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デジタルマルチメータの基礎と概要 Part2 (第2回)

デジタルマルチメータでの主な測定

デジタルマルチメータの基本機能は直流電圧測定、交流電圧測定、直流電流測定、交流電流測定、抵抗測定となっている。そのほかにも便利な測定機能が搭載されているものがあるが、ここでは基本機能についてのみ解説する。

直流電圧測定

ここでは測定に影響する項目について述べる。デジタルマルチメータの仕様に入力抵抗の仕様が書かれている。理想的には∞Ωであるが、多くは10MΩ程度の仕様となっている。起電力の出力インピーダンスが高い場合は測定結果に影響を及ぼすので注意が必要となる。

デジタルマルチメータの仕様に入力バイアス電流という仕様項目がある。デジタルマルチメータの入力をショートからオープンにすると徐々に電圧が上がることあるのは入力バイアス電流によって入力容量にチャージされるためである。

図28. バイアス電流による影響

図28. バイアス電流による影響

常温では数十pA程度の小さい電流であり、温度が高くなると大きくなる傾向がある。通常の測定では問題にならないが、起電力の出力インピーダンスが高いと誤差の要因になることがある。

デジタルマルチメータが設置された周辺にあるノイズ源から影響を受けることがある。商用電源に同期したノーマルモードノイズは積分時間を電源周期(50Hzでは20ms、60Hzでは16.7ms)の整数倍にすることによって抑制できる。コモンモードノイズは配線などによりノーマルモードノイズに変化して測定結果に影響する。

多くのデジタルマルチメータはLo端子が内部シールドに接続されていますので、コモンモードノイズの流れは下図のようになる。

図29. 内部シールドがLo端子に接続されているデジタルマルチメータ

図29. 内部シールドがLo端子に接続されているデジタルマルチメータ

高精度な8.5桁クラスのデジタルマルチメータには入力端子にガード端子がある。下図のように高精度な測定を行う場合はコモンモードノイズがガード(GUARD)端子に流れて、測定入力端子に流れないようにすることができる。

小さい電圧を測定する場合、配線によって生じる熱起電力が問題になることがある。

図30. 内部シールドがガード端子に接続されているデジタルマルチメータ

図30. 内部シールドがガード端子に接続されているデジタルマルチメータ

交流電圧測定

交流電圧測定は仕様で定められた周波数範囲の交流を直流に変換して、その直流電圧測定し、交流に換算して表示している。最近の多くのデジタルマルチメータは真の実効値変換によって交流を直流としている。安価なデジタルマルチメータや古いデジタルマルチメータでは平均値整流が採用されているものがある。

真の実効値変換とは同じ値の直流と同等の熱エネルギーをもたらす交流の値のことである。具体的には下図に示すような装置(サーマルコンバータ)で同じ抵抗体に交流の安定した電圧源を接続して得られる熱エネルギーと同じ熱エネルギーを直流の電圧源で得るようにすることである。

図31. 真の実効値を求める原理

図31. 真の実効値を求める原理

この原理をそのまま回路で実現すると下記のようになる。この回路方式はMHz帯域の交流電圧まで測定できる特長はあるが、デジタルマルチメータではすべて電子回路によって真の実効値が得られている。

図32. 熱変換方式の実効値検波回路

図32. 熱変換方式の実効値検波回路

交流を直流に変換する回路はアナログ回路で行われることが多かったが、最近のデジタルマルチメータでは交流波形を等価サンプリングで波形をデジタイズしてからデジタル演算で真の実効値を求めて表示させるようになってきた。デジタル・サンプリング方式を採用するとクレストファクタの大きな交流波形に対応できるようになる。

図33. 交流測定の1つの方式

図33. 交流測定の1つの方式

真の実効値変換回路を使った場合は正確な測定ができるが、平均値整流回路を使ったものは波形の影響を受けるため、実効値を知る場合は波形によって換算をしなければならない。

表7. 代表的な周期波形の換算値

表7. 代表的な周期波形の換算値

交流電圧測定では波形によってクレストファクタ(ピーク値と実効値の比)が異なるため、利用しよとするデジタルマルチメータが許容しているクレストファクタに着目する必要がある。特にパワーエレクトロニクスで取り扱う波形はクレストファクタが大きい場合があるので注意が必要となる。クレストファクタが大きい場合はデジタルマルチメータの測定レンジを下げて使用する。

直流電圧測定の場合は負荷への影響は入力抵抗だけをであったが、交流の場合は入力容量も考慮する必要がある。特に高い周波数の交流電圧を測定する場合は入力容量の影響を受けやすくなる。

抵抗測定

デジタルマルチメータの内部には抵抗を測定するための直流定電流源が組み込まれて、抵抗に電流を流して両端の電圧を測定することによって抵抗値が得られる仕組みとなっている。測定レンジによって流す電流は異なっている。測定対象の抵抗の許容電力を超える恐れがある場合は測定対象の破損を防ぐためレンジの選択を考慮する必要がある。

抵抗測定は1線抵抗測定と高精度測定で使われる4線抵抗測定がある。ハンドヘルド型は2線抵抗測定となっている。ベンチトップのデジタルマルチメータの多くは2線測定と4線測定が選択して使えるようになっている。

図34. 抵抗測定の方法

図34. 抵抗測定の方法

2線抵抗測定の場合はリード線の抵抗の影響を受けるが、Null機能があるデジタルマルチメータであれば測定前にリード線をショートして配線抵抗を測定し、測定結果を補正することができる。

電流測定

デジタルマルチメータの内部にあるシャント抵抗に電流を流して、シャント抵抗の端子間の電圧を測定することによって電流値を得る仕組みになっている。入力端子から見たインピーダンスはシャント抵抗と保護ヒューズの直列抵抗値となる。

電流測定は入力インピーダンスが低いため、誤って電源(インピーダンスの低い起電力)に接続したときは破損の危険がある。誤操作によって保護ヒューズを切断した場合は、デジタルマルチメータの取扱説明書に従って、指定されたヒューズに交換する。

大電流を測定する場合は外部シャント抵抗やクランプ電流センサを使って測定することになる。また、屋外の現場作業などに使うハンドヘルド型デジタルマルチメータでは誤操作による破損を防ぐため、電流測定ができない製品や、電圧測定時に誤って電流測定端子に接続しないようにシャッタによって電流測定端子が閉じる構造の製品がある。

デジタルマルチメータのその他の機能

デジタルマルチメータには導通試験、ダイオードテスト、温度測定、容量測定、周波数測定、トランジスタのhFE(電流増幅率)などがある。これらの機能は専用の測定器に比べて性能や機能は限定されるが、簡易的な測定には適している。

また、屋外での作業に使うハンドヘルド型マルチメータは現場作業に適したアクセサリが用意されている。

測定結果の記録/保存

デジタルマルチメータの測定結果を表示する基本機能以外に、測定結果を内部のメモリに記録して現象の変化を観測したり、統計処理を行って最大値、最小値、平均値、標準偏差などを得ることができる。また、通信を使ってパソコンに取り込んだ測定データを送って解析や保存を行うことができる。

キーサイト・テクノロジーのTrueVoltシリーズでは測定結果を記録するための2つのモードが用意されている。1つはトリガを受けてから一定のサンプリング間隔で高速に直流電圧もしくは直流電流の測定を行い、メモリに測定結果を記録するデジタイジングモードである。このモードを使用するとオシロスコープのように波形を観測することができる。ただしオシロスコープのような広帯域の測定や繰り返しの測定をすることはできない。

図35. デジタイジングモードで観測した波形

図35. デジタイジングモードで観測した波形

1つ目の機能は測定ごとに結果を取り込むデータロギングモードである。このモードはすべての測定について行える。測定した結果は本体の画面でトレンド表示やヒストグラム表示をすることができる。

図36.データロギングモードで取り込んだ測定結果をヒストグラム表示

図36.データロギングモードで取り込んだ測定結果をヒストグラム表示
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