技術情報・レポート

2019/07/03

~ フルークが、SoundSight™ テクノロジーで、音を可視化‼ ~ 産業用超音波カメラ Fluke ii900

現場測定器の代名詞とも評される、FLUKEブランドは、目立つ黄色い筐体をした、いかにも堅牢なハンドヘルドのマルチメータなどで際立つ存在だ。最近では、特に、工業用の画像処理技術を駆使した、工業用内視鏡(ビデオスコープ)やサーモグラフィカメラなどで、品揃えを拡充してきた。そのフルークが、この令和元年5月にユニークなカメラを発売した。今回、紹介する、超音波を可視化する産業用超音波カメラがそれだ。人間の耳では聞こえなかった音を多数のセンサマイクがセンシングして、音源を可視化してくれる。工場に配管されている圧縮空気システムの漏れ探査などに、新たな技法を提供する。株式会社TFFフルーク社 マーケティング部 村井瑛二氏にお話を伺い、製品デモをお願いした。

バナー

ii900 の搭載技術

裏面の黒い円盤状のパネルに、64個のMEMS※1マイクがアレイ状に搭載されているのが印象的だ(左写真上)。パネル中央に見えるのは、可視カメラのレンズ穴だ。このパネルを、音源のあると思われる測定現場に向けることで、探査を進める(右写真)。センシングされた超音波が、アレイ状のマイクを通過する時に発生する遅延により、音の発生源の方向が識別される原理だ。判定された音の向き情報は、SoundMap™ と呼ばれる音響画像処理ソフトウェアにより、超音波のライブ画像となる。SoundMap™ は、可視画像に重ねてカラー表示されるので、超音波の発生場所を容易に特定できる(左写真下)。64個ものマイクが装備されているので、大きな領域をスキャンでき、遠く離れた場所の漏れを捕捉することも可能だ。フルークでは、これら音の可視化を、SoundSight™ テクノロジーと呼んでいる。漏れの大きさが、紫から赤までの色で表現されるので、発生場所を直観的に認識できる。

※1

Micro-Electro-Mechanical-Systems:微小電気機械システム(微細な加工で作られた機械エレメントと電子機械エレメントから構成されるシステム。半導体の加工技術が使われることが多い)

ii900 産業用超音波カメラの正面と裏面写真

ii900 産業用超音波カメラの正面と裏面写真

音源探査シーン

音源探査シーン

デモンストレーションで、実際の測定画面を見てみよう。次の画像は、テーブルに置かれたスマートフォンのスピーカから20kHz近辺の音を発生させ、測定したものだ。スマホからの音の発生場所が、画面上でよく示されている。白い楕円の線で囲ったエリアには、スペクトラムが表示されている。ii900 の周波数帯域は、下から上へ縦にメモリが振られていて、2kHzから52kHzだ。スペクトラムの振幅は、オレンジ色で示されていて、よく見ると20kHz近くにシャープなスペクトラムが存在していることが分かる。スマホからの音だ。四角い枠は、音圧レベルを測定・表示する周波数帯域で、その帯域内の音圧レベルが、画面上に色で表示される。スクリーンはタッチパネルなので、四角い枠の●表示部分を上下に動かすことで、周波数帯域は自由に設定できる。この機能を使うことで、周囲の騒音が多い場合でも、狙った音域で探査ができる訳だ。

ii900 表示画面例 画面右側に音のスペクトラムが表示される。ここでは、表示がされていないが、画面中央にマーカを入れ、音圧レベルを表示可能。

ii900 表示画面例 画面右側に音のスペクトラムが表示される。ここでは、表示がされていないが、画面中央にマーカを入れ、音圧レベルを表示可能。

フルーク社の沿革と ii900 開発の背景と使用シーン

フルーク社は、ジョン・フルークが1948年に米国ワシントン州エバレットで創業した、歴史のある計測器メーカである。ダナハーコーポレーション傘下の時代を経て、現在は、ダナハーから分割設立されたフォーティブコーポレーション(Fortive Corporation)傘下の、株式会社TFFの社内カンパニーとして、位置づけられている。TFFは、日本の株式会社フルークと日本テクトロニクス株式会社の統合会社だ。

産業用超音波カメラ ii900 の開発動機は、顧客の声だという。ご存知のように、フルークは、工場の現場で使用される測定器を、数多く製品ラインアップしている。電圧・電流・抵抗といった電気量だけでなく、温度や工場の機械保守や環境測定など、フルーク製品を使用している顧客の「困りごと」は、製品開発アイデアの宝庫と言えよう。超音波カメラも、そうした顧客の声から生まれた製品だ。

駆動エネルギー源として、圧縮空気システムは、多様な産業で見ることができる。製鉄・化学・製紙などプロセス工業や食品・飲料などの製造現場はもちろんだが、自動車や航空などの分野でも、安全な空気の力を活用している。このような圧縮空気システムの利用現場では、一説によれば、平均的に30%ものエアーロスがあると言う。従来、集音器のついたマイクとイヤホンや石鹸水などで、漏れの箇所を特定していた作業に、ii900 を使用すれば、漏洩箇所がたちどころに発見でき、効率も上がることになろう。測定対象は、エアーに限らず、蒸気、ガス、真空など多岐にわたる。ビルの空調設備や病院の医療用空気施設も対象である。

圧縮空気漏れのある個所の探査例

圧縮空気漏れのある個所の探査例

エアーダスターガンの空気漏れの探査例

エアーダスターガンの空気漏れの探査例

電気の分野でも、応用の可能性が出てきた。送電線路におけるコロナ放電で生ずる、コロナ雑音は含まれる周波数の範囲は15kHz~380MHz程度にわたる広いもの※2だそうだが、雑音電界は、音波としても空中を飛ぶ。人間の耳では聞きづらい、もしくは聴こえない、この音を ii900 で捉えた画像が下記の探査例である。30kHz近辺の音が示されている。コロナ放電探査に、どこまで ii900 が有効かは、まだ明らかではないが、応用分野のひとつとして、その可能性が期待されている。

※2

「 」は、公益社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座資料から引用。

絶縁劣化によるコロナ放電の探査例

絶縁劣化によるコロナ放電の探査例

導入効果

ここで、ii900 を導入した際の、考えられる導入効果を挙げてみよう。

  • 圧縮空気の漏れ検出時間の削減
  • エネルギーコスト削減
  • 空気圧力の適切維持、故障修理の作業の有効性確認
  • 生産ラインの信頼性改善
  • 空圧機器予算の最適化(設備投資の削減)

などが、考えられる。

リーク箇所の可能性は、バルブ、フランジ、分岐、ホース、ストレージタンクなど多岐にわたるので、探査作業も広範囲に及ぶこともあろう。作業効率を上げるツールが望まれる所以だ。

フルーク製品への期待

モデル名 ii900 の“ii”の由来は、「Industrial Imaging」から派生しているとのこと。フルークが、「工業用画像処理」の分野に力を入れていることは、熱画像を撮るサーモグラフィカメラの品揃えが拡大していることからも、その戦略が見て取れる。ii900 で、音の領域に、これが拡大した。ii900 の使われていくシーンが、ますます増えていくだろう。約2百万円と高額な測定器にも関わらず、顧客からの問い合わせは多い。フルーク製品は、堅牢性(Ruggedness)、安全(Safety)、確度(Accuracy)の3つで高い顧客満足を得ている。これからも、ii900 のようなユニークな測定器がでてくることを期待したい。

ii900 を前に、フルーク社 マーケティング部 村井氏 (ii900 の後ろは、付属のキャリングケース)

ii900 を前に、フルーク社 マーケティング部 村井氏 (ii900 の後ろは、付属のキャリングケース)

仕様

主な仕様を下表に示す。

センサー
マイク数 デジタル MEMS マイク 64 個
周波数帯域 2 kHz ~ 52 kHz
音圧感度 最大 10 メートルより 689.7kPa 時に 0.005 cfm の漏れを検出
(7 bar 時に 2.5 cm3/ 秒 の漏れを検出)
作動距離範囲 0.5 ~ 50 m 未満
視野 63 ° ± 5 °
最少フレーム・レート 12.5 FPS
内蔵デジタル・カメラ (可視光線)
視野 (FOV) 63 ° ± 5 °
焦点 固定レンズ
ディスプレイ   7 インチ LCD (バックライト付き)、太陽光の下でも判読可能
分解能 1280 x 800 (1,024,000 ピクセル)
タッチスクリーン 容量式
音響画像 あり、 SoundMap™ 画像
画像の保存先
保存容量 内蔵メモリー、画像 999 ファイルまたは動画 20 ファイルを保存可能
画像フォーマット JPG または PNG (可視画像と SoundMap™ を合成)
動画フォーマット MP4 (可視画像と SoundMap™ を合成)
動画の長さ 30 秒
デジタル・エクスポート USB-C のデータ転送
音響測定
測定レンジ 2 kHz 時に 29.7 dB ~ 120 dB SPL
19 kHz 時に 16 dB ~ 106.3 dB SPL (± 1 dB)
52 kHz 時に 21.4 dB ~ 117 dB SPL (± 1 dB)
自動最大 / 最小 dB ゲイン ユーザーが自動または手動を選択可能
周波数帯域の選択 ユーザーのプリセットまたは手動入力により選択可能
ソフトウェア
簡単な使用 直観的に使用できるユーザー・インターフェース
トレンド・グラフ 周波数および dB スケール
スポット・マーカー 画像の中心に dB 値表示
電池
バッテリー (現場での交換可能、充電式) 充電式リチウムイオン電池、Fluke BP291
バッテリー寿命 2 時間以下 (予備バッテリーも同梱)
バッテリー充電時間 3 時間
バッテリー充電システム 外付けデュアルベイ充電器、EDBC 290
一般仕様
作動温度 0 °C ~ 35 °C
寸法 (高さ x 幅 x 長さ) 186 mm x 322 mm x 68 mm
重量 (バッテリー含む) 1.7 kg
保証期間 2 年
注)本器は、校正対象製品ではない。依頼により、機能検査をフルーク社で対応する。

産業用超音波カメラ Fluke ii900 の製品詳細・カタログは こちら

取材協力:株式会社TFFフルーク社 ホームページは こちらから