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直流電子負荷の基礎と概要 (第1回)

直流電子負荷が使われる市場の動向

スイッチング電源

1960年代にNASAの研究によって開発されたスイッチング電源は小型、軽量、高効率の特長が市場で受け入れられ広く使われるようになった。

また、デジタル電子回路の低消費電力化を実現するためにICの駆動電圧を下げる開発が行われた。このため高速に動作するデジタル回路基板には複数のDC-DCコンバータが配置され、デジタルICに供給する電源電圧の安定化がされるようになった。これらのDC-DCコンバータは高速に変動する負荷に追従することができる設計となっている。

日本国内では1994年には現在の電子情報技術産業協会(JEITA、1994年当時は日本電子機械工業会(EIAJ))がスイッチング電源の試験規格(RC-9002A、現在のRC-9131D)を定めた。改定はされているが、現在もこの規格に従ってスイッチング電源は評価されている。

直流電子負荷装置には低電圧から抵抗と同じような挙動が求められるようになり、最近の直流電子負荷装置はゼロボルトから負荷として駆動する性能を持っているものがある。

LED照明装置

環境意識の高まりからエネルギー効率が悪い白熱電球や有害物である水銀を含む蛍光灯などの利用が縮小して、環境負荷の少ないLED照明の拡大が進んでいる。また寿命が長く、複数のLED素子を使った高度な照明制御が可能なため自動車のヘッドランプにもLEDの採用が進んでいる。

LEDを駆動するには専用の電源装置が必要となるため、LEDモード対応電子負荷装置の需要は増えてきている。

ハイブリッド車/電気自動車

パリ協定で定められた環境目標を達成するためにCO2の排出が少ないハイブリッド車や排気ガスのない電気自動車は今後普及すると予測されている。電動車にはリチウムイオン電池や燃料電池が搭載されている。このため電池の特性を評価する装置やリチウムイオン電池に充電する装置の試験が必要となる。

電気自動車に搭載されている大容量のリチウムイオン電池へ短時間で充電することが課題となっているため、今後大容量の充電器の開発が進むと期待されており、それを評価する大容量直流電子負荷の需要も期待できる。

蓄電システム

太陽光や風力を使った再生可能エネルギー発電は天候による変動が大きいため、需要に合わせてエネルギー供給を行うためには蓄電システムが必要となる場合がある。また天災による停電に対応するために蓄電システムを導入する動きもある。

今後、蓄電システムの低価格化が予測されるため、蓄電システムの需要は増加すると予測される。

蓄電システムには充電回路が搭載されているため、製品を開発する際には電池を模擬する直流電子負荷装置が必要となる。

データセンター用HVDC電源

データセンターの大型化に伴ってIT機器への効率的なエネルギー供給システムの要求が高まっている。現在のデータセンターでは系統から交流電源を受電して、データセンター内で何度か交流と直流の変換が行われる。変換によるロスを少なくするために高電圧直流給電(HVDC)が提案されている。

図9. 高電圧直流給電(HVDC)システムの仕組みとメリット

図9. 高電圧直流給電(HVDC)システムの仕組みとメリット

出典:「直流には直流」で、省エネを実現 電力の安定供給もおまかせ!(NEDO PROJECT SUCCESS STORIES)

高電圧給電装置の評価には大容量の直流電子負荷が必要となる。

直流電子負荷装置の動作モード

直流電子負荷装置が登場した当時は定電流動作モードと定抵抗動作モードに2種類しかなかったが、現在の直流電子負荷は多くの動作モードを持っている。

定電流(CC)動作モード

電源装置や電池からの電流値が設定値になるように動作するモードである。電源装置や電池の端子間電圧が変動しても直流電子負荷に流れる電流は一定となる。定電圧出力の電源装置や電池の試験に使われる動作モードである。

図10. 定電流(CC)動作モード

図10. 定電流(CC)動作モード

一般に定電流(CC)動作モードはスイッチング電源の負荷変動試験や電池の放電試験に使われる。

定電圧(CV)動作モード

電源装置や電池に接続された直流電子負荷装置の端子間電圧が設定電圧になるように動作するモードである。充電器のような定電流出力の電源装置を試験する場合に使われる。

図11. 定電圧(CV)動作モード

図11. 定電圧(CV)動作モード

定抵抗(CR)動作モード

電源装置や電池に接続された直流電子負荷装置が抵抗と同じように動作するモードである。受動素子である抵抗を使った試験を直流電子負荷に置き換える場合に使われる。

図12. 定抵抗(CR)動作モード

図12. 定抵抗(CR)動作モード

定電力(CP)動作モード

電源装置や電池に接続された直流電子負荷装置が設定された電力で消費されるよう動作するモードである。電源装置や電池の自己発熱や電源装置の変換効率を測定する場合に使われる。

図13. 定電力(CP)動作モード

図13. 定電力(CP)動作モード

外部制御(EXT)モード

直流電子負荷装置にある外部制御入力端子に電圧信号を入力すると電圧値に比例した負荷電流値になるように動作する。

短絡(SHORT)動作モード

直流電子負荷装置が短絡状態(内部最小抵抗値)になる動作モードである。

電源装置や電池モジュールに組み込まれている保護機能を試験するときに使われる。

リミッタの設定

直流電子負荷装置は端子間の電圧と電流を常に測定しているため、測定された電圧値や電流値が設定されたリミット値を超えたときに動作モードを切り替える仕組みがある。リミット機能の動作はいくつか用意されているので用途に応じて使い分ける。

リミット値を設定することによって測定対象の破損を防ぐことが可能となる。特にリチウムイオン電池などの二次電池は規定された電圧を超えて放電を続けると電池の破損や劣化を早めるためリミット設定は必須となる。

図14. さまざまなリミット機能の動作

図14. さまざまなリミット機能の動作
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