全規格、精度維持管理」

エンジニアにとって、いちばん身近でポピュラーな測定器のひとつは、DMM※1やマルチメータ、テスタなどと呼ばれているデジタルマルチメータでしょう。実験ベンチには必ず1台は在って、電圧や抵抗のちょっとしたチェックに使われます。受配電設備の現場でも、なくてはならない測定器のひとつです。この記事では、マルチメータが歩んできた歴史、動作原理、測定機能と確度仕様、使用上の注意、安全規格などについて、なるべく平易に4回にわたって解説していきます。

※1 DMM:Digital Multi Meterの略称で、読みはディーエムエム

デジタルマルチメータの基礎と概要(第1回) DMMの歴史と変遷
デジタルマルチメータの基礎と概要(第2回) DMMの原理、AD変換方式、ノイズの影響
デジタルマルチメータの基礎と概要(第3回) DMM測定機能と確度仕様


DMM使用上の注意

DMMを使用する際、よく起きる問題は、電流用測定端子に電圧を入力してしまうことです。電流測定は内部のシャント抵抗に被測定入力電流を流し、その両端の電圧降下を電流値に換算し測定しますので、抵抗値は小さく導通状態に近いですから、ここに電圧を掛けると短絡事故につながります。電気事故を防ぐため、測定回路の電源を切ってからテストリードを接続します。電流測定は特殊な設定と考え、測定が終了したら、テストリードを抜き、電圧測定モードに設定を戻しておく習慣をつけましょう。DMMメーカでは、電流測定入力端子の穴にシャッタ構造(写真6)を設け、誤入力を防止するとともに、テストリード挿入後はファンクションの切り替えをできないようにしているものもあります。また、DMMに、電流測定機能そのものを設けず、クランプ型のプローブ(写真7)併用で電流測定することを推奨しているメーカもあります。

写真6. シャッタ構造を持つDMM DT4232

写真6. シャッタ構造を持つDMM DT4232

出典: 日置電機

写真7. クランププローブ部の例(9018-50)

写真7. クランププローブ部の例(9018-50)

出典: 日置電機


よく起きる問題のもうひとつは、抵抗測定ファンクションで通電動作中の回路に接続してしまうことです。感電事故やDMMの破損につながりますので注意が必要です。DMMの抵抗測定は、前述のようにDMMの定電流発生回路から小さな電流を流し、被測定抵抗の両端の電圧降下を測り抵抗値に換算するものですから、ここに電圧が加わると損傷の恐れがあります。このため、DMMメーカでは、万一のためにヒューズなどの保護回路を設けています。


DMMの安全規格

DMMの入力端子付近のパネル面上には、注意や警告を促すマークと許容される入力範囲の電圧・電流が表示されています(図9、写真8)。マークは、稲妻、!、アースの3つが使われ、それぞれ、注意・警告を促す、高電圧・感電への警告・注意、入力する電圧・電流の許容範囲を表しています。

図9. ハンディタイプDMMの入力端子付近の表記

図9. ハンディタイプDMMの入力端子付近の表記

出典: 日置電機 DT4252 マニュアルより抜粋

写真8. ベンチトップタイプDMMの入力端子付近の表記

写真8. ベンチトップタイプDMMの入力端子付近の表記

出典: 横河メータ&インスツルメンツ DM7560カタログより抜粋

測定の際、規定以上の高い電圧を掛けたり、大きな電流を流したりすると、DMMを破損したり、測定者に危険が及ぶことがありますので、安全な正しい使い方が求められます。特に、高電圧・大電流のともなう受変電設備の保全で安全に使用するには、細心の注意が必要です。測定者自身、および周りの人を感電事故から守るために、安全規格を満たすDMMを選択しなければいけません。

DMMの安全規格には、国際規格ではIEC 61010-1(日本国内ではこれに該当するJIS C 1010-1測定、制御及び研究室用電気機器の安全性)があり、「過渡過電圧類を制限するための適切な耐性がなければならない」とされています。安全規格では、測定対象の電圧(大地に対する電圧レベル)と想定される異常な過電圧が、測定カテゴリ毎に規定され、CAT Ⅱ、Ⅲ、Ⅳと呼ばれています(図10)。

図10. 測定カテゴリ

図10. 測定カテゴリ

CAT ⅠとCAT Ⅱの境界が引かれているのは、安全規格に適合したACアダプタや絶縁トランスなどです。CAT Ⅰについては、IEC 61010-1の中では記載はありませんが、ACコードの付いた家庭電気製品などはⅠ、Ⅱの両カテゴリに属しています。CAT Ⅲは分電盤から直接電力を供給されるモータなど固定設備の配線および電源回路、またはコンセントまでの配線回路を含みます。CAT Ⅳは工場や家庭への引込み線、および分電盤までの配線が対象です。ⅡからⅣのカテゴリには、想定される過渡過電圧が規定(表4)されていますので、測定カテゴリに適合したテスタを選定し使用することが必要です。

表4. 過渡過電圧を制限するための耐性試験電圧

表4. 過渡過電圧を制限するための耐性試験電圧

出典: 日置電機株式会社発行の資料「安全なテスタを選びましょう! -テスタを安全に使用していただくための手引き- 」を参考に当社で作成


テストリード使用時の安全

感電事故や短絡事故は、あってはならないことです。測定者が手に持って使用する、露出した導体のあるテストリードには、さらなる安全性が求められます。DMMの標準的なテストリードでは、手で保持する部分やケーブルは絶縁材で内部の導体から絶縁されていますが、テストピンの導体部分から保持する指まで、空間距離、沿面距離が十分保たれていなくてはいけません。このため円盤状のバリア構造を設け、沿面距離を確保しています(図11)。測定の際には、必ずバリアの手前を持って使用します。また、テストピン導体部分も、短絡防止のために、CAT Ⅲ、Ⅳでは露出金属部を4mm 以下(CAT Ⅱは19mm以下)にするよう求められており、キャップを装着できる構造になっています(写真9)。測定カテゴリCAT ⅢとCAT Ⅳで測定するときは、必ずキャップをつけて使用します。

図11. テストリードの安全構造

図11. テストリードの安全構造

写真9. テストリードの例

写真9. テストリードの例

出典: 日置電機


DMMの精度維持管理と校正

JIS計測用語の校正の定義は、「計器又は測定系の示す値、若しくは実量器又は標準物質の表す値と、標準によって実現される値との間の関係を確定する一連の作業。 備考 校正には、計器を調整して誤差を修正することは含まない。」とありますが、簡単に言えば、「標準器を用いて、測定器が表示する値と真の値の関係を求めること」です。標準器による校正を受けることで、測定器は信頼性を確保することができます。

DMMに限った話ではありませんが、測定器は時間の経過とともに、回路部品などの経年変化により、測定値がずれていきます。購入時の性能を使用期間の全期間にわたり維持するためには、定期的な校正が必要です。定期的な校正を「校正周期」といいますが、通常、多くの測定器メーカが1年周期の校正を推奨しています。

図12は、弊社で校正したDMM(キーサイトテクノロジー34401A)の校正証明書、試験成績書の例です。DMMはその名前のとおり、マルチファンクションですから、標準器も多岐にわたります。参考に、弊社のトレーサビリティ体系図を図13に示します。

これら3つの書類は、通称校正3ドキュメントと呼ばれ、測定器の校正管理に欠かせないものです。

図12. 校正証明書、試験成績書(34401Aの例)

図12. 試験成績書
図12. 校正証明書

図13. トレーサビリティ体系図(34401Aの例)

図13. トレーサビリティ体系図(34401Aの例)

むすび

4回にわたって、基本的な測定器の代表であるDMMについて、解説いたしました。DMM周辺には、低抵抗に特化したミリオーム抵抗計や、pA(ピコアンペア)を測る微小電流計、表面抵抗/体積抵抗を測るエレクトロメータなどがあります。基本的な測定器には、基本であるからこそ求められる深い知識や技術、ノウハウがあるのだと思います。

浅学のため、覚束ない説明になりました。ネット上には勉強になる資料が多数あります。参考にしていただければ幸いです。


■参考資料
・横河メータ&インスツルメンツ
「計測豆知識・技術レポート 測定器の正しい使い方入門 ディジタル・マルチメータの使い方」

・日置電機
ユーザーズガイド「安全なテスタを選びましょう」


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