自動車をとりまくルール~安心安全の基本
産業機器は数多くの法規などに準拠して開発、生産、販売されていますが、とりわけ自動車は人命と直接的に関係するため、安全性はもとより、環境などに対する制約を受けます。対象は国内だけでなく販売先の国々や地域の法令を遵守することが求められます。仮に、違反が判明すると、リコール※1の処置にとどまらず、賠償の対象となります。更に、近年では自動車システムの高度化に伴い、サイバーセキュリティなど新たな規制が導入されています。一方、運転者に対しては、道路交通に関する多くのルールを順守することが求められます。
リコールに関連する記事は以下をご覧ください。
2021年11月公開:「自動車の品質をより良くするために~リコール制度について」
本稿では、自動車に関連した法規などについて概説します。法令である道路運送車両法・保安基準、道路交通法(道交法)、道路運送法、高圧ガス保安法などの概要を述べます。規格として制定されている機能安全規格 ISO 26262やSOTIF ISO 21448、またWP29で協定が採択されたサイバーセキュリティについても触れます。最後に自動車開発で使用される計測器を紹介します。
《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、記載されている法令や規格等に関する記述は参考情報であり、原文を保証するものではありません。さらに、記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》
自動車を取り巻くルールの概要
自動車を取り巻くルールは多くの分野を対象としています。大別すると、道路運送車両法や道路交通法などの法律、品質の維持向上を定めた規格、物つくりの基本である日本産業規格(JIS)や開発品質を定めた規格などがあります。なお、各法律には施行するための政令や規則なども定められています。表1は自動車に関連する各種ルールの例です。主要な法令や規格については次節以降で解説します。
個々のルール解説
主要な法令や規格について、特長的な事項について解説します。日本における法令は法令検索(e-GOV)をご利用ください。全文を閲覧できます。また、日本法令索引で、明治19年2月の公文式施行以後の法令と法案について、法令の改廃経過や法案の審議経過等が参照できます。
1 道路運送車両法、保安基準
自動車に関する法令の中で、道路交通法と合わせて中核をなしています。昭和26年6月1日に公布されました。「この法律は、道路運送車両に関し、所有権についての公証等を行い、並びに安全性の確保及び公害の防止その他の環境の保全並びに整備についての技術の向上を図り、併せて自動車の整備事業の健全な発達に資することにより、公共の福祉を増進することを目的とする」とされています。自動車や原動機付き自転車、軽車両などに関して、登録、安全性確保、公害防止、整備などについて規定されています。全八章で構成されています。第三章は保安基準として、自動車の構造や装置に関して詳細な要件が定められています。保安基準で規定されている要件は表2です。
2 自動車の種類
自動車の種類や区分は道路運送車両法によるものと道路交通法によるものがあります。登録や車検などについては道路運送車両法が、運転免許や取り締まりについては道路交通法が適用されます。表3は道路運送車両法による分類、表4は道路交通法による分類です。表5は電動バイクとエンジン車との比較です※2。なお、細則がある事項もありますが記述を省略しています。詳細は各法令を参照してください。
電動車いす、電動アシスト自転車は道路運送車両法に該当しない。電動キックボードや立ち乗り式スクータの多くは「原動機付自転車」に該当する。
3 ナンバープレート
公道を走る自動車には道路運送車両法や道路交通法などの法令で定められたナンバープレートが付いています。その仕組みについて解説します。なお、細則の記述を省略している項目もあります。ナンバープレートは図1の通り、地名・分類番号・使用用途・一連指定番号の4つの要素で構成されています。各構成要素の仕組みは図2となります。
4 運転免許の区分と種類
自動車運転免許の区分は3つです。第一種運転免許、第二種運転免許、仮免許です。第一種運転免許は公道で自動車や2輪車を運転するために必要です。第二種運転免許はタクシーやバスなど、営利目的で運送するために必要です。仮免許は第一種、第二種免許を取得するために公道を運転するための免許です。次に運転免許の種類を紹介します。第一種は10種類、第二種は5種類あります。なお、取得条件等の細則があります。
5 道路交通法(通称は道交法)
昭和35年6月に公布されました。「この法律は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、及び道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的とする」とされています。自動車や自転車などの車両や乗る人、歩行者に対しても、道路上で安全に走行、歩行することができるようにするため、色々な規則を順守することが求められます。全八章で構成されています。歩行者の通行方法、車両および路面電車の交通方法、運転者および雇用者などの義務、道路の使用、自動車および原動機付自転車の運転免許、交通違反などです。身近な例として、交通違反の点数例を紹介します。100以上の違反行為が定められています。表7は違反行為の抜粋です。最高位の違反行為は「酒酔い運転」です。
道路交通法を実施するための政令として、道路交通法施行令が定められています。その中で、歩行者の通行方法として行列が規定されています。デモ行進などに加えて、「象やきりんの行列」が表記されています。公布当時の名残でしょうか。
6 道路運送法
昭和26年6月に公布されました。「この法律は、貨物自動車運送事業法(平成元年法律第八十三号)と相まって、道路運送事業の運営を適正かつ合理的なものとし、並びに道路運送の分野における利用者の需要の多様化及び高度化に的確に対応したサービスの円滑かつ確実な提供を促進することにより、輸送の安全を確保し、道路運送の利用者の利益の保護及びその利便の増進を図るとともに、道路運送の総合的な発達を図り、もつて公共の福祉を増進することを目的とする」とされています。タクシーやバスなどの旅客事業や貨物自動車などの運送事業、自動車道の事業について規定されています。貨物自動車の運送事業については貨物自動車運送事業の定めによるとされています。旅客事業については国土交通大臣の許可が必要で多くの申請事項が求められます。表8は一般乗合旅客自動車運送事業に係る手続きの例です。路線の新設から始まり料金の設定など多くの申請が必要です。
7 高圧ガス保安法
一定圧力以上に封入された高圧ガスの製造、貯蔵等の扱いについて規定しています。高圧ガスとしては、圧縮ガス、液化ガスなどがあります。燃料電池車の水素ガスタンクも対象となりますが、本法律(経済産業省 所管)と道路運送車両法(国土交通省 所管)との二法令で規定されています。今後、道路運送車両法へ一本化が検討されています(2023年度中の予定)。高圧ガスは自動車用途であれば、取り扱いが軽減されている物もあります。例えば、アクティブサスペンション、ショックアブソーバなどで使用される高圧ガスです。
8 車両の標識
危険物を運ぶ際には標識の掲示が必要です。図3のタンクローリなどで見かけます。消防法、高圧ガス保安法、毒物、劇物取締法、火薬取締法などで標識の掲示が求められています。主要な標識は図4です。
9 TBT協定(Technical Barriers to Trade)
WTO(世界貿易機構)の加盟国は、貿易において、製品の規格や評価手法などが、不必要な貿易障害とならないように国際規格をベースとして運用することなどを規定しています。例えば、国際規格をベースとした規格を制定することや貿易の障害となるような規格制定を避けたりすることです。具体例としては、国際連合欧州経済委員会自動車基準調和世界フォーラム(WP29)で制定された自動運転関連の規格をベースとして国内規格を制定しています。JNCAP※3もNCAPやEuro-NCAPを準用しています。
(Japan New Car Assessment Program)日本の自動車アセスメント。詳細は以下をご覧ください。
2021年1月公開:「自動車の安心・安全を評価する仕組み〜日本の自動車アセスメントJNCAP」
10 機能安全規格 ISO 26262
機能安全規格 IEC 61508をベースとして、自動車の電気電子システムを対象とした機能安全規格 ISO 26262が制定されました。2018年に第二版が発行され、二輪車やバス・トラック、半導体関連が追加されました。システムが故障してもハザード(危険事象)が許容できるレベルまで低減できるようにするマネジメントや開発手法が規定されています。許容可能なリスクのレベルをASIL(Automotive Safety Integrity Lebel:エーシルと呼称)で設定し対応します。
11 SOTIF(Safety of The Intended Functionality)
ISO 21448 2022年3月制定。「意図した機能の安全性」を考え方として導入されました。システムが正常に動作していても機能不全や性能低下、天候などの環境の影響、ユーザの不適切な介入操作などによって発生するリスクを評価して対策を検討することが規定されています。機能安全規格 ISO 26262では機能の故障を対象としていますが、SOTIFは故障によらない意図した機能の不備や人為的な操作による機能不備が対象となります。ISO 26262と相補することでより安心安全なシステムの構築が可能となります。
12 サイバーセキュリティ
WP29におけるサイバーセキュリティに係る協定(第155)とソフトウエアアップデートに係る協定(第156)の採択を受けて、道路運送車両法が改訂されました。対象は乗用車やトラック、バスから農業用トラクターまで幅広く適用されます。適用時期は新型車と継続生産車で異なります。UN-R155、UN-R156は車両の型式認証の取得につながることから、OEMを対象としていますが、サプライヤも役割分担が求めれるでしょう。サプライヤが主体的に準用すべき規格はISO/SAE 21434となります。2021年8月に発行されました。WP29の協定からも参照されています。内容はサイバーセキュリティに対応するマネジメント、リスク分析、製品開発要件、保守などが規定されています。サイバーセキュリティに関する記事※4は以下をご覧ください。
2020年10月公開:「待ったなし、自動車のサイバー攻撃対策 〜今年6月のWP29の採択と今後の自動車業界の対応」
13 ISOの制定
ISO規格が制定されるまでの手順を概説します。通常、6つの工程で処理されます。作業グループWG(Working Groupe)や加盟国の議論や投票などを経て、最初の提案から規格の発行までを36か月の期間で処理します。
- (1)新作業項目(NP:New Proposal)の提案
- (2)作業原案(WD:Working Draft)の作成
- (3)委員会原案(CD:Committee Draft)の作成
技術的な問題が解決できない場合、TSとして発行可能 - (4)国際規格原案(DIS:Draft Standard International)の策定
- (5)最終国際規格案(FDIS:Final Draft International)の策定
- (6)国際規格の発行
自動車関連の規格を扱う専門委員会TC22(Technical Committee) Road Vehicleには11の分科委員会SC(Sub Committee)があります。日本はSC32(電子・電装部品およびシステム)とSC38(モータサイクルとモペット)の議長国です。
関連計測器の紹介
その他の製品や仕様については 計測器情報ページ から検索してください。
おわりに
自動車が安心安全であることを実現する基本は運転者が法令を規範として行動することです。また、自動車を取り巻くルールは道路運送車両法など基本となる法令に加えて、JISなどの物つくりの基本から、時代とともに適用される技術分野が拡大しています。今後も、CASE※5やカーボンニュートラル※6への対応に合わせて、求められるルールの拡大や高度化が更に進むでしょう。
Connected(コネクティッド)、Autonomous(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)の頭文字をとった造語。
温室効果ガス(CO2など)の排出量から植林などによる吸収量を差し引いて合計を実質的にゼロにすること。
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