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2021/08/30

自動車の基本~サスペンションの技術

自動車サスペンションの生い立ちは滑らかでない道路を快適に走るため、車体に取り付けられた部品です。サスペンション(suspension)の直訳は「ぶらさげる」ですので、車体に車輪をつなげる部品と言えます。また、自動車の三大機能「走る、曲がる、止まる」に直接関与する部品でもあり、車両の安定化を図る重要な機能です。また、近年、電子制御によるサスペンションも採用されています。

本稿では、サスペンションの歴史、構造の分類と機能の概要を述べます。独立懸架と車軸懸架の違い、ダブルウィッシュボーン式やマクファーソン・ストラット式などの各種形式の概要、トー角やキャンバ角などのタイヤ角度を図解して説明します。さらに、アクティブサスペンションやショックアブソーバ制御などの電子制御技術も解説します。最後にサスペンション開発で使われる計測器を紹介します。
《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、本稿に記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》

自動車用サスペンションの歴史

世界で最初の4輪車として評価されているダイムラーでサスペンションが採用されています。図1は1885年に製作されたダイムラーの1号車です。車体と車輪との間に板バネ状の構造物を見て取れます。これが、サスペンションです。

図1 ダイムラー1号車
図1 ダイムラー1号車

当時のサスペンションは車体の安定性向上を狙ったものではなく、不整地を走るときの乗り心地を改善することが目的でした。その後、自動車の技術はエンジンに限らず、自動車レースに主導されて革新的な技術が導入されてきました。この状況は現在の自動車に係る技術の進化もレースによって培われたと言えます。ダイムラー1号車で採用されたサスペンションは板バネで構成され、左右輪が一体の構造でしたが、その後、リーフスプリングがコイルスプリングへ、前輪用として左右独立したサスペンションが考案され、サスペンションの構造は現在の車両で採用されているダブルウィッシュボーン、マックファーソン・ストラットなどが継続して考案されました。各種の方式については後ほど説明します。

サスペンションの基本原理

サスペンションの基本構成部品は車輪を支えるアームとバネ、ショックアブソーバです。路面から伝わる振動をバネで緩衝し、ショックアブソーバで振動を減衰させます。サスペンションに装着するタイヤは一輪当たり葉書一枚程度の面積で路面と接しています。その面積で、車両の操舵性や操舵感覚、乗り心地を確保しているので、タイヤの動きが重要になります。タイヤの動きとしては、6つの自由度があります。XYZ軸で表現すると、各軸の位置、各軸の回転となります。この自由度を拘束し、制限する機能がサスペンションとなります。

サスペンションの構造

サスペンションの構造を大きく分類すると、独立懸架と車軸懸架に分けられます。

1 独立懸架

独立懸架とは字の通り、左右の車輪が独立に動作することが可能な構造です。道路面の変化に柔軟に対応できるほか、いわゆるバネ下荷重※1が軽くなる効果もあり、前輪ではほとんどの車両で採用されています。後輪は上級車やスポーツタイプ、レース車両などで採用されています。

※1

バネを境にして、バネよりも下側についている部品のこと。車体に固定されていないタイヤ、ホイール、ブレーキ、サスペンションの部品など。乗り心地や操舵性に影響する。

図2 独立懸架の構造
図2 独立懸架の構造

2 車軸懸架

左右の車輪が車軸でつながっている構造で、元々は荷車で始まり、その後、車体と車軸との間にバネが使われるようになりました。なお、独立懸架方式に比べて、乗り心地性や操舵性能で劣りますが、構造が単純で丈夫なため、今でも、トラックなどの大型車両やSUVなどで採用されています。

図3 車軸懸架の構造
図3 車軸懸架の構造

サスペンションの形式

サスペンションの形式としては、ダブルウィッシュボーン式、ストラット式、トレーリングアーム式、マルチリンク式、トーションビーム式などがあります。各方式の特徴を概説します。本稿では各方式を明示的に分類していますが、実際の車両ではそれぞれの方式は車格や性能などの要件により、構成する部品の形状が異なっていることもあります。

1 ダブルウィッシュボーン式

ダイムラー1号車のサスペンション以降、レースでの操舵性や車体の安定性を求めて、車軸懸架から必然的に独立懸架が考案されました。部品の基本構成は、タイヤを取り付けるアップライト部と車体側とを上下二つのアーム(一般的にはA型アームと言われています)をつなげています。

図4 ダブルウィッシュボーン式の一例
図4 ダブルウィッシュボーン式の一例

2 ストラット式

1951年に英国 マクファーソンによって、前輪用のサスペンションとして考案されました。ダブルウィッシュボーンが長きにわたって採用されていたので、サスペンションのブレークスルーと言われています。氏の名前をとって、「マクファーソン・ストラット」と呼ばれることもあります。現在でも、多くの車種で採用されています。

図5 マクファーソン・ストラット式の一例
図5 マクファーソン・ストラット式の一例

3 トーションビーム式

小型FF車の後輪用として採用される事例が多いです。構造がシンプルでコストが安いこと、省スペースであることが特徴です。構造的に車軸懸架に分類されることもありますが、左右のアームをつなぐビームがねじれる構造なので、本稿では独立懸架に分類しました。

図6 トーションビーム式の一例
図6 トーションビーム式の一例

4 マルチリンク式

ダブルウィッシュボーン式のA字型アームを複数のアームに分けて構成したサスペンションをマルチリンク式と分類することもあります。ダブルウィッシュボーン式よりもタイヤの接地性や操縦性の向上が増す設計が可能なので車両安定性を高め易い構造です。スポーツタイプの車種や上級車で採用されています。

図7 マルチリンク式の一例
図7 マルチリンク式の一例

OEM各社の代表的な車両で採用されているサスペンションの構造は表1です。各メーカの仕様諸元に記載されている表記を引用しています。

表1 各社車種のサスペンションの例
メーカ 車種名 フロントサスペンション リヤサスペンション
トヨタ カローラ マクファーソン・ストラット トーションビーム
クラウン マルチリンク マルチリンク
ホンダ フィット マクファーソン・ストラット 車軸式
アコード マクファーソン・ストラット マルチリンク
日産 マーチ マクファーソン・ストラット トーションビーム
スカイライン ダブルウィッシュボーン マルチリンク
マツダ CX-3 マクファーソン・ストラット トーションビーム
CX-8 マクファーソン・ストラット マルチリンク
三菱 アウトランダ マクファーソン・ストラット マルチリンク
デリカD:5 マクファーソン・ストラット マルチリンク
スバル レガシィ マクファーソン・ストラット ダブルウィッシュボーン
レボーグ マクファーソン・ストラット ダブルウィッシュボーン
スズキ ソリオ マクファーソン・ストラット トーションビーム
スイフトスポーツ マクファーソン・ストラット トーションビーム
ダイハツ トール マクファーソン・ストラット トーションビーム
タント マクファーソン・ストラット トーションビーム
Mercedes-Bentz Cクラス マルチリンク マルチリンク
VW Golf マクファーソン・ストラット トーションビーム
BMW 3シリーズ マクファーソン・ストラット マルチリンク

これまで、サスペンションの構造を説明してきましたが、実際の車両ではタイヤの角度が車両の安定性などに影響します。タイヤに関係する特徴的な3つの角度(キャンバ角、キャスタ角、トー角)について説明します。

5 トー角

タイヤを上から見た時の車体に対するタイヤの角度をトーと言います。タイヤの先端側が狭い場合を「トーイン」、広い場合を「トーアウト」と呼びます。トーインになると車両の直進安定性が高まります。ハンドリングにも影響します。後輪は一般的にトーゼロとなっていますが、サスペンションの形式により、制動時やコーナリング時に走行性能を向上させるため、トーインとなるように設定される場合もあります。

図8 トー角度
図8 トー角度

6 キャンバ角

車両を正面から見た際、タイヤの中心線と路面との角度です。タイヤが車両の内側に倒れている場合を、「ネガティブキャンバ」、外側に倒れている場合を「ポジティブキャンバ」と呼びます。車両の直進性やコーナリング性能に影響する角度です。現在の車両ではポジティブキャンバに設定することはないようです。キャンバ角はサスペンションの方式により、静止状態と走行条件(制動、加速、コーナリング)では特性が変化します。

図9 キャンバ角度
図9 キャンバ角度

7 キャスタ角

ハンドルを操舵した際、タイヤの回転軸を車両の横から見た傾きをキャスタ角と呼びます。車両の直進性やハンドリングの特性に影響します。ハンドルを操作した後、手を離すと直進状態に戻るのはキャスタ角の設定によるものです。

図10 キャスタ角度
図10 キャスタ角度

サスペンションの電子制御

サスペンションも電子制御が進んでいます。近年では、高級車やスポーティな車種でショックアブソーバの減衰力を各種センサの情報に基づき制御し車両安定制御システム(VSC)と連携するシステムが普及しています。過去には、スプリングとショックアブソーバに替わり油圧のアクチュエータで車両を制御するシステムが採用された車種もあります。また、後輪を操舵するシステムも採用されました。ここでは、アクティブサスペンション制御、4輪操舵制御、ショックアブソーバ制御を概説します。

1 アクティブサスペンション

通常のサスペンションはスプリングとショックアブソーバを使用し、車体の衝撃を受動的(パッシブ)に緩和しますが、アクティブサスペンションは車両の各部位に搭載された各種のセンサの情報をもとに、油圧アクチュエータを制御しサスペンションの特性や車両の姿勢を制御するシステムです。自動車レースのF1を席捲しましたがその後、安全性などの要因により終息しました。自動車では複数の車種で採用されましたが、コスト等の課題のため、現状は一部の車種での採用にとどまっています。

システムを構成する主要な部品は、油圧系部品(パワーシリンダ、ポンプ、アキュムレータ)、加速度センサ(上下、前後、左右)、車高センサ、ECUなどです。サスペンションの基本構成は図11です。高圧ポンプで加圧されたオイルがECUに制御される油圧制御バルブでパワーシリンダへ送られます。シリンダ内のピストンにつながるロッドによりサスペンションを最適に制御します。アキュムレータは高圧のガスが封入されており、蓄圧や圧力変動の吸収を行います。

図11 アクティブサスペンションの構造
図11 アクティブサスペンションの構造
図12 アクティブサスペンションのシステム構成
図12 アクティブサスペンションのシステム構成

制御アルゴリズムとして、スカイフック理論などが採用されています。スカイフック理論を概説すると、車両を空中のある点から吊るすと、走行路面が振動しても車両本体は安定した姿勢を保つことができる理論です。力学的にはバネ要素とダンパ要素で構成されるので、複雑な演算が必要ないことが特徴です。

図13 スカイフック理論のイメージ
図13 スカイフック理論のイメージ

Mersedes-Bentz Sクラスにはマジックボディコントロールと称される車体制御システムが搭載されています。特徴的なことは、ステレオカメラで前方路面の凹凸状況を検知することです。各種のセンサ情報と併せて、4輪に装着されている油圧ユニットを制御し、凹凸の状況に合わせて滑らかな乗り心地を実現します。

2 4輪操舵

後輪をアクチュエータにより転舵するシステムです。制御の基本は、低速時は車両の最小半径を小さくして小回りが効くようにするため、前輪が操舵される方向とは逆に転舵します。例えば、ハンドルを右に操舵する時、後輪を左へ操舵します。高速走行時は操舵した時の走行安定性を向上させるため、後輪を前輪と同じ回転方向へ操舵します。車速などの条件により、後輪の操舵量を変化させます。制御のイメージは図14です。量産車での採用事例は、1985年日産 スカイライン、1987年ホンダ プレリュード、マツダ カペラなどがあります。

図14 逆位相操舵と同位相操舵
図14 逆位相操舵と同位相操舵

近年、4WSとして積極的にPRされていませんが、採用されている車種は、2020年ベンツSクラス、レクサスLC、RC、LS、ポルシェ911、カイエン、ルノーメガーヌRS,BMW7、アウディA8などです。

3 ショックアブソーバ制御

電子制御によるショックアブソーバの制御は上級車やスポーティ車で採用される例が増えつつあります。各センサなどから、ドライバのハンドル操作や車両の状態を検知しショックアブソーバの減衰力を制御します。減衰力を調整する機構の基本原理はショックアブソーバ内のオイル通路の面積を可変にすることです。通路が広ければ、減衰力は弱まり、逆に狭いと減衰力は強くなります。

図15 減衰力可変イメージ
図15 減衰力可変イメージ

関連計測器の紹介

サスペンション開発で使用される計測器の一例を紹介します。

図16 サスペンション開発用計測器の例
図16 サスペンション開発用計測器の例

その他の製品や仕様については 計測器情報ページ から検索してください。

おわりに

サスペンションの基本構造に大きな変革はないと推察されますが、これからも、快適性や安心安全の向上、車両としての特徴を表現する機能部品として進化していくでしょう。


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