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デジタルマルチメータの基礎と概要 (第3回) 「DMM測定機能と確度仕様」

エンジニアにとって、いちばん身近でポピュラーな測定器のひとつは、DMM※1やマルチメータ、テスタなどと呼ばれているデジタルマルチメータでしょう。実験ベンチには必ず1台は在って、電圧や抵抗のちょっとしたチェックに使われます。受配電設備の現場でも、なくてはならない測定器のひとつです。この記事では、マルチメータが歩んできた歴史、動作原理、測定機能と確度仕様、使用上の注意、安全規格などについて、なるべく平易に4回にわたって解説していきます。

※1 DMM:Digital Multi Meterの略称で、読みはディーエムエム

デジタルマルチメータの基礎と概要(第1回) DMMの歴史と変遷
デジタルマルチメータの基礎と概要(第2回) DMMの原理、AD変換方式、ノイズの影響
デジタルマルチメータの基礎と概要(第4回) DMM使用上の注意と安全規格、精度維持管理


AC測定

DMMの交流測定は、被測定AC電圧に比例したDC電圧に変換して行います。変換回路は、AC-DC変換回路と呼ばれます。入力のAC電圧に比例したDC電圧はAD変換器でデジタル化されます。ACからDCの変換は、平均値整流方式と真の実効値※5変換方式が一般的です。

※5 True RMS(ツルーアールエムエス)とも呼びます。RMS: Root Mean Squareの略

メーカカタログを見て、「交流検波方式:平均値方式(平均値を実効値に換算)‐三和計器カタログの記載」のような表現で仕様が書かれていれば、これは平均値整流方式のDMMです。安価なDMMは、この方式が多いようです。平均値と実効値の関係を図6に示しますが、表3の記載にある正弦波の波形率(実効値と平均値の比)1.11を乗じて実効値に換算し、交流電圧の測定値を得ます。

いっぽう真の実効値変換方式のDMMは、整流回路の代わりにRMS-DC変換回路を用います。正弦波でなくても正しい変換を行うことで、真の実効値を求めることができます。RMS-DC変換回路には、トランジスタのLog特性を利用した対数変換(Log-Antilog)方式やデジタル・ダイレクト・サンプリング方式でデジタル演算して求める方式などがあります。第1回のDMMの歴史で紹介したキーサイト・テクノロジー社のTruevoltシリーズ34465Aは、後者の方式です。

真の実効値変換方式のDMMの測定で気をつけなければいけないことに、クレストファクタがあります。DMMの仕様よりも大きいクレストファクタの被測定電圧波形の場合には、大きな誤差が生じます。表2記載のように、クレストファクタ(波高率)はピーク値/実効値で定義されていて、正弦波で1.414、三角波では1.732ですが、図7のような波形ですと、クレストファクタは4前後にもなります。大きいクレストファクタ仕様を有するDMMは、少ない誤差でAC測定が可能です。

図6. ピーク値、実効値、平均値の関係

図6. ピーク値、実効値、平均値の関係

表3. 各種波形の実効値、波形率、波高率(クレストファクタ)

表3. 各種波形の実効値、波形率、波高率(クレストファクタ)

34465Aのカタログでは、「10:1の最大クレストファクタ」の仕様が見られますが、これに対し、対数変換方式による実効値測定のDMMでは、クレストファクタ仕様は3程度のようです。クレストファクタの大きい図7のような交流電圧波形では、実効値が小さくても、内部回路が最大動作範囲をオーバーし、飽和してしまいますので、正確な測定ができません。このような波形では、DMMのクレストファクタの仕様が測定精度に大きく影響しますので注意を払います。

図7. クレストファクタの大きい波形の例

図7. クレストファクタの大きい波形の例

抵抗測定

抵抗測定は、被測定対象の抵抗器Rxに定電流を流し、その電圧降下ExをDCV測定します。ハンドヘルドタイプのようなDMMでは、通常、2端子法の抵抗測定で、測定ケーブルは2線式です。被測定抵抗が低抵抗の場合、測定ケーブルの線路抵抗が誤差の要因となります(図8-上)。ベンチトップタイプでは、4端子法の抵抗測定(図8-下)が一般的で、4線式のケーブルを使用します。電流線と電圧線が独立していて、DMMの入力インピーダンスが高いため電圧をセンスする電圧線に電流は流れませんので、線路抵抗r2とr3の電圧降下は無視できます。つまり、4端子法の抵抗測定は、測定ケーブルの線路抵抗の影響を受けず正確な測定ができるわけです。

図8. 2端子法(上)と4端子法(下)の抵抗測定

図8. 2端子法(上)と4端子法(下)の抵抗測定

電流測定

DMMの原理でも触れたように、内蔵のシャント抵抗に被測定電流を流し、その電圧降下を測ることにより演算で電流値を求めます。シャント抵抗は、電流レンジにより異なります。

日置電機DT4282のシャント抵抗の例では、600μA/6mAレンジで101Ω、60mA/600mAレンジで1Ω、6A/10Aレンジで10mΩです。先に紹介したキーサイトテクノロジーズの34465Aの仕様には、「DC/AC電流負担電圧(フルスケール)」で記載されています。ここで負担電圧とは、電流測定の際、DMM内で生じる電圧降下のことで、シャント抵抗だけでなく、ヒューズやスイッチ、線路抵抗などで生じる電圧降下を総合的に表すパラメータで記載しています。負担電圧は、言葉通り被測定回路に負担を与えますので、小さいことが望まれます。因みに、34465Aの1μAレンジの負担電圧は<0.0011Vで、1mAレンジは<0.11V、1Aレンジは<0.7V(10Aレンジ使用時では<0.05V)、10Aレンジは<0.5Vです。


DMMの測定確度仕様

よく使われるDCVファンクションで、DMMの確度について触れます。確度は真の値に対してDMMの測定値がとり得る範囲を意味します。一般的に、確度仕様は、読み取り誤差(reading error)にレンジ誤差(range error)が加算されるかたちで表現されます。最近は、ISO/IEC17025準拠でK=2※6の不確かさ表記に移行しつつあります(例えば、34465A)。

※6 Kは、不確かさの表現における定数で、包含係数と呼ばれる

○横河メータ&インスツルメンツ 73201の確度仕様:
DC4Vレンジの確度:±(0.5% of reading + 1digit)
ただし、条件:温度/湿度:23℃±5℃、80%RH以下
73201は、最大表示カウント4300(3.5桁)のハンディタイプのDMMです。
DC4Vを4Vレンジ(4.000V)で測定した場合、
4000×0.5/100+1=21
すなわち、測定値は、3.979V~4.021Vの範囲を取り得ることになります。
測定電圧が半分の2Vを4Vレンジで測定した場合、
2000×0.5/100+1=11
すなわち、測定値は、1.989V~2.011Vの範囲に収まります。

○34465Aの確度仕様:
DC10Vレンジの確度(1年間):±(読み値の%+レンジの%)=0.0030+0.0004
ただし、条件:60分のウォームアップ、10または100 NPLC※7のアパーチャー、
オートゼロオン
34465Aは、6-1/2のベンチトップタイプのDMMです。
DC10Vを10Vレンジ(10.00000V)で測定した場合、
1000000×0.0030/100+1000000×0.0004/100=30+4=34
すなわち、測定値は9.99966V~10.00034Vの範囲を取ります。
※7 NPLC:Number of Power Line Cycles(50Hz商用電源では、1サイクル20ms)

読み取り誤差、レンジ誤差がppm(parts per million)で表記される場合もありますので、その場合は百分率%の代わりに百万分の一で計算します。

DMMの基本機能であるDCV測定時の、それも中心のレンジ(4Vや10Vレンジ)で確度をみてきましたが、高い電圧レンジや低い電圧レンジでは、分圧器や増幅器が加わりますので確度は低くなる傾向です。また、AC電圧測定ではAC-DC変換器、電流測定ではシャント抵抗、抵抗測定では定電流発生器の誤差などが加わりますので、同じく確度は低下傾向です。

確度仕様は、特定の条件で保証されたものです。温湿度環境やウォームアップ時間、オートゼロ、オートキャル、積分時間、フィルタ挿入などDMMの設定条件にも関係しますので、注意が必要です。


第4回はこちらから

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