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2021/05/28

自動車のブレーキ ~ますます高まる重要性

自動車のブレーキは自動車の基本的な機能である「走る」「曲がる」「止まる」の内、「止まる」を実現する重要な装置です。近年の高齢者によるアクセルとブレーキの踏み間違いと推定される自動車事故が散見されているので、国土交通省は、衝突被害を軽減するブレーキの装着を義務化する保安基準を発表しました※1。このような状況から自動車のブレーキシステムはますます重要性が高まっています。

本稿では、ブレーキの歴史を述べて、ドラムブレーキ、ディスクブレーキからトラックのブレーキまで、各ブレーキの基本方式や構造を図解して説明します。ブレーキの制御システムであるABSやESCについても概説します。その後に今後の方向性について述べ、最後にブレーキシステムの開発で使用される計測器の一例を紹介します。
《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、本稿に記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》

※1:

自動ブレーキ義務化が開始される時期、国産新型車:2021年11月以降、国産継続生産車:2025年12月以降(軽トラックは2027年9月以降)、輸入新型車:2024年6月以降、輸入継続生産車:2026年6月以降、参考:欧州は2024年7月から義務化開始
国土交通省のHP https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha08_hh_003618.html

ブレーキの歴史

世界最初のガソリンエンジン自動車として製作されたのは、1885年 ベンツのベンツ・パテント・モーターカ(Benz Patent Motorwagen)です。この自動車には革ベルトのブレーキが採用されていました。

図1 ベンツ・パテント・モーターカ
図1 ベンツ・パテント・モーターカ

ガソリン自動車より前の乗り物は基本的に馬車の構造物を流用したのでブレーキも同様に、車輪に摩擦材を押し付ける構造でした。その後、自動車の速度が高まるとともに、止まるための装置として、ブレーキは進化してきました。ブレーキは自動車の運動エネルギを熱に変換しますが、自動車が100km/hで走行している時に急停車したとすると、2リットルの水が3秒くらいで沸騰する熱を発生させます。自動車用ブレーキの進化はドラムブレーキ、ディスクブレーキ、油圧化、電動化です。ブレーキの機能を安心・安全の観点でとらえると、当初の車輪ロックを抑制するABS(Antilock Brake System)から、色々な走行状態に対応する車両の姿勢を安定化するシステムへ進化しました。

ブレーキの構造

自動車用の各種ブレーキについて概説します。ブレーキを機能で分類すると、フットブレーキ、パーキングブレーキ、回生ブレーキです。先ず、フットブレーキで使われている技術について説明します。

1 ドラムブレーキ

自動車の発展とともに主流となったのはドラムブレーキです。

図2 ドラムブレーキの例(タイヤを外した状態)
図2 ドラムブレーキの例(タイヤを外した状態)

ドラムブレーキを構成する基本的な部品は、金属製のドラム、ブレーキシュー、ブレーキシリンダです。ドラムは車輪側へ取り付けられます。

図3 ブレーキドラム ブレーキシュー、ブレーキシリンダ
図3 ブレーキドラム ブレーキシュー、ブレーキシリンダ

ブレーキの作動原理を図4で説明します。ブレーキペダル(①)を踏むと、マスターシンリンダ(②)内のブレーキ液の圧力が高まり、ブレーキパイプ(③)を経て、ブレーキピストン(④)が外側へ向かって動かされます。そうすると、ブレーキシュー(⑤)がドラム(⑥)に押し付けられて、制動力が発生します。

図4 ドラムブレーキの作動原理
図4 ドラムブレーキの作動原理

ブレーキペダル(①)とマスタシリンダ(②)との間にあるブレーキブースタ(⑦)は、人の踏力を補う装置で、人の負荷を減らします。発生力はエンジンの負圧を利用しています。ディーゼルエンジンでは十分な負圧が発生しないので、負圧を発生させるポンプが使われます。エンジンのアイドリングストップ機能がある車両やエンジンのない電気自動車も同じ対応が必要です。一部の車両では、負圧を利用せず、電動化したブレーキブースタも導入されつつあります。

ブレーキには、故障しても機能が失陥しないように2系統化が義務付けられています。片方が故障しても、残った系統で最低限の制動力が確保できるようになっています。図5の2方式があります。

図5 ブレーキの配管方式
図5 ブレーキの配管方式

ドラムブレーキが主に採用されている車種は軽自動車やコンパクトカーの後輪です。大型トラックでも採用されています。 ドラムブレーキのメリットは自己倍力作用により小型で強い制動力が得られることです。自己倍力作用は、ブレーキをかけた時にブレーキシューがドラムに食い込もうとするために発生します。ドラムブレーキの欠点はブレーキをかけた時の摩擦熱によってドラムが高温となり、ブレーキ機能が低下するフェード現象を起こしやすくなることです。自動車が大型化してきたことや高速走行ではブレーキの負荷が大きくなり、フェード現象を起こしにくいブレーキが求められました。

2 ディスクブレーキ

ドラムブレーキの欠点であるフェード現象を抑える技術としてディスクブレーキが採用されました。航空機や車両では既に採用されています。ディスクブレーキを構成する部品は、ディスク、ブレーキキャリパ、ブレーキパッドです。ディスクは車輪側へ取り付けられます。

図6 ディスクブレーキの構成
図6 ディスクブレーキの構成

図7で作動原理を説明します。ブレーキペダル(①)を踏むとブレーキ液の油圧が高くなり、ブレーキキャリパ(②)にあるピストン(③)がブレーキパッド(④)をディスク(⑤)に押し当てることで制動力が発生します。一般的な車両では、ピストンは片側だけに作用するような構造ですが、高性能な車両では、ピストンが2個ありディスクの両側からブレーキパッドを押し当てるものもあります。さらに、制動力を高めるため、ピストンの組み合わせを増やしている車種もあります。

図7 ディスクブレーキの作動原理
図7 ディスクブレーキの作動原理

3 パーキングブレーキ

停車中の車両が動くことを防ぐブレーキです。主としてドラムブレーキの採用が多いです。停車中でも制動力が必要なのでドラムブレーキの自己倍力作用を活かしているからです。ディスクブレーキでもパーキングブレーキ用として小型のドラムブレーキを採用している車種もあります。パーキングブレーキの多くはサイドブレーキと言われているレバーを引くとワイヤで後輪の2輪にブレーキをかける仕組みです。近年、パーキングブレーキの方式で増えているのが、電動のパーキングブレーキです。スイッチの操作でブレーキの作動や解除をすることができます。

4 回生ブレーキ

回生ブレーキはモータを発電機として動作させて、制動力を得ています。電車では一般的な装置です。最新の新幹線では回生ブレーキだけで制動力を確保できているようです。自動車ではハイブリッド車両などの電動車で採用されています。回生時のエネルギはバッテリに戻されて燃費(電気自動車では電費)の向上に寄与します。最近の電動車では、回生ブレーキと油圧のブレーキとを連携させた回生協調ブレーキ制御が主流となっています。

5 トラックのブレーキ

トラックのブレーキは乗用車とは異なる構成となっています。乗用車ではブレーキの動作を油圧で行っていますが、トラックでは空気圧式が採用されつつあります。油圧ブレーキよりも制動力が強くなるので、ブレーキペダルの踏み方に注意が必要です。大型トラックの急ブレーキは積んでいる荷物の荷崩れにつながります。もう一つの特徴的なブレーキとして排気ブレーキがあります。減速時に排気管を閉じることで、エンジンの排気圧力を高めてブレーキ力として活かします。排気ブレーキよりもさらにブレーキ力を高める装置として、リターダが採用されています。トラックでは速度制限が設定されているので、上限速度に達するとリターダが作動し制限速度を超えないようにします。リターダの方式には永久磁石式や電磁石式などがあります。