市場動向詳細

電動化の進展~カーボンニュートラルに向けた動向

9月7日からドイツ ミュンヘンで開催された国際モータショー「IAA MOBILITY2021」※1では、特にカーボンニュートラルの実現に向けた電動車両や技術の展示、発表が多くなされました。カーボンニュートラルに向けた動向が如何に重要かを物語っていると言えます。
本サイトでは、昨年12月、電動化に関する記事(*) を公開しましたが、本稿ではその後の動向について概説します。各国の規制方針から始まり、各OEMの状況、特に6月の展示会「テクノフロンティア2021」で公開された宏光EV Mini(上海通用五菱の格安EV車)の特徴を、写真を交えて説明します。また、電動化関連技術としてCHAdeMOやChaoJiなどの充電スタンド(充電規格)や、水素ステーションなどの新燃料、太陽光発電を利用した水素製造施設FH2Rの例などを紹介します。最後に電動化の開発に関連する計測器類を示します。
《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、本稿に記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》

※1

ドイツ自動車工業会(VDA)が例年ドイツ フランクフルトで開催していたが(通称:フランクフルトモータショ)、2021年からミュンヘンで開催される。

2020年12月公開記事:「電動化システムの主要技術と規制動向~進展するxEVの現状と今後」
https://www.techeyesonline.com/tech-eyes/detail/TechnologyTrends-2012/

各国の規制方針

各国の規制方針は規制値の強化や実施時期の前倒しが検討されています。2021年7月14日に欧州委員会が発表した資料によると削減目標の強化が提案されています。表1は走行中の乗用車におけるCO2削減目標です。カーボンニュートラルでの視点ではT2W(Tank to Wheel)と言われる定義で、燃料タンクから走行までの基準値となります。

表1 CO2削減目標の強化
表1 CO2削減目標の強化

新たな目標値で注目する点は、2035年までにCO2の排出をゼロにすることです。つまり、実質的にCO2を排出しない新燃料や水素エンジン以外の内燃機関を搭載できなくなります。なお、本発表は提案であって、採択されるかは未定ですが、規制は日々強化されていくと認識すべきです。米国においては、2021年8月5日にバイデン大統領が、「2030年までに全ての新車販売の50%を電気自動車にする」とする大統領令に署名しました。なお、日本における2035年時点の目標は電気自動車(EV)、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCEV)の販売を100%にすることとなっています。

バッテリに関する課題として、コバルトやリチウムなど希少物質のリサイクルが求められていますが、2020年12月に欧州委員会が電池に関する規制案を発表しました。かなり厳しい規制内容と理解できます。例えば、バッテリのライフサイクルでCO2排出量を告示する。CO2排出量の総量に上限を設定する。原材料の使用量を開示する。材料のリサイクル割合を設定するなどです。提案が採択されると、欧州域内でのバッテリ製造や技術ノウハウの流出など、バッテリビジネスへ大きく影響することになるかもしれません。

日本においては2021年4月1日に電池に関する協議会が設立されました。サイトによると(https://www.basc-j.com/)団体名は「一般社団法人 電池サプライチェーン協議会(Battery Association for Supply Chain : BASC)」。活動目的は「電池材料、部品及びそれらの原料の工業及びサプライチェーン関連産業の健全な発展を図ることを目的とする。」となっています。正会員資格は「日本国内に主要な拠点をもつ、電池、電池材料、部品及びそれらの原料の製造の業を営む法人及びこれらの者を構成員とする団体」です。現在、70社ほどが参加しています(2021年8月25日時点)。

主要OEM※2の方針

主要各社が発表した今後の電動化方針をもとにまとめました。詳細については各OEMの報道内容をご覧ください。

表2 主なOEMの方針
OEM 主要な方針
トヨタ 2030年までに電動車(HEV、PHEV、BEV、FCEV)の販売台数800万台以上
2030年までにBEV(バッテリEV)、FCEV(燃料電池車)の販売台数200万台以上
2050年までにカーボンニュートラルを実現
ホンダ 2040年までに全ての車両をBEVもしくはFCEV化
日産 2030年代早期に主要な市場向け新車を全て電動車化
2050年までにカーボンニュートラルを実現
メルセデス
・ベンツ
2022年までに全てのセグメントにBEVを導入
2030年までに全ての車両をBEV化
VW 2030年までにEU市場のBEV比率を60%以上
2050年までにカーボンニュートラルを実現
GM 2025年までに北米と中国で30以上のBEVを発売
2040年までにカーボンニュートラルを実現
※2

Original Equipment Manufacturerの略語。一般的には他社ブランドの製品を製造することだが、自動車業界では、自動車メーカのことを示す用語。自動車産業向けの品質マネジメントシステム ISO 16949でも自動車メーカと呼んでいる。本サイトでも同義として表記する。

宏光EV Miniの調査

各国や地域において、Aセグメント※3以下のEV車が販売されています。その中、中国で人気となっている格安なEV車、「宏光EV mini」に接する機会があったので紹介します。車両は一般社団法人日本能率協会が輸入し、2021年6月に東京ビッグサイトで開催された「テクノフロンティア2021」で展示されました。製造販売社は中国のOEM、上海通用五菱です。最大の特徴は価格です。日本円換算(8月20日の為替レート)で約49万円です。中国国内でも破格の値段と思われます。

※3

自動車の分類方法の1つ。主に欧州で使われる、サイズによる分類。日本ではコンパクトカーと呼ばれる車種や軽自動車が含まれる。

上海通用五菱のサイトによると、車両寸法は日本の軽自動車に比べて、全長はやや短く、全幅は広いです。仮に輸入する場合、軽自動車での登録は難しいです。内装、外装ともシンプルで必要な機能に絞り込んだ作りとなっています。構造上の特徴は、車軸懸架※4の後輪駆動であること。駆動モータ部をデフ(デファレンシャルギヤ)※5に直接取り付けているので、プロペラシャフトはなく、コストダウンと軽量化が図られています。オプションとして、電動コンプレッサによるエアコンや電動パワステを追加できるようです。ハンドルにエアバッグは装着されていないようです。上海通用五菱のサイトによると、電動パワステ(EPS)やアンチロックブレーキ(ABS)+制動力配分(EBD)は装着されています。

※4

サスペンションの構造。左右の車輪が車軸でつながっている構造。

※5

駆動軸にある差動歯車装置。内輪と外輪との速度差を吸収する。

それでは画像で特徴を説明します。一見すると軽自動車並みの車格です。

図1 宏光EV miniの外観
図1 宏光EV miniの外観

黒い部品の後ろ側にあるアルミ部材の部品が駆動モータです。放熱用のフィンが形成されているので空冷と思われます。インバータは駆動モータの前方に実装されている(写真に写っていない)。空冷と思われます。

図2 駆動モータ
図2 駆動モータ

メータはシンプルな形状の液晶、ハンドルにエアバッグは装着されていません。

図3 コクピット
図3 コクピット

ボンネットを開けるとオレンジ色のケーブルが接続された高圧部品(充電器、DCDCコンバータ)が実装されています。

図4 ボンネットの内部
図4 ボンネットの内部

エンブレム部を開けると充電コネクタが実装されています。コネクタの形式は中国規格GB/Tです。

図5 充電コネクタ
図5 充電コネクタ

日本においても、超小型モビリティを対象とした保安基準が改正され、最高速度が60km/h以下に制限されますが量産車として認定されます。新たなモビリティとして期待されていますが、日本の市場では軽自動車の電動化が喫緊の課題と言えます。主要な課題であるバッテリのコスト低減が厳しい見通しなので、早急なブレークスルーが待たれます。

電動化の関連技術

BEV(バッテリEV車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)に関係する周辺技術として、バッテリに充電する際の充電規格があります。また、CO2を排出しない燃料として、水素ガスや新たな燃料が注目されています。以下に各技術の概要について解説します。

1 充電規格

BEVを充電するためには、一般の家庭で行う普通充電と急速充電スタンドを使う方法があります。普通充電は車両側に搭載された充電器で充電します。家庭側には特に制約はありません。AC100Vもしくは200Vで充電できます。急速充電スタンドはBEVの走行距離を補い、長距離の走行を可能にする重要なインフラです。充電時にはスタンドのコネクタを車両のコネクタに装着して行います。このコネクタは現状では世界統一の規格となっていません。各規格の概要は表3です。

表3 充電規格
表3 充電規格

日本では、2010年に設立されたCHAdeMO(チャデモ 商標名)協議会が規格の策定や普及を行っています。CHAdeMO規格は世界で最も普及しているようです。69か国、18,000基(CHAdeMO協議会の情報による)。CHAdeMO協議会の詳細は以下のURLをご覧ください。充電スタンドのマップ、充電スタンドの位置情報提供サイトの情報なども掲載されています。https://www.chademo.com/ja/

充電スタンドを示すマークを見かけることが増えてきたと思います。よく見かけるマークは東京電力エナジーパートナーが商標登録した「CHARGING POINT」の案内表示です。その他にも、合同会社日本充電サービスが表示しているサインや熊本県を主として使われている「熊本県EV充電器」サインなどがあります。

図6 充電スタンドの表示例
図6 充電スタンドの表示例

日本国内に設置されている充電スタンドの規格としては、CHAdeMOの他に、SAE J1772規格の普通充電スタンド、さらに独自の規格を採用しているテスラ規格があります。日本車ではCHAdeMO規格とJ1772規格のコネクタが車両側に備わっています。一方、充電規格の統一化の動きが始まっています。中国の規格であるGB/TとCHAdeMOの統一化が2018年8月に合意されてChaoJiと命名されました。電動車の最大市場ある中国で日本と合意したことは充電スタンドの設置拡大に寄与することになるでしょう。また、欧州の規格であるCCSでもCHAdeMOが併記されることになりました。なお、テスラは独自仕様となっているので、各国の充電規格に対応するため、変換アダプタを準備しています。充電規格の統一化は各国政府や充電設備関係者の思惑があるので、今後の動向に目が離せません。

2 水素ガス

水素を化学反応により電気を取り出す方法で燃料電池車(FCEV)に適用されています。最近では、水素ガスを燃料とした内燃機関の車両でモータスポーツに参加した例もあります。排気ガスは、基本的に水だけとなります※6。水素ガスを用いる燃料電池車や内燃機関では、水素ガススタンドの設置やガスそのものの精製が課題です。

※6

水素ガスエンジンでは爆発工程で高温になるため、大気汚染物質である窒素酸化物(NOx)が排出されるため、除去する装置が必要となる。

1) 水素ステーションの設置状況

水素ステーションの設置個所は154箇所(2021.8時点 一般社団法人 次世代自動車振興センター集計)です。経産省 水素・燃料電池戦略ロードマップ(2019.3時点)によると、2025年度までに 320箇所を設置する計画となっています。水素ステーションの種類としては、定置式と移動式があります。移動式はタンクや供給装置一式が装備されたトラックなどで運用されています。定置式にはオンサイト式とオフサイト式があります。オンサイト式はステーション内で都市ガスやLPガスなどから水素を製造し供給できるようになっています。オフサイト式は水素を外部からトレーラなどで運びステーション内に貯めて供給する方式です。

図7 水素ステーションの種類
図7 水素ステーションの種類

2) 水素の製造方法

水素の製造方法は大きく分けると4つの方法があります。

  1. ① 石油、天然ガス等の化石燃料から触媒を用いて改質
    他の方法に比べて大量で安価に製造することができますが、CO2も多く排出されます。
  2. ② 製鉄所や化学工場等からの副性ガスを分離・精製
    副次的に発生するので安価ですが、製鉄所で利用するための追加設備が必要になり、CO2の排出が増えます。
  3. ③ 自然エネルギで得られた電気を用いて水を電気分解
    製造コストは他の方法に比べて高くなります。天候に依存し、水素の精製量が変動します。
  4. ④ バイオマス(家畜の糞尿、食品の残渣等)の発酵によって得られたメタノールやメタンガスを触媒で改質
    エコな方式です。製造コストは他の方法と比べると高価です。牛一頭から得られる一日の糞尿で燃料電池車を20km走らせることが可能な試算もあります。
図8 水素の製造方法
図8 水素の製造方法

上記③の方式として、NEDO(国立研究法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)、東芝エネルギーシステムズ(株)、東北電力(株)、岩谷産業(株)が、2018年から福島県浪江町に建設し、太陽光発電を利用した世界最大級となる水素製造装置を備えた水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド(Fukushima Hydrogen Energy Research Field(FH2R))」が2020年3月に稼働しています。システムの概要は図9、図10です。
詳細はNEDOのサイトをご覧ください(https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101293.html)。

図9 FH2R施設外観
図9 FH2R施設外観

出典:NEDO

図10 FH2R システム構成
図図10 FH2R システム構成

出典:NEDO

3 合成燃料

合成燃料は、CO2と水素とを合成して製造される燃料です。特に再生エネルギを活用して精製された水素を用いた場合はe-fuelと言われます。自動車などによって排出されたCO2や発電所などから排出されるCO2を回収し、合成燃料を精製できれば、CO2のリサイクルが実現できます。大気中のCO2を回収する技術はDAC(Direct Air Capture)と言われており、カーボンニュートラルに貢献する技術として期待されています。合成燃料でのCO2をリサイクルするイメージは図11となります。

図11 合成燃料でのCO2リサイクルイメージ
図図11 合成燃料でのCO2リサイクルイメージ

関連計測器の紹介

図12 電動化の開発で使用される計測器の例
図図12 電動化の開発で使用される計測器の例

その他の製品や仕様については 計測器情報ページ から検索してください。

おわりに

カーボンニュートラルに大きく影響する自動車の電動化は、規制強化や各OEMの方針が日々アップデートされており、動向に目が離せません。今後も、電動化に関する記事を提供していきます。


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