~ 医療用内視鏡トップメーカの技術が、人の眼の届かない奥まった部分の観察を可能に ! ~ オリンパス 工業用ビデオスコープ IPLEX GX/GT、IPLEX NX

スコープ先端部の超小型のCCDイメージセンサが、人の眼の届かない、わずかな隙間の奥をとらえ、カラーモニターにフルスクリーンで画像を鮮明に映しだす工業用ビデオスコープ。軽快に持ち運び、すばやくセットアップ、そして誰もが簡単に検査を行うことができる。キズの計測や収集画像の記録・管理など、多岐にわたる検査ニーズに威力を発揮する。医療用内視鏡で、高いシェアを誇るオリンパスは、工業分野の内視鏡でも大きな存在感を示し、産業を支える「目」として、工業用内視鏡を、1968年から世に問うている。


世の中にピンからキリまで、工業用のビデオスコープはあるが、それらと「何が違うのか」、オリンパス株式会社 科学国内営業 国内マーケティング&プランニング 産業販売企画 主任 山岸 和樹氏に、最新鋭機のモデル2機種について、デモを交え、お話を伺った。
工業用内視鏡とは
本題の工業用ビデオスコープの話に入る前に、工業用内視鏡のラインナップを見てみよう。工業用内視鏡には3つの分類があることを、ご存じだろうか。工業用ビデオスコープ、工業用ファイバースコープ、それに、工業用硬性鏡の3種で、いずれも、産業を支える「目」として、人の目が届かない、機器内や設備の奥まった部分の観察を可能にする、優れものだ。
ビデオスコープは、スコープ先端に内蔵された対物レンズとCCDイメージセンサがとらえた画像をカラーモニターに鮮明に映しだすことが出来る軟性内視鏡だ。「軟性」は、挿入部のチューブがフレキシブルに湾曲する構造で、外径は数mm(例えば4mm、6mmなど)、長さは数m(例えば2m、ロングタイプでは30mにもおよぶ)もある。CCDイメージセンサの映像信号を、劣化が少ない状態でベースユニットに伝送するために、オリンパス独自の極細カスタムケーブルや信号波形補正回路が、スコープには搭載されている。


ビデオスコープの構造図
ファイバースコープは、数千から数万本の光ファイバーを束ねたイメージガイドファイバーを通して、直接目視観察できる軟性内視鏡だ。イメージセンサが装備されていないため、細くできる。並行して、照明用ライトガイドファイバーが組み込まれていて、光源装置からの光で、対象部位を明るく照らすことができる。外径わずか0.64mmからの極細スコープで、1mm以内の細い穴でも観察が可能である。


ファイバースコープの構造図
硬性鏡は、挿入部分がまっすぐに挿入可能な検査箇所の観察に適している。対物レンズで結像された画像を複数のリレーレンズを通して伝送する構造だ。自動車エンジンのシリンダ内部の観測などに使用される。


硬性鏡の構造図
ビデオスコープの自信作、ハイエンドモデルと新定番モデルの2機種について
今回、紹介いただいた最新鋭2機種は、ハイエンドモデルのIPLEX NXと新定番と目されるIPLEX GX/GTである。
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IPLEX NX | IPLEX GX/GT |
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画質、照明、計測性能、検査効率において、すべてを極めたハイエンドモデル。圧倒的な高画質と進化を遂げた計測機能を備えている。プロフェッショナルの高度な期待に応え、検査効率の向上に貢献。 | 薄型ボディの新定番で、ハイエンド機種に迫る機能・画質を備えながらも、コンパクトで操作も簡単。使いやすさと機能性のバランスに優れた、幅広い現場のニーズに応える多目的ビデオスコープ。 |
*NXの発売は2016年4月(2019年5月より、3D計測機能を追加)。GX/GTは2018年9月の発売 |
デモを拝見して、まず驚いたことは、画質の鮮明さと操作性の良さだ。カメラ技術で培ったイメージセンサを含む光学系に加え、新光源(NXは、レーザーダイオード、GX/GTはLED)の採用で、明るく高精細な画面が8インチ(NXは、8.4インチ)の大きな画面に映し出される。画像の鮮明さは、エンジンや配管など、人間の目が届かない、狭くて奥行きのある場所を観察する工業用内視鏡では、最も重要なポイントだ。ちなみに、画像処理プロセッサーは、オリンパス独自の「PulsarPic™」で、ノイズの少ない、鮮明画像を提供する。スコープユニットの挿入部は長いもので10mにもなり、先端部分は、電動湾曲機能が搭載されていて、ジョイスティックで思いのままに操作可能である。モータと4本のワイヤーで実現しているというが、実際に操作してみると、軽い操作感覚の上、指への負担を感じさせない。オリンパスが、「TrueFeel」とネーミングしたことに、得心がゆく操作感覚だ。


「TrueFeel」操作の動画は、次のURLを参照。https://www.olympus-ims.com/ja/rvi-products/iplex-gx/
両機種共に、高額測定器に類するものだ。コンパクトな定番モデルGX/GTが約350万円※1からで、フラグシップモデルのNXは466万円※1から、オプションにより変動する。決して安い買い物ではないが、計測結果の信頼性、米軍国防軍事用規格(MIL-STD)にも適合しているタフネス設計、さまざまな検査対象に対応できる豊富な光学アダプタ群と光源など、すみずみに創意・工夫がみられる、極めつけの工業用内視鏡だ。準備から、検査、撤収、レポート作成に至る一連のワークフローを効率よく進めることが求められるプロフェッショナルに、最適な1台だ。
価格は、いずれもメーカ希望小売価格
豊富な光学アダプタ群
用途や対象物に合わせて、様々な種類の光学アダプタが用意されているので、検査に必要な画角、視野方向、焦点距離により、最適なアダプタが選択できる。直視タイプは、パイプや部品の内部や、複雑な形状の機械など、検査全般に使われる。側視タイプはパイプ内部側面の溶接部分など、直視タイプでは観察の難しい箇所の検査などに適している。アダプタには、「Smart Tip™」と呼ばれる機能があり、光学アダプタに搭載された識別素子の信号を、極小コンタクトピンと極細カスタムケーブルを経由してベースユニットに伝送する。この機能により、装着されたアダプタを、スコープ本体が自動認識してくれるので、計測時に必要な設定作業の負担を軽減できる。また、アダプタの取付けが緩んだ時には、通知してくれるので、被検体中への光学アダプタの脱落を未然に防ぐことにつながる。

3D計測が、検査の効率と信頼性を革新
光学アダプタにはステレオ計測アダプタが用意されている。視差(Parallax)のある2つのレンズで得られた画像情報から、三角測量※2の原理で、対象物の座標(x,y,z)を正確に計測する。2点間、線基準、面基準、全長、面積計測の5つの計測機能を有する。
2点間の距離(ここでは、視差)と2点から対象物への角度とが分かれば、対象までの距離(座標)は正弦定理を利用して計算できる。



さらに、NXは、3D表示機能が搭載されていて、計測対象を360°回転させたり、拡大縮小も自由に行えるため、観測が容易だ。さらに、3D・カラーマップ表示は、計測対象の凹凸なども分かりやすく、基準面の設定や、深さを計測する場合などに、たいへん分かりやすい。下図の表示画面の左側は、デモで右の凹凸のある試験対象物をスコープで捉えたものだ。長方形の白線で囲った部分の3D・カラーマップ表示を実行し、回転したものが画面右側の表示だ。試験対象の中央にある小さな穴の深さの計測値は、1.47mmを示している。
この3D計測機能は、計測点の指定が、より簡単に、確実に行え、効率的で安定した計測を実現する。やり直し作業の低減にもつながるだろう。


NXによる3D計測表示例 右は、デモに使用した試験対象
用途例
工業用内視鏡が活躍する市場は、航空機、発電所、石油化学プラント、自動車産業などを中心に拡大している。航空機エンジンの検査は、人命にかかわる高い信頼性を求められる検査であることは、言うまでもない。航空機に限らず、私たちの生活を支えるインフラである電力プラントのタービン検査やボイラの配管検査も同様だ。ボイラ配管は、経年変化により減肉していくという。減肉箇所を細かく漏れなく探索するのに、工業用内視鏡は打ってつけだろう。産業を支える「目」としての活躍が期待できる。アプリケーションの一例を下表にまとめたので参考にしていただきたい。
産業機械 | 原動機、ボイラー、熱交換器、製造装置の保守点検。 |
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自動車 | エンジン、油圧部品、噴射ノズルなどの部品検査、完成車動作確認。 |
電気・電子 | 機械の作動チェック、部品検査、研究開発。 |
土木・建築 | 橋梁メンテナンス、トンネル内面裏がわの空洞検査、建築物内部の検査。 |
電力 |
原子力・火力発電所における、熱交チューブ、復水器、配管、タービンの 保守点検。風力発電設備内のギアボックスの保守点検。 |
石油・化学プラント | プロセス配管、圧力容器、熱交換器、ボイラーなどの保守点検。 |
鉄鋼・非鉄 | 工場設備の保守点検、製品の品質検査。 |
上下水道 | 給排水管の錆、詰まりの診断。ライニング加工処理前後の写真撮影。 |
ガス |
ガス管の腐食、屋内フレキシブルガス管の釘穴の調査、排気筒の傷検査や ガスエンジンの保守点検。 |
航空・宇宙 |
各種タービンエンジンブレード、燃焼室の定期検査、機体チェック。 ロケットの開発製造。 |
国防・治安 |
各種航空機エンジンの保守、麻薬など密輸品の発見や犯罪捜査、災害時の 被災者捜索。 |
*オリンパス 工業用内視鏡 総合カタログ記載内容から作表 |
おわりに
オリンパスは、今年創業100年を迎えた歴史ある光学機器メーカだ。売上規模は、約8千億円※3にものぼる。医療・科学・映像の3つが、事業の柱だ。何といっても医療用内視鏡で高いシェアを誇る医療事業は、オリンパスの売上の約80%を占める屋台骨だ。科学事業は、次の柱ではあるが、売上は約1千億円超もある。工業用内視鏡は、この事業に属する。他の顕微鏡や各種の非破壊検査機器とともに、産業の分野になくてはならないツールとして、市場で確固たる存在になっている。
お話を伺った山岸氏によれば、工業用ビデオスコープは、ファイバースコープ時代からの長い歴史から誕生したもので、世の中にビデオスコープは数多あるものの、「画質+挿入性(いかに不具合・欠陥にたどり着けるか)」の勝負では、オリンパス製は良いポジションにいるという。加えて、今回、紹介いただいたIPLEX NXは、オリンパス製ビデオスコープにおいて、「測ることのできる」※4、はじめてのスコープとのこと。
今後の工業用ビデオスコープのビジョン、方向について、伺ってみた。スコープの基本性能となる画質や明るさ、挿入性や耐久性を、さらに向上させていく流れは、変わらないという。最近の新しい取り組みとしては、ワークフロー改善のための、ICT・AIの活用拡大が挙げられる。
オリンパスは、工業用内視鏡をはじめ、非破壊検査機器、工業用顕微鏡、X線分析装置など多様な工業用検査機器をラインアップしており、これら工業用検査機器を用いて、日々多くの検査従事者が、屋内外での検査・レポーティング作業を行っている。作業者への負荷は過大で、一連の作業の効率化・安全性の確保が求められているという。オリンパスが構築に取り組んでいるICT-AIプラットフォームの構成を下図に示そう。検査機器からは、動画・静止画データやログデータが、高度なセキュリティでクラウド上のストレージに転送される。収集した各種データを基に、ワークフローの改善や業務負荷軽減などの顧客価値が、将来的に提供されるようになるだろう。
安全管理に対する社会意識が高まる中、正確で効率的な検査を誰もが容易に実現できるツールが、強く求められている。オリンパスの工業用内視鏡-ビデオスコープへの期待は、ますます高まるばかりだ。
2019年3月期 連結売上
前述の3D計測機能のことを指している。

出典:オリンパス ニュースリリース 2019年3月13日
*図中の左端のRVI Deviceが工業用ビデオスコープで、RVIは、Remote Visual Inspectionの略

*オリンパス 山岸氏によるデモの実施風景。 テーブル上はGT/GX(左)、NX(右)
仕様
NX、GX/GTの主な仕様
IPLEX NX | IPLEX GX/GT | |
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画質・解像度 | H768 × V576(Pixel)、または H1024 × V768(Pixel) | H768 x V576(Pixel) |
液晶モニタ | 8.4インチ TFT、デイライトビュー、クリアータイプ、タッチスクリーンLCD |
8インチ デイライトビュー広視野角WVGA 静電容量方式タッチパネル 5ステップLCDバックライト調整付 |
挿入部 | 蛇管、またはTapered Flex蛇管(TrueFeel新電動湾曲) | 蛇管、またはTapered Flex蛇管(TrueFeel新電動湾曲) |
光源 | 超高輝度レーザーダイオード光源 | LED照明 |
計測 |
ステレオ計測 (2点間、線基準、面基準、全長、面積計測) |
ステレオ計測 (2点間、線基準、面基準、全長、面積計測) |
3D表示機能 |
断面表示、X/Y/Z軸 3D表示切替、 カラーマップモード ×2 |
― |
記録媒体 | SDHCカード※5、USBメモリー(静止画記録のみ) |
通常記録用 SDHC、 コンスタントビデオ記録用 micro SDHC |
電源 | AC/DC駆動(バッテリ駆動時間-約100分) | AC/DC駆動(バッテリ駆動時間-約150分) |
外形寸法(W×H×D) | 320 × 310 × 180mm(突起部含まず) | 241 × 190 × 70mm (突起部含まず) |
質量(バッテリー、SDHCカード含む) | 約7kg(バッテリー含む) | スコープユニット 0.99~1.66kg/ベースユニット 1.77kg |
その他 | ― | 光源ユニットの交換で紫外光、赤外光が使用可能(標準は白色光) |
※5
IPLEX NXでは4GBのSDカードが付属しており、静止画は約5400枚、動画は約100分が記録可能 |
IPLEXの製品詳細はこちら IPLEX GX/GT スコープユニット
取材協力:オリンパス株式会社 製品のホームページは こちらから